もしも綾小路清隆が◯◯の前で撃たれたら   作:せご曇(せごどん)

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言ったそばからですが、少し書きたくなったので投稿しました。



もしも綾小路清隆が椎名ひよりの前で撃たれたら
もしも綾小路清隆が椎名ひよりの前で撃たれたら①


 

 

私─────椎名ひよりには、あまり友達がいませんでした。

 

小さい頃から本が好きで、小学生になると図書室で過ごす時間が多くなりました。それこそ、お昼休みや放課後は図書室に通い、色々な本を読み漁る毎日でした。

 

ただ、小さい子供というのは座って本を読むことよりも、身体を動かして遊ぶことの方が好きです。男子、女子を問わずに、私の同級生たちは校庭で遊ぶ人が多かったのを覚えています。私は運動能力に関してはまるで褒められたものではなかったので、そういった子たちと遊ぶことは出来ませんでした。

 

かといって、アクセサリーやおままごとで遊ぶのが好きだったのかというと、そうでもありません。女子にはそれらの遊びが流行していましたが、私はそれに乗る気にはなれませんでした。

 

遊びがどう、というよりは、私はあまり大勢の人間と共に何かをすることが好きではないようでした。一匹狼という訳ではないと思いますが、1人でいる時の方が気楽で、時間を楽しく過ごせると子供ながらに考えていたのだと思います。

 

それは小学校を卒業して中学校に入学しても同じでした。

 

中学生になると、同級生たちは思春期に入りました。様々な感情が芽生え、身体的にも大きく成長し、人間関係における価値観の変化も生まれてきます。これまでの趣味・趣向が大きく変わるという人も、中にはいたでしょう。

 

ですが、私には思春期というものが訪れたとは思えませんでした。

 

勿論、身体的には成長したと思います。小学生の時と比べると、中学の3年間で身体面では大きな変化がありました。背も伸びましたし、胸も膨らんできました。

 

ただ、性格的な変化は殆ど無かったと思っています。

 

小学生の時と変わらず、私は本を読むのが好きでした。中学校に入学してから最初に確認したことは、図書室の広さと所蔵されている本のバリエーションであった程です。

 

中学生になると、部活動が盛んになります。クラスメイトたちが、入学して間もない頃はどこの部活に入るかを友達とよく話していたのを覚えています。運動部に文化部、部活動については実績も種類も標準的な学校だったと思いますが、皆さんはよく部活のお話に花を咲かせていました。

 

ただ、私はどこかの部活に所属することよりも、本を読むことの方が楽しいと思いました。今でこそ茶道部に入部していますが、中学時代には興味を持てる部活はありませんでした。

 

それこそ文芸部でもあれば入部を考えたのですが、残念ながら部そのものが存在しなかったため、それは叶いませんでした。

 

中学3年間も、小学校6年間と変わらずに本と過ごす日々が続きました。成長するにつれて知識もどんどんと増えていき、理解出来る本の数が増えていくのが面白かったです。

 

ただ、人と会話をする時間はそれと反比例するように減っていきました。友人と呼べるような深い付き合いをする方は、中学時代には殆どいなくなっていました。

 

それでも、私は構わないと思っていました。元々1人でいることが好きでしたし、静かな環境が私の性格には合っています。図書室という静かな空間で、好きな本を読む。それさえ出来れば、私は他には必要無いとも考えました。

 

それは、高度育成高等学校に入学しても変わらない。特別試験やクラス同士での争いなど、穏やかでない部分は多くありますが、高育の図書室は、私が通っていた小学校・中学校とは規模も本の数も大きく異なっていました。私は初めて入室した時に、目を光らせて感動したことを覚えています。汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)とはこのことを言うのだと、心で理解出来ました。

 

この本の数々に囲まれながら過ごせるのであれば、3年間通うのも悪くない。そう思い、私はこれまでと同じように本を読む日々を送ってきました。

 

クラスメイトの皆さんや同級生の方々には、あまり本を読まれる方がいないようで、やはり私はまた1人で過ごす時間が多くなりました。

 

このまま3年間が過ぎていく。そう思っていたのですが………。

 

「……………………………………」

 

今、私の前にはある男子生徒がいます。1年Cクラスの生徒、綾小路清隆くんです。静かに、椅子に座って本を読み込んでいます。

 

彼は、数少ない本を好む同級生でした。本に対する興味、関心はかなりのもので、今ではお昼休みに一緒に図書室で本を読む機会が増えています。

 

初めてしっかりと会話をしたのは、2学期のある日のことでした。ある本棚に間違えて入れられていた本を取り出そうとした私は、身長が足りずに目当ての本に手が届かないでいました。それを見かねた綾小路くんが、私の代わりに本を取り出してくれたのです。

 

その時、綾小路くんはレイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき(ひと)よ』を手に持っていました。当時、2年生の間でブームになっており、争奪戦が繰り広げられていた本です。彼は運良くその本を読めたようで、その時私は彼に対して何かを感じました。

 

それは「シンパシー」です。今まで、中々出会うことが出来なかった「本好き」という仲間意識を、瞬時に彼に感じ取っていたのです。

 

その後、私は綾小路くんに夢中になって本のお話をしました。これまで話す相手がいなかった分、溜め込んでいた知識を全て披露するかのように、綾小路くんに様々な本のお話をしていました。

 

更に嬉しかったのは、綾小路くんが私の話に興味を持ってくれたこと。途中、どこか疲れたり呆れたりしたような様子も見られたように思えますが、それでも最後まで私の本の話に耳を傾け、次の読書の参考にすると言ってくれました。

 

性格的にも、私と根本的な部分で似通った所があり、親しみを覚えるには十分な人でした。

 

その日からです。私に新しい「友達」が出来たのは。

 

その関係は、こうして1年生が終わる春休みになってもなお続いています。

 

「…………どうした、ひより」

 

気付けば、私は綾小路くんのことを凝視していたようです。視線に気付いた綾小路くんが、用件が無いか尋ねてきます。

 

「いえ………何でもありません」

 

彼は今、江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』を読んでいます。最近では海外の作家の作品を読むことが多かったのですが、たまには気分転換ということで日本の作品に触れているようです。

 

私と彼はクラスが異なります。この学校では、クラスが違えば敵同士ということになってしまいますが、私は彼のことを敵だとは思っていません。むしろ、小中高と進んできた中で、数少ない本好きの友人として、大切に思っています。

 

そして───────。

 

近頃では、彼に対して友人に対する感情とは別の感情を抱いている気がしてならないのです。

 

日常生活を送る中で、ふと綾小路くんのことを考えることが多くなっている気がします。そして、綾小路くんの顔を思い浮かべるたびに、胸の内に不思議な感覚が宿るのです。とても温かい、不思議な感覚が。

 

一体、この感情は何なのでしょうか。私に何が起こっているのでしょうか。

 

本を読めば、分かってくるものなのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

オレの前には今、1年Dクラスの女子生徒・椎名ひよりが座っている。

 

今はちょうど、アガサ・クリスティの『葬儀を終えて』を読んでいるようだ。相変わらずミステリーが好きだな。

 

オレとひよりの付き合いも、かれこれ半年程になるのか。初めて会った時は、あの龍園のクラスにこうも大人しい生徒がいるのかと意外に思った。

 

そして図書室にて本格的な交流を始めると、オレたちの距離はどんどんと縮まっていった。意外にもオレは、ひよりに対して親近感を覚えていたのだ。人間的な相性が良いからかは分からないが、単なる利害関係とは異なる純粋な交友関係を築けていると思っている。

 

堀北のクラスにも、龍園のクラスにも、一之瀬のクラスにも、坂柳のクラスにも。今後の成長を期待する人物は何人かいるが、彼らと人間的な波長が合っているかは微妙な所だ。

 

その点、ひよりは一緒に時間を過ごしていて心地良い、落ち着けると感じられる数少ない人間だ。ホワイトルームでの生活の影響か、オレは喧騒や賑わいといったものをあまり好まない。勿論、学びの対象として興味深くは思っているが、それは未知なるものへの好奇心であって、それそのものを進んで好んでいることは意味しない。

 

こういうことを「馬が合う」と言うのだろうか。まさか、オレにそんなことを感じさせる人間がいるとはな。

 

今後ともひよりとの関係は継続していきたいと思った。

 

さて、オレはこれから実行に移そうと思っている計画がある。それは、同クラスの女子生徒の軽井沢恵との交際を始める、というものである。

 

オレは「恋愛」というものを知らない。ホワイトルームでは学ぶことの無かった概念であり、大変興味深いものだ。

 

これまで、他の人間が恋愛をする場面は何度も見てきた。俗に言う「カップル」というもので、クリスマス等のイベントでは男女2人組で行動する者たちを何人も見てきた。

 

「恋」とは一体何なのか。どのような感情なのか。この学校に入学してそろそろ1年が経とうとする今、オレはこの概念を学ぶために色々と準備をしてきた。

 

それを実行するのが、今だ。

 

春休みが終わる頃、恵と2人で会い、そして想いを告げる。今は何とも想っていないが、既にオレに依存している恵は、間違いなく断らない。晴れて、カップルは成立だ。

 

「………………………………」

 

「………? どうされましたか?」

 

ん………。

 

オレはどうやら、ひよりのことを見つめていたようだ。さっきとは逆になるな。

 

お互いの顔に、何か付いているのか? オレはもう少しだけ目を凝らしてひよりの顔を見てみる。

 

「………綾小路くん、そんなに見つめてどうしたのですか? 恥ずかしいですよ………」

 

「………ああ、悪い。何か顔に付いてないか気になったんだ」

 

ひよりは顔を少し赤色に染めて、オレから目をそらした。まぁ、あんなにジロジロ見られたら恥ずかしいか。これも「学び」の1つなのかもしれない。

 

この時のオレは、特にこの行動を気に留めていなかった。

 

 

 

 

 

 

図書室を出て綾小路くんと別れた私は、寮にある自室へと戻るため帰路についていました。

 

「…………………………」

 

あの時、綾小路くんはどうして私の顔を見つめていたのでしょうか。やっぱり、私の顔に何か付いていたのでしょうか?

 

私は、顔をぺたぺたと触って、変な物が付着していないかを確認しました。しかし、特に何も見当たりません。

 

本当に、顔に付いた物を気にしていただけのようには思えません。寝不足で、ぼーっとしていたとか………? ですが、綾小路くんはいつも健康的な生活を送っていると聞きます。今日も、眠そうな様子には見えませんでした。

 

一体、どうしてしまったんでしょうか。もし具合が悪いのでしたら、早く治って欲しいです。

 

 

 

 

 

 

 

春休みが始まって少ししたある日。

 

私は綾小路くんを呼び出し、カフェでお話をしていました。その内容は、先日行われた学年末試験での龍園くんの立ち回りについて。

 

かなり卑劣な手を用いて、一之瀬さんのクラスに圧勝することが出来たものの、そのやり方は危険性を孕んでおり、私は今後のクラスの展望に陰りを見た気がしました。

 

その感想を綾小路くんに共有し、今後の龍園くんに関する相談をしていたのです。

 

どうやら、綾小路くんも龍園くんの用いた作戦には危険性を見出していたようで、私と意見が合いました。綾小路くんとはやはり、人間的な部分で似通った部分があると再認識させられた瞬間です。

 

ですが、今回重要となる部分はそこではありません。

 

その相談を持ち掛ける前、私は綾小路くんにある話をしました。龍園くんが一時期リーダーの座を降りた一連の出来事については、綾小路くんが大きく関わっているという疑念…………いえ、確信を持っていたので、その真偽を聞いたのです。

 

正直、少し怖かったです。もし違った場合、いえ、違わなかったとしても、彼との関係が壊れてしまうのではないかと思っていました。綾小路くんは積極的に表に出る生徒ではありません。私に踏み込んだ話をされることで、不快に感じてしまうのではないかと、緊張をしながら話しました。

 

ここからが、私が少し自分自身に驚いたことなのですが、その時私はこんなことを口にしました。

 

『踏み込まなければ、これ以上の進展もないと思ったんです』

 

言った後、私は赤面していました。どういう訳か、勝手にこんな言葉が口から出て、驚き戸惑っていたのです。

 

そして、その時に抱いた感情は、あの日………図書室で綾小路くんに見つめられた時に抱いた感情と、同じでした。

 

これ以上の進展。私と綾小路くんは、現在お友達という関係だと認識しています。趣味が合い、そして人間的な波長も合っています。個人的には、この学校で一番友好的に接している生徒です。

 

それ以上の関係。お友達を超えた関係。それは、何と呼べば良いのでしょうか。親友………それとも………?

 

ただ、それを結論が出ない内に綾小路くんに打ち明けてしまえば、彼との関係が変化してしまい、元には戻れなくなってしまう気もしました。綾小路くんが龍園くんを変えたのかどうかを聞いたあの時よりも、更に怖いと思いました。

 

なので、私はその日は何も言わずに綾小路くんと別れました。胸に込み上げてきた感情に蓋をして、何事も無かったかのように自室へと帰りました。

 

そして───────後に、私はこの行動を後悔することになったのです。

 

 

 

 

次は誰の前で撃たれて欲しい?

  • 天沢一夏
  • 軽井沢恵
  • 龍園翔
  • 長谷部波瑠加
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