Selector Unlimited WIXOSS 作:-Y-
どこまでも続きそうな深い闇に、霧が立ち込めている。
不思議な空間に私達はいた。
私と"リミテッドの少女"は向かい合ったテーブルの側に立っていた。
この空間こそ、私達の戦場。本来であれば、儚い願いをかけて少女同士が戦う場所だ。
だが私は知っている。その少女達は"釣られて"いるのだ。戦って勝てば願いが叶うなどという、甘い誘惑に。
勝ったって負けたって、ろくな結果が待ってはいない。
しかし私は違う。誘惑が嘘だと知って私はここにいる。
"甘い誘惑"とはまた別に、少女達を狙い"願いの生贄"とする集団――リミテッドを狩る"アンリミテッド"、それが私だからだ。
私は持っていた黒いカードの束、デッキをテーブルにセットする。
そう、戦いはこのカードによって行われる。
「そういえばまだ名乗ってなかったわね。あんたも知っての通り、"リミテッド"の新井優(あらいゆう)よ。そしてこれが――」
リミテッドの少女、優が向こう側のテーブルから話しかけてくる。
そして優も同じようにデッキをセットし、白いカードをテーブルの中央に置くとそれをひっくり返した。
「私のルリグ、新月の巫女<カグヤ>よ」
カードから、人形のような大きさの少女が具現化される。
古風な着物に"零"と書かれた金の髪飾り、その大きさと相まってより人形らしく見えるが彼女は人形ではなく"ルリグ"と呼ばれる存在である。
ルリグとは、カードに宿る人の意志。このルリグが私達ゲームのプレイヤー――セレクターの代わりに戦うのだ。
カグヤが具現化されると、優の辺りを包んでいた闇が消え、白い光に覆われた空間となる。
戦場の雰囲気は、ルリグの持つ"色"によって変化するという。今のような状況ならば、カグヤは白のルリグだということが分かる。
「ほら、あんたもルリグをオープンしなさいよ」
言われるまでもない。私も白いカードをテーブルに置きそれをゆっくりとひっくり返す。
「これが私のルリグ、斬切姫・零(キリキリヒメ・ゼロ)」
具現化されたのは二つ結びの銀髪に、半分に割れたピエロの仮面で顔を覆った姿が印象的なルリグ。
"斬切"の名を表す二本の刀を腰に提げている。
斬切姫――通称"キリ"だ。
「不思議……ここに来ると、心が落ち着く。でも、騒ぐ」
戦場の空を穏やかな表情で見つめるキリ。
その声はリビングで私に語りかけてきた"あの声"だ。
キリと見下ろす私との目が合った。
「行くよ、キリ」
「ええ、あいつを"ぶちのめせば"いいのね」
そう言うとキリは相手のルリグ、カグヤを視界にとらえ舌なめずりをする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
いよいよバトル開始かという時に、優がそれを静止する。
「あんた、"色"は何なわけ?」
優の疑問はもっともだ。通常、戦場はルリグの持つ色で各セレクター側の色が変わるが、私の"陣地"に色の変更はなかったからだ。
「ルリグの特殊能力。"レベル1になるまで相手に色を悟らせない"。リミテッドのあんたなら存在くらいは知ってるでしょう?」
「ルリグの……ああ、なるほど。あの"モデルの娘"もそんなルリグ持ちだったっけ」
優の思い描く少女が誰のことかは分からないが、どうやらテキストに書かれた以外の能力を持つ特別なルリグが存在することは知っているらしい。
「ならさっさとやっちゃおうよ。――ゲームスタート」
戦場の上空に鎮座するルーレットが回る。針は"白"を指した。これは白のルリグが先行権を得たということを表す。
勝利条件は単純。お互いが持つ7つのライフを削り、トドメの攻撃を指したほうが勝利者となる。
「私のターン!」
優
ライフ7
エナ0
手札5
「カードドロー、エナチャージ。そしてルリグをレベル1、三日月の巫女カグヤにグロウ!」
光の輪がカグヤを包み、足先から頭まで通り過ぎていく。カグヤの髪飾りに書かれた文字が"壱"に変わる。
自分のターンに一度、こうしてルリグをグロウして、進化させていく。これがゲームの基本である。
「センターにラウンド、ライトにハニエルを召還してターンエンドよ」
カグヤを守るように精霊、シグニが配置された。ルリグにダメージを与えるためにはあのシグニ達を掻い潜って攻撃するか、シグニを倒してラインを空けるしかない。
「私のターンね」
咲
ライフ7
エナ0
手札5
「カードをドロー、エナチャージしてキリをレベル1にグロウ! 斬切姫・壱!」
その瞬間、キリを包み込む光の輪が急激に膨張し、空間を包み込む。
光が止んだ頃、私の陣地の色は"赤く"染まっていた。
キリの髪は赤く、そしてピエロを模した仮面に血の涙のような点が一つ描かれていた。
先ほどのカグヤ含め、ルリグはグロウしレベルアップするごとに身体に数字を表す特徴が追加されていくのだ。
「ふん、もったいぶった割には大した能力じゃないのね。赤デッキと分かればこれからいくらでも対処が――」
「本当にそう?」
「なっ……」
余裕ぶる優の言葉を遮る。バトルは読み合い、騙しあい。始まる前から駆け引きは始まっている。
「私はアメジストをレフトに、サーバントOをライトに配置。アメジストの出現効果でハニエルをバニッシュ!」
私は場にシグニを2体召還する。アメジストの効果はパワー1000のシグニをバニッシュ――倒す能力を持つ。
赤デッキのコンセプトを象徴する一枚だ。
バニッシュされたハニエルはエナ、カードの発動に必要なエネルギーへと変換される。
最初のエナチャージと合わせ、優のエナは2になった。
「ちぇっ、赤だと分かっていればパワーラインを上げていたのに……」
「更に私はエナを1払い、手札から光欲の宝剣を発動! 対象はアメジスト!」
「宝剣……鉱石のシグニを"ダブルクラッシュ"にするカード」
ダブルクラッシュのシグニならば一回の攻撃で2つのライフを削ることができる。
これも赤を象徴するサポートカードだ。
「アタックに入るわ」
――アタックフェイズ――
■:シグニ
□:空
優
□■□
■□■
咲
「そうはさせない。私はアーツ、バロックディフェンスを発動! このターン、アメジストをアタック不能にする!」
バロックディフェンス。2エナを消費してシグニかルリグのアタックを1ターン封じるアーツと呼ばれるカード。
白デッキなら積んでいる可能性が高いカード。赤デッキ使いなら十分警戒しなければならないカードだ。
「あはは、せっかくの宝剣も意味なくなっちゃったねっ」
「――そうね。じゃあサーバントOでライフクロスにアタックするわ」
優の嘲笑を無視し、私はゲームを続ける。相手の場にはラウンドが配置されている。
シグニは敵シグニのルリグへの攻撃を守るが、空いているラインの攻撃は防げない。私のサーバントの攻撃は通るというわけだ。
キリは霧状になったサーバントを自らが持つ刀に宿し、カグヤに切りかかる。
「くっ……」
カグヤが刀で切られた時、テーブルに示されたライフ数を表す光が一つ消える。
「更に、キリでアタック!」
シグニの攻撃はあくまでも補佐。ターン中はルリグ本体での攻撃も可能だ。
キリが腰に提げたもう一本の刀を抜きカグヤに切りかかる。
「サーバントでブロック!」
優が手札からサーバントを召還すると、それは霧となってカグヤを守り、キリの刀を弾いた。
ルリグの攻撃は手札にあるサーバントを使って防ぐことができるのだ。ルリグの攻撃が終了するとターンは相手へと移る。
優
ライフ6
手札2
エナ1
「私のターン、ドロー。エナチャージ、そしてレベル2、半月の巫女カグヤにグロウ!」
光の輪がカグヤを包み込む。髪飾りに書かれた文字は"弐"になった。
「私はライトにスクエア、レフトにミカエルを召還! 更にミカエルをダウンし起動効果を発動。手札を一枚捨て、デッキからレベル3以下の白シグニをサーチする。私がサーチするのはヴァルキリー!」
白デッキはミカエルのようにデッキ内をサーチして好きなカードを手札に持ってくることが出来る。
優が選択したヴァルキリーはレベル3のシグニの中でも強力なカードだ。
カグヤのレベルは2なのでまだレベル3のシグニは召還できないが、次のターンから警戒しなければならない。
「アタックに入るわっ!」
――アタックフェイズ――
優
■■■
■□■
咲
優のシグニが場を埋めた状態。ミカエルは能力を使ったのでこのターン攻撃は出来ないが、他のシグニで攻撃が可能だ。
「まずはそのアメジストをバニッシュ! 続けてラウンドでがら空きのセンターにアタック!」
カグヤがシグニを身に纏いこちらに突進してくる。アメジストがバニッシュされ、ライフが削られる。
「更にカグヤで攻撃!」
こちらにガードする術がない。カグヤの追撃を受け、キリが吹っ飛ばされる。
「キリ!」
「私は大丈夫だ……咲。こちらも反撃するぞ」
「ええ!」
そしてターンは廻り、私の番となる。
こちらもシグニを展開し、場が空かないようにゲームを進めていく。
シグニを倒し、相手のライフを削り合いながらターンが過ぎて行った。
ルリグが進化するごとに、その戦いは過激化していく。
そうしてゲームは終盤に差し掛かろうとしていた――。
優:ライフ1
咲:ライフ4
「ここまで私を追い詰めるなんて……さすがアンリミテッドって言ったところねっ」
ライフは私が有利になっていた。ヴァルキリーの弱点である低いパワーを狙い、レベル3へのグロウ時に発動する効果を使いヴァルキリーをバニッシュ。更に空いたラインに宝剣で攻撃できたことが功を制したようだった。
「サーチ時にわざわざ見せられたシグニを狙わない手はないわ」
「ふんっ、言ってろっての。後悔するわよ……あははっ。ルリグをレベル4、太陽の巫女カグヤにグロウ!」
太陽の巫女。対戦相手のシグニをバウンス(手札に戻す)強力なレベル4形態だ。
「そして手札から、ゲットバイブルを発動!」
ゲットバイブル。脅威度は低い、白デッキにありがちなシグニサーチスペル。
しかし、様子は何かと違っていた。
優がスペルを発動すると、今までに見ない、奇妙な青白い光がカードから放出され私を照らし出す。
あまりの眩しさに私は腕で目を覆う。
間違いない、これは相手のルリグ……"カグヤの特殊能力"だ。
「くくく……あはははは! カグヤの能力発動! "ゲット"と名のつくスペルを発動した時、相手が次のターンに行う行動を知ることができる!」
「(やっぱりそうか……!)」
やはりカグヤには特殊能力が備わっていた。それは十分予測の範疇ではあった。
何故ならリミテッドは大量のルリグカードを保管しているらしい。そのリーダーたる人物に目をかけられているというこの少女は、有能なルリグを渡されている可能性が高かったからだ。
「あんたは次に……そう、"火鳥風月"にグロウするんだ。……ってことは狙いは――大器晩成(ビッグバン)」
大器晩成とは大量のエナを放出し、敵のルリグとエナを全て破壊する強力なアーツだ。
そして火鳥風月タイプのルリグはエナを溜めることを得意とするため、このアーツとのシナジーがあることがセレクター内では広く知られている。
「ああー、怖い怖い。すっごく怖いからぁ……その手、封じちゃうね」
思考を呼んだことで優勢の笑みを浮かべる優。
「ゲットバイブルで選択するのは、先駆の大天使アークゲイン!」
「アークゲイン……!」
アークゲイン。白カードの中でも最強とされている天使種族のトップレアカード。
ルリグ以外のあらゆる効果を受けない効果を持ち、それは他の天使種族のシグニをも対象とする。
最強のアーツ、大器晩成であっても例外なく無効化するシグニだ。
「そのままアークゲインを召還! そして出現効果、デッキから天使のシグニを1体場に召還する。選択するのは……未来の福音アークホールド!」
アークホールド。アークゲインの妹で、場の天使のパワーを2000上げるカード。
ほぼ全てのカードを無効化するアークゲインの弱点は直接攻撃でバニッシュされることなのだが、アークホールドでパワーを上げられればそれすらも弱点でなくなるのだ。
「更に手札からアークホールドを召還……あはは! これでアークゲインのパワーは16000!」
弱点を克服し、文字通り最強の存在となったアークゲイン。さらに2体のアークホールドも天使であるためカードを無効化する能力が付与されている。
「更に更にぃ、太陽の巫女カグヤの起動効果発動! 2エナと手札2枚を消費し、あんたの場のシグニ2体をバウンス!」
場のシグニが手札に戻される。これで2ラインが空けられてしまう。
「あはは! いきなさいカグヤ! 天使の力を見せ付けてやるのよ!」
優の命令に従い、天使達の力を纏いこちらに突進してくるカグヤ。
空けられた2ラインからライフを2枚削られてしまう。
「くっ、サーバントでガード!」
私はとっさにサーバントを召還し、カグヤの攻撃を防ぐ。こちらのライフは残り2だ。
「なになにしぶといじゃん。もう諦めたらいいのにぃ」
最強の布陣を完成させ、愉悦に浸り笑う優。だが、まだ勝負は終わっていない。
「どうする、咲。あの軍勢は難しいのではないか」
キリがこちらを見上げて言う。負けるかもしれないというのに、その表情は普段のものからまったく変わらない。
「……まだ、負けてない。その顔面、歪ませてやる……! レベル4、火鳥風月 斬切姫・肆にグロウ!」
「はいはい。知ってる知ってるって。そんで、起動能力で私のライフを削って、スリーアウトでドローして、適当なシグニならべて終わりでしょ」
カグヤの能力は本物らしい。行動を知っているらしい優の言うとおりのプレイングを行いターンを終了した。
「あっはは、さすがは私。"予知能力者"だねっ。あーん、でもでもライフが0になっちゃった。怖い怖ーい。手札にサーバントもいないから次でやられちゃうよう」
優はわざとらしく言った。ライフではこちらが有利だが、場の状況では圧倒的に向こうが有利なのだ。
「いないからぁ……引いちゃおっと。アークホールドをエナに、そして手札からヴァルキリーを召還! 起動効果使いまーすっ」
ヴァルキリーの起動効果。デッキからレベル3以下のシグニをサーチする効果だ。
下位に位置する天使のサーチシグニとは違い、種族を問わずサーチすることができる。――つまり。
「サーバントOちゃんを手札に加えちゃいまーす。これで次のターンも安心安心っ。更にカグヤの能力で2体バウンスして、空いたところにゲインちゃんとホールドちゃんでアタック!」
天使の攻撃がキリを貫いた。ライフは0、次の攻撃を受けたら全てが終わる。
「カグヤの攻撃は通さない! サーバントでガードする!」
「ちぇ、スリーアウトで引き込んでたのね。まあいいわ、ターン終了。勝ち確勝ち確~っ」
「……ねえ、あなた。もう勝ったと思い込んでるの」
「はあ? この状況からどうやって負けるっていうの? あんたに天使三体の内どれか一体でも倒す手立てがあるっていうの? アーツ残り一枚の癖に調子乗ってるんじゃないっての」
「そう……なら、ラストターン。カードを二枚ドロー、エナをチャージ……」
「あはは! なんでもやっちゃえ、やっちゃえー」
「グロウフェイズ」
「……は?」
グロウフェイズ。ルリグをレベルアップするためのフェイズであるが、ルリグのレベルは最大で4。
通常、終盤では何も行わないフェイズ。
「何がグロウフェイズよ。何も出来ないくせに。その残り一枚のアーツだって大器晩成でしょうが。とっととゲームを進めなさいよ」
手をひらひらと振り、余裕を見せる優。
私は今から彼女に教えてやらなければならないようだ。
「"思い込みと慢心が負けを呼ぶ"ということを――!」
私は残された一枚の白いカードを手に取り、それをキリに重ねる。
「グロウダウン! レベル2、轟炎 斬切姫・爾改!」
「グロウ……ダウン?」
そう、グロウフェイズは何もレベルを上げるだけじゃない。"下げることも可能"なのだ。
「更に起動効果発動。このターン、レベル2以下のサーバントにはガードされない」
「ま、まさかっ――」
「そう、あなたの手札にはさっきサーチしたサーバントO……レベル1のサーバントしかいない。この局面を乗り越えるカードといえば……そう、"バロックディフェンス"とか――?」
「――っ!?」
優は面食らった表情で、目を見開いた。
バロックディフェンス――それは既に優が1ターン目に使用したアーツだった。
「この未来は見えたの? "予知能力者"さんっ――?」
優の顔面が蒼白になっていくのが目に見えて分かった。この分だと二枚目のバロックディフェンスを握っているということはないようだ。
「とどめよ、キリ!」
「承知した――!」
火炎を纏う鮮やかな二刀流は優の手札から召還されたサーバントをも巻き込んで、カグヤごと切り刻んだ。
こうしてゲームエンドを向かえたのだった――。