Selector Unlimited WIXOSS 作:-Y-
次の日。
「ここが……バトルの会場」
自宅から4駅ほど電車に乗り、10分ほど歩いたところで手紙に記載された住所へと辿り着いた。
見た目にはそれほど妙なところはない、普通の概観をしたビルだった。
「いいのか、咲」
カードケースの中から、キリが話しかけてくる。
「いいって、何が」
私はキリを取り出し、言葉の意図を尋ねる。
「負ければ君も"地下行き"とやらだ。覚悟はいいのか?」
「勝つ覚悟なら。負ける覚悟なら、してきてない」
「君は自分の戦略と予測に絶対の自信を持っている。慎重に物事を考えているようで、実は慢心しているところがある」
キリは真剣な眼差しでこちらを見て言った。
茶化しているわけではないのは分かっていた。キリは不必要に冗談を言ったり戯言を言ったりしたことがないからだ。
あくまでも事務的に。キリの言葉には感情論は含まれない。
「あなたがそう言うなら、そうかもしれない」
だから、私はキリの言葉を素直に受け止めた。
仮に口喧嘩の宣戦布告だったとしても、大事な戦いの前にお互いの信頼関係を壊す必要がどこにあるというのだろう。
「相手の策を読みきって、その先の策を"更に読まれてる"と思って行動したほうがいい。今回はきっと、そういう戦いだ」
何故普段あまり干渉してこないキリがそこまで――と考えている途中で思い出した。
昨日は対戦相手、姫子の情報をキリも見ていたのだ。
リミテッドのリーダー、その称号は伊達ではない戦績、戦術、デッキ構成だった。
今までで一番警戒しなければならない相手だと、キリは感じているのだろう。
「わかったよ、キリ」
「……なあ、咲」
「まだ、なにか?」
今日のキリはお喋りがしたいらしい。
何か心境の変化でもあったのだろうか。
「私はたまに、"君が何を考えているのか分からない"んだ」
「――っ!?」
思いがけない一言に、私は息を呑む。
狙って言ったのか、そうでないのか。どういうつもりで言ったのか、分からない。
昔――そう。今はいない母に言われた言葉だ。
"何を考えているのか、分からない"。その一言がどれだけ私の心を削り取ったのか、あの人には分からないだろう。それとも、私が"悪い子"だったのだろうか。
……いや、今はこんなことを考えている場合ではない。全力を持って戦い、そして妹を取り戻す。なすべきことはそれだけだ。
「……馬鹿なこと言ってないで、行くよキリ」
「そうだな、今すべき話じゃあなかった。すまない」
そうしてビルの中へ入った私は、スーツを着た男に案内され上の階へと昇っていった。
私は情報を聞き出そうといくらか話しかけたが、必要以上のことはまったく喋ってくれなかった。組織に忠実な人間らしい。
導かれるままに着いて行く私。スーツの男はとある部屋の前に立ち止まり言った。
「本日のバトル会場です」
自動ドアが開き、私は中に足を踏み入れる。中は異様な風景だった。
ぱっと見ればそれはテーブルのあるただのオフィス風景。ただしそれぞれが向かい合うようにして置かれた"拘束具"がある以外は。
「ようこそ……鳴海咲」
そこに立っていたのはリミテッドのリーダー、愛染姫子。見た目のふわふわした印象からは180度違う、ドス黒い存在感を放つ少女だった。
何故かはよく分からないが、こうして対立しているだけで"鬱陶しく"感じる。
初対面のはずだが、生理的に受け付けないのか?
「……とっとと始めようよ。趣味じゃないんだ、あなたみたいな人と長話するのは」
自然と口調も荒れる。相手はリミテッド、それもそれを統括リーダーだ。どんな無礼を働こうが今更関係ない。
「あら、冷たいのね。なら早速ルールの説明をするわ。概ねは手紙に書いた通り、今から行うのはリミテッドバトル。こちらが定めた条件に乗っ取ってゲームを進行することになるわ。そして今日の制限は――」
「"同名アーツカードの使用禁止"ね、分かってる。手紙に書いてあったこと以外の説明は? 例えば、あなたが負けた場合とか」
会話を円滑に進めるため、割り込んで話す。制限ルールについては既に手紙に書いてあったことだ。
「そうね、お互いはその拘束具をはめてバトルするの。負けたほうはそのまま機械が作動して"地下行き"というわけ」
「私が勝っても地下に送ったりしないでしょうね」
「そんな無粋な真似はしません。機械は敗北したセレクターの"WIXOSS因子"を感知し、判断します。疑念が晴れないというなら、どちらの拘束具を選ぶかはあなたに任せます」
WIXOSS因子。願いを叶える、人間のルリグ化といった事象を引き起こすと言われる未知数の因子。
ルリグはこれを嗅ぎ湧けることができるらしい。誰がセレクターであるとか、負けたセレクターの匂いを感じるだとか、キリはそう言っていた。
「わかった、それじゃあ始めよう」
私は念のため奥側にあった拘束具を選択した。
スーツの男にそれをはめられ、私は立った状態ながら首、腕、腰、足を革のベルトのようなもので縛られ、鎖に繋がれ身動きが取れなくなり姫子も同様の処置を受けた。
「……では、楽しいバトルにしましょう。――オープン」
そして私の意識はふっと消えていった。