もしも綾小路清隆が◯◯の前で撃たれたら 作:せご曇(せごどん)
綾小路の過去の回想部分の『』の台詞は、0巻のものをそのまま用いています。
もしも綾小路清隆が坂柳有栖の前で撃たれたら①
坂柳有栖の独白────────
私には、友達がいません。
私は自らのことを天才であると自負しています。それに見合うような結果も残してきました。
これは、遺伝子が優れているから。極めて優秀な両親から生まれた私は、同じく極めて優秀な遺伝子を有している。世の中の大多数の人間とは、生まれながらに住む世界が違うのです。
つまり、劣等遺伝子を受け継いだ多数派の人々とは話が合いません。義務教育の段階から、私の周りには面白みの無い、稚拙な人間ばかりが集まっていました。話も全く建設的ではなく、私にとっては不要でしかない存在ばかりでした。
それは、この学校においても同じ。
いかにAクラスと囃し立てられていても、所詮は凡人の中で多少優れている程度。4クラスという限られた物差しでしか評価が出来ない仕組みであるため、私も彼らと同じクラスに在籍しているだけです。
真澄さんも、橋本くんも、鬼頭くんも、山村さんも。
私が身体的に不自由をしているために側に置いているだけで、他人とほぼ変わらない存在だと認識しています。
私よりも遥かに劣り、同じ目線で物事を見られない人が、私と友達であることはあり得ません。
恐らく、私は今後も友達を作ることは無いでしょう。どこまで行っても、一番の天才はこの私一人。
孤高な存在である私に、友達など不要です。
突然だが、オレには友達がいない。
いや、コミュ力が無いからだとか、積極性が無いからだとか、そんな理由じゃないぞ、多分。
……………そうだよな?
オレは幼少の頃から、自分と共に育ってきた人間たちに親近感を覚えたことがない。
ホワイトルームでは様々な子供たちが集められ、同じ空間にて教育を施される。
当然、同い年の子供であるし、同じ空間で寝食を共にするのだから、普通はお互いに何らかの感情を抱くはずだ。
例えば、4期生で最後の4人まで残ったが脱落することになった「
オレはあの時の光景を思い浮かべる。水泳のカリキュラムをこなしていた。
水泳の時間には、競泳の他にも自由時間が与えられる。プールの中で自由に泳いでも、同期生と会話をしても良い。
その時、雪はオレに話しかけてきた。話題は水泳についてだったため、建設的な会話だ。オレは雪に泳ぎ方についていくつかの助言をしたことを覚えている。
だが、その後も雪はオレのもとを去らずに、ただ見つめてきた。
その時、このような会話をした。
『……まだ何か用?』
『用が無いと話しかけたら変?』
『変。普通は用件があるから話しかけるものだよ』
『相変わらずだね』
この時は分からなかったが、今にして思えば、雪はオレと雑談がしたかったのだろう。
特に建設的でもなく、目的も無い会話。合理性には欠けるが、人間関係を構築する上では重要な役割を担う。
同期生とはいえ、彼らを仲間だとは認識していなかったオレは、特に深い関係を築く必要も無いと思っていたので、この雪の心理は不思議に思えた。雪の方はオレを「仲間」だと認識し、もしかしたら「友達」だと思っていたのかもしれない。
あの4期生でオレに次ぐ成績を示した
つまり、オレはあの時から「仲間」や「友達」を作る意識が希薄だったのだ。
そして、それは今も変わらない。
堀北も、龍園も、一之瀬も、坂柳も。
元綾小路グループの面々でさえ。
オレの知人ではあるが、友達ではない。
他の誰かと足並みを揃えるために「友達」と言うことはあっても、本当に、一般的に思われるような「友達」として見なせるかは甚だ疑問である。
…………だから、オレがこうして冬休みであるというのに友達も連れずに一人で出歩くのは、決しておかしな話ではないのだ。
そう、だよな。
残念なことに、恵はインフルエンザにかかってしまい、寮の部屋から出られないでいる。
既に12月26日となっており、クリスマスも終わった。本来であれば恵とデートの予定であったが、インフルエンザのせいでオレは俗に言う「クリぼっち」という状態で聖夜を過ごした。
ああ、これが「孤高」か……………いや、ただの「孤独」だな。自分を慰めようとしても虚しくなるだけなので止めておく。
オレはケヤキモールに入り、年末に向けての買い物をしていた。年末セールというもので、いつもよりも日用品や食品の価格が下げられている。
プライベートポイントはあるだけ得なので、こういった節約の機会は素直に嬉しい。だからといって買い過ぎると元も子もないので、必要最低限の買い物にとどめておこう。
すると、スーパーの中で思わぬ人物と出会うことになる。
「あら?」
あちらもオレの存在に気付いたのか、微笑を浮かべていた。
「こんな所で奇遇だな、坂柳」
オレの目の前にいたのは、2年Aクラスの坂柳有栖であった。
「綾小路くんもお買い物ですか?」
「ああ。特売セールというものに釣られて来た」
「フフフ………あなたも意外と俗物ですね」
「そう思われるのならむしろ歓迎したい」
俗世間を学びたくてこの学校に入学した訳だしな。オレもその辺の感覚が板についてきたようだ。
「ところで坂柳、お前はクリスマスは何人で過ごした」
「クリスマス………?」
坂柳はきょとんと首を傾けた。まるで幼児がそうしているようで、どこか可愛げがある動作だ。
「それは24日のことですか? それとも、25日のことですか?」
そういえば、この国ではクリスマスイブもクリスマスもどちらも一緒くたにされていたな。
「どちらでも良い」
「そうですね……特に誰かと会うこともなく、一人で過ごしましたが………」
オレは胸の内で何かが湧き立つのを感じた。
つまり、坂柳も「クリぼっち」だったという訳だ。………もしや、これが「仲間意識」か?
「お前も『クリぼっち』だったようだな」
「…………………………………は?」
坂柳が、真顔でぽかんと口を開いた。
「世間では、クリスマスに誰かと過ごすでもなく、一人で寂しく過ごした者のことを『クリぼっち』というらしい。つまり、オレもお前も『クリぼっち仲間』だったという訳だ」
「……………意味が分かりませんね」
坂柳は、やはり真顔だった。
「見た所、お前には特に恋人や友達がいるようには見えない。普段は教室でお前の指示に従うクラスメイトたちも、ひとたびプライベートとなればお前との関わりを持つ必要が無くなる。つまりお前は『ぼっち』で、クリスマスに共に過ごしてくれる人がいない」
やけに饒舌になっている自分がいる。
オレもまた「ぼっち」のような人間だ。最近では堀北や須藤、洋介など、友好的な会話が出来るクラスメイトも増えているが、それでもいわゆる「陽キャ」と比較すると、どうしても交友関係が広いとは言えなくなる。
その事実を肯定したくて、こうして饒舌になっているのか。これはこれで面白い心境の変化かもしれない。
だが、これは坂柳にとっては煽られているも同然。彼女の表情が、少しずつ怒りの色をたたえていく。
「………聞き捨てなりませんね、綾小路くん。私が一人で過ごすことに不満を抱いているとでも?」
「抱いていないのか」
「いませんよ。抱く必要がどこにあるのですか?」
今度は、坂柳の番のようだ。
「私は幼少期から、友達を作ってきませんでした。周りの知的レベルは低く、とても私と対話が出来るとは思えない。そのような方々に脳のリソースを割くのは、とても愚かな行為です」
「それは単にお前が周囲に溶け込めなかっただけではないのか?」
「断じて違います。私が関係を構築する価値を見出だせない程度の集団だったというだけです」
随分と強い言葉を使うんだな。さっき饒舌になったオレと同様、お前もぼっちである自分を弁護したいだけのようにしか見えないぞ。
「だがそれは昔の話だろう。今は、曲がりなりにも同じレベルの高校に通っているクラスメイトたちに、何も親近感を抱いていないのか?」
「くどいですね。私は友達を持つ気がありません。天才である私と同じ目線で物事を見られない相手と、どうして友好的に接する必要があるのですか?」
同じ目線………か。
それを言うなら、お前もオレとは友達になれなくなるぞ。
オレとお前は、同じ目線で物事を見てはいない。
坂柳の知的レベルは確かに、同世代の高校生たちよりも遥かに上だろう。大人たちと比べても、上位に位置するのは間違いない。
だが、それは30か5かを競っているようなもの。オレが100であれば、どちらも等しく同じ目線の存在ではない。
そして、更に致命的なのは、肉体的な強さだ。
坂柳は先天性の疾患を持っていることもあって、肉体的にはまるで貧弱だ。それこそ、運動音痴の退学した佐倉愛里よりも、遥かに劣る運動能力。杖が無ければ歩けないほどに、身体は弱い。
それは仕方の無いことだ。先天性なのだから、坂柳にはどうすることも出来ないし、それを責めるつもりは無い。
だが、「同じ目線」と言うのなら、運動能力においてもオレと等しくなければならない。ホワイトルームで学び続けたオレと同等以上の運動能力を備えた生徒は、この学年ではクラスメイトの高円寺六助だけだろう。
仮に肉体的に何かが求められる際に自分は何も出来ません、では対等な存在とは見なし難い。それこそ、災害時に逃げる場合は、坂柳のような人間は足手まといになる。あちらからは何も助けが期待出来ないんだからな。むしろこちらが助けなければ坂柳は命の危険に晒される。
オレの見えている物が、坂柳には見えない。これが目線の違いではなく何なのか。
オレを意識することも多い坂柳だが、そこを理解しているのだろうか。
いささか、他人を軽く見すぎているように思える。過去の偉人を見ても、その偉人が自分の得意とする分野において同等の力量を持つ人物でなければ友達を持たなかったかと言われると、それは違う。
あのアルベルト・アインシュタインでさえも、マルセル・グロスマンという友人を持っていた。2人は学問探究以外に、趣味や日常においても時間を共に過ごしたという。知能においては、アインシュタインが勝っていたはずだ。だが、彼らは永遠の友として生涯を生きた。グロスマンがいなければ、アインシュタインは大成したかも分からない。
いくら天才を自負していても、坂柳がアインシュタインよりも知能が高いかと問われると、それは違う。オレは既に坂柳の分析を終えているが、残念ながら生涯をかけてもそこまでには至らない。
坂柳には少々傲慢な所があるようだ。目線が違うとも、見えている物が違うとも、友達になれない訳じゃない。むしろ違う目線で物事を見るからこそ、お互いに見えないものを話し合えるのではないか。友達とは、もっとフランクに考えて良いもののはずだ。
………………と、友達のいないオレが言った所で、何の説得力も無いか。これを口にすれば、ではあなたはどうなのですかと返されて終わりだろう。
「………それよりも」
坂柳が、話題を変えてきた。
「この後、予定はありますか?」
「特には入っていない」
「そうですか………なら」
もう不機嫌な顔はせずに、また最初のような妖しげな微笑みを浮かべながらオレを見る。
「少し、私と歩きませんか?」
「どうしたんだ、急に」
「いえ……」
坂柳は、ほんの少しだけオレから目をそらす。
「………ちょっとした、暇潰しです」
僅かに頬が赤くなっていた。
熱でもあるのだろうか。もし、恵のようにインフルエンザだと言うのなら、早めに病院に行った方が良い。
だが、他に発熱に見られるような症状は確認出来なかったので、この場では指摘しないでおく。
オレは買い物カゴに入れてあった商品の会計を済ますと、坂柳と夜の敷地を歩くことにした。
これで、オレはぼっちじゃないな。坂柳もぼっちを回避出来て、ウィンウィンだ。
ケヤキモールを出ると、オレたちは寒気に襲われる。
真冬の夜だ。寒くないという方がおかしい。オレも坂柳も防寒をしっかりとしていたのでまだ耐えられてはいるが、この気温で長時間外にい過ぎると風邪を引いてしまう恐れもあるだろう。
「今日は一段と冷えますね……」
寒さを覚えていたのは坂柳も同じだったようだ。
「そうだな」
短く返すと、何かが空から降ってきた。
これは………。
「雪が降ってきましたね」
冬にしか見られない天候、雪だ。
まさか、降ってくるとはな。予報では何も降らないとのことだったが、意外と当てにならないものだ。
「そういえば、雪の歌があったよな。『雪やこんこ』ってやつが」
「ええ。童謡ですね。そのまま『雪』という題名です」
ホワイトルームでは、当然そのような童謡を大人たちに歌ってもらう機会など無かったので、オレはあまり詳しくない。
それにしても、「雪」か。奇しくもあの少女と同じ名だ。
彼女は今、何をしているのだろうか。まだオレのことを「友達」だと思っているのだろうか。
「坂柳、試しに歌ってみてくれないか。オレは歌に造詣が深い訳ではないから、よく知らないんだ」
「……………………………」
歌の内容が気になったオレは、坂柳に歌ってもらおうと思っていたが、彼女は一向に口を開かない。
「………嫌です」
少し待たされたのだが、結局拒否される。
「歌詞を知らないのか」
「そういう訳ではありません」
「ならば、何故なんだ」
「………………今更、歌える訳がないでしょう。そのような子供っぽい歌を」
子供っぽい………。
外見的には、お前はかなり子供っぽいけどな、などと言った暁には、オレはその杖で額を突かれかねない。
だが、坂柳が歌う姿には興味がある。一体、どのような歌声なのか。オレの知的好奇心は強く脈動し始めていた。
「下手なのか」
「………………………………は」
坂柳は、平坦な声で短くそう返してきた。
「音痴だから、オレの前で歌うのが恥ずかしいのか」
ここは、坂柳のプライドを逆撫でにして歌わせる方針を採用してみる。
「………何を言っているのですか。今日のあなたは、どこかおかしいですよ……?」
「そうか? オレは純粋な疑問を口にしているだけだ。天才を自負するのであれば、音楽の面においても資質を示してくれないと納得出来ない」
「いやですから、私の才能はそのようなものではなくてですね」
結構食いついてくるな。この攻め方は正解だったようだ。
「なるほど。お前も偽りの天才だったという訳か」
「………………………………」
坂柳に目を向ける。結構ムッとした顔を浮かべているな。
「………今日はそのようなお話がしたくてお連れしたのではありません」
「ん?」
その言い方だと、何か目的があってオレと歩いていることになるな。
「ちょっとした暇潰しじゃないのか」
「……………………………」
坂柳は立ち止まり、オレとの距離が少し離れた。
オレもそれを受けて立ち止まり、坂柳が動くのを待つ。
「……………………そのままの距離で、聞いていただけますか」
坂柳がマフラーで口もとを隠し、少しだけオレから目をそらした。
一体何を始める気なのか。
そのまま少しの間沈黙が続く。まさか歌い出すのか、と思ったがそうは見えないので、ともかくこのまま沈黙を続けよう。
「…………私は、あなたのことを倒すべき相手だと考えています。作られた天才であるあなたを、生まれながらの天才である私が打ち負かす。それが私の使命だと考えてきました」
それが坂柳が常々言っていることだったな。
「ですが………倒すべき認識とは別の認識が、私の中に芽生えていました」
別の認識。
ああ、そうか。
何となく、分かってきたような気がする。
「私は………あなたを…………」
坂柳が次の言葉を口にする前に、大きな女性の悲鳴がオレの耳に届いた。
この声色、只事じゃないな。一体何があったのか。
オレは坂柳の言葉の続きを待たずして、駆け出していた。
「あっ…………」
後ろから坂柳の声が聞こえたが、これはどうやら緊急事態のようだからな。続きはまた今度にしてもらおう。
オレが向かった先には、ちょっとした人だかりのようなものが出来ていた。
「来るなぁぁっ!!!」
男の叫び声が聞こえる。
「誰も来るなぁ………俺はこいつと一緒に死ぬんだぁ………FXで財産全部溶かしちまった俺には、もう生きる道は無いんだぁ!!」
FX………外国為替証拠金取引か。
財産を溶かした、ということは相当な金額を失ったようだな。
中年の男は、ナイフを高く掲げている。そして、もう片方の腕で誰かの首を押さえつけていた。
あれは………女子生徒か。
しかも、見覚えがあるぞ。
あの生徒は2年Aクラスの神室真澄だ。苦しそうな表情を浮かべており、事態が急を要していることが読み取れる。
「来るなよぉ!! 誰も来るなぁ!!」
先ほど、『こいつと一緒に』と口にしていたが、無理心中でも果たす気なのか。
まさか高育の内部でこのような事件に出くわすとはな。
周囲で男と神室を見ている人間たちは、身動きが出来ずにいた。当然と言えば当然のことだ。
「綾小路くん……………!」
後ろから、坂柳が何とかオレに追いついてきたようで、現場の様子に目を向けた。
「…………………っ!? 真澄さん…………!?」
同じクラスの坂柳には、すぐに分かったようだ。
だが、オレは内心で意外に思っていた。坂柳の表情が、取り乱している者のそれと一致していたのだ。
確かに、クラスメイトが事件に巻き込まれているのだから動揺の一つはしてもおかしくないが、あの坂柳がこうも焦った表情をするものなのか。
「どうして真澄さんが………!?」
「分からない。が、あの男はどうやらFXで有り金を失い、自暴自棄になっているようだ」
そうこうしていると、野次馬たちがわっと声をあげた。男が、神室の首筋にナイフを向けたのだ。
「…………っ!?」
坂柳の焦りが、より色濃くなる。
こんな坂柳を見るのは、初めてだな。
「クソみたいな人生だったよ……でも最期に、可愛い女の子と死ねるなら少しはマシかもなぁ………」
明らかに正気ではない。このままだと神室が殺されるのも時間の問題だな。後1分も生きていられないかもしれない。
警官隊を待っている余裕は残されていない。
「あ、綾小路くん……!」
坂柳は、オレに顔を向けてきた。冷や汗をかいた、何かを懇願するような面持ちで。
「真澄さんを、真澄さんを助けてください………!」
「ん………」
「お願いします………!真澄さんを………!このままでは、死んでしまいます……!」
坂柳は、オレがホワイトルーム出身者であることを知っている。つまり、オレが並の人間よりも武道の心得があることは知っているのだ。
それを用いて、神室を救出して欲しいということか。
だが、そこまで焦るものか。坂柳にとっては、一介のクラスメイトに過ぎ………いや。
違うな。
神室は、坂柳にとってはただのクラスメイトではない。
恐らく、その関係は───────────。
オレは荷物を置いて、野次馬をかぎ分けて男の前に出た。
「な、何なんだお前はぁ!?」
男は、神室に突きつけていたナイフを、オレへと向けた。
恐らく、この男の強さは大したものではない。凶器を持ってはいるが、戦闘用に使うための訓練は受けていない。ただ、神室を殺して自分も死ぬためのものだろう。
「あ、綾小路くんっ!?」
野次馬から声が聞こえてきた。オレのクラスの篠原さつきの声だろう。
「あ、綾小路!?」
そして、その隣には恋人の池もいるようだ。
だが、誰に見られていようと関係は無い。男を制圧し、神室を救出する。ただ、それだけだ。
「な、来るなぁ!!」
「あ、あやの……こうじ…………」
神室も細々とした声でオレを呼ぶ。
距離は7メートルといった所か。この程度の距離ならば、造作もない。
「ああぁぁ!!!」
男は大声をあげ、ナイフをぶんぶんと振り回し始めた。
オレはそこで、ありったけの殺気を男に向ける。
「ひっ………!?」
男は怯んだようだ。
殺気を込めた瞬間にオレは前へと駆け出していて、瞬く間にその距離を詰める。
そして、既に男の懐に潜り込んでいた。
「あぁっ!?」
オレは男のナイフを持つ腕を掴み、無力化に成功した。これで、神室は助かっただろう。
オレは野次馬の最前列にてオレの動きを見ていた坂柳に目を向けた。
安堵。
その色が、とても強く表れている。
坂柳があんな表情をするとは、予想していなかったほどだ。
やはり、神室は坂柳にとっては特別な存在。言うなれば………友人ということになるだろう。
友人…………。
そこで、何か引っ掛かりを覚える。
頭の中がチリチリとした熱を帯び始める。坂柳、友人、神室。
これらが導き出す、その先の未来。
坂柳は、神室が助かっても、先ほどまでの焦りはどこ吹く風、神室を友とは認めないだろう。
あくまでも、自分は孤高だと。それ故に、やはり友はいないのだと。
今回の一件はいずれ彼女にそれが間違いだと気付かせるのだろうが、オレはそれが見たいんじゃない。
坂柳有栖という人間が、今までの自己の殻を破り、以前の自分を遥かに超える成長を遂げるための一手。
龍園が一度、己のプライドを破壊され、後に這い上がって来たような、新たな段階の可能性。
それを、この一瞬で閃いた。幸いそれ実現させる道具は、この場に
道具は有効に使わないと、な。
「っ!! うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
男は再び狂気じみた声をあげると、オレの手を振り解こうと凄まじい力を込めた。
そこでオレは─────────。
「っお」
男の力によって、振り解かれることにした。
「!?!?!?」
その瞬間──────坂柳は、目を大きく見開いていた。「ありえない」「どうして」「嘘」。そんな絶望の色をたたえていた。
気付きはしないか。
無理もない。お前は肉体的には全くの素人。凡人にも遥かに劣る。武道の心得も何もあった訳じゃない。先ほどのオレの動きだって、技術的な分析をすることは不可能だろう。
ただ、綾小路くんが男を取り押さえた。そうとしか見えていない。
やはり、お前はオレと同じ目線で物事を見てはいない。
オレに見えるものが、お前には見えない。
そして、それは野次馬たちも同じだ。オレが単に男の火事場の馬鹿力に振り解かれてしまったとしか思わないだろう。
それは誤りだ。この程度の力を押さえつけるのは簡単なことだ。
だが、オレはそれをしない。
オレの目的は────────────。
「死ねぇぇぇぇっ!!!」
男は発狂と共にナイフを神室に向け。
「っあ……………」
そして、首筋に突き立てた。恐らく、頸動脈が切断されたのか、大量の鮮血が宙を舞う。
「!?!?」
坂柳は…………何が起きたのか、理解出来ていないな。
そしてその直後、男も自らの首をナイフで切り裂き、倒れていった。
大量の血溜まりが地面に広がる。
「あ…………え…………………?」
オレは坂柳に目を向けた。口は半開き、瞳は震えていて、恐る恐る地に倒れた神室に視線を移していた。
オレの目論見は成功した。
別に神室に恨みがある訳でもないし、死ぬべき悪人であるとも思わない。
だが、死んでくれた方がオレにとって好都合なだけ。
オレは、たまたま手近にあった神室という道具を有効活用しているに過ぎない。
そして、この事件が効力を発揮するのは──────。
次は誰の前で撃たれて欲しい?
-
天沢一夏
-
軽井沢恵
-
龍園翔
-
長谷部波瑠加
-
その他