それはオラリオでまことしやかに囁かれている噂。
曰く、《英雄》がオラリオから出ていった。
曰く、《英雄》が死んだ。
曰く、《英雄》はダンジョンアタックを続行している。
どれも等しいのは警備隊に《英雄》メルビン・コールレイン
が居ないという事を暗に示している点だ。
「……オラリオの連中に隊長が居ない事を悟らせても
構わん。それで敵対行動をするなら倒すのみ」
「ゲールマン副長、コールレイン隊長から何か」
「手紙は何通か届いている。
隊長はこの7年、あの御方を捜し求めていた。
その手がかりが今年になり、やっと手に入ったのだ」
「えぇ、我等の主神はオラリオに居ます。ですが、
隊長の主神はオラリオ外でしたからね」
ゲールマンは自身の伝令にして副官、
アダムの言葉に頷く。
アダム、本名アダムスカ・テーザー。
警備隊所属歴7年のベテランにして
現在はレベル5のベテラン兵士だ。
23歳になり、幼さの消えた顔つきで現在は副官として
活躍しつつ、警備隊の若手戦力としてダンジョンアタックを
行っている。
「お前が走った方が速いのではないか?」
「副長、誰もコールレイン隊長には勝てません。
私も、韋駄天と異名を持ちますが本気の隊長に
勝てた試しがない」
「それと、ギルドから苦情が」
「またか、
[豚が頭を下げた後、自死する覚悟があるなら話を聞こう]
と返答しろ」
「隊長の方が優しい言葉ですね」
「豚と喋るつもりはない」
「副長、豚は綺麗好きな生き物ですよ。
あれは台所の黒光りする迷惑な隣人です。
直しておきますね」
警備隊に所属して居る者達はオラリオにとって爪弾きに
されている。理由は簡単だ。
メルビン・コールレインの部下だからである。
冒険者の三代クエストに興味などなく、
アドラーの繁栄と栄光を第一とし、
その中で敵対する物を倒すのみ。
隊長たるメルビンは神殺し。
そして、皆メルビンを尊敬し警備隊員の最低レベルは3。
新人が来ようとも、厳しい訓練と戦いによって直ぐ様
レベルアップを行わせる化け物達だからだ。
その分、怪我も多いがそこはメルビン行きつけの
ディアンケヒト・ファミリアが悲鳴を上げながら治す。
ミアハ・ファミリアにも応援が呼ばれるほどの
大怪我をしながらも、隊員は基本的に皆、
[まだだ!]と叫ぶ程だ。
協調性もあり、作戦理解力、イレギュラー対応力も高い。
しかし、《英雄に魅せられた者達》なため大手ファミリアからは
嫌悪されるのだ。
そして警備隊から返答を受けたロイマンは
頭に血管が浮き出る程に激怒し、気絶した。
それを報告されたゲールマンはただ一言、
「……無様だ」
と罵るだけであった。
「7年、この7年を私はどう思えば良いのだろうか。
長かったと、思えば良いのか。
それとも、たかが7年と思えば良いのか……」
目の前にある小さな農村。
だが、その周囲には夥しい程の結界が張り巡らされ、
侵入者を即座に知らせるトラップが仕掛けられている。
「……くだらん」
だが、メルビンは光である。
光は昼間では何処にでも在る存在なのだ。
メルビンにその手のトラップは効かないのだ。
そして結界の中を歩く、穏やかな空気の中にある神聖さ。
だが、それに似つかわしくない映像があった。
狼だろうか、口元は赤く染まりながら
じっと何かを見つめている。
「あっ………まぁ…ま」
それはまだ幼年と言える程の子供だった。
小さな兎を抱きしめており、
狼から後退り離れようとして居る。
そして、そんな子供を見捨てる存在は此処には居ない。
「ひっ……」
漆黒の刀身を持つ直剣が空を舞い狼の頭を穿く。
子供はその直剣の飛んできた方向を向くと見慣れない男性が
立っている。
無論、それはメルビンである。
メルビンは子供に声をかけようとしたが言葉が出ない。
「無事か…………」
白髪に何処か可愛らしい服装をしていた子供。
男の子というよりは女の子よりの顔つき。
ここで下手に間違えると子供の心象が悪くなると思い、
メルビンは性別について何も言わない。
「俺の名はメルビン・コールレインだ。
君の名前はなんだろうか」
「ベル……です」
「……ベル、鈴、鐘という意味のほかにも
美しい、素晴らしいと言った意味のある名だな」
「あ……ありがとう…ございます」
見ず知らずの男に声をかけられれば、
幼子は普通隠れてしまうだろう。
だが、ベルは感謝の言葉すらかけれる。
よほど、育ちが良いのだろう。
「家に送ろう、私に抱かれると良い」
「……うん」
ベルを左手で抱き抱え、メルビンは立ち上がる。
そして歩き出そうと言う時に声が響く。
「ベル!ベル…貴様!」
「ママッ!」
「ほぉ…母親か、丁度いい」
「貴様ッ!」
「なんだ、」
この時、メルビンは客観的に自身の姿を考えてみた。
見慣れぬ黒の服装、これはアドラーの軍服ではない。
外に出るにあたり、
漆黒のフロックコートに黒いジレとズボン。
そして、7年前とは違い長髪なのだ。
メルビンは有名人であるが、この姿は誰も知らないだろう。
つまり、不審者である。
不審者が息子を抱えているのだ。
警戒しない訳が無い。
「母親か?」
「ママだよ!」
「そうか、行くといい」
「うん!ママッ!!」
ベルはママと呼ぶ女性にテトテトと走りながら抱き着いた。
兎を抱きながらも、出会えたことに嬉し涙を流している。
「あの人が助けてくれたの!」
「彼奴が?……ベル、下がれ」
「へ?」
「結界に反応が無かった、あれは探知のためのモノ。
ベルの救出に間に合わなかった私が言えた義理ではないが、
お前を一度拘束させてもらう」
「……嫌だと言えば?」
「俺達が相手になる」
それは周囲から聞こえてくる足音、統制のとれた動き、
それは決して村人の足音等ではない。
鍛えられた、戦士の足音だ。
「誰だか知らんが、あの結界を抜けれる実力者だ。
気を抜くなよ」
「わかってるぜ、団長」
メルビンはその中で団長と呼ばれた男を見る。
そして、笑う。大声で笑う。
「何がおかしい」
「悪いな、世代交代でもしたかと思ってな。
いや…前線にいるのはもはや俺だけか」
「何を……」
「ベルと言ったな、俺の真の力を見せよう」
「……?」
「なんだ、私は彼奴を知っている気がする。
いや………この大気の揺れは」
ベルを抱いた女性の顔色が変わる。
何かを思い出すように、確かに見ている。
「我が母よ、挨拶がてらだ。俺の光を見るが良い」
「…っ、ソイツに手を出すな!!」
女性はその一言で理解した。
そして、メルビンに敵意がない事も理解する。
「創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星
例え堕ちようとその光を喪わず、絶えず輝き続けよう。
闇夜を照らし、全てを拾い、掬う英雄の姿を今、刮目せよ。
汝、光を夢見る者なら渇望せよ。
汝、闇を生きる者達ならば救いを求めよ。
汝、悪に生きるものなら断罪を受け入れよ。
群衆よ、神をも降し、悪魔も屠ろう。
今、英雄は此処にある。
我は今、正義也!
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning」
絶対的な光が周囲を照らす。
神々の放つ光よりも身近にあり、
神々を滅する程に強力すぎる極光。
いや、それは既に極光を超え絶滅光として人を護り、
導く光。そして、それを操る光の奴隷。
「……格好良い」
「格好良……まぁそうだな。
久しいな、メルビン」
格好良い、それに魅せられては欲しくない。
だが、果てしない程に善に向かう男だ。
失敗談や先人として、人を導く気概もある。
女性は悩むしかない。
「随分と優しい顔だな、母親の顔だ。
ヘラと同じ様に子を慈しみ、愛する顔だ。
アルフィア、邪神の眷属と今話すつもりはない。
村に案内してくれ」
「まて!…お前はまさか……」
「我が宿敵でもない貴様らに価値はない。
道を開けろ」
メルビンはそれだけ告げると絶滅光による光の道を、
強制的に作り出す。
「……まったく」
それをアルフィアはベルと兎を抱きながら共に歩いた。
村は既に臨戦態勢となっており、かつての仲間達は
懐かしい装備を身に纏い、メルビンを見ている。
「……なんだ、女帝。その顔は」
「挨拶代わりに攻撃するな!馬鹿者ッ!」
「サプライズ、というものだ。
ところで、姫は……いや、姫は非戦闘員。
子も居たはず、きっと何処かで………」
「…………メルビン、彼女は」
何かを言いたそうな女帝達だったがそれを邪魔する
馬鹿者が中にいた。
そう、メルビンの宿敵にして戦友。
いつか決着をつけると誓った戦士がそこにいた。
「創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星
巨神が担う覇者の王冠。
太古の秩序が暴虐ならば、
その圧制を我らは認めず是正しよう。
勝利の光で天地を照らせ。
清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。
百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。
鍛冶司る独眼ひとつめよ、我が手に炎を宿すがいい。
大地を、宇宙を、混沌を───偉大な雷火で焼き尽くさん
聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡そくせきへと続くのだ。約束された繁栄を、新世界にて齎もたらそう
超新星ーー天霆の轟く地平に、闇はなく
Metalnova Gamma-ray Keraunos」
「……ふふッ、そうでなくては!我が宿敵!!」
「悪いな、俺は少し寝てたんだ!
うちの子供の夜泣きが酷くてなぁ……でもなぁ…
でもなぁ…!こんな、こんな熱烈なアプローチ!
受けないわけにはいかんよなぁ!
メルビン・コールレイン!!」
「ははっ……フハハハ!!
来い、マキシム・ブリンガーッ!!!!」
絶滅光と絶滅光がぶつかり合おうとした瞬間、
言葉が走った。
「だめ!!」
「む?!」「ぬ?!」
「喧嘩は駄目!!」
それはベルの言葉、別に喧嘩したいわけではない。
決着をつけたいのだが、子供からしたら変わりない。
それどころか、危ない事をしているようにしか見えない。
「……」子供の前ではよそう
「……」だな、先ずは再開を喜ぼう
メルビンとマキシムはアイ・コンタクトを行うと、
そのまま握手をし、抱き合った。
長年の友人の再会のように笑い合い、
喧嘩していないとベルに見せるのだ。
「みんな仲良し!」
「フッ………英雄と……最強も……形無しか」
「……仕方あるまい。
子供に血腥い物を見せられるかよ」
「うちの子の寝かし付けはできたのになぁ…」
懐かしのヘラ・ファミリアとマキシム、メルビンは
雑談をしながらも村で一番大きな邸宅に通された。
「……お久しぶりです、母さん」
「母さん……えぇ、メルビン。
だが、あの光は戴けない。こうなることを見越してだな?
この阿呆め」
メルビンの前には母と言っても差支えなく、
メルビンに親の愛を擬似的にも与えてくれた女神ヘラが
優雅に座っていた。
「お祖母ちゃん!メルビンさんのママなの?」
「あぁ、ベル。この男は私の息子だよ」
「じゃあ、お祖父ちゃんがパパなの?」
「……ヘラよ、どういう意味だ。
何故俺の父が、あのような邪神だと?」
メルビンは腸が煮えくり返るのをなんとか抑えている。
メルビンにとって評価は多少上がっているが、
変わらずゼウスは邪神である。
「同居しておるし、ベルはゼウスの子と私の子の息子。
共に祖父母と呼ばせているに過ぎん。
だからそう怒るな」
「そうか……わかった。ところで、姫は何処だ?
多少なりとも土産物もある。厨房を貸してほしい」
「お前の料理か、7年ぶりだな」
「フッ………光栄だな」
「メルビンさんは料理するの?」
「少なくとも、彼女達よりはできる」
「……ムカつく」
女帝は一言それだけを告げる。
おそらく7年で成長したのだろうが、
メルビンは知る由もない。
「ヘラ様、メーテリア達の墓地の掃除は終わりましたよ」
「は、」
「なん…」
そして見覚えのある顔つきをしつつ、
掃除道具を持った女性が入ってきた。
メーテリア達の墓地、それだけでメルビンは混乱する。
「あら、お客様ですか?
私、クリスティーナ・ヴァルゼライドと申します」
「クリス、此奴はメルビンだ」
「は?」
「クリス、姫が死んだと言うのか?
7年だぞ、何があった!敵か…ならば、俺が仇を」
「嘘…メルビン?なんで」
「メーテリアは病死だ。
お前の保護したベルの苗字はクラネル。
彼奴とメーテリアの子だよ。お前が護ったな」
「な……クラネルの方は」
「そっちもな、メーテリアの後を追うように死んだ。
病死だ、私にベルを遺してな」
メルビンは涙を浮かべるといった事はしない。
だが、再会出来なかった事を悔やみはする。
「ベル……ベル・クラネルだったな」
「どうしたの?」
「これは俺の庇護者たる証だ。
もし、オラリオに来ることがあればそれを持って来ると良い」
それはアドラーの紋章を模したネックレス。
ベルには大き過ぎるが、いつか必要になるだろう。
「格好良い!」
「そうか……そうだ。
ヘラ、7年前俺はかつての部下にこう言われた。
結婚し、子をなせと。だが、俺は結婚して良いと思うか。
此方に来ても、狙われる立場に変わりない。
それに、俺は」
「……良い、お前はきっと人を愛するだろう。
同じ失敗はしないだろう?それに、ゼウスとは違うのを、
私達はよく知っている」
「そうか……まぁ、まだ相手は居ない。
関わり合いのある女性と言えば、
女神アストレアにフリュネ、アストレア・ファミリア。
しかし、アストレア・ファミリアの娘達からは
あからさまに警戒されてすらいる」
「……そうなのね」
ヘラは女性関係を知っているため、メルビンを責めない。
それどころか、アストレアの関係者が警戒する理由は一つ。
メルビンの《苛烈なる正義》に他ならない。
「そうだ、更に俺は新しい力すら手に入れた。
見て欲しい、俺の新たな姿を」
「………へ?」
ヘラの前でメルビンは己を解放する。
アルテミス-No.ν天秤、女神アストレアの天秤に
限りなく近い神聖さを持つ1個人。
「………メルビン、ステータス見せなさい」
メルビン・コールレイン 断罪者ジャッジメンター
Lv.10×x^x(×1.3)
力:I0+x(×1.3)
耐久:I0+x(×1.3)
器用:I0+x(×1.3)
敏捷:I0+x(×1.3)
魔力:I0+x(×1.3)
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning
基準値AVERAGE:A
発動値DRIVE:A
集束性:C
拡散性:AAA
操縦性:AA
付属性:A
維持性:B
干渉性:B
スキル
光の奴隷
①格上相手時には、ステータス1.4倍
②時間経過で継続してレベルアップ
③敵からダメージを受ける度にレベルアップ
④相手が覚醒した瞬間に自分自身も覚醒
⑤瀕死時「まだだ!」の台詞と共に覚醒
英雄信奉者
クリストファー・ヴァルゼライドを願い、思い続ける限り常時ステータス成長。
英雄
人々を導き、救いを与え弱きを助け強きを挫く。
英雄である限り、光の奴隷である限り、
常時ステータスアップ
絶対正義
悪と戦闘時、常時ステータス上昇。
悪と戦闘時、殺害数に応じてステータス上昇。
正義であり続ける限り、ステータス上昇
神殺し
神を抹殺する事ができる
「光の奴隷?昔、光の英雄だったわよ?!
神殺し………なんてものを」
「神殺しか……良いだろう。
ならば俺はアドラーの民を護る為、神を殺そう。
俺の正義を、アドラーの正義を貫くために」
「……英雄か。まったく貴様は変わらんな」
「あぁ、変わらんぞアルフィア。
だから確かめる、この家に誰が住んでいるかは知らんが、
料理させてもらう。ヘラ・ファミリアを集めろ。
久し振りに私の料理を食べてほしい。
食材は色々と持参したからな、何かリクエストは」
「目玉焼き」
「卵焼き」
「スクランブルエッグ」
「お前等やっぱり嫌いだ」
メルビンは7年経っても卵は食べれなかった。