Selector Unlimited WIXOSS   作:-Y-

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12.異次元からの刺客

「(いや、待って――)」

 

 由利が考えた、赤か青という可能性。ある一つの出来事を思い出せば、それらがひっくり返る。

 

「(最初のターンに見えたアークオーラ……まだ一度も場に出ていない!)」

 

 そう、千里が最初のターンのエナチャージの時に見せたアークオーラのカード。

 あれがまだプレイされていなかった。エナにも、トラッシュにさえも。

 

 つまり、アークオーラは確実に手札の中にあるということ。

 

 虚無側が選ぶ合理性が、手札に必ずあるとは限らないと"相手が"思っている色だとすれば。

 それは白、赤、青のいずれか。デッキ40枚に対して既に見えている多くの白。黒ルリグにしては多いともいえるその数。

 色を当てる側からすれば、その色が手札にあるとは考えにくい。つまり"宣言しづらい"のだ。

 当てる側から宣言しづらいと感じる色は、虚無側にとって提示したい色。

 

 赤や青なんかじゃない。あれは白のカードだ――!と由利はこの一瞬で思いつく。

 

「(お願い、気づいてお姉ちゃん――!)」 

 

 由利はぎゅっと目を閉じて、両手のひらを合わせる。

 一瞬の沈黙、そして誰もが咲の言葉を待った。

 

「私が宣言する色は――白」

 

「(やった――!)」

 

 ヤマ勘か、自分と同じ考えに辿り着いたのか。それは分からないが確かに姉は自分の推理通りの色を宣言した。

 十中八九これが当たりのはず――。と由利が思っていた矢先。

 

「――に、しようと思ったけど。やっぱり"無色"にする」

 

「(な、に――?)」

 

 辿り着いた答え。恐らく当たりであろうその色を、咲はみすみすと変えてしまう。

 何故? どうして?

 由利にはわからなかった。無色のカードを千里が選ぶ可能性が少なすぎる。

 今までのプレイから咲が初心者であることはバレている。ということは、千里は"初心者が考え付く色"を選ぶことはない。

 初心者が推理できる範疇にある色はバアルでめくれていた無色と、バウンスした黒と緑。やはり、咲は勘で色を選んだのだろうか――?

 

「さあ、開帳しろ。千里」

 

 咲は強気に、そういった。今までと違い、どこかその表情には小さな笑みが見られた。

 笑顔などという和やかなものではなく、にやりと口角を吊り上げる不気味な笑いだった。

 

「私の選んだ色は――」

 

 千里がカードを開帳する。咲を除く誰もが、生唾を飲み込む。

 ふわりとカードが浮き上がり、その絵柄を外へとさらけ出す。そのカードの色とは――。

 

 

 

 

「無色……サーバントのカード!?」

 

 

 

 

 馬鹿な、ありえない――。由利も千里も、この状況を理解できなかった。

 何故千里が無色のカードを選んだのか、それが分からない由利。

 何故咲が無色のカードを宣言できたのか、それが分からない千里。

 

 そして全てを見通しているかのような不気味な視線で開帳されたカードを見つめる咲。

 

 裂雷は心底怯えていた。この鳴海咲というセレクターに。

 何故なら、決して勘などではない異常としか思えない読みで、このカードを見事読み当てたのだ。

 

「何故……あなたがこのカードを……。嘘……当てられるわけが……」

 

 千里は愕然とする。由利からすればなぜ無色を選んだのか、その理由が分からないが、千里はある"思想"のもとこのカードを選んでいた。

 咲が選ぶことなどありえない、その思想があったのだ。

 

「……まず最初のターン」

 

 ぽつりと。咲が口を開く。

 

「アークオーラが見えたことは事故でも偶然でもない――必然。人を嵌めるためにやった、薄汚い戦法、その布石」

 

 そう、最初に見えたアークオーラは咲も覚えていた。そしてそれがいまだプレイされず手札に残っていることも。

 

「いつもそうしてきたんだろ……色当てゲームに勝つために。相手に"白"と宣言させるために。ある程度頭を働かせるセレクター相手なら上手く嵌る戦法……そのはずだった」

 

 由利は愕然としていた。あれだけ考え抜いた推理が、千里に誘導されたことだったのだ。

 淡々と咲が言葉を紡いでいく。誰もがその種明かしに耳を傾けていた。

 

「だが、今回の相手はまったくのド素人……。最後の色当ての時、場の動きを読んで"白"と宣言しなさそうな相手。君はそう思っていた……2ターン前までは」

 

「くっ……」

 

 突きつけられた読みが図星なのか、千里は何も言い返せない。

 

「だが1ターン前に君の考えは変わった。その理由は、私が"ルリグアタック"をしなかったこと」

 

 前の千里のターン。彼女はルリグアタックをしなかった。その理由は更に次のターン……つまり今回のターンで咲のデッキをリフレッシュするから。

 ここまでは由利が考えていることが正解である。と、すれば咲がルリグアタックしなかったことが分からない。しかもそれが千里の判断を変える要因となったのは何故か?

 

「由利、あんたは少し頭が固いみたいね。能動的にデッキリフレッシュされることまで分かっているなら、おのずと答えは出るはずだけれど……?」

 

 咲が由利を見上げていった。どうやら由利が状況を把握できていないことが咲には分かっているようだ。

 

「(デッキリフレッシュされることが分かっているならおのずと――あっ!)」

 

 黒のカードに、相手のデッキだけを一方的に削るカードは存在しない。

 デッキを削る時は、己のデッキも削る時。順当にプレイングを行っていれば、二人は同時にリフレッシュすることになる。

 

 咲は既にそこまで見切っていた。

 千里が咲のデッキをリフレッシュするために使用するであろうメツムやアンシエントサプライズは、千里のデッキそのものも削り取ってしまうことを。

 由利には理由が分からなかったルリグアタックスキップは、千里からすれば最善手。この時点で咲がにわかなセレクターでないことが分かってしまったのだ。

 

「ただの初心者じゃないことが分かった君はいつも通り白と思わせて、白を出さない戦法をとった――」

 

「私が聞きたいのはそうじゃない! 白じゃないなら、何故"無色"が当てられる!? 何の根拠があって!?」

 

 千里が口調を荒げ、言った。

 咲はそんな千里に対しても、冷静に言葉を返す。

 

「策士策に溺れる……言葉通りだな。自分の策に絶対の自信を持つものほど、利己的な合理主義者ほど"無自覚"とか、"癖"とか、理性外の出来事に足をすくわれるんだ」

 

「何を……言って……」

 

「なら一つ質問……というか、推理してあげよう。――君は右利きだろ?」

 

「なに? 自分は予知ができるとでも言いたいわけ? 確かに私は右利きだけど、それを当てたからって凄くもなんともない。右と言えば、8割くらいの確率でそれは当たる」

 

「予知じゃないさ。それに普通のカードゲームなら当てられなかった。セレクターバトルだからこそ色が分かる」

 

「……普通のゲームじゃない、から……?」

 

「敵のルリグアタックに対してリアルタイムでガードを行わなければならないセレクターバトルにおいて、カードをスピーディにプレイするために理札……整理を行うのはよくある話だろ」

 

 千里や由利には、咲の言葉がますます分からない。色を当てられた原因が利き腕や、セレクターバトルのルールそのものに影響を与えるとは一体――?

 

 

「まだ分からないか。君はガード……つまりサーバントのカードを使用しやすいように、"無自覚に"手札の右端に持ってくる癖がある。このゲーム中のガードは全て手札の右端からサーバントが落ちてきていた」

 

 

 

「――なッ……にっ!?」

 

 異次元からの刺客。通常のプレイヤーの思考の及ばない境地からの攻撃。

 ただの素人が、千里という策士がまるで意識したことのない"プレイングの癖"を突いた奇跡的な有効手――!

 

「無論、"そこの"サーバントも手札の右端から落ちてきた。――くくくっ、これからはハンドシャッフルする癖もつけたほうがいいんじゃあないかな」

 

 以上に冴え渡る、咲の勘と読み。

 まさかとは思うが――と、裂雷は"ある可能性"を考えていた――。

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