もしも綾小路清隆が◯◯の前で撃たれたら   作:せご曇(せごどん)

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もしも綾小路清隆が堀北鈴音の前で撃たれたら②

 

「はぁ……………疲れた……………」

 

お風呂に入りながら私───────櫛田桔梗は、溜まった疲れを癒していた。

 

2学期に行われた特別試験、満場一致試験。あの試験以来、クラス内での私の評価は地に堕ちた。

 

これまで、私のことを天使のように崇めていた連中は皆、掌を返したように私を非難した。あんなに私に秘密をべらべら喋るほど、入れ込んでいたのにね。

 

あの時から、私はクラスの中で孤立している。これまでのように談笑する友人はいないし、笑顔を振り向けられることが減った。平田君あたりは、いまだに私を見放さないスタンスを取っているけど。

 

それもこれも、全て綾小路くんと堀北さんのせい。あの2人がいなければ、私は信用を失わずに済んだ。

 

特に、綾小路くん。彼の実力は、私の想像の遥か上を行っていた。普通、自分が圧倒的に不利なあの状況で、あんな切り返しはできないでしょ。しかも、あの時の密会の会話の内容まで一言一句全部暗記しているとか、どれだけ記憶力が良いんだか。

 

私の理想を踏みにじった綾小路くんのことは、今でも恨めしく思っている。

 

───────でも、私はどういう訳か、今の状態をどこか心地良いと感じていた。

 

人に気に入られるように取り繕うのは、物凄いストレスが蓄積する。それこそ、定期的にガス抜きをしないとどうにかなってしまいそうなほどに。そのガス抜きが原因で、私は中学校時代に、クラスを学級崩壊させていた。

 

今は、そのストレスが無い。他クラスの生徒たちに対しては、今でも取り繕った態度で接しているけど、少なくともBクラスではほぼ素の状態で生活している。

 

それに─────────────。

 

 

 

「腹を割って話せるようになった櫛田とは、上手くやっていける気がしている」

 

「世の中にはおまえの本性の方が居心地が良いと感じる者もいる」

 

 

 

「──────────っ!!」

 

どうして、あの修学旅行の時の綾小路くんの言葉が、ここで………。

 

あれ………おかしいな、顔が熱い。長風呂し過ぎちゃったかな……? 心臓も凄いバクバクいってるし、これはもうのぼせちゃってるね、うん。決して、綾小路くんを思い浮かべたからじゃないよ。

 

そろそろ出た方が良いかもしれない。

 

私は湯船から出て、入浴時間を終えることにした。

 

それから少しして、私はベッドに腰を下ろす。今日は一段と冷えるから、暖房をしっかりとつけておきながら。

 

もうすぐ特別試験か…………。私は、私がAクラスに上がるためにクラスに力を貸す。そういう約束で、堀北さんたちに従うことにした。

 

でも、それだけじゃない気がする。私の今の生きる原動力は。そこには、彼の存在がいて────。

 

「………って! さっきからおかしいよ!」

 

声を出すことで、雑念を振り払う。何度も言うけど、決して、決して綾小路くんのためなんかじゃない。

 

彼がいなくたって、私はきっと同じ結論を─────。

 

そこで、私のスマホが鳴った。

 

Bクラスのチャットグループに誰かがメッセージを送ったみたい。送り主は、池くんだった。

 

どうせまた、いつもの下らない雑談でしょ?正直、今は疲れているから確認するのが億劫だった。

 

でも、もし特別試験に関する何らかの連絡だったらそれはそれで面倒だし、彼のメッセージに既読が付いた所で別に何も起きないのだから、私は一応確認することにした。

 

「まーた、今日は何を言ってるんだろ…………………え?」

 

 

『おい』

 

『大変だ』

 

『綾小路が拳銃で撃たれて』

 

 

 

 

 

 

 

 

『死んだって』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです。毎朝新聞による世論調査の結果、鬼島内閣の支持率は85%となり、戦後最高を更新しました。このことに関して……………………』

 

3学期が始まる少し前の冬休みのある日、オレは朝のニュースを観ながら朝食を口にしていた。

 

今は、現内閣総理大臣である鬼島首相に関するニュースを女性アナウンサーが報道している。

 

鬼島首相と言えば、この高度育成高等学校を構想した張本人。「後退先進国」とも揶揄される日本を再建する新しいリーダーたちを育成する場として、プロジェクト発足時は大きな注目を浴びていたという。

 

オレがまだ生まれてもいない時代の話なので、当時のことは詳しくは分からないが。

 

ただ、鬼島首相はまだ政治家であったオレの父親─────綾小路篤臣とは所属政党である市民党内部での派閥が違うため、敵対関係にあったはず。

 

その敵対者の打ち立てた教育機関に、実の息子が身を置いているのだから、皮肉とも言える。

 

そんなことを考えている時、オレはふとあることを思いついた。

 

オレの存在は、政界内においては邪魔なものだろう、と。

 

まだ未成年のオレには衆議院議員に立候補する資格は無いが、時が経てば権利を得る。その時、あの男(父親)は、オレを自身の後継者として政治家の道に進ませようとするかもしれない。確実に、他の派閥の人間からすれば邪魔な存在だろう。

 

オレの存在が政界内でどれほど知れ渡っているかは定かではない。それを確かめる術は無い。

 

ならば、一部の有力議員たちには知られていると仮定して、オレは無事でいられるのか。もしかしたら、オレに危害を加える者が差し向けられるかもしれない。その可能性を否定する材料は無いのだから。

 

そうなった時、オレの存在が隠されるように葬られてしまえば、これは面白くない。「死」そのものは生徒たちに刻まれるだろうが、そこで止まる。彼らのその後には影響しない。綾小路清隆という人間が存在したという記憶は、時と共に消え失せていく。

 

オレは朝食を終えると、勉強机にA4サイズの白紙を一枚置き、ボールペンを手に持った。

 

今からオレが書くのは「遺書」。法的拘束力は持たない。ある人に向けて、遺書をしたためる。勿論、オレの父親に向けたものではない。

 

これからオレがするお願い(・・・)を、受け入れるかどうかはあの人次第だ。突っぱねられればそれでお終い。ただ、それだけのこと。

 

こんなことをして、オレの存在が刻まれるかは分からない。いや、オレの交友関係はさほど広くはないので、大して記憶にも残らないという者が大半だろう。

 

ただ、それでも僅かにでも深く刻まれる人間がいるのならば、これを遺す価値はある。

 

オレは遺書をしたため終えると、それを白い封筒に入れて机に置いた。

 

そして、チャットから茶柱先生にメッセージを送る。とても重要な話があるので、直接会って話がしたいと言った。

 

茶柱先生は、13時頃に時間を作ったのでBクラスの教室にて会えるかを聞いてきたので、それを承諾した。

 

さて、どうなることか。

 

 

 

 

昼までは自室の掃除をして時間を過ごした。

 

13時近くになると、オレは制服を着て、封筒を持って外に出る。冬休み中とは言え、校内に入るのであれば制服着用の義務は生じる。

 

寮を出て、通学路を歩く。制服を来た生徒たちは、ほとんどいない。オレだけが、まるで別の世界にいるかのよう。

 

この表現は間違ってはいないだろう。実際に、オレの人生を振り返れば、それは一般家庭出身者とは全く異なるものだ。同じ空気を吸っていながら、別の世界から来た人間。それが、綾小路清隆。SF風に言うのであれば、「エイリアン」とも表現出来るかもしれない。

 

学校に着くと、オレは上履きに履き替え、2年Bクラスの教室まで向かった。

 

時刻は大体12時55分。少し早い到着だが、教室内には既に茶柱先生の姿があった。

 

「こんにちは」

 

オレは軽く挨拶をしておく。

 

「冬休みに連絡を寄越してくるとは思わなかった。とても重要な話とあったので、一瞬胸が飛び出るかと思ったぞ」

 

茶柱先生は苦笑いを浮かべている。少なくとも、オレが雑談の類いをしに来たのではないことは重々承知のようだ。

 

「それで、一体何の話があるんだ、綾小路」

 

オレは教室外に声が漏れないよう、しっかりとドアを閉めた。

 

「今日茶柱先生にご連絡したのは、ある人と会う約束を取り付けて欲しいからです」

 

「ある人?」

 

茶柱先生は首を傾げた。

 

「坂柳理事長です」

 

「………………!」

 

目を見開いて驚きを表している。

 

一介の生徒が、理事長と直接会いたい………と言っていることに対してではないだろう。

 

茶柱先生は、オレの境遇について若干ながらも知識がある。何か重大な問題が起きたのではないかと考えているのかもしれない。

 

「………一応、理由を聞いても良いか」

 

少し間を空けて、茶柱先生が口を開く。

 

「この手紙を、坂柳理事長に渡したいからです」

 

「手紙………?」

 

オレは鞄から先程したためた手紙を入れてある封筒を取り出した。

 

「それは………何の手紙だ?」

 

「この場では言うことは出来ません」

 

「…………………………」

 

場の雰囲気がかなり重苦しくなる。オレは遺書について何も口にしていないから、茶柱先生にしてみれば手紙の内容はブラックボックス。しかも、オレは愛想笑いの一つも浮かべないので、シリアスな空気に拍車が掛かっていた。

 

「私から坂柳理事長に渡しておく……ということではダメなのか?」

 

「今回に関しては、理事長にオレが直接渡す必要があります」

 

「……………………………………」

 

しばし沈黙が続く。

 

多分、茶柱先生はNOとは言わない。そこに関する理解はある人だ。

 

「……………分かった。理事長に、直接連絡を取ってみる」

 

「ありがとうございます」

 

「ただ………会えるかどうかまでは保証しない」

 

「それで結構です。そもそも、坂柳理事長がこの手紙のお願い(・・・)を承諾しなければそれまでの話なので」

 

「…………………………………」

 

その後、茶柱先生は坂柳理事長に対して連絡していたのだろう、スマホを取り出して何かを打ち込んでいた。

 

オレはすることも無いので適当に校内をぶらついて暇を潰していた。改めて、清潔感のある学校だ、と認識する。他の高校に関する知識がある訳ではないが、やはり税金を大量に投じているだけあって美麗な空間作りを心がけているようだ。

 

そして、20分の時が経った。

 

茶柱先生から、オレに電話がかけられる。

 

『綾小路』

 

「はい」

 

『坂柳理事長から返事があった。14時に理事長室に来てほしいとのことだ』

 

「ありがとうございます」

 

『ただし、理事長室の前までは私も同行する。それで良いな?』

 

「問題ありません。色々とありがとうございました」

 

室内での会話は外には聞こえないため、茶柱先生の同行も問題無いだろう。

 

茶柱先生は一旦職員室に戻ることになった。

 

オレはBクラスの教室に戻り、そこでネットサーフィンをして残り時間を過ごすことに。

 

そして、13時55分。オレは茶柱先生と共に理事長室へと向かった。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

オレは理事長室に入ると、中にいた白髪の男性、坂柳理事長に頭を下げた。

 

「直接会うのは久しぶりかな、綾小路くん」

 

「本日はお時間を作っていただき、ありがとうございます」

 

「いやいや、構わないよ。さぁ、座ってくれ」

 

理事長に促され、オレは黒いソファに腰を下ろすことにした。

 

「それで、僕に話とは何かな」

 

坂柳理事長は、にこやかな笑みを浮かべた。直接話があるということで重大な話だとは思っているだろうが、場の雰囲気を強張らせないように配慮してくれているんだろう。

 

この話を持ち出せば否が応でも重苦しい雰囲気になってしまうが、それも仕方が無いと割り切る。

 

「今日は、坂柳理事長にお願いがあって来ました」

 

「僕にお願い………何だか、懐かしいね」

 

「懐かしい?」

 

オレは頭に疑問符を浮かべる。

 

「ああ、こっちの話だよ。実は君が生まれる前にも、綾小路先生が僕にお願いがあると言って自宅に訪問してきたことがあってね。何だか、昔の再現をしているみたいだ」

 

「そうだったんですか」

 

当然、あの男とオレはそんな昔話をする間柄ではない。だから、過去に何があったのかは詳しくは知らない。

 

オレは封筒を鞄から取り出して、本題に移る。

 

「それは………」

 

「遺書です」

 

遺書。その言葉を聞いた時、理事長の顔から薄っすらと笑みが消えていった。

 

「誤解を避けるために言いますが、オレがこれから自殺しようと言う話ではありません」

 

「それは………ひとまず安心したよ。でも、どうして遺書なんかを?」

 

当然の疑問に、オレは答える。

 

「オレはかつては大物政治家とも言われた綾小路篤臣の一人息子です。今は下野していますが、いずれはまた政界に返り咲くつもりでいるでしょう。そして、あの男の政界内での地位は、かなり高いと言っていい。将来の総理大臣を狙うことが出来るレベルだと考えます」

 

「それは………そうだね。綾小路先生は、既に有力議員と言われて久しいお人だ」

 

「だからこそ、敵も相応に多い。そもそも、ホワイトルームプロジェクト自体が、表に出れば一発でアウトになるような非人道的要素を多分に含んだ計画です。その計画において最高傑作と言われているオレは、父親同様に知らず知らずに敵を作っていると言っても良いでしょう」

 

「…………………………………」

 

「この学校に身を置いていても、いつ誰がオレの命を狙っているのかは分からない。なので、いつ死ぬことになっても良いように、こうして遺書を書くことにしました」

 

坂柳理事長の表情は、いつの間にか曇っていた。

 

この人は、情に厚いタイプだ。いかに境遇が特殊と言えども、まだ子供であるオレが死を意識する事実を快く思うはずがない。

 

「………まさか、そこまで考えていたなんてね。君の優秀さは重々承知しているつもりだったけど、普通の高校生では考えもしないことにまで頭が回ってしまうなんて。これは……悲しむべきなのかな」

 

「理事長が心を痛める必要はありません。オレが狙われる云々の話も、オレの勝手な妄想でしかないかもしれない。そうなれば、仰々しく遺書などを遺したオレが笑い者になるだけで済みます」

 

「………うん。そうだね、笑い話に出来ればそれが最善だ」

 

やはり理事長の表情は固い。だが、それでも話は続けてくれた。

 

「君の命が狙われるようなことには、僕が絶対にさせない。だから、どうか安心して欲しい」

 

「ありがとうございます。でも、万が一ということもあり得ます。そのための遺書がこれです」

 

オレは封筒を理事長に差し出した。

 

「…………読んでも良いかな」

 

「むしろ、読んで頂きたいです」

 

理事長は封筒を受け取り、中の手紙を取り出して目を通す。

 

「………………! これは…………」

 

「無論、理事長が断ってしまえばそれで終わる話です。オレの死後、どう処理するかは理事長にお任せします」

 

そもそも、血の繋がりの無い理事長にどうこう出来る問題かは甚だ疑問が残ることではある。

 

だが、オレが取れる手段と言ったら、これしかないだろう。

 

「………………………………………」

 

しばし、重い沈黙が続く。さっきの茶柱先生との教室での会話も、こんな風に重くなったな。オレが原因なのだが。

 

「…………………これは、彼女が断れば任せることは出来ないよ」

 

「構いません。その場合は、その文章は誰にも読ませなくても良いです。ただ、オレは昨年の卒業式の後、堀北学先輩に言われました」

 

 

 

「もし学校に対して何も残すことが出来ないのなら、生徒たちに残せばいい。綾小路清隆という生徒がいたという記憶を、刻まれた生徒たちは忘れることはないだろう」

 

 

 

「先輩の存在は、ホワイトルームを出て右も左も分からないオレに強く影響を与えた。オレはこの言葉を受けて、現在ある計画を進めているほどです。もし道半ばで死ぬようなことになれば、それは果たせなくなる。なら、少しでも生徒たちの記憶に残るよう、最期を飾りたいと思いました」

 

「…………………………………………」

 

坂柳理事長は、また沈黙した。

 

だが、この沈黙は拒絶の沈黙ではないだろう。オレは、今日の目標を達成したことを確信する。

 

「………分かった。もし、万が一にでも君に何かあれば、この遺書の通りに事を進めよう」

 

「ありがとうございます」

 

「ただ、あくまでもそれは万が一の話。この学校にいる限り、君の身柄の安全は絶対に保証する」

 

坂柳理事長の決意と情熱に満ちた眼差しが、オレを突き刺した。

 

………オレや、あの男には生涯出来ない眼だろうな。

 

そんなことを思いながら、オレは理事長室を後にした。

 

 

そして───────この数日後、綾小路清隆はその短い一生を終えることになる。

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁっ!!! 綾小路くんっ!!! いやぁぁぁぁっ!?」

 

地に横たわる綾小路くんに向かって泣き叫ぶ私を、駆けつけた警官隊が彼から引き剥がしたのは、彼が撃たれてから数分後の話だった。

 

「離してっ!! 彼を助けないとっ!! 彼を!! 彼は!! まだ死んでなんてないわ!! 離してッ」

 

「止めるんだ………彼はもう………!」

 

「嘘よ!! 彼がこんなことで死ぬはず無い!! 今だって、死んだふりをしてこの場を乗り切ろうと!!」

 

そう、彼はまだ死んでいない。綾小路清隆という人間が、こんな所で死ぬはずがない。

 

私は警官隊の言葉を否定して、全力で彼らの腕を振りほどこうともがいていた。

 

だけど、そんな私の希望は──────────。

 

「……………っ!?!?」

 

救急隊の人が、彼の首筋に手を当てて、首を横に振るまでだった。

 

「う………そ…………………………」

 

突如、私の全身から力が抜ける。膝から地に崩れ落ちる。

 

「うそよ………………うそよね………? 綾小路くん…………?」

 

私は必死に笑みを作り、彼に語りかけた。この現実から逃げるように。全てを嘘にするために。

 

「私、まだあなたの実力を見切れていないわ………。あなたの人生も、あなたの好きな物も、あなたの夢も、何も聞けていない…………………」

 

震える。声が震えて、言葉にならない。

 

「行かないで…………行かないでよ…………まだ学校生活は、1年以上も残っているのよ…………? あなたの力が無ければ、私たちは………」

 

彼に近付こうと、必死に膝を前に動かした。

 

擦りむけたって構わない。今は、何もかもがどうでもいい。

 

ただ、彼が目を開いてくれれば………私はそれで………っ。

 

「あやの……こうじく」

 

そんな彼の身体に─────無慈悲にも、布が被せられた。

 

「っ!?!?」

 

もう…………彼の顔を、見られなくなってしまった。

 

「いや…………………」

 

「…………彼は……………」

 

「いやぁっ…………………」

 

「…………!? ほ、堀北………!? 何だよ……これ………!?」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 

 

 

 

私は医務室に連れて行かれ、怪我がないか検査されたらしい。

 

特に異常は無かった。異常があったとしても、どうでも良かった。

 

その時の記憶は全く無い。気付けば部屋にいて、警官隊の人たちに絶対に外に出ないように言われた。

 

結局、私はその場から動けず、ただベッドにもたれるようにして虚ろな時間を過ごした。人生で二度と来ないだろう、空っぽで何も無い、本当の虚無を。

 

 

 

 

翌朝、私のスマホは引っ切り無しに鳴った。

 

一応入っているBクラスのチャットグループに、1000件以上のメッセージが送られていた。

 

間違いなく、綾小路くんに関する話題。あの時、私のすぐ側に池くんがいたようだから、彼から話が伝わっているのでしょう。

 

そして─────学校側からも、メッセージが送られてきていた。

 

それは、昨夜の事件の話。事件の影響を考慮して、今日から数日間は、寮の自室から一歩でも出ることを禁止された。その間の生活用品等のサポートは、連絡をすれば学校側が対応することになった。

 

綾小路くんを撃った5人の男は、皆その場で自分たちの頭も撃って死んでしまった。

 

だから、もう誰も裁けない。この事件は、被害者も加害者もどちらも死亡という形で幕を下ろした。

 

でも──────最大の知らせは、そんなことではなかった。

 

 

『綾小路清隆くんの遺書に従い、後日学内で葬式を執り行います。列席は任意です。詳しい日時は────────』

 

 

 

「いしょ………? そう………しき……………?」

 

何を………言っているの………?

 

これじゃあ、まるで彼が───────。

 

「…………ひっ!?」

 

その時、私のスマホが振動した。さっきまでのメッセージ受信の振動じゃない。

 

誰かが、私に電話をかけてきた。

 

こんな時に、誰が─────。

 

「これは……………」

 

私は、画面をスワイプして、通話に応じた。

 

『…………………堀北か』

 

とても暗く、どんよりとした声色で私に語りかけてきたのは………茶柱先生だった。

 

「……………茶柱先生」

 

私の声は、自分でも驚くほどに生気が無かった。必死に、絞り出した声だった。

 

『今、少し良いか………………』

 

「………………………………」

 

答える気すら起きない。

 

私の沈黙を承諾と受け取った茶柱先生は、話を続けた。

 

『昨夜……綾小路が撃たれた』

 

「…………っ」

 

『お前がその時、側にいたことを受けて…………警察がお前に事情聴取をしたいと言っている』

 

「…………………………」

 

私は、綾小路くんの最期の瞬間に居合わせた。

 

彼は………私を突き飛ばして、その後拳銃に撃たれた。何発も、何発も。どんな人間でも助からない………ぐらい…………っ……!

 

『私も反対した…………お前は、綾小路と特に親しかった生徒だ………。彼の死に、深く胸を……痛めて…………いるだろう……

…っ!』

 

「……………!」

 

茶柱先生の声が………少しずつくぐもってきた。

 

『だが………事件の解明もまた………彼への弔いになると…………っ………そう………思っている………!!』

 

間違い無い。茶柱先生は今───────。

 

『不甲斐ない…………情けない……………っ! 生徒たちを守り……導く役目を担う私………が……っ……! 悲しみに明け暮れ………っ……生徒の前で………弱音を吐くなど…………っ!!』

 

「茶柱………先生…………!」

 

先生は、泣いていた。

 

声を必死に押し殺して、耐えようとしていたけど、それでも結局耐えきれずに…………。

 

「先生ぇぇっ…………………!!! 私…………わたしっ…………!!!」

 

私たちにとっては、数少ない長く接する大人。私たちよりも強く、私たちを影から見守る、頼れる先生。

 

そんな先生でも………彼の死には……っ!!!

 

『警察はっ………午後にそちらへ向かう…………っ!! 私は………これ以上は言葉を……話せない………っ』

 

プツッ。ツ─────ツ──────。

 

「ううぅっ………!! うぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

 

何度目になるのか分からない涙を、私は流し続けた。

 

 

 

 

 

次は誰の前で撃たれて欲しい?

  • 天沢一夏
  • 軽井沢恵
  • 龍園翔
  • 長谷部波瑠加
  • その他
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