銀髪の長い髪の少女、ミラジェーンは妹と弟を連れて森の中をうろついていた。
無論、ここは子どもが来るところではない。何せ、猛獣がちらほらいるという危険極まりない場所だ。
とは言え、この姉妹兄弟はやむ得ぬ理由で放浪していた。彼女達の魔法、『接収』という魔法は自分達が住む村では異形の力だった。
そのため村から追い出され、このような地に放浪することとなった。
ミラジェーンは妹と弟を守るためにも気が気でいられない警戒心を周囲に向けていた。
(来るなら来やがれ……! 私は絶対守ってみせる……!)
当時八歳とは思えぬ勇敢で家族想い。それは他者から見ればなんと、勇気ある戦士だろうか。
しかしそうとも思えない輩はいる。例えば、彼女達から死角の草影に潜む獣とかだ。
その獣、紫の狼はミラジェーンの弟であるエルフマンに飛びかかる形で襲いかかってきた。
「しまった……!」
妹、リサーナの悲鳴。雄叫びのようにあげて「間に合え」という思いを乗せて手を伸ばすミラジェーン。
しかし空しくもそれは間に合わず、エルフマンは押し倒され――――
「邪魔」
押し倒した狼は犬の悲鳴のような声をあげて、顔面から蹴り飛ばされた。ヤクザキックである。
木に叩きつけられ、痛そうに蹲っていた。蹴り飛ばしたのはミラジェーンより一つ下の少年だ。
焦茶でヘアーカラーで瞳は日本人特有の黒目だ。目は死んだ魚のように輝きはない。
絶望。無気力。悲嘆。
ミラジェーンは彼から感じたのは負の塊だった。
狼は少年を威嚇してきた。しかし彼はものともせず、エルフマンの隣にある石を拾う。
「ミッションコンプリート。よし、帰る」
「ちょっと待てェェェェェ!!」
まさかの帰投宣言にミラジェーンはツッコむ。
「ここはか弱い乙女を助けるものだろ!? なぜ帰る!」
「え、オレの使命はこの親父に投げた石を拾うことだ。それ以外はどうでもいい」
「なんて非人道的!」
「いや普通そうだろ。猛獣に立ち向かえってどんな鬼畜だよ」
無力な者が絶対なる強者に立ち向かう。それも見ず知らずの女の子のため。
それは明らかに無理ゲーで無謀だ。それで助けたからと言ってその者が得るものは何もないのは悲しすぎる。
少年の言い分はそんな感じである。
「GAAAAAAA !!」
しかし空気を読まないのが猛獣。狼は彼に襲いかかり、肩に噛みついた。
リサーナはまたもやショッキングな光景に悲鳴をあげ、バタリと失神してしまった。
肩に噛みつかれた少年は何も抵抗せず、ジーとトラを見ていた。それもそのはず、彼の肩は砕けることも血を流すこともなかった。
「…………鬱陶しいな。殺すか?」
彼から感じた恐怖に狼はバッと口を離したが、首を掴まれる。もはや手遅れだった。
狼は早く勘づくべきだった。彼に蹴られたとき、または噛みついた五秒間に。
十五秒くらい噛みつかれた少年はもはやトラを見逃すつもりなんてなかった。そこから先は処刑の執行という未来しかない。
「『螺旋丸』」
少年の右手にオレンジの球体が浮かぶ。ソフトボールくらいの大きさの球体をゆっくり顔に近づけ、狼に触れた。
直後、狼は螺旋回転し、ぶっ飛んだ。血を撒き散らしながらパーンと遠くで破裂した。残酷描写な死を迎えた狼を確認してから、少年は周囲を見回す。
「まだいる……」
「ッ!?」
狼の群れ。十頭くらいの狼が少年達を囲んでいた。エルフマンは震えながらもリサーナを守るように抱え、その盾にミラジェーンはなる。
対して少年は威嚇している狼を見て呟いた。
「邪魔だ……もうみんな邪魔。邪魔……じゃま、ジャマ……」
「お、オイ……?」
少年の目が濁っていた。何かの狂気を秘めていた。
少年は十字の印を結ぶと彼に似た少年が煙と共に現れた。
(な、なんだこれは……!? 分身、なのか……?)
「もう鬱陶しい……殺す。みんなみんな死ね」
少年は襲いかかる狼と激突した。しかしそれはワンサイドゲームである。
襲いかかってきた狼の一匹を腕力で頭部を砕いた。肉を散らし、グロテスクな姿を視界に入れたミラジェーンはエルフマンの視界を覆って、目を瞑る。
悲鳴か断末魔かわからない。けれど全てが狼の死に際の叫びだった。
逃げ出す狼もいた。しかし彼は見逃すつもりは一切なく、逃走した狼も殺す。
最後に残ったのは小さな狼だが、そいつを天にあげ彼は口から吐いた火炎で焼却した。
ミラジェーンが目をあけたとき、視界に写ったのは翼を広げ、火を吹く少年の姿。その姿を見た彼女は呟く。
「ど、ドラゴン……?」
少年が龍と知ったとき、ミラジェーンは緊張が切れて倒れた。
ミラジェーンが目を覚ましたとき、どこかの宿らしきところにいた。ここがどこなのかわからないし、何より知らない場所だ。彼女は警戒心を顕にしていると、先程の少年が頭にタンコブを出してぼんやり天を見上げていた。
何があったんだろうか、と彼女が思っていると小さな老人が話しかけてきた。
「目を覚ましたか」
「ッ、誰だ!?」
「ワシはマカロフ。ここのギルドマスターじゃ。んで、このタンコブを出してる少年がイッセーじゃ」
「……じいちゃん、もういい? さっさと兵藤幸田の修行をしたい」
「たわけ。ヤツは今忙しい身じゃわい。その上、この少女と少年達をスルーしてこようとは何事か」
「どうでもいい。オレは早く強くなりたいから、他人はどうでもいい」
なんと薄情だろうかと彼女は思う。何様なんだと言いたいが彼女は妹と弟がどうなったのか気になってマカロフに聞いた。
「リサーナとエルフマンは……私の妹と弟はどこだ?」
「おぬしと一緒じゃ。ベッドで寝てるわい」
「よかった……」
安堵の息を出すミラジェーンにマカロフは「うむうむ」と頷く。一誠はそんな彼女に首を傾げる。
「大事なのか?」
「当たり前だ! 肉親だぞ!」
「肉親……血の繋がる家族……ブツブツ」
「オイ、聞いてるのか?」
「聞いとらんわい……」
一誠はブツブツと呟き、自分だけの世界に入っていた。おかしなヤツだなとミラジェーンは思うが次の言葉にギョッとした。
「家族……コロサレタ。父さん、母さんを目の前で……ユルサナイ……コロス。ゼッタイゼッタイにころしてやる……! どこまで殺し尽くして――痛い」
「いつまでもトリップしとらんで食事を持ってこんかい」
「……わかった」
一誠はそう言って部屋から出た。残されたミラジェーンと嘆息を吐くマカロフは彼女に説明した。
「あやつの父親、母親を目の前で殺されてな。あんなふうに人格が壊れてしまったんじゃ……」
「……そうか。だから……力を」
もう失いたくないから力を求める。それが大切なものを失ったときに思うことだ。
しかし一誠は誰が父と母を殺したのか知ってしまった。それはもう止められまい。彼は両親を殺した者を復讐するまで止まらない。
「ままならないな……アイツも」
「そうじゃのう……」
彼の復讐が果たされるのはその一年後であることをこのとき、彼女とマカロフは気づいていなかった。
マカロフのギルド、『フェアリーテイル』に入ったミラジェーンとエルフマン、そしてリサーナはクエストをこなす日々が始まった。
その一年後。ときどき、一誠が顔を見せたときミラジェーンは挨拶代わりに飛び蹴りしてくる。
それをいつも避けて嘆息するのが一誠の日常になってしまった。
「毎回、いきなり危ない」
「うるさい! この私の舎弟にしてやるのに断るとは何事だ!」
「オレより弱いヤツの舎弟にはなりたくない」
「んだとゴルァ!」
「悔しかったら約束通りオレを倒せ」
「上等! 私が強いってことを証明してやらぁ!」
ミラジェーンの手が悪魔の腕となり、その拳が当たる直前、彼の拳がぶつかり合う。
「相変わらずのゴリラ女」
「ゴリラとはなんだゴリラとは!」
「うほうほ……」
「ムッカぁぁぁぁぁ! 絶対殴る、泣いても殴る、謝っても殴るゥゥゥゥゥ!」
キシャーとキレたミラジェーンと一誠の喧嘩――という名のじゃれあいが始まった。……ミラジェーンが完全に遊ばれる立場であるが。
「相変わらずだねぇい……」
「コウタよ、どうじゃ。彼の様子は?」
「ん、まぁ最近はミラジェーンの話だな。アイツなりにも気に入ってる節があるしな」
「ほほう、脈ありかのう?」
「いや単に遊び友達程度」
「ミラジェーンもまだ遥か遠いのぅ……」
このときの一誠に好意を持たれていたのは桃亞、一期、愛莉という三人のライバルが異世界にいた。
一人は人間だが残りは人外である。
「ま、一誠がどんな選択するのかが楽しみだな」
幸田は彼の将来がどんなふうになるのかを楽しみながら軽くあしらわれてるミラジェーンと呆れた一誠の打ち合いを見ていた。
あれから時が経った。少女は大人になり、少年もまた立派になった。最愛の妹を亡くし、悲しんだ彼女。そしてトラウマを背負ったその弟。
弟はそのトラウマを克服したが未だに姉であるミラジェーンは越えられていない。
彼女の絶望は彼女自身の問題だ。それを知る少年は何も言わない。
しかし彼は妹が生きている可能性を言った。それは希望だ。もしそれが偽りなら、彼女はまた絶望するだろう。
(まあそのときは一誠を貰うけど)
奴隷でも下僕でもなんでもなる。それが彼の覚悟。低い可能性でも、大事なものを守るためなら自分をレートに出す。それが兵藤一誠という男だ。
(覚悟しなさい。私は並大抵じゃ満足しないわよ?)
ふふ、と笑いながら舞台でナツと一緒に歌う一誠がエルザの投げた椅子に巻き込まれるところを見た。
そのときプンスカしたイッセーが『洋服破壊』を使って女性のみなからず男の衣服を破壊して、タコ殴りにされたのはギルドしか知らないお話。
そして最後に一誠である。
あと、しばらく休載します。原作知識がうろ覚えなので。
すみませんm(__)m