Selector Unlimited WIXOSS   作:-Y-

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11.選択者の推理

 そしてさらにターンが経過。

 ゲームは淡々と進められ、咲のライフクロスは残り1。千里はまだ3枚のライフが残されていた。

 ルールの理解不足か、または戦略の内なのか。序盤アタックしないことで相手にグロウさせないことに成功した咲だったが、やはりダメージレースでは負けていた。

 

 そして、バトルは終盤。千里のターンへと移る。

 

「(良いカードが入った……。でも、勝負に出るのはまだ。完全に"詰み"となるまでは)」

 

 現在グリムのレベルは4。由利の洞察力が正しければ、更なるグロウを可能としているはずである。

 にやりと笑う千里だったが、まだ勝負には出ない。エナを温存したいのか、無理にカードをプレイせずに手持ちからシグニを展開していく。それらは低~中級ほどの壁シグニ。

 ただ、その中には一際異彩を放つレベル4シグニ、サクラのカードがあった。

 

 サクラはある状況下で大量のエナチャージを可能とするシグニ。大量に並べてこそ意味があるので、恐らくデッキに大量投入されている中の一枚だろうと由利は考えた。

 そしてこのシグニの登場で千里のゲームエンドカードはおのずと分かってしまうこととなる。

 ウィクロスの中で最も消費エナの高い、最上級カロリーのアーツ――ビッグバン。千里のデッキに十中八九投入されているはずである。

 ビッグバンはその求められるコストの高さゆえ、入念な前準備が必要だった。ろくにエナも手札もない千里はまだこのアーツを打てない。

 

 案の定、千里はこのターン咲に対してアタックを仕掛ける気はなかった。

 非常に薄味な、場を動かさないプレイングを行う。

 

「バアルの能力を発動。デッキトップをめくり、それが悪魔のシグニなら手札に加える――残念、種族は精元……サーバントのカードよ」

 

 開帳されたカードはサーバント。種族が悪魔ではないので手札に加えることはできない。

 

「まあいいわ。ならば――そうね、ターンエンドするわ」

 

 あろうことか、千里はアタックをスキップする。シグニのみならずルリグの攻撃までどうして――?

 遠くからゲームを観戦する由利は思考する。

 

「(普通、ルリグアタックまでもしない……ということは、それなりの考えがあってのこと。例えば、お姉ちゃんのように相手にエナを与えずルリグのグロウをスキップさせるため……とか)」

 

 しかし、咲のルリグ――裂雷は"巫女"タイプ。現在はレベル4の紅蓮の巫女裂雷の状態である。

 確かに巫女状態からレベル5へのグロウは存在する。しかし巫女をレベル5にグロウすることはある条件のみ満たせば可能であり、グロウに必要なエナ支払いがない。

 グロウスキップが狙いということは考えにくい。

 

 ならば――と。由利はその他の可能性を模索する。

 

 余計なライフバーストを踏みたくない、グロウスキップが目当てではないが、エナを与えたくない。

 その辺りが打倒だろうか。だがこの局面でアタック一回に引き換えてでも――という理由としてはまだ小さい気がした。

 

「(――そうか)」

 

 と、そこで由利は気づく。"デッキリフレッシュ"が千里の狙いなのだと。

 咲が序盤アタックしないことでバトルは長期化し、お互い残りデッキはかなり少ない。このままゲームを続ければデッキが無くなり、ライフと引き換えにデッキを復活させなければならない。

 ただでさえ黒のデッキ――閻魔タイプのルリグはお互いのデッキを大量にトラッシュに置くことを得意としている。

 リフレッシュの為に削られるライフはエナにならないばかりか、ライフバーストすら発動しない。

 このターンでまだ決着がつかないのなら、相手に余計なエナを与えずに次のターンに備える。そしておそらく手札にあるであろうメツムの出現効果で簡単にデッキリフレッシュを起こして安全にライフを処理できる。

 恐らくこれが狙いのはずだ――由利はそう考えた。

 

「(この次のターンはきっと最終盤面がライフ0からの防衛になる。いくつのラインを空けられるかは分からないけど、相手のライフが3も残っている以上ここはエナとアーツを温存するべき――)」

 

 自分がプレイング中ならばそうする、と、由利は思っていた。

 だが、姉の咲はまるで違うプレイング。頭の中には別のストーリーがあったようだ。

 

 場にはアークゲインが1、そしてサーバントが1。

 咲はエナチャージで空いた盤面を埋めようとする。

 

「紅蓮のエクシード効果発動。デッキからラビエルを配置し出現効果発動。エナとバロックディフェンスを支払いバアルをバウンス。更に紅蓮の起動能力でアームを二枚手札からトラッシュに送りサクラをバウンス」

 

 これで2ライン空けたことになる。ルリグアタックも通ったとしても3ダメージ。ライフが三枚削れるだけでトドメには至らない。

 

「アタックに入る」

 

「通すわ」

 

 千里からアーツの発動はないようだった。

 アークゲイン、ラビエルの攻撃が通り千里の残りライフは1。

 

「ターンエンド」

 

 そして何を思ったのか。なんと千里から続き、咲までもルリグアタックをスキップする。

 この盤面とプレイングでは駄目だ――。由利は思った。

 

 トドメを刺しきれないことは分かりきっていた。ここは動かずに次の防御に備えるべきだった。

 ラビエルで捨てるアーツにしてもそうだ。守りの要、バロックディフェンスを捨ててしまっては次のターン生き残ることは難しい。

 そして盤面にはあらゆる効果耐性に強いアークゲインがいるが、盤面が全て天使属性で埋まっていないことも問題である。

 由利の考えでは恐らく相手は"アークゲインであろうとバニッシュ、あるいはトラッシュ送り"にしてくるだろう。だが生き残る可能性を少しでも上げるならば、やはり盤面を全て天使にすべきだろう。

 

 また、今回咲がルリグアタックをスキップした事に関しては、まるで意図がつかめなかった。

 エナを使ってまで2ライン空けておきながら、ルリグアタックはしない。攻めるなら攻める、守るなら守る――そのメリハリがどうも咲にはないように、由利の目には映っていた。

 

「ふふ、そういうこと……。なら……私のターン、ドロー」

 

 千里は何故か不敵に笑みを浮かべ、カードを引いた。

 

「ようやく来た、この時が。グロウ、虚無の閻魔グリム」

 

「(やっぱり来た。レベル5のルリグ――!)」

 

 由利の読みどおり、千里のデッキにはレベル5のルリグが投入されていた。

 このレベル5の登場にも、やはり咲は表情を崩さない。

 

「さっそく虚無のエクシード効果発動させてもらうわ」

 

 虚無の閻魔。そのエクシードとは、今までグロウしてきた自身の痕跡を抹消することで起こす奇跡。

 手札からカードを一枚選択し、そのカードの色が対戦相手に当てられなければ相手シグニを全てトラッシュに送ることが出来る。たとえそれが強固な耐性を持つアークゲインであれども。

 由利がさきほど思い描いていた、アークゲインであれど場を空けてくるとはつまりそういうこと。

 

 色には白、黒、赤、青、緑の5色が存在する。無色という選択肢を含めば色を当てる側が選ぶのは6択の内一つ。

 単純に見れば確率は1/6。だが手札を選ぶのは虚無を持つセレクター。盤面、デッキ構成、プレイヤーの性格――それらの要素によってこの効果は単なる1/6という確率によって決まりはしない。

 

「私が選ぶのは――このカード」

 

 そう言うと千里は一枚のカードを裏返しのまま、セットする。

 

「さあ、私の選んだ色を……当てて?」

 

「(この場合出そうな色……と言えば)」

 

 観戦しながら由利は考える。今もっとも千里の手札にありそうなもの。そして、人間の心理的に千里が出したい色のカードを。

 相手が初心者の咲であればこそ、その心理を読んだ色にしてくる可能性もあることから、色々な説が頭に思い浮かぶ。

 

 例えば、まだゲームに不慣れな初心者が選ぶ色。

 恐らくは黒か緑……または無色だろうと由利は思った。

 初心者ならこの効果を単純な1/6と判断する。そうすると選びたくなってくるのは、"相手が確実に持っている色"だ。

 

 さっきの咲のターンで黒のカード、バアルと緑のカード、サクラをバウンスしている。千里はこの二枚を必ず保有しているということだ。

 逆にこれらのカードは手札にあることがばれている虚無側からすれば、このカードは選びたくない。

 まあ、かといって他の色のカードを持っているかはその時々によるが。とにかく、伏せられた黒か緑である可能性は0%ではない。

 

 もう少し知恵を絞れば、選択する側に更なる情報がある。それは無色のカードのこと。

 

 さらにもう1ターン前。千里はバアルの効果でデッキトップを確認している。それは無色のカード、サーバントだった。

 その後一度もデッキがシャッフルされていないということは、先ほどのドローでそのサーバントが手札に入ったということだ。

 虚無側がバウンスされたカードを読まれているという考えで黒と緑を省いたカードで選ぶ選択肢には、十分ありえるカード。

 ただし、自身でそのことを覚えており、警戒をしているのならばその無色のカードすら選ばれないだろう。白、赤、青といった手札にあるか不確定である色の方が、選択する側からすれば選びたくないカードだからだ。

 

 そう、このエクシード効果は一見すると"相手の手札に何色のカードがあるかを考え、その中から色を選ぶ"のではない。

 選択する側からすれば、それがもっとも合理的。相手の手札にない色を宣言してしまいそもそも確率の問題ですらなかった――そんな状況には確かに陥りたくはない。

 

 だが、虚無側からすればどうだろうか。当然、バレている色は推理されるので選びたくはない。

 むしろ、選択する側が選びたくないカードを選ぶのが、虚無側の合理性。

 相手からすれば手札にあるかどうかもわからない色を選ぶのが、人間の心理。

 

「(……と、すれば相手のセレクターは白か赤か青を選びたいはず……)」

 

 由利は盤面に目を通す。

 エナゾーンには白、黒、緑の色が見えている。更にシグニゾーンにも白が1。トラッシュに白2、赤1、青は存在していない。

 

「(閻魔のデッキにしてはやけに白が落ちてる……)」

 

 閻魔とは、そもそも黒色のルリグ。レベル5の虚無にグロウするためには異なる色のエナを溜める必要があるので、多少他の色が混ざった構築は珍しくない。一つの色につき2~3枚入れれば良い方だ。

 だが盤面の公開情報の中には先ほどの三色の状態が白3、赤1、青0というもの。恐らく白はデッキから全て吐き出されたはず。もう手札に入っていることはないだろう。

 赤と青については考えるべき点がある。

 トラッシュにある赤はスペル、烈情の割裂だった。このカードはお互いエナが4になるようにエナをトラッシュに送らなければならないカード。

 限定条件がついておらず、エナを溜めるプレイングに対抗できるカードなので投入しているセレクターは多い。

 また、このカードは入手源が少し特殊で、手に入る時は大抵2枚セットで手に入るのだ。つまり残り一枚、千里のデッキか手札にある可能性が高いということ。

 

 青に関してはまったくの未知数。今まで一度も青のカードはプレイングされておらず、公開されてもいない。

 この終盤まで出てこなかったということは、一枚も投入されている可能性が考えられる。が、一枚も公開されなかったことを良い事に、虚無側は青を選択するかもしれない。

 

 ここまで考えると、あとは堂々巡りするのみ。

 赤か、青か。由利ならばそのどちらかを宣言することだろう。

 

「(お姉ちゃんはどの色を選ぶんだろう……)」

 

 由利は不安げな表情で、拳をぎゅっと握り姉の宣言を待った。

 

 

 

「私が宣言する色は――」

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