真夜中。誰もいない夜の町にイリナとゼノヴィアをメンバーに加えたオレと一期は第一回探索が開始されようとしていた。しかしここで問題が起きた。
「んで、なんで木場きゅんと子猫ちゃん、正道とクロスロードがいるんだよ」
「僕も聖剣の破壊には大いに賛成だからね」
「……先輩を一人にさせないため」
「お前の監視だ変態」
「木場事情を知って参加しようと思った」
なぜコイツらが……と疑問に思ったときゼノヴィアが答えた。
「四人だけじゃ物足りないと思って」
「私は反対したよ。だけどどうもやめようとする気配はないし、何よりグレモリーの騎士さんが、ね……」
どうやら木場きゅんには個人的な教会の事情があるようだ。どんな事情か聞いてみると聖剣の使い手を作り出そうぜと感じに幼い子どもを集めて人体実験していたらしい。そしてその最後には毒ガスで木場だけ残して抹殺というバッドエンドらしい。
なるほど。だから聖剣に憎しみがあるわけね。
「ま、復讐劇したきゃ好きにしろ。オレはそこには関与するつもりはないし」
「お前はなんとも思わないのか!」
「何を思えと? 木場の悲しみは木場自身のものだ。同情したところでなんにもならねーよ」
「お前……!」
正道うるさいなー。なんでコイツはいるんだ?
同情したところでできることないだろ。その人の代わりになれるわけないし。
てか、クロスロード。お前、さっきからビビりまくりだろ。そう指摘するとクロスロードは言った。
「相手は聖剣なんだぞ! 悪魔が触れれば消し飛ぶんだぞ!」
「あ、そなの? んじゃ、お墓の代わりに練り消しで弔ってやる。大丈夫。自信作だから」
「ひでーよお前!」
男に厳しいのが一誠くんです。まあそれはさておき、探索を三つに別れて始めた。……なぜか神父の服装ですることになったが。
聖剣探して一週間。未だに見つからないコカビエル。そしてオレは今日も麻婆を食っていた。
「いやなんで麻婆食ってんの!?」
「クロスロード、腹ごしらえは必須事項だぜぇい。それに神父と言えば麻婆。シスターと言えばカレーだ」
「どこの外道とインドだよ! てか真面目にしろよ!」
「オレはいつだって真面目だぜ。ほら、この麻婆も激辛なんだぞ」
「どうでもいいわ! てか、目がヒリヒリするから近づけるなァァァァァ!」
どうやら愉悦社作の激辛麻婆『コトミネさん』が不服なようだ。ウマイのに。ドライグも『辛いがくせになる』と絶品なのに。
「にしても静かだな。まるで人払いが張られてるような……」
その瞬間あとに何者かが剣を振り上げて飛んできた。白髪で悪人面。そして神父服と言えばヤツだ。
「神様の導きってなァ!」
「………………あれ?」
頭から一閃されたが、ダイヤモンドよりも固いと言われたISSEIヘッドの前では無力だった。てか、フリードじゃねーのかよ。白髪だけど、なんか違う。
「なんですかなんなんですかァ、お前の頭は!? 聖剣で斬れねェってどういう頭だァ!」
「普通にかてー頭だけど? てか、お前誰? ここはセオリー通りにフリードさんだろ」
白髪少年はクケケケと笑い始めた。するとスタッと彼の隣に降り立つ少年がいた。フリードさんだ。
「なァ、こいつがそうなんだろフリードぉ! お前が言ってた男ってのはよォ!」
「はい、この人ですよ。てか、兄さん。その口調やめてくれませんか。見た目が似てるから自分の風評がひどくなる一方なんですよ」
「知るかよ無能ォ! それはテメェがなんとかしろよォ」
フリードさんが心底疲れたようなため息を吐いていた。目からわかる。たぶん、フリードさんの第二の心労はこのお兄さんだろうなぁ。
「俺様はレータ・セルゼン。この愚弟のお兄様だァ。テメェらを神の名の元にイカせてあげるゥ!」
「ウゼー。キモー。フリードさん、なんかドンマイ」
「…………その言葉だけでも救われます。うぅ、なんでハロワに成功したら離れたかった兄さんがいるのですか。なんで兄さんに聖剣を授けたのですかあのじいさん……」
同情しているとまたレータが聖剣を振るってきた。今度のはめちゃくちゃ早い。加速度の力を考えればオレの皮膚を斬り裂けるくらいだ。
何もしてなければの話だが。
オレは籠手を出して受け止めると印を組んだ。
「影分身!」
「んな、分身ですかいなァ!」
二人の影分身がレータに向けて籠手の爪を降り下ろした。するとピタリと爪が止まり、そのまま後方へ飛ばされた。
「そうらァ!」
「くっ、こっちもか!」
押し合っていた籠手と剣が押し負けて自分も後方へ飛ばされた。オレは着地したとき影分身は螺旋丸の準備に入っており、レータに向かっていった。
ついでに一度目の倍加を螺旋丸を持つ影分身に譲渡し、レータにそれを放つ。
「ぐ、おっと。なかなかの力だが『反射』には意味ないぞォ!」
なんと螺旋丸が弾き飛び、影分身はそのダメージで消えた。今の感じとなると押し負けたってことだろう。現にオレは三回共後方へ押し返された。
「反射、か……ドライグのライバルが使える力だったな」
『ああ。だが、あの人間がアルビオンの使ってるヤツより弱いから、相棒なら負けないはずだ』
仙術モードと禁手なら負けないかもしれないが。今は一期達に知らせるのが先決だ。オレは火遁の印を組み、影分身は風遁の印を組んだ。
(『火遁・灰塵風』!)
(『風遁・風流波』!)
風遁はただ火を強めるだけの術で、火遁は熱を帯びた灰を出す術だ。レータを呑み込んだ灰だったがヤツの斬風で吹き飛ばされた。
「無駄無駄ァ。この程度でボクちんがやられるはずがないッショ!」
確かに倒せるとは思ってない。しかしこれで
グォォォォォと唸り声が聞こえた。一期がそろそろクルのだろう。
「ゲッ、何か呼びやがったなあの灰で!」
「ご名答。七名のオールスターでぶちのめしてやる」
「そうはいかの金の玉!」
ボフンと閃光弾で視界を遮り、逃げ出すレータとフリード。逃がすかよ。オレは視界が回復してない引っ張って走り出す。
一期も上空から追っていたため、逃げられはしないはずだ。たどり着いたのは使われてない遺跡みたいな公園だ。そこにはフリードがブツブツと鬱になっており、レータはオレの姿を見て舌打ちしていた。そのとき一期が龍化を解いてみんなを下ろした。
「チッ、しつこい男は嫌われるぜェ」
「しつこい女もだぞ」
オレが籠手を構えていると知らない白髪のじいさんが二人の背後から現れた。……どうでもいいけど、かの有名なアンパンヒーローの創造者と同じ髪型ってどういう神経だコイツ。
「レータ、なんだねこの者達は」
「愚弟の知り合いとお供でさァ。あとエクソシストもいやすぜじいさん」
「ククク、教会の追手か。はじめまして、わたしがバルパー・ガリレイだ」
アイツが皆殺しの大司教ねぇ。ただのジャムのじいさんにしか見えねーな。
「匙、レータを!」
「OK、任せろ!」
クロスロードがレータの手に黒いラインのようなもので捕まえた。あれはセイクリッド・ギアか?
「俺の
へえ、そんな力が。それにあのセイクリッド・ギア、龍王が眠っているな。これは面白いことがありそうだ。
するとレータはバルパーの助言を聞いて、聖剣の因子とやらを高めてラインを斬った。なるほど、パワーアップか。
レータはまた閃光弾を使い、今度はバルパーと共に消えた。
「待て!」
「追うぞイリナ!」
「ええ!」
木場きゅんとエクソシストの二人がバルパーを追いかけ始める。悪魔組も追いかけようとしたとき、魔方陣が浮かび上がった。そこから現れたのは彼らの主である二人だ。
「さてこれはどういうことか説明してくれるかしら?」
ドドドドドドドドドッッッ!!!
と背景に出ていたのは気のせいではなかったと思う。
翌日、正道とクロスロードの尻叩きを見守らず、イリナを追いかけたがどうもバルパーに逃げられたらしい。
逃げ足が早いことだ。んで、木場きゅんは結局学校にも来なかったらしい。やはり根深いのかねぇ。
「兄様、如何なさいますか?」
「如何って?」
「あのグレモリーの騎士です。放っておいてよろしいのですか?」
「一期は何が言いたいの? オレに何かしてほしいの?」
はい、と一期は答えた。はっ。まさか木場きゅんに惚れてる!?
なんてこった! まさか一期があのイケメンに奪われるとはぁ!
「兄様、私はあの騎士を慕っておりません。私は兄様オンリーです」
「それを聞いて安心した。じゃあ、オレに何が言いたいんだ?」
「……かつての兄様をあの騎士から感じます」
あー……復讐者がしている目ね。なるほど、一期はオレから感じたことをあの騎士からにも感じている。
つまり重なっているんだな今の木場きゅんと。
「復讐者だった兄様だからこそ、あの騎士を説得できるかもしれません」
「復讐はやめられないよ?」
「いえ、私が考えてほしいのは――――」
一期の話を聞いてオレは笑みを浮かべた。ああ、やっぱりコイツは親父の娘だ。見ず知らずのオレを引き取り、復讐を果たしたこんなオレに気にかけてくれた。
一期がオレに求めているのは木場きゅんの救いだ。復讐はやめられないが、ヤツに言えることはある。オレは席から立った。
「わかった。オレのできることをしよう」
「兄様……」
「ま、らしくないことをするけど」
だから許してくれよ? こんなオレの物語を見てくれるみんな。
「……なぜここに?」
「オレの感知能力をナメるなぜよ」
オレが来ていたのはあの寂れた教会だ。レイナーレを滅ぼした場所に木場はいた。やはり目は濁った復讐者の目だ。
「木場、お前は聖剣が憎いのか」
「……そうだね。同志を皆殺しへ導いたバルパーだけでなく、その根源である聖剣が憎いよ」
「ふーん。ま、明確な対象がいることは良いことだ。無差別だったら殴ってたところだが」
「話はそれだけかい? さっさと僕の前からいなくなってよ」
これは厳しいお言葉だって。しかしオレはまだ言いたいことがあった。
「お前の復讐は否定しない。むしろ果たしてほしい――――だけど木場。お前は復讐を果たしたらどうするつもりだ? その先を考えたことがあるか?」
「………………ないね。僕は一人だ。そんなの考える必要はないね」
「いや必要だ。どうせお前は自殺とか考えてるだろ? んで、グレモリーさん達を悲しませる」
「ッ……それは」
「違うのか? 違うなら否定してみろよ。そもそもお前の考えは単なる独りよがりだ。同志のためとか言ってるけど、その同志はお前に復讐しろって言ったのか? お前にそんな辛いことを望んだのか?」
「黙れ……」
「同志を、仲間に言い訳に使うなよ。お前はただ仲間が殺されたことが憎くて晴らしたいだけの偽善だろ」
「黙れ!」
木場はオレの胸ぐらを掴み怒鳴った。
「君に何がわかる! 一人生き残った僕が、仲間に生かされた僕はいったい何をすればいいんだ!」
木場は涙を流しながら口に出した。
「僕より聖歌が上手い子がいた。僕より信仰のある子がいた。僕より明確な夢があった子がいたんだ! そんな子より僕だけが生き残ったんだ! 今を幸せにのうのうと生きてる君に何がわかるんだよッ!」
木場には劣等感ばかりだった。自分なんかより生きてほしい子どもがいた。だから生きることが辛かった。
なんでこんな自分を。
なんで自分だけ生き残った。
それが木場を苦しめる元凶だ。まあオレにはわかんないな。木場の苦しみは木場のモノだ。
オレが語ったところで単なる偽善だ。説得力もない上部だけになる。
だから実際にあったから言える言葉を出せばいい。
「それはオレの本当の両親が悪魔に殺されたことをわかって言ってるのか?」
「あ……ご、ごめん」
「謝って済む問題じゃないが、オレにとってはもはや過去だ。どうでもいい。別に悪魔のことが嫌いわけじゃねーし」
「……復讐をしたのかい? その悪魔に」
「した。んで、理解した。――――復讐の先にはなんにもないんだ」
復讐こそが生きがいだった。
復讐こそがオレの空っぽな心を満たせるモノだった。
だけどそれが果たされた先にはなんにもない。未来も希望がない。何がしたいのか、何を求めればいいのかがオレにはわからなかった。
「だけど、そのときに親父がいた。親父はオレを本当の家族として迎え入れてくれた。なんにもない世界に光をもたらしてくれた」
だからこそ、オレは家族を大切にする。友達を大切にする。
なぜならそれこそオレの光なのだから。
「復讐者の先輩として言っておくよ。お前の復讐は本当に同志のためにあるのか、そしてお前は本当に一人ぼっちなのかよく考えろ。
――――でないとお前はずっと誰かを悲しませるだけだ」
ポケットに手を突っ込んでオレは教会から出ていった。外は曇天の空。何か不穏をもたらす晴れない空だった……。
「あ。イッセーくん、ちょうどよかった。ちょっとグレモリー家の人とコンタクトできるようにお願いしてくれませんか」
「……なんでフリードさんがオレの家にいるんだ」
「…………またリストラされました。財政難で」
辛い世の中に全国のフリードさんは泣いた。リストラされる十代の若者って……泣けてくる。
がんばれフリード! 負けるなフリード!
十代でも就職できるよきっと!