Selector Unlimited WIXOSS 作:-Y-
「……ふふ、こんな日が来るとは思わなかったわ」
「……どういうこと」
霧が立ち込める戦場で、私と姫子は向かい合う。
姫子の不可解な言葉に私はいぶかしむも、会話はそれ以上続くことはなかった。
頭上に浮かぶルーレットが軋みながら回り、針は"白色"を指した。
「私の先行みたいね。ドロー、エナチャージ。ルリグを三日月の巫女アマテラスへグロウ」
アマテラス。情報によれば最強と噂されるルリグ。
着物を着ており、全体的に和風な装飾が目立つ。先端が星を象った自信の背丈ほどもある杖を持ち、鏡のような材質で出来た大きな輪を背負っている姿が特徴的だ。
輪の表面には光の玉が映し出されており、それがぐるぐると回転を続けていた。グロウ時に現れたものなのでどうやら玉の数がルリグレベルを表しているらしい。
「センターとライトにラウンドを配置、ターンエンド」
こちらのターン時にパワーが上がる盾系のシグニを二対並べた、ということは優に私のデッキは赤色だと知らされているのだろうか。
ラウンドはアメジストやヒスイの出現時バニッシュ効果を受け付けないという意味では強力なレベル1シグニだろう。
だが、私は情報面で不利を背負うつもりは毛頭なかった。
「私のターン、ドロー。エナチャージして、グロウフェイズは――」
なぜならば私のルリグ、斬切姫の特殊能力は相手に色を悟らせないのではない。
「レベル1、創造の鍵主ジョーカー=エットにグロウ!」
その瞬間、キリの白い髪は黒に変色し、顔を半分覆うピエロの仮面が半回転、上下逆さまになり唇の部分がニヤリと笑う目のように見える異質な姿となった。
更に、無色だった私の陣地は黒色へと染まる。
「――黒デッキ」
ぽつりと、姫子が呟く。どうやら赤デッキと思っていたらしい。姫子の言うとおり今回の私は黒デッキだ。
キリの本当の特殊能力、それは"最初のグロウのみ、どのタイプにもグロウが可能"というものだった。
通常、セレクターが手にするルリグは一枚。つまり、その一枚をメイン色としてデッキを構成しなければならない。
しかし、この能力があればあらゆる相手に対応可能。デッキを構成する際にメイン色から組みなおすことができるのだ。
余談だが、グロウ先によっては今のように仮面が反転し、"ジョーカーモード"に移行することがある。
"鍵主"や"コード"タイプの場合にジョーカーとなることが確認済みであり逆に"巫女"や"闘娘"、"轟炎"タイプ等は斬切姫のままである。
「ライトにテキサハンマ、センターにクレイを配置。アタック!」
まず一撃。空いたラインを攻撃することにした。
キリがテキサハンマを刀に纏わせ、アマテラスへ攻撃する。ライフが削れ、カードがガラスが割れたような音と共に砕け散る――が。
割れた破片が翡翠色の光を纏い、元の形へと戻っていった。
「"修復"のカード……!」
ライフが削られた時に発動するカード。文字通りライフを修復――厳密に言えば、追加する効果を持っている。
修復は闘姫タイプのルリグにしか扱えないが、今のようにライフバーストで発動すればどのルリグでもライフを回復することが出来るのだ。
太陽型のデッキに積み込むという話はあまり聞いたことが無いが、アマテラスの能力を加味すればその選択も頷ける。
「でも、もう一撃! キリ!」
「させない」
更にキリが刀をアマテラスに向けるが、姫子はサーバントによってその攻撃を回避した。
結果的にこのターン、私は一度もダメージを与えていないことになってしまった。ターンは姫子へと移る。
「私のターン。ドロー、エナチャージ……レベル2、流星の巫女アマテラスにグロウ!」
流星タイプにグロウした――?
あれは確か、場のシグニパワーを1000上げる常時効果を持っているけどリミットが4しかない……つまり、配置できるシグニが少ないはず。
何故あのタイプを採用しているのか、狙いは分からないが闇雲にプレイしているわけではないはず。警戒しなければ。
「アーツ、チャージング発動。更にレフトにラビエルを配置。出現効果でバロックディフェンスとエナを1トラッシュに送り、テキサハンマをバウンス!」
二枚目のアーツを使った。太陽までグロウするとすれば姫子のアーツは残り3枚だ。
そしてラビエルはアーツを消費してシグニを手札に戻すカード。これで私のライトとレフトががら空きになってしまう。
「行きなさい、アマテラス」
アマテラスは頷くと背負った大きな輪をキリに向けて振りかぶった。
「くっ……!」
手札にサーバントがない。空いた2ラインと本体の攻撃で3ダメージが通ってしまう――!
「っ、これは――!」
キリは輪に切り裂かれ、ライフが削られてしまう。しかし、そのライフの破片から私が掴み取ったのは二枚目のテキサハンマ……1ドローできるバースト効果を持つカードだった。
とっさに引いたサーバントで本体攻撃をガードする。しかしこれでライフクロスは7対5……先に攻撃権を取ったはずの私が出遅れる形となってしまっていた。
これを取り返すには、どうにかして盤面を空け、こちらも積極的にアタックするしかない。これが得意なのは赤のカードと、そして今使っている黒のカードだ。やれるはずだ。
「ドロー! エナチャージしてレベル2、創造の鍵主ジョーカー=トヴォにグロウ!」
ドローしたカードはマチュピ。黒デッキにおける序盤のダメージレースとなるカードだ。手札を一枚捨てシグニのパワーを-5000することができ、パワーが0になったシグニをバニッシュすることが出来るのだ。
ラウンドやラビエルのパワーは5000。とにかくラインを空けてアタックしたいところだったが――。
「待て、咲。奴ら、パワーが上がっているぞ!」
キリが私を制止する。そうだ、流星タイプの効果で姫子のシグニ3体のパワーは全て6000――ぎりぎりバニッシュに届かない。流星タイプを採用した理由は、恐らくマチュピと似た効果を持つ赤のカード、ランチャンを意識した戦術だったのだ。
あまり見ないタイプのルリグだったため、効果を忘れかけていた。これではラインを空けることができない。
私はとにかくこれ以上のダメージを防ぎたかったので、シグニを全ラインに配置しておいた。
今すべきことは、耐えること。これ以上カードをプレイせず、私はアタックすることにした。
「キリ、行って!」
今パワー6000を超えるシグニはいない。シグニでの攻撃は行わず、キリ本体でアタックを仕掛ける。
姫子はサーバントでガードすることは無く、アマテラスにアタックが通る。
「ふふっ、残念」
割れたライフクロスの中から現れたのはローメイルだった。高いパワーを持つシグニで、バーストが発動した場合シグニを一体手札に戻すことができるカードだ。
「くそっ……インチキ臭いマネしやがって――!」
思わず悪態をついてしまう。修復に続きローメイル……恐らくこの先のライフクロスも強力なものが目白押しなのだろう。
とにかくこれでライフは6対5、エナにそれほど違いもない。しかし手札に戻されたシグニのラインががら空きだ。またこのラインを通されてしまうだろう。
「私のターン、ドロー。場のラウンドをエナに。レベル3、月蝕の巫女アマテラスにグロウするわ」
月蝕、エナを支払えばシグニをデッキからサーチできるルリグタイプ。でも私が満足に攻撃できていないため余りエナが残っていない姫子は、その能力は使わないらしい。
「ふふふ」
突然、姫子が薄ら笑いを浮かべる。
「何よ」
「いや、こうして"また"あなたと戦うのが、嬲り殺しにできるのが楽しいから」
また。
姫子は確かにそう言った。姫子、いや……"姫子の中身"は私の知っている人物なのだろうか?
「誰だ、あんた」
「さあ? 私は正真正銘の愛染姫子。それ以外でも、以下でもない」
姫子はおどけてそう言った。リミテッドというのはすべからく言葉の通じない人種なのだろうか。
「そういう意味で言ったんじゃない。"あんたは誰だ"と、私は聞いている」
「……ふーん。何なら当ててみる? 私はよく知っているわ。あなたがまだ"カードだった時のこと"も――。ふふ、コレを言ったら分かっちゃうかしら」
「……は? 何を言っているの?」
姫子の言葉の意味が分からなかった。私がカードだった時? ルリグだった時ということか?
私は正真正銘の人間だ。ずっと前から、生まれた時から今まで。
「しらばっくれても知ってるのよ、咲。あなたは私に屈辱をもたらした。忘れるはずもない、"あの戦い"を――!」
「しらばっくれてなんかない。あなたが今、何を言っているのか真剣に分からない。私がルリグだったって?」
「……本気、なの……?」
「本気も何も、私はずっと人間」
「……嘘を吐いているようじゃ、ない……みたいね」
姫子が何を考えているのか分からない。精神的な揺さぶりにしては意図を掴めかねるし、言動の意味がまるで察せない。
「ふ、ふふふっ……本気で忘れているようなら……私が思い出させてあげるわっ! ヴァルキリーをセンターに配置し起動効果発動! デッキからミカエルをサーチするわ」
思い出させる? 何を?
私が混乱する間にも、バトルは続いていく。
「手札から芽生えを発動、エナの修復を支払いエナチャージ。ローメイルが空けたラインにアタックする!」
またもやラインの隙をつきアマテラスが突撃してくる。
キリが輪に切り裂かれ、空いたラインと本体の攻撃とで2ライフが削られてしまう。バースト効果はエナチャージなどといった頼りのないものしか発動しなかった。
「……さっきから意味わかんない。何が言いたいのよ! 私のターン、ドロー! クレイをエナチャージしてレベル3、創造の鍵主ジョーカー=トレにグロウ!」
ライフ差は6対3。アマテラスの能力のせいでろくに削ることができない。
レベル4になったらきっとアークゲインを配置される。そうなってはもう手のつけようがなくなってしまう。今のうちに削れるだけ削っておかなくては。
「スペル、セルフスラッシュ発動! さあ、自分でバニッシュするシグニを選んで」
「……なら、ラウンドをバニッシュするわ」
これで1ライン空いた。まだまだやれる!
「レフトにアステカを配置! 出現効果でこのターンのみ場に出現できるレベル1の古代兵器シグニ、テキサハンマをセンターに! そしてライトにメガトロンを配置して起動効果を発動するわ。テキサハンマをトラッシュに置きヴァルキリーをバニッシュ!」
メガトロンは自身をダウンすることで味方のシグニをトラッシュに置き、相手のレベル3以下のシグニをバニッシュすることが出来る。
この効果が通用するのは、アークゲインがいない今だけだ。アステカの能力でターン終了時にはトラッシュ行きであるテキサハンマをコストにすることで無駄なリソース消費を防ぐ。
「あらあら、急にあせり始めて……余裕がなくなったのかしら?」
「うるさい、まだまだ――! 更に手札からメガトロンをセンターに配置。起動効果でライトのメガトロンをトラッシュに置きラビエルをバニッシュ! ダウンしたメガトロンをトラッシュに置き、ライトにアイアン、センターにモアを配置!」
これで3ライン。ライフを削るには今しかない――!
「キリ、全シグニでアタックして!」
キリは三体の古代兵器を身に纏い、アマテラスへ突進する。刀を構え、その身体を一刀両断する――!
「――ライフバースト、発動」
アマテラスと姫子が、にやりと口元を歪めた。削ったライフクロスがまばゆく発光し始める。
「このっ――」
キリは光を臆せず、二刀目を抜刀し振りぬいた。しかしその攻撃はライフクロスから発せられる光が象る剣によって防がれる。
その後の三撃、四撃――その全てが光の剣によって阻まれてしまう。
「……アーク、オーラ……?」
一撃目に発動したバーストカードは"アークオーラ"。全シグニとルリグをダウンさせるカード。
実質、発動したターンのその後は一撃たりとも攻撃が許されない強力なカードだった。デッキに組み込まれていることは当然予想の範疇だが、このタイミングでくるなんて――!
ライフは5対3、結局ここまで削れたライフは実質2のみ……次のターンからはレベル4シグニの防御を掻い潜らなければならなくなってしまった。
「惨めね。"あの頃"のあなたはそんなに激情したりしなかった。状況を冷静に判断し、常に最善であろう行動を取る。憎たらしいことにあなたはすっかり腑抜けたようね」
私の何を知って、何の義理があってそんなことを飄々と――!
だが、一概に反論できなかった。今のアークオーラだって、アマテラスの能力から予測できたはずなのだ。
アークゲインを警戒しすぎて、勝負を焦りすぎたのかもしれない。
「まあいいわ、その軟弱な心を根っこからへし折ってあげる。出なさい、太陽の巫女アマテラス!」
光の輪がアマテラスを包み込む。光り輝く翼を纏うその姿は、まさしく太陽の巫女だった。
太陽の巫女は手札から白のシグニ、そして白エナを1支払うことで場のシグニを一体手札に戻す能力を持っている。
現在の姫子の手札は4、エナは5という状況だ。姫子の場にシグニはいないため、手札にあるであろう3枚のシグニを展開すれば手札がなくなるためバウンス能力が使えなくなるはず。
さあ、どうでる――?
「私はヴァルキリーを配置、そして起動効果を使ってデッキからシグニをサーチ。更にスペル、ゲットインデックス発動! ダウンしたヴァルキリーをバニッシュして更にシグニをサーチするわ」
ゲットインデックス。場のシグニをエナに送りながら更に白のシグニをサーチする強力なスペルだ。
姫子が選択したシグニはキュアエルとアークゲインだった。
「スリーアウト発動。三枚ドローして一枚トラッシュに送るわ。そしてキュアエル、アークゲイン、ラウンドを場に配置!」
一気に場が三面埋まる。しかしラウンドは天使ではないのでアークゲインの効果――ルリグ以外の効果を無効にする効果が付与されない。
あいつを狙ってなんとかラインを空けるしか――。
「更にゲットインデックスを発動、ラウンドをバニッシュしキュアエルをサーチ、そのまま配置するわ」
まだ持っていたゲットインデックスで場が全て天使になってしまった。
防御も攻撃も、かなり苦しい状況になってしまった。
「エナを1、手札から白のシグニを1支払い、アイアンをバウンスするわ」
1ラインのみ空けられてしまう。相手のエナは5、手札は1。これだけならまだ1ターンは耐えられるが――。
「スペル発動」
そう、私は知らなかった。姫子という人間は知慮深く見えても、その本質は私と同じ強気な、激情型だったということを。
「アークオーラ!」
全エナと手札を使いきり、この局面でアークオーラ。アークオーラは場のシグニの数だけルリグの攻撃回数を追加できるスペル。
シグニとルリグが合わされば計7回もの攻撃が可能な文字通り必殺のスペルカード。ただし追加攻撃する分だけシグニをトラッシュに送らなければならない諸刃の剣でもある。
まさに自身のライフクロスを信頼しての強気な行動だった。しかしこの状況はなんというか、このターンで仕留めなくても、次のターンで仕留められる――そんな気配の感じるアークオーラだった。ここで防御札を使ったりエナを使うのは得策ではないと私は思った。
切り札の一つであるアーツ、アンシエントサプライズは、使わずに取っておくことにした。
まばゆい光の剣を携えアマテラスが攻撃を仕掛けてくる。
空いたラインによる一撃、ルリグの一撃。そしてシグニをトラッシュに送り、追加攻撃の一撃で全てのライフが割られてしまう。
残り、二撃――!
「ふふふっ、その手札にサーバントはあるのかしら!? 鳴海咲ゥ!!」
光の剣がキリの身体を貫こうかという時――。
霧状の精霊がその剣を代わりに受けていた。私が手札に温存し信頼をおいていたガード。サーバントだ。
「――気安く名前呼んでんじゃねぇ、電波女――」
――反撃開始だ。いつまでもこんな女に好き勝手やらせるわけにはいかない。