Selector Unlimited WIXOSS   作:-Y-

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9.少女の心、その過去へ

――遡る時、ずっと昔――

 

 

「ほ、ほんとにカードが動いた……喋った! 夢じゃない……よね? 本物なんだよね?」

 

 鳴海由利はカードに向かって語りかけた。

 傍から見れば異様な光景。しかし彼女には見えていた。"ルリグ"という、その存在が。

 

「どうやらあなたは"選ばれてしまった"みたいね……。ま、これからよろしく」

 

 ルリグはあっけらかんとした態度で言った。カードである少女はこんなこと慣れっこだといわんばかりに。

 

「う、うん、よろしくね。私は鳴海由利っていうの。あなたは?」

 

 由利は持ち前の明るさで、ルリグに語りかける。

 

「裂雷(ワケイカヅチ)……。雷を裂くと書いて、そう読む。よろしく、セレクター」

 

 こうして出会ったルリグとセレクターは願いをかけた戦いに身を寄せることになる。

 それが偽りの希望とも知らずに――。

 

 

「とどめ! 裂雷でアタック!」

 

「……これで三勝、か」

 

「ありがとう、あなたのおかげだよ。いつになったら願いが叶うのかなあ」

 

「君の願いは、姉の苦しみを癒す――だったか」

 

「うん、ほんとは自分の力でやるべきなんだけど。そうも言ってられなくて……"これ"にすがるしかないの」

 

「……まあ、君らの仲を見ていれば察しはつくが」

 

 その頃、鳴海姉妹の日常は荒れていた。いや、姉の咲が……というべきか。

 母親、父親ともに残された姉妹。妹は現実を受け入れたが姉はそれを受け入れようとはしなかった。

 部屋に閉じこもり、ただじっとしている。ただ、家族の優しさに飢えている。だというのに、妹の善意を全て跳ね除けていた。

 ――違う、そうではないのだ。姉は、存在している妹のことはよかった。欲しいのは、失われた両親からの暖かさ。

 

 妹が近づくと、姉は荒れた。物を投げつけ、壊し、破り――いつまでもいつまでも、ただ喚き散らす日々が続いていた。

 それはまだ、この時も――。

 

「姉がそうなった原因は両親の他界だというのに、君の願いは両親を生き返らせる――とか、そういうことにはならないんだな」

 

「お母さんとお父さんがいなくなったのは、事実だから。そういう、事実。もし生き返らせることができたら――それは、素敵なことだと思う。でも、それは私にとって良いことなのかな」

 

「良いも何も、死というのはすべからく悲しいものだ。それをなかったことにするのは良いことなんじゃないのか」

 

「……仮にね、願いが叶って両親が生き返ったら私だって嬉しい。でも、それが叶ってしまったら……人の命って、人生って、何? って、私の価値観が壊れてしまう気がするの。「あ、また誰か死んじゃった。でも生き返らせられるからいいやー」……なんて。無感情で味気ない、そんな自分になってしまうかもしれない。そうならない自信がない。だからこの願いを選んだ。両親が死んでいなくなったことは事実。だから、それを受け入れて前に進んでいくんだ。私はもう、そうし始めている。お姉ちゃんと二人で歩いていくために、その一歩目だけ、力を貸して」

 

「君は……そんなこと、考えて願いを」

 

「自分のための願いが叶ってしまったら、きっと私は我が侭になると思う。手に入らない物があったり、思い通りにいかないことがあったら、拗ねてしまう人間になる。願いは自分のためじゃない、誰かのため、大切な人の為に私は使うよ」

 

 裂雷は驚かされた。中学生そこらの少女が、そんな考えを持っているとは。

 セレクターバトルとは、欲望と絶望……それらが渦巻く黒い背景を持つ戦い。まさかそれほどの想いと、考えで戦っていたとは――と。

 

「――やれやれ、君に隠しておくことはもうできそうにないな。良心の呵責で死ねそうだ」

 

「……? どういうこと?」

 

 そして裂雷は話した。セレクターバトルの秘密。

 三回負けたときのペナルティ。そして、夢限少女になるというのはどういうことを意味するのかを。

 

 

「そんな……じゃあ、今までしてきたことって」

 

「恨んでくれていい。私は人間になるために君を騙してきた。が、それが免罪符になるとは思っていない。君を、同じ立場に引きずり込もうとしたのだから」

 

「……いや、恨んだりなんかしないよ。むしろ感謝してるくらい。人間になるためにセレクターを偽り続ける。あなたにはそれが出来たはず。なのにしなかった。私に本当のこと話してくれた」

 

「……君には適わないな。もう、バトルはしないだろ?」

 

「そうだね、私とあなたのセレクターとルリグ、その関係も……終わり」

 

 そういうと由利はカード……裂雷を持ち上げた。

 

「ああ……破り捨てるなり、燃やすなり……好きにしてくれ」覚悟を決め、目を閉じ裂雷は言う。

 

 それを受け、由利はカードを持つ手とは逆の手を裂雷に近づけ――。

 

 

 

 その頭を、指で小突いた。

 

 

「痛ッ――!?」

 

「そんなことするわけないでしょ。確かにセレクターとルリグの関係はおしまい。だったら私達、次は友達でしょ?」

 

「友達……」

 

「そう、友達。あ、そうだ! 友達だったら「君」、「あなた」なんて呼ばないよね。お互い呼び方変えようよ」由利は屈託のない笑顔で言った。

 

「呼び方……か。じゃあ私は君を由利と呼ぼう。由利は私をなんて呼ぶんだ?」

 

「うーん……そうだなぁ……。裂雷(ワケイカヅチ)だから……ワケちゃん? イカちゃん? んー……」

 

「どこで区切ってもしっくりこない呼び名だな……」

 

 二人はうーんと唸り考える。そもそも裂雷という名前が、呼び名には適していないのだ。それも、女性の名前に。

 

「そうだっ、裂雷は雷を裂くって意味なんだよね?」ぽん、と手を叩き由利が言った。

 

「ああ、そうだ」

 

「だったら名前じゃなくてその由来の方を取って、"サク"って呼ぶのはどう? 女の子っぽいでしょ?」

 

「サク……か。ああ、良いと思う。――ん? だがこの名前は確か――」

 

「えへへ、気づいた? そう、サクは私のお姉ちゃんと同じ名前だよ」

 

 そう、サクというのは由利の姉である、鳴海咲と同じ名前だった。

 

「ふふ、なんか不思議な気分だ」

 

「うん、私もっ」

 

 由利が真実を知っても、二人は仲違いすることなく笑いあった。

 

 ――こうして、一人のセレクターが戦いの場から身を引いた。

 だが、由利の……"鳴海姉妹"の物語はここから一変することになる。

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