ホロライブ・オルタナティブ【リアー・タイムズ】トキノソラを翔ける少女 作:小畑 お爺ちゃん
走る、走る、走る
鉄道路線の下にある地下道を抜けて向こう側へと走る
病み上がりの翔と湯芽原が追い掛けてくる足音を聞きながら暗い地下道から地上に上がる階段を駆け上る
開けた視界には上階が燃えるビルがあった
よく見れば、まだ下層には火が回ってきておらず多くの人々が逃げ惑う光景が広がっていた
「斬矢ーっ!!」
斬矢の名前を呼びながらコンクリートの残骸を飛び越えながら建物の中へと侵入する
鉄筋コンクリート製の建物とはいえ上半分が吹き飛ぶ程の爆発にあった爪跡は至る所にヒビや崩壊という形で現れていた
いつ、崩れるかも解らない状況の中で斬矢の姿を探す
ガラリという瓦礫の崩れる音がする
ソチラを見ると一人の少女が瓦礫に挟まれていた
助けるべきか、斬矢を探すべきか
そこに、翔と湯芽原が追い付いた
「先輩!俺達で助けますっ!」
「斬矢をお願いしますっ!」
その1言を聞いて頷く
斬矢を探して走る
その中で違和感に気が付く
あれ程の爆発だったにも関わらず、ガスや硝煙の臭いがしないのだ
その上、周囲に感じられる魔力濃度が異常に高いのを肌でピリピリと感じる
「どうなってやがる!?斬矢はいったい何処だ!?」
あからさまに普通じゃない
これは魔術か魔法によるものだとは予想がつく
しかし、ここまでの大火力の奇跡を扱える存在が思い付かない
自身の焦りが脚を余計に早くしていた
そして、建物に入ってから5分程した頃だった
3階から4階以降に繋がる階段の踊り場に伏せるように倒れる斬矢を見付けた
「見付けたっ!!大丈夫か!?斬矢!!」
慌てて揺さぶる
そこで気が付く
「呼吸をしていない・・・?」
斬矢の身体をゴロリと仰向けに転がす
見えた顔は驚きに染まり、その瞳は虚空に向けられていた
「っ!?」
手首を取る
強く親指で押さえるが、そこに脈は既に無かった
「死んでる・・・? あり得ない、何で・・・?」
俺は驚きを通り越して唖然とする
斬矢は『不死ノ権能』を有している
毒も病気も効かず、怪我をしても、はては寿命であっても、斬矢の命を奪う事は出来ないはずだった
それこそ、『不死殺しの武器』か『権能の無効化』が無ければ
しかし、現代において『不死殺しの武器』など出回っている筈もなく
神秘を扱える存在だとしても『権能の無効化』など・・・
それこそ神でも一握りの別格の存在でないと不可能で・・・
「神・・・・・・、神様?」
そこで俺は道中、ソラの言っていた事を思い出していた
「世界が終わっちゃう最大の原因は、将くん達の世界の神様が・・・・・・、世界そのモノをやり直そうとしてること」
俺達の世界の神
その中で、世界のやり直しなんて大それた事を実行可能なのは片手で数えられる程しか居ないだろう
そして、斬矢はソレが、出来るであろう神から『不死ノ権能』を貰った
もし、アイツがやり直しを実行しようと考えたなら・・・
真っ先に標的になるのは、間違い無く斬矢だ
そして、次に狙われるとすれば・・・
「将君っ!!!!」
突然の切羽詰まった様なソラの声
目の前で閃く、蒼い聖剣の輝き
甲高い音と共に消失した魔法の輝き
ソラに助けられたのは、これで2度目になる
「あー、防がれたかぁー・・・」
のんびりとした男の声がする
踊り場から4階へと続く階段の1番上に居たのは・・・
まさに今、想定していた通りの人物だった
「ベル、さん・・・」
1番、敵にしたくないヒトが
1番、俺達を助けてくれていたヒトが
何より、1番、信頼を預けていたヒトが
いつも通りにしか見えない柔らかい微笑みと共に、ソコに立っていた
ソラが俺とベルさんの間に立って、彼を見上げている
「ベル・オルデナフル・・・・・・いえ、もう、ここに置いては全能神ベル。と呼んだほうが良いの?」
ソラの質問に、神・・・
ベルさんは疑問で返した
「んー、君は誰だい? 僕の魔法を消滅させるとか、ちょっと普通じゃないけど?」
「・・・・・・・・・」
「アハハハ、ダンマリかい? うん、それも良い!君はどうやら僕の事を知ってる様だけど・・・」
「巫山戯ないで下さい・・・」
「・・・・・・・・・。なるほど、君は明確に僕を敵視している様だね。うーん、君を殺すのは一苦労しそうだ・・・。それに・・・」
バタバタと音がする
翔と湯芽原が階段を登ってきた音だ
「流石に、君を含めた4対1になったら今の弱体化した僕じゃ勝利は難しそうだね」
そう言いながらベルは、ふわりと笑う
その表情は、本当にいつも通りのベルさんで・・・
追い付いた、翔と湯芽原も・・・
事切れた斬矢、ぼう然とする俺
そして、ソラと対峙しているベルに驚いた様に見える
ソラはそんなベルに質問を投げかける
「斬矢さんは、貴方を信頼していた。なんで裏切ったんですか?」
それは、ベルが斬矢を殺したと断言しているようなものだった
「あー、関係性まで把握済み・・・と、なるほど」
うん、うん
と一人で納得しているベルさんを、俺達は見上げる事しか出来ない
ベルは納得し終えると、ソラに交換条件を告げた
「そうだね、君が僕の質問に答えてくれたら。君の質問にも答えよう」
「・・・・・・・・・なんですか?」
ソラが警戒するように続きを促すと・・・
ベルさんはニコリと親しげにソラに質問した
「君、一体
その質問に、一瞬
頭が真っ白になる
え?
繰り返す、とは何の事だ?
ソラの顔を見ると、ソラも驚いた様な表情の後に悔しげに顔を俯けた
しかし、再び顔を上げると強い意志のようなモノが浮かんでいた
彼女は1つ息を吸うと質問に答えた
「20を超えてから数えてないかな・・・? 数えることはやめたの」
その答えに、ベルはニコリと笑った
そしてニコニコと言い放つ
「うわぁ、流石に驚きだよ・・・。でも納得もした。君の纏う時間圧は普通じゃない・・・。既に人に許される範囲を
「・・・・・・・・・」
だが、ソラが無言で表情を険しいモノにしていくと・・・
流石のベルも巫山戯るのを止めた
それでも笑顔のまま会話を続ける
「おっと、これ以上無駄口を叩くのは不味そうだ・・・。君の質問は、何故僕が斬矢くんを裏切ったのか?だったね・・・」
誰もが、その回答を固唾を呑んで見守った
ベルの顔は慈愛に満ちた表情へと移り変わる
「裏切った、か・・・。僕からすれば救った。の方が正しいんだけどね。この、どうしようもなく終わる世界において『死なない』ではなく『死ねない』と言うのは酷く残酷な事だ」
だから! と両手を大仰に広げながら
まるで舞台に立つ役者か、ドラマの俳優のように
満面の笑みで喋る
「彼を唯一終わらせられる僕が、わざわざ終わりをもたらしに来たんだよ! 世界再誕による焼却の
「巫山戯るなっ!!」
突然の大声をあげたのは、翔だった
「斬矢の奴が、どれ程あんたを信頼していたと思う!? ベルさん!!
あんたに裏切られた時、斬矢がどれ程の絶望を味わったと思う!?
あんたに殺されなくちゃならない程の事を、斬矢がしたのか?
違うだろ!?
斬矢がそんな事をするはずが無い!!!
今の、あんたは!! 独り善がりの殺人鬼だ!!」
「そうっスよ!斬矢君を殺すことは無かったんじゃないんスか!?」
続けるように、それを湯芽原が養護する
しかし・・・
言葉は、それ以上、続かなかった
全員が、ベルの顔を見て
動きを止めたからだ・・・
「うん、だから?」
そこには、今まで一度も見たことの無い表情のベルが居た
あらゆる感情を削ぎ落とした末の・・・
無の表情を浮かべるベルが・・・
「僕は世界を救うと決めた。この終わり行く世界ではドウシヨウモナイ事ぐらい、君達にもわかるだろう?」
誰かが、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた
今のベルは、ヤバい と頭の中に警鐘がガンガンと鳴っている
ベルさんの顔はぺタリと貼り付いたような無を映している
喜びも、悲しみも、楽しみも、嘆きすら、無い
ただ、口だけが動き
言葉を紡いでいる
「だから、新たに始める事にしたんだ
世界を一度、閉じる。そして再誕させる
世界を誕生の瞬間からやり直させるのさ
その為なら、僕はあらゆる犠牲を容認する」
普段の、コロコロと変わる様々な表情が感情によって彩りに満ちていたヒトだった
だった、
そう、だった・・・
だからこそ、今の無の表情のベルがたまらなく
恐ろしい
「もし、僕の目標を容認出来ないと言うなら敵だ
斬矢君は僕の目標を否定した。だから殺した。
それだけの事だよ・・・」
今、相対しているのは、
本当に、あの、ベル・オルデナフルなのか・・・
解らない、解らなくなっている
翔と湯芽原の表情も困惑と恐怖によってか・・・
普段よりも青褪めているように見える
ふっ、とベルに再び笑顔という表情が戻る
「次に会うときには答えを聞かせて欲しいな」
そう言いながら、ベルは階段を上層へと上がっていく
最後に見た笑顔のベルは・・・
まるで、道化師の
ピエロの笑い顔の仮面を、顔に貼り付けているように見えて
その、あまりの不気味さに
誰もが呼び止める事が出来なかった
《ベル・オルデナフル》 べる・おるでなふる
本作、最大の敵にして、トキノソラが止めに来たラスボス
本作開始以前は作品登場人物達を助け導く、良き大人であり神であり・・・
時に、親のような 時に、友人のような
素晴らしい人格者だった
本作開始時にどう合っても世界は滅ぶ事を知り
世界の再誕という救済を目標として設定する
【ただし、彼もまだ、世界の事実を知らない】