Selector Unlimited WIXOSS   作:-Y-

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8.看破する魔眼

「由利!? どうして、ここに」

 

 言ってから、私は気づいた。

 "どうして"。というよりはむしろ、"必然"なのではないか、と。

 意図的な、この組み合わせは。

 

「まさかここで……"戦場"で君に会うことになるとは、ロンド」

 

 キリが由利のルリグ、ロンドを見て言った。

 ロンドは髪、肌、服装……その全てが"白"で統一された姿をしている。

 何束も作った細く長い三つ編みに修道女のような頭巾を被り、これもまた容姿と同じく真っ白な機関銃を肩に担いでいた。

 見た目的には不自然な程、統一された白。だというのにロンドというルリグが主とする色は"赤"だというのだから、これほどミスマッチな組み合わせもないだろう。

 

「そうね……"姫"。あたしもあなたと戦う日が来るとは思わなかった」

 

 ロンドは白い機関銃を構え、それをキリに向けることで答える。

 

「おい、どうするナルミ。向こうはやる気みたいだが」と、キリが私を見上げていった。

 

「無論、決まってる――。由利! "猶予"はあと何回残ってる!?」私は対面にいる由利に話しかける。

 

「もう……残ってない。後一回負けたら、私――」

 

 酷く怯えた表情で由利がこちらを見つめる。こちらもあと一回負ければ、ゲームオーバー。

 いやらしい舞台を用意してくれたものだ。浦添伊緒奈という奴は――!

 

「聞いて由利。私ももう二回負けてる。でも私がこのバトルに勝てば、二人で外に出られるんだ。だからここは私に――」

 

「嫌だっ!」

 

「……えっ」

 

 普段は大人しいはずの由利。その由利が、はっきりと私の提案を拒絶した。

 いつもは私の後についてくる、素直な由利が。

 

「三回負ければ、願いが逆転してウィクロスに関する記憶を失う。でも逆に言えばそれだけ。それだけで私達は外に出られるんだよ!?」

 

「それでも嫌なの!」

 

「どうして!」

 

「それは――」

 

 由利が口を紡ぐ。視線は虚空を泳ぎ、口は開きかけども、その先を発しようとしない。

 数秒、そうしている内、由利は何かを決意し拳をぎゅっと握り締める。

 そして私に驚愕を叩き込む。

 

「それは、私が勝っても……二人が出られるから……」

 

「なッ――」

 

 私は戦場の隅、私達を傍観する浦添伊緒奈に視線を向ける。

 にやりと口角を歪める、下衆な笑みが私を不快にさせた。

 

 そう、彼女は知っているのだ。私達に与えられた条件は同じ。どちらが勝とうが外には出られる。

 しかしそれは同時に、どちらかが"負けなければ"外には出られないということを表していた。

 どちらもペナルティに向かってリーチの状態。これはいわば、どちらが自身の記憶を大事にして相手を蹴落とすか――そういうゲームらしい。

 

 でも、だったら。

 私の記憶は"始まって間もない"。それならば、勝利を由利に譲れば良いではないか。私の失うものは、限られて、そして少ないのだから。

 

 そう決めて、私が勝負を放棄しようとした時。

 鋭い頭痛が私を襲った。ちくりと針を刺されたような瞬間的な痛み。ちくちくと、何度も私の頭を刺すような痛みが走った。

 

「うっ……く……ぅ」

 

 私の頭が、私自身が、記憶を放棄することに拒否反応を起こしている?

 そんな馬鹿な。今しがた決めたではないか。自分よりも妹の……由利の優先をするのだと。

 それがどうしてこんな――私は何が不満でこんなに頭が痛む?

 

「おい、ナルミ。大丈夫か……?」

 

 キリの言葉が、私の耳を通り抜けていく。

 私の本能は、何に怯えている? 敗北すること? 記憶を失うこと?

 分からない。ただ、こう告げているのは分かる。

 

 ――鳴海咲に敗北は許されない、と。

 

「いや……大丈夫。それよりも、キリ――」

 

「まさか……やるのか? ナルミ妹と」

 

「やる。本能的に、ここは譲れない」

 

「……くくくっ、いつもは冷静な君が"本能"で動くなんて。まあいい、私はナルミに力を貸す。それだけだ」

 

 二振りの剣を構え、キリはロンドと対峙する。

 そして先手を決めるルーレットが回る。針が指したのは"無色"。つまりキリの色だった。

 

「こっちの先行――! グロウして、テキサハンマとクレイを配置しターンエンド!」

 

 靄を抱えたまま、バトルが始まった。こんなに乗り気のしないバトルは初めてだった。

 そうしてターンが回っていく。お互いが持った状況が状況ゆえに、過剰に攻め合ったりはしなかった。酷く静かなバトル。

 しかし迎える3ターン目、ついに由利が動き始める。

 

「私はカーノとコマリスを配置! さらにコマリスの起動効果発動! ロンド爾改の効果と合わさりカーノのパワーを10000アップ! カーノのパワーが15000を超えたことによってお姉ちゃんの場のシグニを一体とカーノ自身をバニッシュ!」

 

 由利のデッキはルリグのレベルを2で留めるというコンセプト。

 ルリグのレベルは低ければ低いほど、テキスト能力は劣るがアーツカードを多く使用できるという利点がある。

 その中にはおそらくアンシエントサプライズ、もしくはビッグバンといった強力なアーツが含まれているだろう。

 これらを使われる前に、もしくはそのタイミングを読ませないまま勝負を決するしかない。

 

「更に、アンモライトを配置して硝煙の気焔発動! ダウン中のコマリスをバニッシュしてお姉ちゃんのシグニ一体をバニッシュ! そしてターン中に赤スペルを使用したことによってアンモライトはダブルクラッシュを得る! ロンド、アタックして!」

 

 ダブルクラッシュ。一度の攻撃で二つのライフを削る強力な効果。アンモライトというシグニは何かしらの赤スペルを使用することによってその効果を得る攻撃特化のシグニだ。

 私のシグニはこのターン二体バニッシュされ2ラインが空いてしまった。このままではシグニの攻撃だけでライフが3も削られてしまう。

 使用するなら、今しかない。

 

「アーツ、アンシエントサプライズ発動! トラッシュからアステカを復活! 更にアステカの能力によりトラッシュからクレイを復活させる!」

 

 これで空いた2ラインを守れる。アンシエントサプライズは3つのモードから効果を選択するカード。

 本当はパワーマイナス効果を使用して相手シグニを全てバニッシュしたかったが、向こうはルリグ効果によりパワーが上がっているので意味をなさない。ライフには代えられないのでここは防御に徹することにする。

 

「思い切った攻撃するじゃない、由利。そこまでして、どうして」

 

「……負けられないから」

 

「そんなに記憶が大事ってこと」

 

 私の問いかけに、由利は首を縦に振って答える。

 勝ちたいというが、その態度はどこか私に遠慮をしている。それは何故か、私を苛立たせた。

 ぎり、と歯を食いしばりそれ以上会話することなく、私にターンが回る。

 

「ドロー! エナチャージしてレベル4、ジョーカー=フィーラにグロウ! ――ん……?」

 

 ドロー、エナチャージ、グロウ。いつも通りの流れ。だが違和感があった。

 私の視界に映る手札、否……もう一つの手札とも呼べるルリグデッキ。今しがた発動したアンシエントサプライズ。そのすぐ裏に見慣れないアーツカードがあった。

 

「"看破する魔眼"……?」

 

 見慣れないどころか、見たことがないカードだった。当然私はデッキに入れた覚えはない。

 

「まさか――」

 

 ふと、伊緒奈の方を見る。「やっと気づいたか――」と、言わんばかりのいやらしい視線でこちらを見ていた。

 間違いない、このアーツを私のデッキに入れたのは伊緒奈だ。だが、その意図はなんだ? そしてこのアーツの効果は……?

 

「対戦相手の……思考を読む?」

 

 超能力じゃあるまい、馬鹿馬鹿しい。カードとしての効果を果たしていないじゃないか。

 

「こんなもの――」

 

 捨ててやろうか。そう考えもしていた時、少し前に戦ったカグヤというルリグの力を思い出す。

 "あれ"は確かに私の思考を読んでいた。私が行うプレイングを、全て言い当てた。

 それに、伊緒奈が何の考えも無し、ただの悪戯でこんなカードを私のデッキに入れるか?

 いや、違うはずだ。セレクターバトルにおいて、現実的な考えなど捨てたほうがいいのかもしれない。

 

 このカードは、この効果が本当だとしたら。

 今の不可解な由利の態度について、何か分かるかもしれない。

 

 意を決し、私はアーツを発動させた。

 

「アーツ発動! 看破する魔眼!」

 

「――ッ! そのアーツは!?」

 

 由利が酷く驚いた表情を見せた。まさか、このアーツの存在を知っているのか? 私でさえ知らなかったこのカードの存在を?

 疑問に思うこと一瞬、視界が急に暗くなっていき、私の五感がじわりじわりと、失われていった――。

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