(??side)
一誠は一人ぼっちだ。三歳の頃に目の前で両親を殺され、両親の最後の力で異世界のここに来てしまい、彼は泣いた。
深い森のなかで、一週間、一月と泣いた。そしていつしか枯れてしまった。
涙も心も枯れてしまった。そんな彼は森にいる未知の獣に襲われた。一誠がはじめて遭遇した獣は鋭利な歯を生やした二足歩行の牛――――ミノタウロスだ。
ミノタウロスは旨そうなにおいがしたため近づいてみると、人間の子どもがいた。腹を空かしたミノタウロスは子ども肉が好物だった。
早くあの柔らかい肉を食べたい。血で喉の渇きを癒したい。そんなことを考え、無力な子どもに襲いかかる。
――――されどミノタウロスは捕食者ではなかった。それがすぐに証明された。
『Boost!』
一誠は敵と判断したミノタウロスの突撃を上空へ跳躍し、回避。それからミノタウロスの頭を触れて、籠手の拳を握りしめる。
『Explosion!!』
倍加された一撃をもって一誠はミノタウロスの頭をぶっ潰した。潰れた頭から血が噴水のように噴き出し、一誠は血で汚れた。
『まさか……この歳で俺を呼び起こすとは』
「だれ……?」
『俺はドライグ。お前の籠手に宿る龍だ。それで名は?』
「……いっせい。みょうじはわすれちゃった」
これがドライグと一誠の出会いだった。彼と彼はそれから一年、この森で過ごした。森の獣を狩りしたり、猿と一緒に遊んだりして彼はそれなり楽しく過ごした。
ドライグと会話していくうちに一誠は彼に心を開き始めた。最初こそ会話が少なかったが一誠の実母である汐里の話を聞いて少しずつ警戒心を解いた。
いつしか彼らは二人で一つの存在となり、森の中で頂点に立った。そんなある日、一誠は一人の男に出会った。
茶色のカーボイハットを被り、冒険者のような動きやすい格好をした男だ。彼は一誠を見て心底驚いたそうだ。
「まさかこの魔帝の森に子どもがいるなんてな」
「まてい?」
「知らないのか? 俺のような最上級冒険者じゃないと入れないキチガイの森だ。酸素が薄いだけでなく、そこに住む獣共は凶暴なんだが……」
「ああ。あのどらごんとワニさんね。おいしかったよ」
男はギョッとした顔となる。ここ住むドラゴンと言えばワインレッドドラゴンという炎の最上級ドラゴンだ。ワニもアリゲータというもっとも危険で普通の人間が相手をしてはいけない化け物だ。
そんな化け物達をおいしかったと言うこの少年は完全にただ者ではなかった。
「なあ、ボウズ」
「ぼうずじゃない。いっせいだ」
「一誠……か。一緒に来ないか?」
「やだ」
即答か、彼は苦笑した。だがこんな面白い少年を誰かにとられるのは嫌だったので彼はこう提案した。
「んじゃ、俺がお前を倒したら一緒に来いよ」
「……あんた。しにたいの?」
「殺れるもんなら殺ってみろよ、クソガキ」
「ぶっころす」
一誠の周りからブワッと殺気が溢れだす。それには男は面白いとばかりに笑っていた。
「俺の名前は兵藤幸田。お前を手に入れる者だ!」
「かんけいない……とっとしね」
その日、森から凄まじい衝撃波が起き、木々が倒れたそうな。
(幸田side)
俺は一誠を担ぎ上げ、森から出た。戦いの余波で木々が折れ、動物や魔物達の死骸がわんさかだった。一誠の必殺の一撃を回避したことで巻き込まれたもの達だ。正直、これはやり過ぎたと反省している。
まあ別に回避する必要はないが神をも滅する武器だと、ねぇ。肉体が『再現』されるとは言え、痛いのは嫌だ。
『……異常過ぎる。まさかただの人間がドラゴンである相棒を倒すとは』
「二、三回は殺られたけど、慣れたらどうってことなかったよ。うん。それにしてもこいつはドラゴンなの?」
『生まれながらのな。こいつの父親は人型のドラゴンだったのさ』
にゃるほどねー。それはドラゴンだわな。だとしたらこいつのスゴい素質がある。しかもドラゴンだけじゃない。
なんと自然と長く関わっていたため無意識に仙術の気が使えるようになっていたのだ。
「仙人モードが使えるヤツは数えるくらいしかいないけど、まさかその素質を持つドラゴンがいるなんてな」
『なんだその仙人モードは?』
「自然エネルギーを取り込み、身体エネルギーと精神エネルギーを均等に合わせることでなれるモードさ。姿が生き物になる部分になるが、人の身でありながら強力な体術や忍術が使えるのさ」
『ほう……相棒は龍化できないがそれを上手く使えばなれそうだな。人型ドラゴンは人と変わらぬ身のため龍化できないからな。代わりに生命力と力は強大だが』
「ドラゴンのくせに龍化できないのかよ。……ま、それはそれで面白そうだ」
それに、こいつの目はとても虚ろで空っぽだ。まるで何もかも枯れているような目だ。それに同情してしまった俺はどうしてもこいつを家族にしたかった。
こんなスゲー素質があるのに、世に知られないのは勿体ない。
『にしても兵藤幸田。お前はなぜ俺と会話していることに驚かない?』
「あ、やっぱり一誠の籠手のドラゴンだった? まあ別にお前が何者かなんてどうでもいいんだ」
『……名乗っておこう。我が名はドライグ。赤龍帝の籠手に住むドラゴンだ』
「兵藤幸田。死なない人間さ」
これが俺とドライグ、そして一誠と出会いだった。
一誠を拾ってからの俺はすぐに妻と娘に紹介した。氷菓は一誠の素っ気ない態度に小生意気なと言いながらも抱きついていた。気に入ったようだが、娘である一期は違った。
どうも人見知りのせいか新参者である一誠には辛く当たっていた。最初から壊れてる一誠は気にしてなかったが、いずれにせよ一誠の虚無をどうにかする必要があった。
そんな矢先に一期と一誠が何者かに誘拐された。そいつは子どもを誘拐し、快楽殺人ばかりが集まるギルドだった。
氷菓は泣きわめきながら俺に懇願したため、全力全開で俺は探した。忍術の影分身まで使って、そして一誠と一期を見つけた――――血塗れの姿で。
最初は一誠か一期が傷ついたかと勘違いしたが実は違った。なんと一誠が一人で殺人ギルドを潰したのだ。
だれ一人まともな死に方をしていなかった。首や手足をもがれ、身体を空洞化させられるという残酷な殺し方だった。
なぜこうまでしたのか聞くと、そのとき一誠は言った。
「だってコイツら。オレのたいせつなものをころそうとしたもん」
何もないと思っていたが過ごしていくうちに彼に家族愛が目覚めてくれたのだ。
それから一誠に忍術を教え、異世界から遊びにきた『切り裂き魔』と『混沌の神器使い』や『閃光』と関わり、いつしか彼に普通の心が芽生え始めた。
まあ若干おかしいが……。何年後かしたある日、一誠は両親を殺した悪魔に遭遇した。俺は急いでかけつけたとき、一誠は普通に殺したのだ。
呆気ない復讐劇に彼はまた空虚な目をしていた。これから何をすればいいのかわからないそうだ。だから言ってやった。
「正式に俺の家族になってくれ」
「家族に……?」
「もう家族かもしれないけど、お前はまだ氷菓や一期との間に隔たりがある。それを取り払うのは今なんだ」
一誠はしばらく無言になり、そして答えた。それは俺と家族が望む答えだったと追記しておく。
――――それから俺達はまた異世界に移動し、イリナちゃんや愛莉ちゃん、桃亞ちゃんと出会うことになるのはまた別のお話。
ちょっと駆け足気味でした。次回はライザー編です。
……ライザー眷属のとある人物がおかしくなっています(戦慄)