光の奴隷のダンジョン攻略   作:影後

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英雄の本質

「中佐、聞こえているか」

 

英雄いや、悪の敵の言葉に返すように高速で刃が振るわれた。

それを持ち前の刀で防ぎ、ケラウノスは対話する。

 

「中佐、俺は間違っていた。いや、狂っているだろう。

お前は、それを理解しているはずだ」

 

ケラウノスは刃を抜きながらも、かつての部下に対話を行う。

メルビンも、ケラウノスの光に当てられた存在なのだ。

自らの行いの結果、産まれた存在ならばケラウノス自身が、

対処しなければいけないのだ。

 

「………」

 

だが、そこにいるのはメルビンではない。

苦しみに落ち、ただ光を求め続ける亡者。

絶滅光をその身から発し、全てを無に帰そうとする怪物。

アルテミス-No.ν天秤(リブラス)

 

「……英雄、お前のせいだぞ」

 

「…冥王、だからこそだ。俺は、ここに帰ってきた」

 

メルビンの剣が抜かれると光の速度で斬撃が飛んでくる。

人間は光になれないと言ったばかりの男は経った数十分で、

それを否定し、証明する。

 

「光の速度だと……」

 

「俺が飲み込む、光には闇だ」

 

絶対にあり得ないだろう、ゼファーとケラウノスの共闘。

そして、相手は二人に近しい存在にして実力はかなり高い。

更に暴走している為か、だがその目は変わらない。

絶望し、光を信じ、アドラーの繁栄と、帝国臣民の平和の為、

理想の為に歩み、倒れた男の目。

 

「……中佐」

 

光の速度で斬られる、しかし〘それがどうした〙。

斬られるなら防げば良い、光の速度で斬られるなら光の速度に

対応していけば良いい。

そう、此処にいるのは〘英雄〙だ。

不可能を可能にし、決して敗北することがない〘英雄〙だ。

 

「……行くぞ、冥王!」

 

「あぁ……英雄!」

 

二人の人造惑星が極光を落とす為、立ち向かう。

だが、極光は決して消えない。

己がある限り、無限に輝き続ける。

だが、姑息な手、事に、人の裏をかくことに関して、

ゼファー・コールレインの右に出るものは居ない。

在り方の違い、光と闇。兄と弟。

今現在、その愛情もなくゼファーはメルビンの足を斬り裂いた。

リブラスがケラウノスに視線を向けた一瞬の隙を突いた攻撃。

振動によって斬れ味が一瞬にして限界を越え、

メルビンの右足は切断される。

 

「……それがどうした」

 

リブラスが話す、片足が無くなろうとそれがどうしたと

言うのだと。

リブラスの星辰光は歩かなくとも発動できる。

敵味方を識別するMAPWであるのだ。

目の前にいる敵を殺す為だけに空から光の矢が降り注ぐ。

 

「……ヴァルゼライド!!」

 

「くっ…」

 

極光と絶滅光がしのぎを削る。

ヴァルゼライドはそれを敢えて行なっている。

メルビンの光の吸収は己の火力の上乗せや

回復にも応用できる幅広いものだが、許容量を超えれば

オーバーフローを起こし、自壊する。

そうなるはず、だったが今此処にいるのはメルビンではなく、

リブラスだ。既にメルビンとしての意識はなく、

魔星として英雄を超えた英雄になるという妄信、

執念の下で動いているのだ。

 

「巫山戯ろ……少しぐらい手加減」

 

「この男が手加減なんてするはずないでしょ」

 

「ヴェティ」

 

それはヴェンデッタ、

置いてきたはずの女性が何故か此処にいる。

 

「マイナじゃないけど、いえ…もう判らないのね」

 

リブラスはヴァルゼライドいや、

ケラウノスではなくヴェンデッタを狙い始める。

だが、その剣筋はぶれており、ヴェンデッタに

光の槍が届いてもダメージは入らない。

 

「……メルビン、もう良いわ。もう良いの」

 

「?!」

 

「……なんだよ、最初から連れてこれば」

 

「……帝都が消滅するよりましか」

 

ケラウノスも、ゼファーも止められなかった。

光の槍が全てを襲い、破壊するまでに時間は無いはずだった。

メルビンを、リブラスを殺す為命を賭けようとしていた。

だが、ヴェンデッタの一言で全てが変わる。

 

「ごめんね…背負わせて。

ごめんね、駄目なお姉ちゃんで。

私は、みんなのお母さんでお姉ちゃん。

それを、そうなろうとして、辛くて、苦しかった」

 

ヴェンデッタでは無い。

ゼファーには判る、そこにいるのは確かにマイナだ。

 

「メルビンと、ゼファーに傷を負わせて、私は」

 

「違う……姉さん…僕…は」

 

もう既に声は人間とは離れ始めていた。

声帯も変化し始めている、

魔星という怪物になり始めている。

 

「姉さんも……ゼファーも……愛してる……

家族を……守る……約束…約束」

 

リブラスはヴェンデッタの頬に手を伸ばす。

だが、足がなく体勢が崩れる。それどころか、

先程まで流れていなかった血が流れ出て、

赤い水溜りも出来ている。

 

「眠りましょう。

何時もように子守唄も歌ってあげる」

 

血溜まりに腰掛け、リブラスの頭を己の膝に乗せる。

それはヴェンデッタの口ずさむ曲(死想恋歌)

瞼を閉じさせ、優しく頭を撫でる。

 

「姉さん……誉めて……僕、軍人になったよ。

子供も、出来て………皆で……皆で暮らして……

ごめん……なさい…ごめんな……い…ごめん……な…」

 

涙が止まらない、メルビンはマイナと同じくらい家族を

愛している。マイナも、ゼファーも、大切だった。

喪いたくなど無い、無かったのだ。

恋人を殺され、殺し、喪い、それでも頑張った。

折れなかった折れる心、弱い心を直隠し、

英雄として目覚めてしまった。

 

「眠りましょう、悪い夢は目覚める物よ」

 

リブラスはマイナの膝の上で事切れ、

光の粒子となって消えて行く。

 

「ヴェティ」

 

「…メルビンは眠ったわ。

今度こそ、マイナの心を知って。

きっと、彼の身体で目が覚める。

その時、英雄であっても、少なくとも、

重しは減っているはず。メルビンは、

メルビンらしく生きられる。でも…」

 

「……兄貴の目的は叶っちまった」

 

そう、そこには既に多数の帝国軍が居た。

 

「うそ……だろ……英雄だ!英雄の帰還だ!」

 

兵士の一人が叫んだ。

当たり前だ、この国の英雄がそこにいる。

クリストファー・ヴァルゼライドがそこに居る。

 

「閣下、ご帰還。お待ちしていました」

 

「……兄貴、準備してやがったか」

 

これに関して、メルビンは一切何もしていない。

ただ、メルビンは自身が暴れればそれを止める為に、

きっと英雄が帰還すると思っていただけなのだ。

そして、英雄は、悪の敵はそれに応えた。

応えてしまった。

 

『クリストファー・ヴァルゼライドの帰還』

 

それは軍事帝国アドラーにとって新たな転換期。

世界へ散らばった星辰奏者の製造技術に対して、

最大にして、最強の抑止力。

さらに、英雄の信望者〘断罪者〙の生存も確認され、

軍事帝国アドラーは再び返り咲いたのだ。

 

 

 

 

 

オラリオ アドラー警備隊本署 自室

 

「……」

 

太陽の光に照らされ、血塗られたベッドから起き上がる。

夢だったで終わらせることでは無い。

姉の温もり、英雄と弟から受けた傷の痛み、

そして確かな故郷、アドラーの空気を感じていた。

 

「……閣下はご帰還なされた」

 

メルビンの目的の一つ、アドラーで英雄が力を振るい、

アドラーの闇を消し去ること。

結局、自分のもう一つの目的。英雄に。

ヴァルゼライドになるという願いは不可能であり、

届かない事を理解した。

姉に抱かれ、眠りについたあの時、あの子守唄が、

子供の時の様に深く心に染み渡り、

自分に紡がれた怨念の様な何かの一つが消えた様に思えた。

 

「……姉さん、ありがとう。姉さんのお陰だ。

俺はもう、過去に執着はしない。

俺はもう、姉さんに囚われた俺じゃない」

 

そこに居るのは過去と決別ではなく、

過去を受け入れ新たな未来への礎と擦るべくした

光の奴隷。英雄の姿である。

 

「アドラーに心配はなくなった。

ならば、オラリオを。こちらの世界を。

新たな時代を、フレイヤでも、ロキでもない。

ましてや、闇が支配する事がない。俺が導こう。

俺が掬い上げ、新たな光へと」

 

姉に救われた。英雄に救われた。弟に救われた。

救われたのだ、だから救うことを成す。

全てを掬い、救う英雄。メルビン・コールレインは、

いや、アルテミス-No.ν天秤(リブラス)

こうして、オラリオに顕現した。

 

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