「……男、には見えんな」
「?」
「まぁ、なんというか髪はメーテリアや私似。
目はクラネル似だな。顔つきも可愛いよりだ」
そう言いながらアルフィアはベルの頭を撫でる。
「ママ?」
「ん?どうしたんだ」
「メルビンさんはパパになるの?」
「「それはない」」
ベルの質問にアルフィアも、メルビンも同時に答えた。
愛称は別に悪くないだろうが、
アルフィアもメルビンも互いにその気がない。
「なら、クリスお姉ちゃんとメルビンさん?」
「それは私も気になるわね」
「…ヘラ」
「お祖母ちゃん!」
アルフィアに撫でられながら、
ほっぺをムニムニとヘラに触られる。
「クリスとお前なら愛称も良いし、歳の差……
いや、そもそも娘達の誰とでもお前なら喜んで結婚させるが」
「義務的な結婚だろうと、俺は愛そう。
だが、前提として俺が守る必要のない程に強く、
俺を裏切らない……
いや、裏切っていいから死を選ばないで欲しい」
「……メルビン」
「だが、少なくともそのうち2つを有する女性が女帝か、
アルフィア、クリス、フリュネとなる。
まぁ、守れば良いのだが……アストレア0も……」
「ちなみに女帝はマキシムと結婚し、子供も居るぞ」
「だからあの時……」
「ゼウスを義理の父と呼ぶのはお前は辛いだろ」
「そもそも、色々とある。
そう考えたらアルフィアは俺にとっても良い相手なのか?」
「私はベルを連れているぞ。
それにクリスはお前の心配ばかりしていた。
お前の相手にはその方が良いだろ」
「ちょっと!人の居ない時に何を話して!?」
「ヘラ、浮気を容認するつもりはないが、
子をなさない訳には行かない。だが………
その、クリスと結婚するとなる場合問題がある」
「ほぉ、何かしら」
「俺は愛した女性を抱き潰しかねない。
その、体力がほぼ無尽蔵でな。
下世話な話だが、その…………」
「……あぁ、お前も満足はしたいと」
「いや、愛を受けていると理解できるからな。
満足だし、自分の性欲を抑え込むのが軍人だ。
三大欲求に正直となれば規律は崩壊し、
待っているのは犯罪者となる道のみ。
事実、ゼウスがそうだろう」
「ママ、三大欲求って何?」
「ベルにはまだ早いな。
まぁ…そこまで酷い会話でもないぞ。
今のところ下品な単語は一切ない」
「分別もある、だが本当に相手となると」
「クリス、良いじゃないの。
独り身で7年もいて今は23歳、それとも好きな人でもいるの?」
「居ないけど!居ないけど!!!」
「30か……そうか、俺はもう30だったか」
「……メルビン、止めろ。歳を言うな。
私も色々と来るものがある。」
「メルビンさん!あそぼー!!」
「何をする?」
「う〜〜ん……わかんない!」
「なら、俺の曲芸を見せようか」
木陰に移動するとメルビンは光をベルに当てる。
優しい光だ、太陽のポカポカとした陽気。
ベルのお腹に影ができ、光の中で手を動かす。
「ウサギだ!」
「手影絵という、ほかにもあるぞ」
そう言いながら多種多様な動物を見せる。
「やってみようか」
「うん!」
メルビンも本来ならこうして父親をしているはずの年齢だ。
自分でもわかっているのだ。
ベルを、あった事のないあの子に重ねている。
当時は21だった、だとすると今のベルよりも2歳上。
もう少し大きいだろうが、それでも……
「俺の罪の一つか………」
「メルビンさん…大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
「お祖母ちゃんがね、言ってたよ!
息子は誰よりも強く、格好いいヒーローだって!
僕ね、メルビンさんがその通りなんだもん!
アルゴノゥトみたいで」
「……英雄だからな。
ベルは英雄になりたいのか?」
「うん!オラリオにいつか行きたいんだ!」
「英雄は、なるものじゃない。
英雄とは、生き方だ。ベル、もし英雄として生きるのなら、
折れても、挫けても、立ち上がる勇気と行動力が必要だ。
苦しんでも、血反吐を吐いても、前に進む。
その覚悟が必要なんだ」
メルビンは何故そのような言葉を話したのか、
自分でも理解できなかった。
だが、話さなければと感じた。
まるで、自分自身を否定するかのような言葉でも。
「ベル、英雄には……英雄には、常に哀しみが付き纏う。
だから、ベルは俺のようにはならないでくれ」
「?」
「家族を愛し、家族と共に居るんだ。
そして子をなし、死んでいけ」
それはメルビンの本当の心だった。
ベルにはまだわからない言葉の意味。
だが、其れ等を盗み聞きしている者達には十分だった。、
メルビンはベルと遊ぶさい、警戒を解いていた。
さっき等があれば気付けただろうが、
そんな物はなかったのだ。
「ベル、帰ろうか」
「うん!」
木陰に佇むブロンドの髪がたなびいた。
「そうか、明日にはここを発つのか」
「墓参りも、あの子にも会えた。仲間にもな。
宿敵との決着は……後で良い、奴には父親に専念させる」
「そうか…メルビン、お前は私の息子だよ。
辛く苦しい時、手紙出しなさい。
必ず、必ずお前を助けに私達が征く。
良いね?」
「……ありがとう、母さん」
メルビンは翌日、女帝達ヘラ・ファミリアとマキシムに
見送られながら旅立つ。
ゼウス・ファミリアが居ないのは仕方がない。
「いっちゃ……やだぁ…」
「ベル、大丈夫だ。また来る事もあるさ」
「…会いに行っても良い?」
「来ても良いが、大人と一緒にな」
「うん!!」
パァっと明るくなる顔に随分と懐かれたなと感じる。
最後にベルの頭を撫でた後、メルビンはオラリオに向けて
歩き出したのだ。
数日後、オラリオに戻ったメルビンを待っていたのは
警備隊とそれを取り囲むファミリア達だ。
一触即発にならないのは、一重に警備隊がオラリオ最強の
陣営である事と、ガネーシャ、イシュタル、
アストレアが仲介役をしているためであった。
「居るんなら見せてみろよ、腰抜けのコールレインをな!」
「貴様…隊長をよくも」
「挑発に乗らないで、落ち着いて!」
「なんでこんな時に居ないんだよ、うちの馬鹿隊長!」
「くっ………そもそもの理由はなんだ!」
殴り合いになりそうなのを3ファミリアが抑えている。
「お前等みたいなスラムのなり損ないが!
オラリオにいること自体、烏滸がましいんだよ!
とっとと消えちまいな!」
「駄目ッ!」
男が剣を抜き、
止めようとした赤髪の少女に剣を振り降ろす。
だが、そこには既に『英雄』がいた。
「そうか、つまりは敵か」
それは絶望の声だった。
警備隊にとっては希望であり、導きである。
だが、アドラーに何かを起こそうとしていた者達にとっては
絶望であった。
「創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星
例え堕ちようとその光を喪わず、絶えず輝き続けよう。
闇夜を照らし、全てを拾い、掬う英雄の姿を今、刮目せよ。
汝、光を夢見る者なら渇望せよ。
汝、闇を生きる者達ならば救いを求めよ。
汝、悪に生きるものなら断罪を受け入れよ。
群衆よ、神をも降し、悪魔も屠ろう。今、英雄は此処にある。
我は今、正義也!
超新星 ーー輝ける正義の天秤は今、傾いた
Metalnova shine Libras leaning」
「あぇぁぁぁぁぁ!!!」
「ヒィィィ……」
「腕が……腕がぁぁ」「なんで…俺の…脚」
一瞬にして悲鳴が上がる。
それはメルビンが光を収束され、
レーザーの様に敵対者をロックオンし肉体の一部を
消し飛ばした為に起きたことだ。
腕や脚だけではない、鼻など一部を消し飛ばす事に
特化した攻撃だ。
無論、一種にして焼かれるため止血も済む。
肉が焼かれた臭いが充満するが、
メルビンは慣れているため気にしないで話をする。
「総員、敬礼!!」
警備隊は顔を上げ、
現れたる主君にして英雄にザッという音を
上げながら敬礼する。
「最悪な時間で戻ったね、メルビン隊長」
「フリュネか……何があった」
「知らないよ。
こいつらが急に警備隊ってか、
アドラー地区になだれ込もうとしてたんだ。
警備隊と揉めてる所にアストレアのアリーゼが来て、
ガネーシャとウチのファミリアを応援で呼んだのさ」
「……酷い、こんなの……こんなのはないです!
コールレイン先生!!!これが正義で」
「……アリーゼ、『正義』とは多種多様に存在する。
お前の行いは、アストレアの『優しい正義』だ。
幾万の者達を護ろうとし、笑顔を作ろうとする優しい正義。
だが、俺の持つ正義は違う。俺の正義は『苛烈なる正義』。
仲間を、家族を、国家を守る為ならばに血に塗れようとも、
前へと進み、決して折れることを許さず、折れても、
何度でも立ち上げる『不屈の正義』でもある。
お前がそれに疑問を持つことは正しい。
だが、今回は違うようだな」
「コールレイン隊長、ご帰還お待ちしておりました」
「ゲールマン、この者達は」
「……裏が取れました、どうやら雇われのようです。
オラリオで問題を起こすように言われたと。
全員が知らない中であり、報酬で頼まれただけだと」
「……何人だった」
「20ですが、うち2人が死亡しています」
「……ならばいい、ギルドに送れ。
それが我々の抑止力となる。敵対者には絶望を。
アドラーの民に、そして仲間に危機が訪れるならば、
お前達容赦をするな、お前達の背には俺がいる。
お前達には俺の加護がある!
光あるところに必ず、このメルビン・コールレインの
加護がある!アドラーを護り、仲間を守れ!」
「アドラー万歳!
キャプテン・コールレイン万歳!!」
「「アドラー万歳!
キャプテン・コールレイン万歳!!」」
それは既に警備隊ではない、
この7年で警備隊は設備を改め、人員を増やしてきた。
そして一つ統制のとれた旗印に従う軍隊なのだ。
「アドラー……」
「アリーゼ、理解する必要はないのだ。
だが、俺も正義でありお前も正義だ。
それだけは覚えておくと良い」
メルビンは優しい顔でアリーゼを撫でる。
アリーゼにとってメルビンは戦いの師であり、
正義を志すアリーゼにとってメルビンという英雄は光である。
だが、そんな英雄の残虐な姿に恐れを抱いてしまうのだ。
「帰ります、では……」
アリーゼはそう告げアストレア・ファミリアのホームへ
帰還した。
「アリーゼ、何があった?」
「……輝夜、ねぇ、メルビン先生って正義だと」
「一つ言えるのは、
メルビン先生の言う正義とは秩序である事。
そして、その秩序とはオラリオ全てではなく
アドラー地区内に限ることだ。
それはかつてあった事を考えれば当たり前だ。
メルビン先生は守る為に苛烈になる。
そして、正義は一つじゃない事だ」
「……同じ様な事を言われたよ」
アストレア・ファミリアはメルビンと関わり深い。
女神アストレアがヘラに変わり、
メルビンの相談相手であるからだ。
その関係で、メルビンが戦いを教えている。
「確かなのは、アドラーを敵にしない限り
メルビン先生は敵にならない事」
「……うん」
英雄メルビン・コールレインは帰還した。
そして、英雄は新たな戦いの渦に巻き込まれるのだ。