もしも綾小路清隆が◯◯の前で撃たれたら   作:せご曇(せごどん)

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2年生編アニメ化決定おめでとうございます。


もしも綾小路清隆が坂柳有栖の前で撃たれたら②

 

「あ……………………………」

 

野次馬たちの悲鳴の中、坂柳のポツリと漏れた声が何故か鮮明に聞こえた。

 

「ま…………すみ……さん…………?」

 

一歩、一歩とこちらへ近付いてくる。既に神室の瞳に生気は無く、最早助からない。

 

男も同時に死んでいるので、この場での危機は取り除かれた。

 

しかし、それで済むはずは当然無く─────。

 

「なん……ですか、これ」

 

坂柳は事態がまだ飲み込めていないようで、まるで蟻のような足取りで、のろのろと歩いていた。

 

「真澄さん…………起きて下さい、真澄さん………?」

 

普段の坂柳からすれば信じられない程に弱々しく、細々とした声で神室に語りかけていた。

 

「これは命令ですよ……………あなたは、私の命令に従うことを……約束したじゃ……ないですか………」

 

命令。

 

神室は入学早々、万引きの現場を坂柳に目撃されていて、それをネタにこき使われていたな。

 

だが、お互いにそれだけの関係では無かったはずだ。

 

「怒りますよ………? あなたの秘密を、学校側に…………」

 

「坂柳」

 

「綾小路くん………? あなたの方からも、真澄さんに言ってくださいよ…………」

 

「オレの失態だ。……………だが、神室はもう」

 

「嘘です」

 

オレの言葉を遮り、坂柳は強く言い放った。

 

「本気で怒りますよ…………あなたは、その次に何と言おうとしたのですか……………」

 

「神室真澄は既に」

 

「黙りなさいッ!!」

 

初めて聞く、坂柳の感情的な声。

 

伝わる。坂柳の怒りが、鮮明に伝わってくる。

 

「早く真澄さんを助けて下さい!! ホワイトルームで学んだのなら、応急処置ぐらいは出来るでしょう!?」

 

「失われた命は戻せない」

 

「まだです! まだ真澄さんは……!」

 

その時、警官隊と救急隊が駆けつけてきた。オレと坂柳は即座に遺体から引き離される。坂柳は、非力ながらも警官隊の手を振り解こうと藻掻いたのが見えたが、無駄な抵抗に終わった。

 

救急隊が神室の首に手を当てる。そして、表情を強張らせながら首を横に振った。

 

「ダメか…………………」

 

「っ!?」

 

その瞬間の、坂柳の表情。

 

彼女は生まれて初めて、心の底からの「絶望」を味わっていた。

 

 

 

 

オレたちはその後、警察の取り調べを受けることになった。

 

とは言っても、坂柳はあくまでも野次馬の一人であったので、事件当時の様子を聞かれていた程度だろう。

 

オレは神室の救出のために男に向かって行ったので、すぐには解放してもらえなかった。危険な相手に突っ込んで行ったことに対して、かなりのお叱りを受けた。

 

だが、神室を死なせたことには何も言われなかった。どの道オレが介入しなければ、あのまま殺されていただろう。それは周囲の証言からも明らかなことであった。これはあくまでも、即座に現場へと赴けなかった警察側が己を悔いる場面だ。

 

目の前で同級生が殺されたオレへの精神的な影響を考慮したのか、23時頃には解放してもらうことが出来た。

 

既に坂柳は帰したようで、オレは一人で寮へと帰還することに。

 

結局、またぼっちに戻ってしまったな。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

もう大晦日まで後数日だ。昨日の雪が積もっており、外には白い世界が広がっている。

 

ホワイトルームで育ったオレは、「白」は既に見慣れている。だが、「雪」というものには触れた経験に乏しいので、こういった日は貴重だ。よく目に焼き付けておくことにしよう。

 

さて、坂柳の件だが、このまま放置するつもりはない。オレは坂柳理事長に伝えることがあるため、まずは茶柱先生へと連絡する。

 

『…………綾小路か』

 

通話に応じた茶柱先生の声は、どこか重苦しかった。

 

「茶柱先生ですか」

 

オレはいつもと特段変わることの無い声で茶柱先生との通話を開始した。

 

『昨日は、その…………お前も、辛かっただろう………』

 

辛かった、か。

 

間接的にオレが殺したようなものだが、特に精神状態への変化は見られない。

 

だが、率直にそう伝える必要は無いので、ここは足並みを揃えておこう。

 

「自分があの時、もっと強く押さえておけばと悔やむばかりです」

 

『っ…………………』

 

茶柱先生は、オレの言葉を疑わないようだ。いや、疑う必要性など無い。

 

これはスムーズに事が進みそうだ。

 

「本日お電話したのは、昨日の一件も含めて坂柳理事長に直接お伝えしたいことがあったからです」

 

『坂柳理事長に………?』

 

「はい。直接お話をしたいと考えています。電話でも面会でも、どちらでも構いませんが」

 

理事長も、今は事件の対応で忙しいことだろうが、オレとしてもここからは重要な話になる。

 

曲がりなりにも救えたはずの神室を見殺しにしたのだから、その先の始末ぐらいはつけないとな。

 

『一応は掛け合ってみるが………要件だけを事前に聞いても良いか?』

 

別に聞かれても困ることではないので、素直に答えておくか。

 

「2年Aクラスの坂柳有栖のことについてです」

 

『坂柳の………?』

 

オレから坂柳の話をすることをあまり予想はしていなかったようだ。

オレはそのまま続けた。

 

「はい。ご存知の通り、オレは坂柳とは昔からの顔馴染みです。そして彼女は、神室とは親しくしていた。性格的に友人を作ることが今まで無かった坂柳が、唯一友として想っていたのが神室です。その神室が死んだことで、坂柳は深く傷ついている」

 

『それは……………』

 

坂柳と神室がクラスメイトであることは、当然分かる話。だが、坂柳が傷ついているということを伝えるのがオレの目的ではない。

 

高度育成高等学校は全寮制の学校だ。基本的に外部との連絡を取ることは禁止されており、学校の敷地内からでてはいけない。

 

だが、近親者が死亡した場合に通夜や葬儀に参列するために外出することは認められている。流石にそこまで制限することは出来ないだろうからな。

 

もっとも、神室は坂柳の友人ではあっても、家族ではない。普通、クラスメイトが死ねばクラス総出で弔うのだろうが、そこは神室の両親の意向を聞かなければ分からない。家族葬にしたいと言われたら、オレたちは出向けないからな。

 

オレとしては、ここは確実に坂柳に友の温かみを知ってもらうために、外出の許可を貰いたいところだ。神室の親族が参列を断ればそれまでだが、そこも含めて理事長と直接話がしたい。

 

「なので、せめて友人に最期の別れを告げる機会を与えてほしく、彼女の父親でもある理事長とお話をしたいと思っています。それに、オレも彼女の死の一端を担っている」

 

『っ………』

 

「オレも、彼女に対しては誠意を見せるべきだと判断しました」

 

罪悪感は無いが、筋は通しておきたい。無駄死にでしたでは何の意味も無い。

 

茶柱先生は感情に冷淡な人ではない。満場一致試験で成長した今では、オレの言葉に耳を傾けてくれるだろう。

 

『………分かった。だが、理事長は現在とてもお忙しい状況にある。必ずしも連絡が可能だとは言い切れないぞ』

 

「掛け合って頂けるだけでも十分です。オレの我が儘を聞いてくれてありがとうございます」

 

オレはそう言って、通話を切った。

 

それにしても。

 

間接的に人を殺した、しかも実質的にはオレが殺したような状況でありながら、オレは微塵も動揺していない。

 

この高育での生活で、オレは何かを楽しいと感じたり、好意的に捉える瞬間は何度もあった。ホワイトルームにいた時と比べると、遥かに精神的な波を感じる。

 

だが、それでも凡人以下の感情に留まっているようだ。あの男(オレの父親)も似たようなものだろうか。あの男は野心家であり、感情そのものはあるのだろうが、極端に冷え切っている。人間らしい温かみと呼ばれるものは、欠片も持ち合わせていない。

 

オレとあの男とで本質は同じだという分析は、間違っていなかったのだろう。

 

現場を見た訳ではないが、あの男は間違いなく人を殺したことがある。直接的ではないのだろうが、手下を使って邪魔な政敵等を始末してきたのだろう。

 

他には、月城も誰かを消した経験があるはずだ。

 

ホワイトルームにて重宝される人材は、ホワイトルーム生にしろ運営者側にしろ、並以下の最低限の感情だけ備えていれば良いという方針のようだ。オレもその例には漏れていなかったらしい。

 

さて、そんなオレの思惑を坂柳が知ったらどう反応するんだろうな。いくら冷酷な坂柳とはいえ、流石に殺人には忌避感を示すだろう。これも見えている物の違いと言えるかもな。

 

現在はこちらから真実を言うつもりは無いが、いずれ知られたとして、彼女がどのような方向に進むかは興味がある所だ。

 

それから2時間程して、茶柱先生から連絡があった。10分程度ならば、理事長と電話で話すことが出来るという。

 

オレは坂柳理事長に電話で事情を伝えた。坂柳と神室は友人であり、彼女が坂柳の死に深く傷ついているだろうということ。

 

神室の通夜でも葬儀でも良いので、オレと坂柳の2人で参加させてもらえるよう神室の親族に頼んで欲しいこと。

 

そのための外出の許可を貰いたいこと。

 

正直、外出の許可云々は理事長にまで話すことではないだろう。だが、ここは理事長が坂柳の親である点を活かす。娘の精神的苦痛を緩和したいと思うのは、親としては当然の感情。オレはそれを利用したい。幸い今は冬休み期間中であり、外出による学校生活への不都合もそこまでは無い。

 

ホワイトルーム出身者で、かつ現在も半ば追われている身のオレが外出する点も考えると、理事長と話せたのは良かったと思える。

 

『……………分かった。君の気持ちは受け取ったよ。僕の方から、神室さんのご両親に打診してみる』

 

「ありがとうございます」

 

『君がそこまで有栖のことを考えてくれているとは。親としては嬉しいよ』

 

そのお礼はあまり受け取りたくないな。娘が傷ついているのは、オレのせいでもあるからだ。

 

さて、後は上手く事が進めば良いが。通夜はこの調子だと、明日から明明後日の間に行われそうだ。特に複雑な事件でも無いので、警察から遺体が返還されるのにはそう時間はかからないだろう。

 

やることも終わったので、チャットにて送られてくるオレを心配するメッセージの数々に返事をしていくことにしよう。

 

あの堀北でさえ、オレを気遣う言葉をかけている。どうやら、オレは自分で思っている以上に「友達」が多いようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

真澄さんが亡くなりました。

 

いつもはクラスでお喋りをしたり、一緒にお昼ご飯を共にしていた真澄さんが、突然いなくなりました。

 

あの時、私はどのような表情をしていたのでしょうか。

 

あの時、胸に渦巻いた感情は、一体何だったのでしょうか。

 

あれから、私は抜け殻のように時を過ごしていました。何故、友達でもない方の死に私がここまで影響を受けているのか。

 

それが分かりません。

 

一体、私はどうしてしまったというのですか…………?

 

天才の私に、どうして分からないのですか……?

 

 

 

 

 

更にそのまた翌日。

 

午前中に、坂柳理事長から電話があった。神室の両親に事情を話したところ、今日の通夜に参列して欲しいという話になったそうだ。

正直、最初は家族葬で静かに終わるつもりであったようだが、友人がいると話すと驚いた様子を見せ、承諾してくれたらしい。

 

オレと坂柳だから許されたことのようだな。

 

神室は隣県に在住であったようなので、移動時間はそう掛からない。高育が手配した車に乗って、神室の自宅に向かうとのことだ。

 

オレは好奇心がくすぐられる思いがした。高育での生活は、寮暮らしだ。つまり、通常の民家に赴いた経験が、オレには無い。

 

一体、どのようになっているのだろうか。知識としては知っているが、実物を見てみたいという気持ちはある。2年前、ホワイトルームを出た直後のオレは、外界に知的好奇心をくすぐられはしたものの、特に何かを感じることは無かった。

 

だが、今では精神の波を感じる。高育での生活が、オレの「感情」を僅かにだが引き起こしたのは間違い無い。

 

そして、気付けば12月28日は午後4時となっていた。

 

オレは坂柳の部屋にまで彼女を迎えに行くことになっている。流石に、弱っている坂柳を一人で動かす訳にはいかない。ただでさえ身体が丈夫でないのだから、転ばないようにオレが側にいる必要がある。

 

ちなみに、オレは喪服を着用しているので真っ黒な姿だ。既に女子寮の生徒の何人かに目を向けられており、注目の的になりつつある。

 

坂柳の部屋の前に着きオレはインターホンを押した。

 

『…………………………はい』

 

短く、そうとだけ坂柳は答えた。

 

「オレだ。そろそろ、出発の時間だ」

 

『……分かっています。少々お待ちを』

 

声に元気は、やはり無いな。坂柳とは思えない弱々しい声だ。

 

玄関の扉が開くと、そこには黒い喪服に身を包んだ小柄な少女が立っていた。

 

Aクラスのリーダーの威厳はどこへやら、覇気の無い面持ちで、オレのことを見る。

 

泣き腫らした様子は、特に無いな。悲しむ段階ではなく、強い喪失感の方が強かったということか。

 

ならば、後に呼び起こされるのを期待しよう。

 

「体調は大丈夫か」

 

「問題ありません」

 

そうは言っているが、あまり食べてはいないのだろう。優れているとは言えなさそうだ、

 

「一人で歩けるか」

 

「………ご心配無く。私は大丈夫ですから」

 

そう言って一歩目を踏み出した坂柳だが、既に転びそうになったので身体を抱える。

 

「無理をしているな。自信が無いなら、オレの手を掴むと良い」

 

「いえ………大丈夫です」

 

「強がるのは止せ。傍から見ても、全く大丈夫じゃない」

 

「……………………」

 

反論する材料が無いのか、それとも気力も無いのか、坂柳は何も言わずにオレの手を取った。

 

まるで恋人のよう。しかし、互いに喪服であり、元々表情に乏しいオレと、暗い面持ちの坂柳。

 

デートをしているようには、全く見えないだろう。

 

今は、多くを語る必要は無い。通夜の時を過ごせば、自ずと坂柳に眠る感情は呼び起こされるだろう。

 

今は、その時を待つ。

 

オレたちは寮のエレベーターから地上に下りて、寮の前に停まっている学校が手配してくれた車に乗り込んだ。

 

乗車していた時間は一時間を超えたが、その間に坂柳が口を開いた瞬間は一度も無かった。

 

 

 

 

 

そして、遂に通夜会場でもある神室の自宅に到着した。

 

どうやらマンション等ではなく、一軒家であったようだ。住宅街ということもあり、周囲にも同様に様々な民家が建ち並んでいる。一般の住宅に目を向けるのは、修学旅行で北海道に赴いた時以来だな。

 

さて、玄関へと赴くことにしよう。

 

「…………………………………」

 

しかし坂柳は、ボーッと神室の家を眺めたまま動かない。

 

余程喪失感が強いと見える。自分ではそれが何に起因するのか、理解出来ていないのだろう。

 

友人関係については、素人も素人だろうからな。

 

だから、気付かせる。

 

喪った者の大切さを。お前には、友が必要であったということを。

 

「坂柳、歩けないのならばオレの手を取れ」

 

すると、こちらの言葉でハッとした坂柳が、オレに目を向けた。

 

「いえ………ご心配には及びません…………」

 

坂柳は、ゆっくりと前に足を踏み出した。先ほどと違って、自力で歩くこと自体は出来るようだな。

 

恐らく、お前は今日、人生で味わったことのない程の感情の波に呑まれるだろう。

 

だが、恥じる必要は無い。それは坂柳有栖という人間の、新しい一歩であるからだ。

 

ほどなくして、家の中から神室の母と思われる女性が出てきた。

 

「あなたたちが、真澄のお友達……?」

 

「っ……」

 

「はい」

 

すぐには返答が出来ない坂柳に代わって、オレが応じることにした。

 

「この度は、心よりお悔やみ申し上げます」

 

オレはそう言って深々と頭を下げた。少し遅れて、坂柳もまた頭を下げる。

 

「あがってちょうだい」

 

母親にそう言われたオレたちは、神室の家の中へと入っていった。

 

 

 

 

元々家族葬にするつもりだったのは間違い無いようで、その場にいた親族以外の人間はオレと坂柳の2人だけ。祖父母やその他親族は見当たらなかった。

 

その場で神室の死を悼むのは4人。オレは実質的には省かなければならないから、3人。

 

これが、神室の最期、か。

 

坂柳は結局、通夜が始まるまでも、始まった後も、何も言うことはなかった。強い喪失感に襲われ、感情が停滞しているようだった。

 

だが、それに転機が訪れる。閉ざされていた心が、こじ開けられる。

 

そもそもオレたちしかいないので、特別な挨拶などは無かった。僧侶による読経・焼香が終わると、通夜らしいイベントはもう残されていない。

 

神室の両親が、オレたちの側に寄ってきた。

 

「君が、真澄を助けようとしてくれたんだね」

 

父親が、オレに声を掛ける。

 

「はい。とは言っても、結局救うことは出来ませんでしたが」

 

「いや……」

 

父親は首を横に振った。

 

「危険を冒してまで助けようとしてくれる友人がいるだけで、僕はもう嬉しいよ…………」

 

父親は涙ぐんでいて、ハンカチで目頭を押さえていた。

 

オレには何も言う資格は無いので、この場は無言を貫いた。

 

「あなたは、真澄と同じクラスだったと聞いているわ」

 

今度は母親が、坂柳に語りかけていた。

 

「…………! はい………………」

 

「私たち、ずっと共働きで………真澄が小さい頃から、側にいてあげることが出来なくて…………」

 

母親が、神室のこれまでを語り始める。

 

「だから、あの子も私たちとの間に距離を感じていて…………人間のことも信用出来なくなっていて………」

 

「っ…………………」

 

確か、万引きを始めた理由も、誰からも必要とされていないことから生じた心の闇が原因だったな。

 

この様子だと、両親からは必要とされていなかった訳じゃない。

 

ただ、お互いに気持ちを伝える機会に乏しかっただけだ。そして、その機会はもう────────。

 

「どうして………もっとちゃんと向き合わなかったんだろう………」

 

「………………っ!!」

 

そこで………ようやく坂柳の心にも変化が訪れた。目が徐々に見開かれていく。

 

「あなたは大切だって、大切な娘なんだって………言葉で伝えれば良かった…………!」

 

坂柳の瞳が、潤み始める。揺れ動いた感情は、そのまま濁流のように心の奥底にまで押し寄せてくる。

 

「だから………嬉しかった………! 友達なんて一人もいなかった真澄に、初めて友達が出来て………!こうして、最期に来てくれるお友達がいて………!」

 

「!!」

 

そして、押し寄せた感情は透明な雫となって姿を現す。坂柳の双眸には、大量の涙が溜まっていた。

 

「ありがとう………! 真澄とお友達でいてくれて……本当にありがとう…………!!」

 

その言葉が決め手だった。

 

「あ……ああっ…………ううっ………!!」

 

坂柳はうずくまるようにして、口もとを押さえた。

 

「うぅ………!! 真澄さん………! 真澄さんっ………!!」

 

ただ何度も、神室の名を口にしていた。

 

必死に取り繕おうとも、否定しようとも。

 

坂柳有栖の中では、神室真澄は既に友達として名が刻まれていた。

 

見えている物は全く違う。これまで送ってきた人生も、能力も、何もかもが違う。

 

だが、2人は友だった。同じ学び舎で、同じ教室で、苦楽を共にしてきた。

 

その事実は拭えない。今後坂柳がどのような大人になろうとも、高育で学んだ過去は消えない。

 

高育で、友達と過ごした過去は、決して消えないのだ。

 

「ううううっ…………!! 真澄さんっ……!!!!」

 

震える声で、必死に彼女の名を叫ぶ。

 

彼女と過ごした思い出を、胸に抱きながら。

 

 

 

だが、もう神室は帰ってこない。

 

坂柳は、友を喪う悲しみを知ったのだ。

 

そしてそれは、友の大切さを知ることと、表裏一体であった。

 

 

 

 





神室の自宅や両親の描写は、原作には存在しなかったため、私の想像のものとなります。

次は誰の前で撃たれて欲しい?

  • 天沢一夏
  • 軽井沢恵
  • 龍園翔
  • 長谷部波瑠加
  • その他
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