「ぷっぷっ」
「可愛い!お母さん!この子飼って良い?!」
「…アルフィア、その兎ペットではないのか?」
時はメルビンが7年ぶりの再会をした日に遡る。
その日の夜、メルビンは不貞腐れながらも卵料理を作り、
それを振る舞った。無論、自分はスクランブルエッグと
極限まで食べる気は無かったが…
そんな子供じみた事をした後、
ベルが白い謎のモコモコにおかずを与える姿を目撃した
メルビンはベルと雑談していた。
そこにアルフィアが来たのだ。
「飼うのは良いが、兎の世話などしたことないぞ」
「そもそも、兎に与えて良いのは菜っ葉類で
卵は駄目だぞ?」
「そうなの?」
「あぁ、動物には食べれる者と食べれない物がある。
最悪、死に至る場合もな」
「ごめんなさい」
「わかれば良い」
メルビンは兎に星辰光を当て、治療する。
簡単な病気なども回復できるがこれから起こる場合の為、
免疫や消化能力の強化に努める。
「何でもありか?」
「何でもありだ、俺は『英雄』だからな。」
「メルビンさん!フワが変なの食べちゃった?!」
「ふっ…フワ?名付け速いな………ペッしろ!ペッ!
兎だろ!なんで肉食べてる?!てか誰だ!
ジャーキー置いてるの!」
「駄目っ!フワ!食べないで!!」
「……此処で酒を飲むのは我々だが、
始末をしないのは一人だ」
アルフィアは心当たりのある男神を打ちのめした。
「何でアタシの店に来るんだい!」
「お前の店の個室を使いたいからだ。
ほら行くぞ、俺の奢りだ。好きに食べろ、そして飲め」
ミアはメルビンにふつふつと怒りを湧き上がらせながらも、
個室へと案内する。
実際、個室なんて作る予定は無かったがメルビン達が
食べに来る事が増えた事による被害を防ぐ為に、
嫌々ながら増やしたのだが、今回はそれで面倒に巻き込まれた。
「……え?えっと…」
「貴様の魂が悪である事は見てわかる。
その隣、貴様の眷属と思われる男のこともだ。
かつて貴様のような『悪』が我が祖国。
アドラーにいた生まれながらして『救えない悪』。
ただ、人を殺したいという願いを使い我が主。
クリストファー・ヴァルゼライド閣下に仇なす者。
お前は奴と同じか、似通っているようだな」
「英雄、それが……それが全てを掬う英雄の言葉か?」
「あぁ、俺は生まれながらにして悪は救えん。
そして、貴様。己の欲求に気が付いているな。
理解して居るようだな、己の魂の性に。
俺が閣下に憧れ、同じ様に『光』として生きている様に、
貴様は……『悪』だ。生まれながらにして悪だ」
「…英雄にそう言われるのは驚きだ。
神さえ否定した英雄がまさか私という人間を否定す」
「俺は否定する、悪人を否定する。
俺は善人を掬う、悪人は殺してきた。
貴様は何か勘違いしているな?
俺が、俺達が掬うのは善人だ。
環境により堕ちた物に手を差し伸べるのが俺だ。
我が部下達にはスリ、泥棒が居た。
だが、殺人鬼は居なかった。
殺す事で稼ぎ、殺す事で奪う下衆は居ない。
俺が消したからだ」
メルビンの言葉に神エレンは否定的な意見を述べた。
「矛盾だな、君は殺しているだろう?
では何故殺した者達を掬」
「10全てを掬えない、掬うのはそれ以外の大多数。
つまりは善人だ、マフィアや犯罪組織の面々は仕留めた。
秩序を作り、平和の為に。
犯罪者を仕留めるのに理由がいるか?
善人を掬う事、善人を救い、導くのに道理は必要ない。
ただ道を作ればよい。俺という道標が前に立つ。
俺より先に進む者も居るだろう、指導のもと新たな道を進む。
俺はそれを信じている。
事実、戦うだけの生き方以外を知った者達もいる。
苦しむだけの生き方でも、
よりよい明日の為に苦しむ覚悟を決め、戦う者も居る。
皆、善人だ。悪人等になりはしない。
折れもしない、折れそうになれば隣に仲間がいる。
俺達が、アドラーがいる。俺はそれを教えてきた」
「……光だな、眩し過ぎる。
私の世界は灰色だった、だが血を流す者達は
美しいとすら思えるほど……
ですが、今やっと見えた。
果てなく輝き続ける光を、その光から溢れ出すだろう鮮血を。
ふふ……英雄、私の憧れた英雄!
その血を、その肉を…奪い取ったその時、何が見えるのだろう」
「え?ヴィトー?え」
「……ほぉ…目覚めたか。貴様、その性を受け入れたか。
良いだろう、貴様は悪だ。紛うことなき巨悪になり得る。
この俺が、メルビン・コールレインが引導を渡す必要のある
『絶対悪』だ」
「えぇ…えぇ……えぇ!そうだ!私は、私こそが!
『絶対悪』だ!メルビン・コールレインという『絶対正義』!
そのアンチテーゼにして、その命を刈り取ろうと言うもの!
あぁ、願わくば今すぐにでも……いや、今は違う。
今は食事の招待に応じた客、そしてメルビン。
貴方は我々を招いた招待主、まさか『英雄』が食事の席を
利用するなどあり得ないでしょう?」
「必要ならする…が、今は別だ。
お前も受け入れたのなら俺の導きが役立ったというもの。
だが、明日からは我々に、アドラーに手を出せば消す」
「あぁ…それでこそだよ!私の『英雄』私の『貴方』!
この私という『絶対悪』、必ず決着を付けましょう!
貴方の『絶対正義』と私の『絶対悪』。
このオラリオを導くか、終焉へと向かわせるか!
素晴らしい…素晴らしい!私の名前はヴィトー!
憶えろ、刻め、その魂に!」
男いや、ヴィトーは笑う。個室の中で高らかに嗤う。
絶対正義、光の英雄、たった一人の戦士に向かい。
「ならば俺は貴様を虚無へと返そう。
永遠の無、魂すら滅ぼし極光の先に消え去るが良い!」
そこには既に神エレンが介入する暇は無かった。
底にいるのは二人の相容れない存在達。
正義と悪、ヒーローとヴィラン、
まるで物語の様に対極に位置する二人の戦いはこうして火蓋を
切られたのだった。
「……今晩は好きに食え」
「ほぉ、」
「闘いの前の最後の晩餐だ。
共に語り合いもしたからな」
同じ釜の飯を食う者だろうと悪を断つのが正義。
メルビンは容赦をしない、今だけだ。
今だけの慈悲なのだ。
「……俺いる意味ある?」
悪の首領は目の前で今にも殺し合いそうな
『正義』と『悪』をみてそうつぶやいた。
そして、英雄は一人消える。
20人以上が飲み食いできる程の金を
無理矢理ミアに押し付けそのまま夜の闇の中へと。
「……オラリオに嵐。
俺がまさか、中心になるとはな」
メルビンは苦々しくそう答える。
おそらく、敵は既にあの男だけでは無い。
もっと居る、入り込んでいるだろう。
「俺は悪を倒す」
極光ではなく絶滅光。
数多の敵を、悪を打ち倒さんと此処に『悪の敵』が
重い腰を上げたのだ。
そして、メルビンはその足で今現在最も信頼している神の
ファミリアへと向かった。
「こんな夜遅遅くに誰が」
「……」
「ヒィ…って、メルビン先生」
出迎えたのはリュー・リオン。
エルフと呼ばれる長命種の少女だが21と年若い。
無論、メルビンを組手の相手としているが
無論勝てた試しがない。
「夜分遅くに済まない。
本来なら昼間に来るべきであっただろうが…
今最重要情報を入手したのでな。
アストレアとお前達にも伝えに来た次第だ」
「え…いや、わかりました。ご案内します」
メルビンの表情は鬼気迫る様に見えるが、
リューには何処か期待が隠れているように見える。
「少しお待ちを」
「……あぁ」
メルビンはそのまま目を瞑り考える。
恐らく、戦争という程の事は起こらないが
市街地戦にはなるだろう。
その時、メルビンはどうするか。
メルビン程、市街地戦に有利なエスペラントは居ない。
「……お願い、お願いだから悪い報告は」
「神エレンと呼ばれる男神、そしてその眷属と出会った。
奴等は俺を『絶対正義』と、自らを『絶対悪』と呼んだ。
俺を英雄といい、奴等はオラリオを終焉へと向かわせる。
そう言った。アストレア、『正義の女神テミス』の娘。
鉄の時代が来る、恐らく貴女が介入する必要がある」
「『鉄の時代』その意味を知っているの?
メルビンいえ、リブラス」
「既に悪による汚染は始まった。
始まってしまった。俺は戦おう、己の正義の為。
不確定な明日の為、未来ある者たちの為。
……オラリオを去れ。仲間と共に」
「貴方は!それを本気で」
「…弟子も、ましてや俺はリブラスとなった。
お前の天秤となってしまった。例え偽りと言えど、
我が主の死や苦しみを見たくない。
星乙女よ、貴女の天秤としての言葉だ」
「……なら、我が天秤よ。
此処には私が信頼している家族がいる。
そして信頼とは言えないけれど、信用している男性もいる。
あの娘達、そして貴方なら解決出来ると思う。
私は、私は逃げないわ。私達の『優しい正義』。
貴方の『苛烈なる正義』、両方が必要になる」
「……わかった、ならば彼女達へこのブレスレットを」
「これは」
「俺の光が入っている。
緊急事態、再起不能か死に瀕した時に一度だけだ。
肉体を全て回復できる代物だ。
アドラーにも渡していない。俺が元の世界で作ろうとして
できなかった試作品だ」
「…わかったわ。渡しておく」
「死ぬなよ、アストレア」
「私にも、貴方と同じ。信じられる仲間がいるから」
「あぁ……」
メルビンとアストレアの邂逅は終わった。
だが、戦いは始まっている。
先に潰すか、市街地戦が始まるか。
メルビンはアストレア・ファミリアのホームから
出ると、静かに帰宅した。