光の奴隷のダンジョン攻略   作:影後

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閑話休題
光の奴隷と豊穣の女主人

「……まったく、食事処で視線を浴びすぎているな。
優雅に食事もできんとは」

「アンタが原因だろうが!この馬鹿男」

「そう言うが、ミア・グラント。
俺に負けたのだ、俺個人に負けた。
警備隊に挑戦したようだが敗北し惨めにも、
その姿をオラリオ中に晒したのは彼等だ。
私は何もしていないぞ」

「アンタが来ると店の売上が下がるんだけど?」

「それは意外だな、ならば800万ヴァリスある。
出前を頼みたい、警備隊の基地へ」

「かぁ………食材足りる訳ねぇだろ!」

豊穣の女主人の店主ミア・グラントとも長い付き合いだ。
事実、メルビンが来るとどんな店もこのような状態になる。
警備隊の中でも頂点に君臨し、どんなファミリアからも
基本的に疎まれている警備隊。
だが、実力者揃いであり真正面から戦争を仕掛ければ、
まさか……主神の生命を握られる。
あの時代から7年、数多のファミリアが滅ぼされた。
主神が殺され、その度に警備隊は強くなった。
いや、アドラーは強くなった。

「どんな客人も饗すのが心情だろうに」

「うちのルールも護ってるから文句言えないし、
言わないよ。私がルールだ。特に、アンタには色々と
借りもあるしね」

「なんだ、アドラー地区外の孤児の事か?
彼等は強く生きている。戦いが嫌いな子もいた。
そんな子供達はお前に食べさせて貰った食事に希望を見た。
今ではアドラー地区近郊でレストランを開いた程だ。
お前に追いつく為、俺のような英雄には成れずとも、
食事で人々を笑顔にしたい。その心でな」

「そうかい、店の名前は?」

「笑ってやるなよ。
〘とまり木〙だ、治安は良いぞ。
常に警備隊がパトロールし、何かあれば通報が入る」

「ありがとよ」

「あぁ、だから出前頼む」

「……食材足りねぇって言ってんだ!
せめて予約しろ!予約!!」

メルビンは怒るミアに笑いながら謝罪するのだった。


光の奴隷と闇の支配者1

「それは本当か?」

 

「はい。

オラリオ中にまことしやかに囁かれている噂ですが、

どうやら本当のようでして

……我々も偶然耳に入れた次第です」

 

「行方不明の冒険者、

素直に死んだと考えるのが妥当だろう。

ファミリアからも消えているんだろう?」

 

「はい、ですが……」

 

「言うが、我々は動かん。いや、そもそも動けんしな。

これがアストレア、イシュタル、ガネーシャ、他、

我々と関わりのあるファミリアからの要請であれば別だが、

ギルドからの命令、要請であれば蹴る。

最悪、ウラノスを消す。裏で我々に冒険者をけしかける

者達だ、救う価値もなければ敵対者として処分も致し方ない」

 

「……隊長、少しばかり過激過ぎるのでは?

ギルドと言えど、勤務しているのは民間人が多く、

ウラノスの眷属はおりません」

 

「そうだな、ゲールマン。やはりお前は良い。

俺は少しばかり血が上るとこうなってしまう。

諫めてくれるのはお前か、フリュネ位なものだ」

 

「でしたら、対等な伴侶を持つことです。

我等の中にも結婚している隊員が増えています。

独身の方が少ない状態です。かく言う自分も、

結婚して3年になりますが……」

 

「私も元妻帯者だ、それに……我が母にも言われたよ。

しかし、本当にフリュネか、アストレアに……」

 

そう口ずさんだ瞬間、やはりクリスの顔が浮かんでしまう。

初めて出会った少女は大人の女性に成長していた。

 

「……それでアタシに相談?嫌だよ、光の奴隷様の妻なんて」

 

「理解している」

 

「まじでアストレアでも娶れば?女神様だよ、女神」

 

「お前、そんな投げやりだったか?」

 

「アンタねぇ、娼館にきて金も払って手を出さない。

それをかれこれ7年もされちゃあ困るのよ。

判るかい?気付いたら金払えばどんな

相事も聞いてくれるし、稽古なんかもつけてくれる団長。

そんな評価さね!アンタは自制できるけどさ!

此方は女なんだよ!好きで娼婦もしてんだぞ!

本職させろ!!」

 

「俺はヘラ・ファミリアである。

妻となる女性以外と関係を持つことはない」

 

「この堅物!…ったく、割とまじで相談しに来るんだよ。

娼婦を買いたい、結婚したいってね。それでアタシさ。

面倒くさいよ、これも7年前からのアンタのせいだよ」

 

「そうか、よかったな」

 

「もういいさ、兎に角クリスだっけ?

気になるんだろ、もう恋人になってくれとか」

 

「……」

 

「光の速さで動けるのに、何で奥手なのかねぇ」

 

「知っているだろうに」

 

「面倒〜〜…それで、他にもあるんだろ?」

 

「フッ…やはりお前は俺の部下だった女だ。

情報が欲しい、どうやら冒険者が行方不明らしい。

お前達の所に、常連が来ない、

変な事を言う者は居ないか?」

 

「……その件かい。あぁ、メルビン。

アンタの言う通りさね、常連の何人かが消えてる。

変な事を言う客なんて日常茶飯事さ。

酔っ払い、自己満足、王様気取りも居る。

だからそっちの方は諦めてくれ」

 

「……ふむ」

 

メルビンは頬を軽く人差し指で掻きながら、思案する。

これはメルビンの考える時の癖である。

 

「何してんだい」

 

「動くべきか、動かざるべきか。

そもそも、オラリオは基本的に敵地と考えている。

事実、神と呼ばれる愚民共を俺は処断してきたからな」

 

「そりゃあね、んで?何かあるのかい」

 

「判らん、そもそも冒険者が来なくなる。

つまり、死ぬか遠征の可能性もあるだろう」

 

メルビンにそう言われ、納得してしまう。

実力者だろうと何かのミスで死んでしまう。

まぁ、目の前に例外中の例外が存在しているが。

 

「……動かざるえんか」

 

「ガネーシャの方は?」

 

「判らん、だが何者かが動いているなら…

確実に我々、警備隊が邪魔になる。

そして、その最強戦力たる俺が居ない間を狙うはず」

 

「……それ、アタシらにもシワ寄せが」

 

「頼むぞ?フリュネいや、

ブリュッセル・ライユース少尉」

 

「……はぁ、しかないさね。

はっ!了解しました。

メルビン・コールレイン少佐殿!」

 

メルビンの敬礼とフリュネの敬礼。

だが、メルビンは口をピクピクと動かしている。

 

「俺は中佐だ、ブリュッセル・ライユース少尉」

 

「そうだったね!中佐殿!!」

 

笑いながらそう言うフリュネにメルビンも笑う。

もう、階級なんて関係ないにも関わらず、

根底には軍人としての責務と、精神が確かに存在する。

たとえたった二人でも、アドラーの軍人がいる。

メルビンの心は多少なりとも浮いていた。

そこからは雑談にはいる、主に団長、隊長としての

意見交換がメインだ。

イシュタル・ファミリアの娼婦と結婚した警備隊もいる。

どうしても人間には三代欲求がある。

誰しも、メルビンの様に自己管理できない。

そのため、娼館に行くことも恥ではないと部隊で教え込む。

 

「じゃあね、時間さね。

此方でも調べるがアンタも」

 

「……死ぬなよ」

 

「アタシを殺せるのは、アンタだけさ」

 

拳をぶつけ合わせた二人はそのまま出てくる。

だが、メルビンは何処かこれから来る。

そんな気がした。

 

「やあ、メルビン・コールレイン」

 

「……誰だ」

 

夜道、誰も通らない様な路地裏を敢えてメルビンは

通っていた。自信を監視する視線、

其れ等全てに気付いた為である。

 

「エレン、神エレンと名乗っている」

 

「ならば神エレンよ、貴様の眷属に伝えろ。

備考は杜撰を極め、時折殺意、興味、ましてや俺の力を

知らない訳では無かろう。外にいるなど自殺行為だ」

 

「……ちょっと想定外だな。

これが『破綻者』いや『英雄』か」

 

「配下を呼べ、ここで話す事もあるまい。

個室もあり、防音もしっかりしている良い店がある。

ついてこい」

 

「え?俺が話し聞きたいから呼び止め」

 

メルビンはそのままリブラスとしての姿に変貌し、

オラリオの空に流星を降らせる。

無論、これは遥か上空を光の矢が無数に走っている。

それだけに過ぎないが、目の前の神エレンは

その意味を理解した。

 

「呼べ、そしてついてこい」

 

それは神すら厭わない絶対的な強者の言葉。

全てを掬い上げようとし、被害者を最小限に抑え込もうと

足掻き続け、結果を出し続ける『光の英雄』。

クリストファー・ヴァルゼライドを願いながら、

クリストファー・ヴァルゼライドとは違う英雄となった、

『光の奴隷』の言葉だった。

 

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