ただし厨二というわけでなありません。彼の本質は天ヶ瀬千香に似ています。人形ではありませんが。
それから長いですので注意してください。
アーシアと遊ぶこととなったオレはまず昼食にハンバーガショップへと訪れた。驚いたことにアーシアはこういう店に訪れたことがなく、初めてらしい。
そのためハンバーガの食べ方ですら知らなかったそうだ。おまけにゲームセンターにも行ったことがないらしく、彼女にとってオレの遊びは初めてばかりの楽しいものだったと思えた。
その証拠に今、ゲーセンでゲットしたラッチューくんを抱いてニコニコしている。
「ん? ありま」
一人の男の子が転んで泣いていた。どうなら擦りむいて泣いてるようだ。そんな男の子に、アーシアはそこへ駆け寄り暖かな光を傷口に当てた。
(あれは……?)
『セイクリッド・ギアだな』
なるほど。だから堕天使は目につけたというわけか。男の子は傷が治り、母親の元に駆け寄った。母親は怪訝な顔をしてペコリと頭を下げ、子どもは笑顔でお礼を言っていた。
「ありがとうだって。よかったなアーシア」
「はい! ……イッセーさんは驚かないのですか?」
「オレもおんなじのあるから。アーシアはその力をどう思っているんだ?」
「神様に送られた大切な力です!」
神様、ね……。オレは神様がいたら文句言いたいな。
まあオレはアーシアがなぜ癒しのセイクリッド・ギアがあるのに教会ではなく堕天使側についたのか聞いてみた。
彼女は親に捨てられ、教会に拾われた少女だった。彼女は友達もおらず、ただ孤独だった。
あるとき、彼女はセイクリッド・ギアを発現させて教会の者を癒した。
その功績に瞬く間に彼女は祭り上げられ、『聖女』として崇められた。彼女は人の役に立てたことに大いに喜んだが、孤独には変わりなかった。
そして転機が訪れた。教会の前に倒れた悪魔をアーシアは癒してしまった。それにより手のひらを返したかのように教会はアーシアを異端者として扱い、『魔女』と呼ばれるようになった。
(……ドライグ、もしかして)
『セイクリッド・ギアのバグ……だな。神が死んだことによる影響だ』
やはりか。だが、アーシアはこの事実をまだ知らないし、彼女は神様が与えた試練と思っている。オレはそんなアーシアの手を握る。
「アーシア、別に泣いたっていいんだ。今のお前……泣きそうだぞ」
「大丈夫です。わたしは……平気ですから」
「平気なものか。自分を必要としていた人達に手のひらを返されて平気なものか」
それがどんなに辛いことか。
それがどんなに悲しいことか。
オレは続けて言った。
「泣くことは悪いことじゃないんだ。弱さは見せてもいいんだ。そうしないと人の心っていうのはパンクするんだ。だからみっともなく、醜く泣いてもいいんだ」
「……ですが」
「もしアーシアが泣いたなら、オレはお前よりみっともなく泣いてやる。
もしお前が笑えないときはオレが笑顔にしてやる。
だって、オレはお前の友達だからな」
知り合ってまだ日が浅いがオレはアーシアのことが好きみたいだ。恋愛的な意味じゃないが友達として大好きだ。
だからオレは彼女のために動こうと思える。
「わたし……日本語とかしゃべれません」
「オレが教えてやる」
「文化とか知りません」
「問題ない。これから覚えていけばいい」
「わたし……友達とどう関わっていけばいいのかわかりません」
「今日みたいに遊べばいいんだよ。楽しければそれでいいんだよ」
だから、とオレは続けて言った。
「オレのダチになってくれよアーシア。ずっといてくれよ」
「ッ……うぅ。…………はい!」
アーシアから伸ばされた手をオレは握りしめる。アーシアの笑顔にオレは少し照れくさくなる。
「無理よ」
その笑顔を否定するかのように堕天使が舞い降りた。オレはアーシアの前に立ち、『赤龍帝の籠手』を出す。
「またお前かレンコン」
「レイナーレよ化け物。まあいいわ。あなたよりもその子に用があるのよ」
「セイクリッド・ギアか? お前には勿体ないくらいの高性能だ。他を当たれ」
「生意気な
ちょっと待て。今この女なんて言った? トカゲだと。つまりオレのことを?
と、そう考えているとレイナーレがオレの足元に札を張り付ける。オレを閉じ込める術が発動し、結界に覆われた。
『相棒、これは何者かの結界だ! しかも対ドラゴンの!』
「ッ! 油断した。この女がそんな力を!」
札の力でオレは閉じ込められ、セイクリッド・ギアで殴るが弾かれた。
「その結界は協力者が提供してくれたものよ。他にもあなたを殺せる腕輪があるのよ」
レイナーレが取り出したのは嫌な気配がする腕輪だった。おそらく無名のドラゴンスレイヤーのある腕輪だろう。アスカロンほどではないにしろ、あの力を使われればオレは重傷だ。
「さあアーシア。帰りましょ」
「嫌です! あそこには帰りたくありません!」
「そう。なら、彼がどうなってもいいのかしらね」
レイナーレはそう言ってオレに槍を投げた。
「ぐがァァァァァ!」
「イッセーさん!」
「これでわかったかしら? さあどうするのアーシア」
ッ……このアマぁ! オレをダシにしてアーシアを脅すなんて!
結界につい力が籠る。しかしびくともしない。そして遂にアーシアは何かを決意したかのように、オレに話しかけた。
「イッセーさん……ごめんなさい」
「行くなアーシア!」
「大丈夫です。きっと戻って来ますから」
アーシアはそう言ってレイナーレの転移に呑み込まれた。残されたオレは怒りのあまり
「お、おオォォォォォ!!」
『相棒……』
ドライグの悲しそうな声が聞こえたがオレの耳には届いてなかった。
家に帰ったオレは親父にこのことを話した。家にいた愛莉や桃亞、一期やお袋もその話を聞いてしばらく無言のままになる。
「……つまり堕天使に喧嘩売る――――ってことか?」
「ああ。さすがにキレた。もう激おこぷんぷん丸だ」
「おー、怒ってる怒ってる」
「違いがよくわからないのですがおじさん」
愛莉にはよくわからないようだが、この言葉は滅多には言わない。シリアスな雰囲気にしないのがイロモノキャラです。
「嘘つけ。お前はイロモノじゃねえだろ。どちらかと言えばキチガイだ」
「ひどい傷ついた。桃亞さま、その胸で泣いていい?」
「うん! はい、どうぞ」
「桃亞!? 差し出さなくていいからな!?」
ちくせう。愛莉さんに妨害されちゃったぜい。
まあそれはさておき、オレは制服から私服に着替えて首を鳴らす。
さてと教会に行きますか。オレは家を出るとそこに待っていたのは桃亞と愛莉、一期だった。
「なーんでお前らもここにいるの?」
「いやー、イッちゃんが心配でね」
「おじさんに言われたからです」
「私も兄様が危険とあらばたとえ火の中水の中です!」
親父め……オレを暴れさせないように用意したな?
これじゃあ目の前で殺れるところ見せられないじゃん。
「ま、どうでもいいか。勝手にすればいいよ。オレは好き勝手にやるだけだから」
オレはそう言って教会に向かうのだった。心は冷えて、頭にはもうあの堕天使を抹殺することしかない。
生き残りなど作らない。誰も……許さない。
『こういうときの相棒はなつかしいな。……いつもこうならばいいのに』
「だってつまらないじゃん。ただのクールなんて」
真夜中の教会。人気のないそこには誰もいない薄気味悪さを演出していた。
「うぅ……お化けが出そうで怖いです」
「愛莉ちゃんは苦手なんだよねー♪」
「あ、当たり前です! 触れられない相手なんて敵わないじゃないですか!」
いや実は幽霊でも倒せる人はいる。その変人の場合、見つけたら研究されるだろうけど。オレ達が中に入るとそこにはドーナシークとフリードがいた。
「やあやあ、おっひさーイッセーくぅん! 愛しのフリードくんですよォォォォォ!! …………ごほごほ、ヤバイです、むせた!」
「フリード! むせるな!」
「無茶言わないでくださいな! いくら演出でも狂った少年キャラはもう卒業したいです。ユウキに見られたら完全に笑われますぅ!」
「ええい。給料減らすぞ!」
「うぅ……それだけは勘弁……」
何やら上司と部下の会話しているようだが、オレは気にせず気の砲撃を放つ。ぶっ飛んだ二人のうちドーナシークは言った。
「貴様、いきなり撃つか普通!?」
「え、だってどうでもいいもんお前らのコント。フリードは放っておいても問題ないけど、お前はなんか襲ってきそうだから撃っといた。反省してないから死ねゴミ」
「毒舌なんだな貴様は!」
そりゃそうだ。なんせ、敵だから。フリードのヤツは「うぅ……もうやだ帰りたい」と嘆いていたのだが。
すると愛莉が袖を引っ張って聞いてきた。
「イッセー……ヤツは何者だ?」
「誘拐犯」
「OK。ブッコロだな」
「愛莉ちゃんは相変わらずだね~。あ、手加減せずに全力全開いいよ」
何やら恐ろしい会話されてるがオレの幼い頃、一期が誘拐されたときに人外に遭遇し、戦う前にしていた会話と同じだ。あのときの悪魔はもうボコボコにされた挙げ句、お袋が怒りの冷気で砕いたのは今でも記憶にある。
まあ要するにこの手の騒ぎには慣れてるということだ。愛莉は薙刀を構え、ドーナシークと対峙する。
「その男や妹、天使のハーフならわかるが、貴様のような人間にこの私を倒せるとでも?」
「倒せます。桃亞、お願いします」
「うん、私の神器――――『聖女が歌う軍旗』!!」
桃亞の魔方陣から槍をそのまま軍旗にした神器が出された。
この神器はセイクリッド・ギアじゃない。魂の一部を武器化したもの、それが桃亞が言う神器だ。親父から教えられた力だ。
だけど桃亞には戦う力はない。その神器には戦う力はない。サポート専用の軍旗なのだ。
「いっくよー! 愛莉ちゃん!」
「はい!」
軍旗から光が帯びて愛莉の身体もまた共鳴して光だした。愛莉はドーナシークに斬りかかる。苦悶の表情を浮かべるドーナシークは愛莉を睨む。
「この力は……!」
「桃亞の神器だ。相手より劣るところを補う。それが彼女の力!」
つまり堕天使と同じスペックで戦えることだ。相手が強ければ強いほど桃亞の神器は発揮する。まあ、それでも身体がもたないというデメリットがあるがなぜか愛莉は耐えられる。その原因はわからないが人間でありながら、人外と渡り合えるのだ。
「というわけでドーナシークのこと頼むわ。オレはアーシアのとこに行くから」
オレはそう言って仙術による気配察知でアーシアの居場所を特定する。これは、地下か?
「よし、一期。行くぞ」
「はい。兄様!」
地面に向けて思いきりぶん殴る。衝撃波で辺りが吹き飛び、床に穴を開けることに成功した。
☆☆☆
上からの襲撃に敵の誰もが騒ぎ出す。いきなり床に穴を開けて侵入するなど規格外な行動をしたのに驚いたからだ。
「兄様、大胆ですね」
「何人か下敷きなった?」
「はい、死んでませんが好都合です。早くも数名戦闘不能です」
「何をしているの! 早く始末しなさい!」
混乱したはぐれ神父達だったがレイナーレの号令で収まり、オレ達に光の剣を向けて襲いかかる。
「無礼者! この下郎共!」
「無駄無駄ァ!!」
一期の冷気の砲撃とオレの気の砲撃で一斉に蹴散らされた。一期とオレは一応、手加減しているため誰も死んでいない。
レイナーレは凄まじい形相で一期に数本の光の槍を投擲してきた。ドラゴンスレイヤーが付与された光の槍だ。一期はそれを回避し、オレは一期を守るために避けきれない光の槍を気で打ち消した。
生物から作られるものならば必ず気という電力が存在する。その電流を乱すことで機能を停止させるという用法で打ち消したのだ。
「ッ、この化け物が!」
「化け物よりもオレは変態さ。影分身!」
忍術で生み出した数人の影分身を使って、はぐれ神父達を退け、仙人モードとなったオレは親父直伝の奥義をレイナーレに向けて放つ。
無数の回転したエネルギー圧縮し、爆発的な一撃を与える奥義――――
「螺旋丸!」
レイナーレに直撃し、彼女は身体を回転しながら壁に激突した。呆気ない。実に呆気ない終わりだ。
はぐれ神父達も気で失神させたし、あとはアーシアを……。
「い、いやあァァァァァ!!」
アーシアが悲鳴をあげた。苦しそうに身体を暴れていた。
何が起きてるんだ!? オレはすぐにアーシアを解放しようとした瞬間、アーシアの胸から緑に光るものが出てきた。
オイ、これはまさか……。
「なんてグットタイミングなの……あは、これで私は至高の存在になれるじゃない!」
緑に光るものを手にしたレイナーレはそれを吸収するとヤツの身体が治っていった。やはりあれはアーシアのセイクリッド・ギアなのか!?
「そうよ。『
オレに向けて光の槍が投げられた。打ち消した後、アーシアが徐々に弱っているのが目にわかった。
(ドライグ、まさか……)
『……セイクリッド・ギアを抜かれたものは必ず死ぬ。この女の命ももって数分だ』
クソッ。早く倒さなきゃいけないのか。オレは忌々しそうにレイナーレを睨み付けるが、今ここで戦うのはアーシアを巻き込むリスクがある。
アーシアを安全な場所に運ぶために抱えてオレは空いた穴に向かって跳躍した。一期はレイナーレが折ってこないように氷の礫を手から放ち、牽制した。
「逃がすか! 絶対に殺してやる!」
レイナーレの叫びを無視して一期は空いた穴を氷で塞ぐのだった。
教会の外へ出て、安全なところにアーシアを運びオレはアーシアの消えそうな命を気で延命させていた。しかし衰弱したアーシアの命は風前の灯火だった。気でなんとか延命させていたが、いずれにせよもうじき……。
オレにできることはなんにもなかった……。
「アーシア……ごめん。オレにはお前を……」
――――助けられない
申し訳そうにそう呟くとアーシアは辛そうながらも微笑んだ。
「そんなに悲しまないでくださいイッセーさん……わたしは、うれしいです……。わたしのことを想ってくれる人がいて……とてもうれしいです……」
ああ、なんて心優しいのだろうか。この少女は自分の無力を責めず、うれしいと言ってくれた。
オレはそんな彼女がまさしく聖女に見えてしまった。
「イッセーさん……こんなわたしに、優しくしてくれた……素敵な人……」
途切れ途切れな彼女の言葉。そして最期には最高の笑顔を見せた。
「ありが、とう……――――」
それを最後にアーシアの命は消えた。オレの心に虚無が襲いかかる。
彼女は死んだ。死んでしまった。会って、知り合って、一緒に遊んだ少女はもう――――目を開けない。
「イッセー! アーシアさんは……――――ッ!」
「イッちゃん……もしかして」
愛莉がボロボロの姿でこちらに来た。顔は煤だらけで、服はもう使えないくらい切り刻まれてる。愛用の薙刀も折れて使えないようだ。
見た感じドーナシークをギリギリ倒せたということだろう。
愛莉は絶望のあまり膝についた。彼女もアーシアのことを知っていた。心優しい少女だということを知っているからこそ、死んだことが信じられないのだ。
「あら、死んだのね」
不愉快な声がした。レイナーレとドーナシークがそこにいた。レイナーレは愉快そうに笑う。
「ホントにすばらしいわこの力。ドーナシークの傷もこうもあっさり治せるなんて」
「感謝しますぞレイナーレ様」
「ふふ、あとは邪魔な人間と天使、トカゲを殺すだけね。ああ、この力でアザゼル様とシェムハザ様から寵愛をいただけるわ」
恍惚に笑うその堕天使に思わず愛莉は叫んだ。
「貴様が、貴様がアーシアを殺したのか!!」
「なんてことを……!」
「あら、この子の力をふさわしい者が有用に使うだけよ。所詮人間にはもったいない。いえ、魔女にはもったいないわ」
「この女……!」
「もういい愛莉」
オレはアーシアをそっと寝かして愛莉の肩を掴む。
「アーシアは死んだ。もうここには用がない。彼女を埋葬してあげよう」
「しかし……だけど!」
「今のアイツは愛莉には叶わない。いや万全の愛莉と桃亞のコンビでも危ない。勝てないよ」
悔しそうに歯を食い縛り、愛莉は泣いた。無力な自分が悔しくて悔しくて、彼女は泣いた。桃亞はそんな愛莉抱き締める。彼女の悲しみは桃亞も一緒だった。
「ふふ、わかってるじゃない。この至高の私に敵うはずがないでしょ」
「至高か……――――くだらない」
「なんですって?」
「だってそうだろ。その程度で至高とか笑わせる。『最高』になったからって『最強』じゃない」
最高は最強じゃない。ただレベル高くなっただけで最強というわけではない。セイクリッド・ギアを持ったからってその堕天使が最強というわけではない。
「一期、アーシアを守れ。あと、彼女達を……」
「はい、兄様。……すみません桃亞姉様、愛莉姉様」
一期は目にも止まらぬ早さで桃亞と愛莉を失神させた。気絶した二人を守るかのように氷壁を張る。
「へえ、そんな防御壁があったのね。だけど、このドラゴンスレイヤーの腕輪があれ――――」
その刹那、レイナーレの左手が消えた。オレが気で消し飛ばしたのだ。
「ぎゃあァァァァァ!?」
「レイナーレ様!? 貴様ぁ!」
ドーナシークがオレに光の槍を投げる。ドラゴンスレイヤーの腕輪があるため、普段のオレが当たれば確実に殺せるだろう。そう、普段のであれば。
オレはドラゴンスレイヤーが付与された光の槍の気を乱し、打ち消した。
「馬鹿な!? ドラゴンだろ貴様は! なぜ腕輪の力が効かない!」
「知るか」
オレはドーナシークの真横に現れ、ヤツの顔面を握る。
「千鳥」
「ぐぎゃあァァァァァ!?」
雷遁の仙術でドーナシークを感電させた。それでもまだ死なない堕天使をオレは千鳥が帯びた籠手を手刀を構え、縦に一閃。
ドーナシークを真っ二つに焼き斬る。それを見たレイナーレは「ヒッ」と悲鳴をあげる。オレの顔を見て今さら怯え始めたのだ。
アーシアの死でオレがまず感じたのは怒りでも悲しみでもない――――ポッカリと穴が空いたかのような虚無感だ。空しい、寂しい……それを埋めたい。
昔のオレだと復讐こそがその虚無感を埋める方法だった。だが、今はわからない。
何も感じない。何も想わない。そんな冷酷で残酷、邪魔するものを抹殺する赤龍帝だった。
「とりあえず、うん。お前をイタぶろう。殴ろう。切り刻もう」
(一期side)
兄様は狂っている。初めて会ったときからどこかおかしかった。私は久しぶりにそんな兄様を見た。
そんなときグレモリーさん達が現れた。兄様の話では悪魔でこの地を管理する家系のらしいが、私にはどうでもよかった。グレモリー先輩は兄様の変わり様に戦慄を隠せていなかった。
「なによ……あれ。あれが兵藤くん?」
「そうです。あれが本来の兄様です」
兄様がしていたのは拷問だった。
堕天使を殴打し、切り刻み、回復させる。
殴打し、切り刻み、回復させる。
殴打し、切り刻み、回復させる。
それを何度も何度も繰り返す。遂には堕天使はセイクリッド・ギアの回復をやめてしまった。
そして堕天使が泣いて懇願した。
「もう、限界なの……だから……」
「あっ、そう。なら、回復させてやる」
「ぎ、があがががががごががががが!?」
兄様は気の力で自然治癒力を高めたのだろう。しかしそれは相手の命を削ることであり、そして何より激痛が凄まじい。
堕天使がセイクリッド・ギアの回復をやめようとも兄様は傷を治す。
今の兄様は本当に昔の兄様だ。
笑わない。
怒らない。
泣かない。
兄様は初めてお会いしてからおかしかった。
私がどんなに貶しても怒らない。
私がどんなに殴っても泣かない。
私がどんなに擽っても笑わない。
不気味なほど空っぽだった。何を考えているのかがわからなかった。
変態になって表情が増えたときには私は喜んだ。やっと兄様に感情が戻ったような気がしたのだ。
だけど本当は空っぽのままだった。何もなかったのだ。
性欲と愉悦を求めるのは表の仮面――――本来の兄様は無慈悲なほど虚無なのだ。
「はぁはぁ……この……ヒィ!」
「回復したな? なら、もう一度」
バチチチチと千鳥を発動させ、電撃の一刀を構える。それをグレモリーさんの眷属らしき男が止める。
「やめろ! 彼女をこれ以上攻撃する必要はない!」
男の名前は確か正道一成さんでしたっけ? 彼も悪魔になった人のようです。だが、今の兄様はとても危険な状態だ。
「邪魔」
「があァァァァァ!?」
正道さんを兄様はたった一撃で吹き飛ばした。殺していない辺り、彼を考慮したためだろう。グレモリー先輩はそんな兄様をキッと睨み付ける。
「兵藤くん! なんでこんなことを!」
「邪魔したから。誰だろうとオレの邪魔するヤツは殺す」
兄様にはもうあの堕天使を拷問することしか考えられないだろう。
それもそうだ。堕天使は兄様の逆鱗に触れた。触れてはならない
「だけどああ、なんて、なんて……――――
――――素敵……」
今の私は恍惚な表情をしているのだろう。
兄様の虚無――――怒りも悲しみもない透明な心に、圧倒的な力。私はそれらが素敵だと思った。故に私は兄様を異性として慕う。欲しいと思った。
そんな私の顔をグレモリー先輩はとても不気味そうに見ていた。
「あなた……どうかしているわ」
「おかしいのは私じゃない。世界ですよ。……まあ、そろそろ終わらしましょうか」
私は兄様に近づき、そっと抱き締めて耳元で囁いた。
「もういいです。彼女をいたぶるのはやめにして家に帰りましょう兄様」
「………………」
「アーシアさんは残念ですが、彼女を拷問しても変わりません。だから、ね。いつもの兄様に戻ってください」
「………………」
兄様は私の抱擁を振り払い、寝ている桃亞姉様と愛莉姉様を担いだ。どうやら私の言うことを聞いてくれたようだ。
さてと、私は堕天使に近づき言った。
「あなたは本当に愚かですね……。昔の兄様を出させるなんて」
「ぐ、……貴様らぁ」
「龍の逆鱗とは恐ろしいものです。触れれば最後身の破滅。……兵藤家の中でもっとも危険な逆鱗が兄様ですよ」
私はニコリと笑って言った。
「さようなら――――馬鹿な人」
「ま、まっ――――」
私はそのまま氷にした。魂まで凍らせる冷気の砲撃で彼女は凍らせ、そして砕け散った。残されたアーシアさんのセイクリッド・ギアをグレモリー先輩に渡した。
「あとはご自由にしてくださいませ。私は帰らせてもらいますから」
「ま、まちな――――」
彼女が追おうとしたとき私は氷壁で行く手を阻んだ。さてと、昔に戻った兄様と久しぶりにアプローチしながら帰りましょうか♪
弱者の心がわかっていたら、劣等感と向き合えていたらレイナーレの生存フラグはありました。
事情がわからなかったらレイナーレはもはやゲスですよねー。
そして昔の一誠はエロくありません。透明な人格で、滅多なことでは怒りを出さない少年でした。
彼が変態化したのは変態のお姉さまと切り裂き魔な変人が原因。
容赦がないのは幼馴染みが誘拐犯をボコボコにすることから学んだから。悪には徹底的な一誠です。