Selector Unlimited WIXOSS 作:-Y-
「それでは、今月の"身体"をご報告します」
薄暗く静かな広い部屋の中。巨大なモニターの光が唯一の光源となった一室で、スーツを着た男が言った。
「ええ、どうぞ」
回転椅子に足を乗せ、モニターを見上げていた少女は男に振り返り言った。
少女は十四、五才程の見た目、顔つきからはふわふわお嬢様のような印象を感じさせてはいるのだが、態度はまるでその逆。
どこか高慢さを感じさせる小さな仕草、不敵に笑う怪しげな笑み、それらはその少女に"似合っていない"かのように不自然だった。
「今月の"身体"は二名。どちらも重要度は低いですが、いかが致しましょう?」
スーツの男は、相手が少女だというのにその態度に意見を言うわけでもない、丁寧な口調で話し続ける。
「そうですか、まあ一応目を通しておきましょうか。……準備を」
「はっ」
少女がひらひらと手を振ると、スーツの男はモニターに近づき電子端末を操作すると画面がフッと切り替わる。
画面に映し出されたのは二人の少女の写真。
どちらも証明写真のような胸から上を正面から映したもので、その隣には名前を始めとした個人情報が表示されていた。
少女は一人の少女に視線をやった。
数秒ほど眺めた後、詰まらなさそうにため息をつく。
「はぁ……まあ、いつも通りね」
少女は椅子にもたれ、足をどかっと机の上に乗せた。
そのような態度を取っても、スーツの男は微動だにしない。
「……うん?」
もう一人の少女の写真、そして個人情報へと視線をやった少女は親指の爪を噛みながら眉を寄せる。
「なるみ、ゆり。……"ナルミ"?」
「どうかしましたか?」
スーツの男の言葉に少女は「……なんでもない」と答えた。
「……いいわ。今月もご苦労様。来月もお願いね」
「は、お嬢様の願いのままに」
スーツの男は一礼すると、部屋を退出していった。
薄暗い部屋に一人残された少女は回転椅子に足を畳んで座り、くるくると回る。
「……そう、お姉ちゃんだったのね。"咲(さく)"」
少女はぴたりと椅子を止め、モニターに表示された一人の少女の個人情報を読み取って、にやりと笑った。
「ふふふ……。さあ、復讐を始めましょうか――」
少女の悪魔的な微笑みを見たものは、誰もいない。
机に置かれた、一枚のカード以外は。
***
「……由利(ゆり)がいない」
日付も変わろうかという時刻。マンションの一室、静かなリビングで私は呟いた。
妹の由利が連絡もなく、こんな時間まで帰ってこないなんて。
「探しに行かないのか」
私ではない"声"が私に話しかける。
探そうにも、手がかりがあるわけではない。初めての出来事に私はただ呆然と部屋に立ち尽くしていた。
その時だった。
家の呼び鈴が鳴った。こんな時間に、一体誰が?
「……そうか、今日は"月の変わり目"。おい、咲(さく)」
"声"は何かに気づいたように、私に語りかける。
そうだ、"声"の言葉で私は理解した。
由利は"誘拐された"のだと。
最近巷で語られる都市伝説の一つだ。
月の変わり目、零時――すなわち今。"少女"を誘拐した報告にやって来る"少女"がいるという噂。
ただの噂ではないことを私は知っている。それが"リミテッド"という集団の仕業で、何故少女を誘拐するのかも。
今この時間に呼び鈴が鳴ったということは、つまりは――。
思考している途中、もう一度呼び鈴が鳴る。奴らが相手ならば、そうだ。私は相応の出迎えをしなくてはならない。
私は"とあるカード"を手に、玄関へ向かい扉を開けた。
「どちら様ですか」
「はーいっ、こーんばんはー♪ お宅の由利ちゃんについてお話にきましたーっ」
客人はやはり私と同い年程度の少女。言動からして、やはりこいつは……。
「"リミテッド"が……私の妹をどこへやった!」
私は少女の胸倉を掴み、睨みながら言った。
「は? 嘘、なんで"私ら"のこと知ってんの? ……あ、まさかあんたが噂に聞く"アンリミテッド"とか言う連中? 私らの邪魔してるっていう」
私の手を払いのけながら、少女は気に入らなさそうに私を見て言った。
「なーんだ、そうだったの。通りで持ちかけた"バトル"の話がさっさと進んだと思ったわ。あの子もアンリミテッドだったのね」
「妹はどうしたのって聞いてるの」
「負けたんだよ。わざわざ私らのとこに乗り込んで来てさぁ。どんな"願い"があったんだろうねぇ。ま、バトルに負けて今は地下室行きだけど」
少女はまるで日常の出来事かのように、軽い口調で言った。
「……妹を返せ」
「私に言われても困るなぁ。ちゃあんと"手順"を踏んでもらわないと。あんまり雑魚だと連れて行った私が怒られちゃうしね」
「だったら今ここであんたを倒す」
少女の飄々とした態度にいい加減いらいらしていた私は吐き捨てるように言った。
「はぁ? 態度でかくてむかつくんですけどぉ。私これでもリーダー直々に目をかけてもらってるのよ。そこんとこ、わかるぅ?」
少女も私の態度にいらついたのか、煽るように返す。
「いいからバトル。それとも何、私がアンリミテッドだと知ってびくびくしているの?」
「こいつ……! うぜー。いいよ、叩き潰してやりゃいいんでしょうがっ!」
上手く乗ってきた相手に内心ほくそ笑みながら、私は手に持ったカードを掲げる。
「――オープン」
私が呟くと、意識がふっと眠りに落ちるかのように消えていった――。