Selector Unlimited WIXOSS   作:-Y-

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13.策略家は不敵に笑う

「(な、なんなのこいつ――! ほんとに初心者!? いや――、一介のセレクターだってこんな……こんなこと!?)」

 

 千里は恐怖した。この鳴海咲という人物の底の知れぬ人間性。うすら笑いを浮かべる表情の下で何を考えているのか。

 この"冴えすぎた"思考能力は一体――? が、千里は辿り着けない。その答えに。

 

「思考して、思考して思考して思考して……」

 

 ぼつぼつと、咲が呟く。

 

「全て考え抜いたその先。互いの合理性、思考の偏り、癖……。それを意識できないようじゃあ、凡も凡。中の下。こいつはカードゲームでありコミュニケーションゲームだ。……ふふ、勉強になるな。こいつは」

 

 そして不敵に笑う。言葉の意味が、千里には理解し難かった。ただひたすらに咲への恐怖、疑念……得体の知れなさが膨らんでいく。

 まるでどす黒い靄につつまれるような、息苦しさ、気持ちの悪い感覚が千里の身体を巡る。

 胸焼けしたような感覚。心の底まで見透かされたようで、どうも落ち着くことが出来ない。

 

「ふっざけんな! 要は勝ちゃあいいんだ! あんたみたいな、あんたみたいなやつに誰がッ!!」

 

 強がる。その表現がもっとも正しいだろう。もしかしたら自分はとんでもないセレクターを相手にしているのかもしれない。

 だが、弱さは見せられなかった。千里のプライドが、自身を奮い立たせるのだ。

 

「メツムを配置しお互いのデッキから7枚のカードをトラッシュへ! これで私のデッキがリフレッシュされる」

 

 千里はレベル4シグニ、メツムを使用しお互いのデッキを削り始める。

 WIXOSSはデッキが0枚になるとライフを1枚消費し、トラッシュのカードをデッキへ再構成するというルールがある。

 これで千里のライフが0になり、一見すると咲が有利のように思えるが、無論まだ彼女のターンは終わらない。

 

「更にメツムを配置! 今度はあんたにリフレッシュしてもらう!」

 

 千里は更にメツムを使用する。このターンで合計14枚のカードがデッキから消滅したことになる。

 それに加えて積極的なアタックが行われなかった今回のゲーム。咲のデッキもリフレッシュしてしまい、ライフはお互い0となってしまった。

 

「(やっぱり、相手のセレクターはお姉ちゃんのライフをリフレッシュによって破壊する作戦……。デッキ枚数からしてリフレッシュするのは相手が先。だからおねえちゃんは攻撃しなかったんだ……)」

 

 由利は素直に驚いていた。初心者であるはずの姉のプレイングが、後々になって活きてきている。

 まるで吸い込まれるように、"そういう状況に"なっていくのだ。

 

「まだまだ、私はミリアを配置! デッキから10枚のカードをトラッシュに送り、トラッシュから5枚のカードをデッキに戻す!」

 

 千里はミリアを配置。10枚落とし、5枚を回収する。先のメツムとあわせ、千里のトラッシュ領域はリフレッシュが行われたばかりだというのに10枚のカードを超えていた。

 

「(トラッシュを肥やしはじめた――! おそらくあれは防御の前準備。トラッシュが多ければ有利に働くアーツを持っているのか)」

 

 裂雷は瞬時に判断する。環境の相場から考えて、閻魔ルリグに積まれるアーツはおそらく"アンサプ"や"ブラックデザイア"。

 トラッシュを肥やすプレイングがブラフでないならば、そのどちらかないしどちらもがアーツに組み込まれているはずだ、と。

 

「まだまだ……全てのシグニをトラッシュに送り……"サクラ"を三体召還! そしてスペル発動……ファイナルディストラクション!!」

 

「なにっ!?」

 

 ファイナルディストラクション。

 このターンルリグは攻撃できない代わりに、相手のシグニを全てバニッシュする能力を1ターンのみ"ルリグに与える"カード。一見ルリグに能力を与えることに何の影響があるのか分かりづらいカード。

 持続しない能力をわざわざ別のカードに置き換えて発動するのにはワケがあった。それは"先駆の大天使アークゲイン"の存在だった。

 今も咲の場に並ぶそれはパワーこそ凡なものの、鉄壁の耐性を持つカード。自分ばかりか味方の天使までもを"ルリグ以外の効果を無効にする"という凶悪な効果を持つ。

 シグニの効果、スペル、アーツ……それらを無効化できるが、唯一ルリグの能力がアークゲインには効く。

 

 このファイナルディストラクション自体はスペルだが、シグニをバニッシュする効果を操るのはルリグ。つまりこのターンにアークゲインを含めたシグニは全てバニッシュされてしまうのだ。

 それだけではない。千里が先ほど配置したシグニ……"サクラ"はメインフェイズ中にバニッシュが発生した場合その回数分だけエナチャージを行うことができる。

 今回バニッシュされたカードはアークゲイン、ラビエル、サーバントの三枚だが、対するサクラも三枚場に並んでいる。――この場合。

 

「ふふっ……私の場にはサクラが三枚! これら一枚一枚が個々のバニッシュ発生に干渉する――つまり合計9枚のエナチャージ!!」

 

 通常のプレイではまず考えられない莫大なエナチャージ。千里はアークゲインを含む全てのシグニバニッシュを行いながらこれほどのアドバンテージを生み出すことに成功したのだ。 

 咲はライフ0、シグニ0というがら空きの状態。それでも千里は念には念を入れ、確実なプレイングを始める。

 

「更に増えたエナでリストラクチャーを発動! ライフを一枚回復!」

 

「(リストラクチャー!?)」

 

 リストラクチャーはライフを一枚回復できるアーツ。

 少々カロリーの高いアーツだが、先ほど得たエナを使用すれば、多少のコストなど簡単に払うことができる。

 あまり閻魔タイプに積まれないアーツのため、由利は思わず息をのんでしまう。

 

「そして、アーツ……クロスライフクロス! ライフのカード1枚と、手札のカードを1枚とを交換する」

 

「(こんなカードまで入れているなんて……!)」

 

 クロスライフクロスは手札のカードをライフに"仕込む"ことを得意とするマークタイプのルリグが扱えるアーツ。

 しかし今の千里のルリグは"虚無"。万物のスペル、アーツを扱うことができるのだ。

 

「(だからってこんな、一体何を仕掛けて……はっ!? まさか!)」

 

 由利は気づいた。一見ミスマッチしているデッキの内容。だが、この状況において、咲が"詰み"となってしまうプレイングがある。

 それは"千里のライフの中身がアークオーラであること"だ。仕掛けたのはアークオーラでまず間違いないはずだと由利は思った。

 

「くっくっく……それじゃあ、アタックに入るわ」

 

 してやったり。千里はそんな表情をしていた。全てのシグニをバニッシュした。防御の用意は二重三重にも整っている。

 仮にこの状況をしのげたとして、咲に次はない。完全に、チェックメイトの状況。

 

 咲は目を閉じ、静かに思考する。この状況を打開する、その最善手があるのか――。

 

「(お姉ちゃんのエナは1、2……6エナ。白2青2マルチ2という状況。たとえこの場をしのいでも次のライフがアークオーラだったら――)」

 

■:シグニ

□:空

 

千里

■■■

 

□□□

 

「(今空いている三面……6エナあれば三面を守ることは不可能じゃない。それに相手はスペルとアーツをこのターンに使っているからアイドルディフェンスが使える。ならその6エナを引き継いで次ターンに"紅蓮"の効果で上手く三面バウンスに成功したと仮定すると――)」 

 

千里

□□□

 

■■■

 

「(理想形はこう……。それもアークオーラの効力を受けないアークゲインと天使を並べなければならない。紅蓮のバウンスは手札をかなり消費するからこの条件だけでもきつい……。しかも相手がもしもアンシエントサプライズを使ったとしたら……)」

 

千里

■■□

 

■■■

 

「(アステカを呼び戻し、こうして二面を守ってくるはず。すると通るシグニアタックは一回。その一回でアークオーラが発動してルリグがアタックできなくなる……!)」

 

 

 そう、この状況は咲にとって絶望的だった。

 このターンを生き残ったとして、次のターンに全面空けて全面を天使にしたとしても、あと一歩届かないのだ。

 咲が並べるシグニを全て天使にして、なおかつその中にアークゲインを含み相手のラインを全面空ける。その条件をクリアしても、たった二面、前にシグニを置かれるだけでトドメをさせなくなってしまう。 

 

 この状況で千里にトドメをさせるとしたら、それは天使シグニのアタックが2回通ることだ。

 だが、それはありえない。どうしてもアンシエントサプライズとアークオーラが干渉し、千里に届かないのだ。

 大体、全バウンスと全天使+アークゲインという盤面にする可能性だって、ほとんどないのだから――

 

 

「あっははは! もう諦めたら? 状況を見て、わからない? あんたに"何ができる"っていうのよ!! あぁ!?」

 

 攻撃、防御、資源の準備……その全てを完璧にこなして見せた千里は、激昂する。

 すると咲は薄く目を開け、静かに口を開いた。

 

「"何でもできるさ"――」

 

 不敵に、余裕を見せる咲。その脳内にはどんな戦略が練られているのか――。

 

「どこまでも舐めた口を――……サクラでアタック!!」

 

「させない……アーツ、"ドントムーブ"」

 

「(ドントムーブ!? アイドルディフェンスじゃない!?)」

 

 咲は場のシグニ2体をダウンさせるアーツ、ドントムーブを使用した。3エナを消費して。

 由利の考えでは、ここはアイドルディフェンスを使用してシグニアタックステップそのものをスキップさせるはずだった。

 しかも由利のデッキを使っているはずなのに、入れた覚えのないアーツ。おそらく咲が差し替えているのだろう。

 

「ふふふ、随分焦っているみたいねえ。忘れたの? サクラの"もう一つの能力"を――」

 

「(もう一つの能力……? あっ!)」

 

 そう、サクラにはもう一つの能力が存在する。

 それは"カードの効果によってシグニがダウンした時、エナチャージを行う"というものだった。

 今回ダウンしたシグニは2体。ダウン一回に対してそれぞれのサクラの能力が発動するので、計6枚のエナチャージが行われてしまった。

 

「(サクラを積み込んだ閻魔のデッキ……最悪のケースなら、ビッグバンが入っているかもしれない。尚更次のターンで終わらせないと……しかも、まだ止められたのは2面だけ。まだ1面残ってる。どうするのお姉ちゃん……!?)」

 

 由利は胸の前で両手を握り、姉を見守る。もはや自分の知識や経験が生きない世界の戦い。由利が思い浮かべるどんなケースでも、咲の勝つ道がないように思えていた。

 

「更に……アーツ。"アンシエントサプライズ"を発動する……!」

 

 咲は残った3エナを使い、アンシエントサプライズを使用する。

 種族が限定されているが、シグニを一体配置する能力。トラッシュ枚数に応じて敵シグニのパワーをマイナスする能力。お互いのデッキを7枚削り取るという3つのモードから効果を選択するアーツ。

 

「なるほどねえ。ドントムーブで2体止めて、アンサプで残った1体の前にシグニを配置するってわけ? エナも空っぽで、もう何にもできないわねぇ……ふふふっ」

 

 もはや咲にエナは残されていない。次のターンにいくらシグニを並べても、アークオーラで確実に止まる。しかもシグニやバウンスをやりくりするエナすらなければ、もうどうすることもできない。

 咲の敗北である。

 

 

 

 

 

 

 

 ――咲が、シグニを配置するモードを"選択"した場合ならばの話だが。

 

 

「……違う」

 

「はあ?」

 

「私が選択するモード……それは"お互いのプレイヤーはデッキからカードを7枚トラッシュに置く"効果!」

 

「ちょっと、何言っちゃってるわけ? 今そんなことしてなんの意味が――」

 

 咲の行動。その意図が分からない千里は思わず口を開いた。今はとにかくアタックを防がなければならない状況。

 デッキを削っている場合ではないはずだ。敗北を前にやけになったか――千里が詰ろうとしたその時。

 

「な……私のアークオーラがっ……!?」

 

 ライフに仕込まれたアークオーラ。それが発動することなくトラッシュに送られたのだ。

 アンシエントサプライズの能力、そしてアークオーラの消滅。これが意味することとは。

 

「……デッキ、リフレッシュ」

 

 裂雷が呟いた。そう、この生きるか死ぬかの瀬戸際に、ここまで思い切ったことができるセレクターはそうそういない。

 恐らく咲はプレイされているカード枚数を事前に数えており、千里のデッキ枚数を記憶していたのだろう。

 

「だからなんだってのよ!? 盤面が空いていることに変わりはないわ! いきなさいサクラ!」

 

 そう、アークオーラは破壊できても盤面を埋めたり敵のシグニを止めたわけではない。

 通常ならば、このアタックが通って勝負は決していた。だが、千里が命じてもサクラは動かない。アタックを行わない。

 

「ちょっと! 聞いてるの!? ねえ、ねえってばっ!!!」

 

 いくら叫ぼうとも、サクラがアタックすることはない。一体なにが起きているのか――?

 この場にいる誰もが困惑した。

 

 ――鳴海咲を除いては。

 

 

「まだわからないのか」

 

 

 

 

 そしてその口から告げられる事実。

 

 

 

 

「このデッキリフレッシュは――」

 

 

 

 

 狂人のようにしか思えない、その防御策とは。

 

 

 

 

「――君にとって、"二回目"なんだよ」

 

 

 

 

 "ターンそのもの"を、消滅させること。

 WIXOSSには、ターン中に二度目のデッキリフレッシュが行われた場合、強制的にターンが終了するというペナルティがある。

 普段ならばまったく意識しないルール。この瞬間、この状況でのみ、アンシエントサプライズは"絶対防御"と"ライフラッシュ"を兼ね備えた最強のアーツへと変貌する。

 

「ば……ばか……な……」

 

 ファイナルディストラクションの効果で千里に手札はない。アークオーラが消滅した今、彼女をルリグから守る術はなくなっていた。

 

「終わりだ。千里」

 

「う、うわああああああああああああッッ!!!!」

 

 叫び、発狂する。確信を得た勝利から、敗北と言う名のどん底に叩きつけられる衝撃。

 鳴海咲は、ただ口元を歪にさせ、にやりと笑うだけだった――。

 

 

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