もしも綾小路清隆が◯◯の前で撃たれたら   作:せご曇(せごどん)

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もしも綾小路清隆が椎名ひよりの前で撃たれたら④

 

軽井沢恵の独白────────

 

あたしは寄生虫だ。

 

高育に入学するまでの間、学校ではとてつもなく酷い目に遭ってきた。理不尽な暴言、暴力。まるで大罪人を寄って集って罰するみたいに、様々な痛みを受けてきた。別に罪を犯した訳でもないのに。

 

そのせいで、あたしのお腹には傷が残ってしまってる。一生癒えることのない生々しい傷が。この傷のせいで、あたしは嫌でもあの時のことを思い出させられる。それは今でも変わらなくて、お風呂から出る時に目に入ってしまうと、時々吐きそうになる。

 

だから、高育ではそうならないために必死に立ち回ってきた。入学してからすぐにクラスのリーダーになりそうな平田くんと偽物の恋人になって、クラス内での発言力を高めた。女子のリーダーとして櫛田さんと双璧を成す位置に来て、平田くんの彼女という立場を活かして男子に対しても強く出られた。

 

でも、これはあたしの力じゃない。櫛田さんと違って、高いコミュニケーション能力によって0から作り上げた関係じゃない。あくまでも平田くんに1を作ってもらって、それを利用して100にしただけ。根本的な所で、あたしは平田くんに依存していた。

 

それについて悪いとは思ってない。あたしはもう二度と虐められる訳にはいかなかった。もう二度と、あんな辛い思いをしたくなかった。やられる前にやる。それぐらいの勢いが無いとダメだと、あたしは判断した。その途中で敵も多く作ってきたけど、その敵が手を出せないぐらいの守りを味方を得ることで固められた。何かを捨てて何かを得た。

 

だから、寄生虫をやることに対してプライドも何も傷つくことはなかった。生きるために、自分に有利になるためには何にでも縋り付く。そう………あたしは嫌いだけど、Aクラスの橋本くんと本質的には変わらないのかもしれない。

 

そのあたしが、損得抜きで生まれて初めて恋をした人がいる。

 

綾小路清隆。その人の名前。

 

第一印象は全く良くなかった。顔はカッコいい。クラスでは平田くんと並んでイケメンだって入学してから少しの間は話題になったぐらい。でも、それだけだった。平田くんみたいにコミュ力がある訳でもなくて、かといって何か得意な分野がある訳でもなくて、よくいるモブAぐらいに収まってしまう男子だった。

 

でも、1年の無人島試験の後、船上試験があってからあたしと清隆の関係は深まった。

 

あたしは徐々に寄生先を平田くんから清隆へと変えていった。清隆といる時は、1人きりの時に感じるような不安感が消えていく。船上試験の町田くんみたいな一時的な寄生先じゃなくて、ずっと拠り所にする感覚。

 

だけど、平田くんには感じなかった恋愛感情が、清隆には感じられた。これは─────運命だったんだと思う。安っぽいかもしれないけど、そうとしか言えなかった。

 

今はまだ隠しているけど、あたしと清隆は歴とした恋人だ。あたしも清隆を必要としていて、清隆もあたしを必要としている。お互いがお互いを大切に思っている。

 

でも、時々思う。

 

あたしはこのままで良いんだろうかって。

 

あたしは去年思った。あたしはこの学校に来てから何も変わっていない。いや、何も変わる気が無いって。

 

それで良いと思っていた。青春なんて、友達なんていらない。あたしはあたしを守れればそれで良い、それだけを考えてきた。

 

でも────────あたしの周りは違った。

 

堀北さんも、平田くんも、須藤くんも、佐藤さんも。

 

みんな成長してる。過去の自分のままではいない、少しずつ変わっていった。大人になっていった。

 

あたしは、このままで良いの?

 

あの時から、あたしは変われているの?

 

未熟なままのあたしを、清隆はずっと好きでいてくれるの?

 

あたしは────────。

 

 

 

 

 

 

 

2週間に及ぶ無人島試験は無事終了した。

 

いや、無事ではないのかもしれないな。下位5位までのグループは全て3年生のグループであったらしく、合計15名の3年生は全員退学処分となった。その遠因はオレによる南雲の無力化にあることは言うまでもない。

 

また、月城と司馬というエージェント級の2人を相手取った戦闘もあった。はっきり言えば、この学校のカリキュラムそのものは大したことは無い。ホワイトルームで学んでいない、一般の高校生ですら切り抜けられる難易度だ。オレからすれば、全く取るに足らないという試験もあった。

 

だが、この戦闘はカリキュラムとは逸脱したもの。全く油断も慢心も出来ない、一進一退の攻防。無人島試験の最中に、無人島試験とは全く異なるイベントではあるものの、これのせいで試験を振り返ると穏やかなものとは言えなくなってしまった。

 

とはいえ、鬼龍院の助けもあってオレはあの窮地を脱することが出来た。月城は高育から身を引き、最大の脅威は一応取り除かれたと言っていいだろう。それでもホワイトルーム生は残るので、油断ならない生活は続くが。

 

試験を終えたオレたちは、クルーズ船の上で夏休みを開始していた。

 

2週間のハードな特別試験の後に、これ程の豪華客船でくつろげるのだから、生徒たちは皆リラックスしている。

 

かく言うオレもまた、クルーズ船に乗る経験はそう無いので、絶賛満喫中だ。南雲の命令によって3年生たちはオレに視線を向けるようになったが、早急な解決は不可能なので今は放置するしかない。

 

そして、無人島試験での大きな出来事には、もう1つ挙げなければならないものがあった。

 

一之瀬がオレに告白をしてきたのだ。

 

月城と司馬の会話を偶然聞いてしまった一之瀬は、オレにその内容を伝えるべく自分のグループでの役割を放棄してまで島内を走っていた。

 

その時、意図せず口から漏れてしまったというものだ。

 

試験中に一之瀬のクラスの生徒たちと会う機会があったが、一之瀬がオレのことを頻繁に口にしているという話は聞いた。だが、それが好意故のことだったとはな。あの時、彼らは既に一之瀬の気持ちに気付いている素振りを見せていたが、オレには分からなかった。

 

恋愛を経験してから数ヶ月は経っているのだが、まだまだ分からないことの方が多いようだ。

 

さて、その一之瀬の告白への返事だが────答えは既に決まっている。オレは一之瀬との約束の場へと赴くことにした。

 

 

 

 

 

 

2週間にも及ぶ無人島試験が終了し、私───椎名ひよりは、クルーズ船でのんびりと時を過ごしていました。

 

とても一介の学生が乗れるとは思えない程に豪華な客船「サン・ヴィーナス号」。普段はアウトドア趣味を持たない私ですが、船内の光景には目を見張るものがあると思います。残念ながら船内図書館というものは存在していませんが、普段はお目にかかれない様々な設備を回っていました。

 

そして、夕方になった頃。海の景色を見たくなったので、私はプロムナードデッキへと足を運びます。

 

その時でした。

 

「っ……………!!」

 

私の横を、誰かが走り抜けていったのです。その顔には見覚えがありました。

 

「一之瀬さん……………?」

 

一之瀬さんが、涙を流しながら走っていました。一体、何があったのでしょうか。私は気になりましたが、追いかける気にはなれなかったのでそのままその場に残りました。

 

そして、海風に吹かれながらデッキ内をゆっくりと歩いていると、またもや知り合いの人と顔を合わせることになりました。

 

「綾小路くん」

 

「ひよりか」

 

静かに夕陽を見つめていたその人は、綾小路くん。

 

「こんな所で奇遇ですね」

 

「そうだな」

 

そこで、ふと私は疑問になりました。一之瀬さんが走ってきた方に、綾小路くんがいた。お2人に、何か関係があったのかと。

 

「そういえば綾小路くん、先程一之瀬さんが泣きながら走っていたのですが………何かご存知ですか?」

 

「いや、分からない」

 

綾小路くんは、短くそう答えました。となると、最早原因を突き止める方法もありません。気にはなりますが、一旦は疑問を置いておくことにしました。

 

2人で、夕陽が沈みゆく海の景色を眺めます。

 

「綺麗ですね…………」

 

「そうだな」

 

最終的には無事に終えることが出来たものの、初日から一波乱のあった無人島試験。体力の無い私は、特に疲れを覚えていました。

 

そんな苦難の後の、この夕陽。いつになく美しく思えてなりません。

 

「この船旅はとても楽しいです。ですが………」

 

私は、綾小路くんを見ました。夕陽に照らされた横顔は、あの時の凛々しさを湛えたまま。

 

「今は早く帰って、本の続きが読みたいです」

 

「…………そうだな」

 

「………………え?」

 

今………。

 

「どうした?」

 

綾小路くんが、私の方に顔を向けました。

 

「今………綾小路くんが、笑った………」

 

「オレが……………?」

 

綾小路くんと出会ってから、もう随分長い時間が経ちました。その間、私が笑うことは何度もあっても、綾小路くんが笑う姿は一度も見たことがありません。

 

「……………フフッ」

 

初めて見せてくれた、綾小路くんの笑顔。それを見ると、何だかこちらまで笑いたくなりました。

 

 

 

 

 

 

友達と一緒に船内を回ったあたし─────軽井沢恵は、少し風に当たりたくなってデッキの上まで足を運んでいた。

 

去年も無人島試験の後はクルーズ船での夏休みだっけ。でも去年は無人島試験の直後に船上試験があったり、龍園のクラスの女子たちがあたしに暴力を振るってきたりで最悪な夏休みの幕開けでもあった。

 

────清隆と本格的に関わりができたのも、ちょうど去年の今頃だったなぁ。

 

そう考えると、あの嫌な思い出もまだ受け入れられる。あたしと清隆の今に繋がっていると思えば。

 

そんな奇妙なロマンチシズムに浸っていると、あたしは見覚えのあるシルエットを目に入れる。とても大きくて、とてもカッコよくて、とても頼もしい。あたしにとっては、まさにこの世界で生きる意味に変わりつつある程に大切な人────綾小路清隆の姿を目に捉えた。

 

「清た────!」

 

私は反射的に声を出して呼び掛けようとしたけど、思いとどまる。あくまでも清隆との関係は秘密の状態。無人島試験っていうキツイ試験の後に、久々に清隆の顔を見たから気持ちが舞い上がっちゃったけど、そこは守らなきゃ。そもそも、秘密にするっていうのはあたしから言い出したことなんだし。

 

でも─────。

 

遠目で見ているぐらいは良いよね?

 

デッキの上にいるのは別にあたしたちだけじゃない。

 

あたしはそう自分に言い聞かせて、夕焼け色に染まった海を眺めることにした。

 

「綺麗………」

 

思わず口から漏れた言葉。無人島でも夕陽を見ることはあったけど、それを楽しむ余裕は無かった。「疲れた」「暑い」「早く帰りたい」など、ポジディブな単語よりネガティブな単語の方が頭の中を占めていた。

 

でも、今は違う。もうあたしたちは夏休みだ。それも、普通の高校生では味わえないような、豪華客船での夏休み。

 

見える景色も、当然普段とは違ってくる。

 

もし、これを清隆の隣で見られたのなら………なんて、そんなこと考えていてもしょうがな──────。

 

─────え?

 

「椎名………さん…………?」

 

清隆の隣に、龍園のクラスの女子の椎名さんが歩いてきた。

 

清隆と椎名さんは読書仲間。椎名さんから勧められた本を読んでるって話は何度か聞いてる。だから、椎名さんと話すこと自体はおかしくない。

 

でも…………あたしがこうして近付けないでいるのに、椎名さんは清隆とあんなに近くで話している。

 

それが、羨ましかった(妬ましかった)

 

ああ、良いなぁ……。清隆の隣、楽しいんだろうな!!

 

そう拗ねていた時───────もっと信じられないものを見てしまった。

 

「え………………………?」

 

今度は、間の抜けた声が漏れてしまった。あたしの視線は、清隆に釘付けになった。

 

だって。

 

だって………。

 

清隆が、笑ってたんだから。

 

あたしの前では一度も笑ったことがなかった清隆が。

 

キスをした時でさえ、表情を少しも変えなかった清隆が。

 

椎名さんの前で、笑ったんだから。

 

 

 

 

 

クルーズ船から高育へと戻って来てそれなりに時間が経った。

 

今は夏休みの中盤を過ぎ、そろそろ晩夏へと移り変わろうという時。

 

あまり友達のいないオレは、夏休みだからといって誰かと出掛けることも無い。図書室には度々訪れ、休みを活かした長時間の読書を堪能することがあるが、それぐらいか。

 

去年、堀北たちとプールに行ったのが今では懐かしい。

 

そういえば、最近は恵との会話が減った。どこか元気が無いというか、恋人関係は2学期までは隠す話だったのでまだ頻繁に会うことは出来ないが、それにしても音沙汰が無い。チャットでのやりとりも激減している。

 

夏風邪でも引いたか? それとも、リア充らしく友達と遊び三昧の毎日か。

 

あるいは─────。

 

そう物思いにふけっていると、インターフォンが鳴った。時刻は20時を過ぎていて、それなりに遅い。誰かと会う約束を取り付けていた訳ではないので、奇妙に思えた。

 

玄関の扉の覗き穴から来客が誰かを確認する。

 

───────恵?

 

オレの部屋にやって来たのは、恵だった。

 

特に連絡も無い、突然の来訪。これまでの恵ならやらないであろう行動だ。

 

そのままにしておく訳にはいかないので、オレは扉を開けることにした。

 

「恵、どうしたんだ急に」

 

「………………………」

 

恵は何も言わない。何かを言いたげな、だがはっきりとは言えないような微妙な表情をしている。

 

一度部屋に入れた方が良いな。

 

「取り敢えず入ってくれ」

 

そう言って、オレは恵を玄関に入れた。

 

そして扉を閉じた瞬間、胸に恵が飛び込んできた。

 

「ん…………恵」

 

「………………………」

 

オレの胸に顔を押し当てるように密着してくる恵。只事では無さそうだ。何かがあったと見るべきか。

 

恵は程なくして、おもむろに口を開いた。

 

「ねえ」

 

「どうした」

 

「………………………抱いてよ」

 

 

 

 

 

 

次は誰の前で撃たれて欲しい?

  • 天沢一夏
  • 軽井沢恵
  • 龍園翔
  • 長谷部波瑠加
  • その他
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