鈍く輝く青春   作:鬼ころし

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この物語はフィクションです
酒飲みながら書きました


酒を飲む

 私はこの愚か者たちのことを知っている。何せ私としのぎを削りあっている男たちだ。ちなみに底辺争いだ。おそらく向こうもこちらのことを認知しているだろう。

 彼らは学内でもかなりの有名人だ。一人は名を友田雄一と言い、毎日浴衣を着て下駄をはいている男でかなりの老け顔だ。果たして私と同い年なのだろうか。そしてありとあらゆる人間から金を借りているという噂が流れているクズだ。奴から金を貸してほしいと言われたらそこが縁を切るタイミングだ。

 そしてもう一人は樋口香という。こちらもまた男だが、一見するととてつもない美少女だ。烏の濡れ羽の如き美しい黒髪の持ち主で、なんと驚くことに地毛であるらしい。男のはずなのにとても可愛らしい顔立ちをしている。服装もしっかり女性だが、聞いたところによると女装が趣味なだけとのこと。

 

 なぜ私がこの男たちのことを語ったのかというと、実は今その者たちと同席しているからだ。

 ここは大学からほど近いところにある大衆居酒屋で、毎日大学生や仕事終わりのサラリーマン、近くのライブハウスからのバンドマンたちで賑わっている。大繁盛しているがために、一人でやってきた私は連中と相席させられたのであった。

「やあやあ君は志田君ではないか。そして君は樋口君だな。いやいやこうして顔を合わせて話すのは初めましてではあるな。俺は友田と言う」

「どうもはじめまして。樋口です」

「こりゃどうも、志田だ」

 私たちはそれぞれ簡素な自己紹介をした。

「こうしてあったのも何かの縁だ。ここはひとつ乾杯といこう」

 青い浴衣を着た友田は、ついさっき届いたビールを持って快活に笑いながら言った。

 すると樋口も途端テンションを上げ「いいですね。腹割って話しましょう」と訳の分からないことを言い出した。おそらくすでに酔っているのだろう。私はジョッキを持ち上げた。

「乾杯!」

 声を合わせジョッキをガチンとぶつけ、ビールを一気に呷る。心地よい清涼感と苦みが、体の疲れを彼方に吹き飛ばす。

「……っ、はーっ!やっぱたまらんね、ビールは」

「注文いいか」

「そんないちいち確認取らんでもいい。われら底辺三羽烏に遠慮はいらんよ」

「僕らってさっき会ったばっかですよね」

 当然のことを口にする樋口に、「何をいうか。私たちはライバルではないか」と私は言う。見れば友田は店員を捕まえて注文を頼んでいる。いかん、出遅れた。私は急いでメニューを確認した。

 

 そろそろ酔いも回ってきたのか、樋口が唐突に切り出した。

「僕はただ女装が好きなだけで、男が好きなわけじゃないんだよぉ」

「なんと、そうであったか。誤解していた、すまない」

「あぁ、気にしなくていいですよぉ」

 顔を茹蛸色にした樋口を見て、友田が言う。

「おいおい、酒もいいが水も飲みたまえ。酒を飲んだ後の水がこの世で一番うまいんだ」

「あーい」

 私は店員を呼び、水と日本酒を注文した。ちなみに今私は日本酒を、友田はビールを、樋口はレモンサワーを飲んでいた。

 日本酒がやってきて、私がちびちびと楽しんでいると、友田が切り出した。

「さて、そろそろ頃合いだろう。引き揚げるとしようか」

「しかし私は飲み足りないな」

「だが樋口君がそろそろ限界だ。この後は宅飲みに移行しようか」

 私がそうしよう、と言い引き揚げる準備を進める中、樋口が「まだ飲めるぞー」と言いながらうつらうつらと船をこいでいた。財布を取り出して会計に向かおうとしている友田に、「ここからなら私の家が近いな」と声をかける。友田は「わかった。なら樋口君は私が背負おう」と言ってレジへ向かっていく。

「樋口、歩けるか」

「んー」

「そうか」

 樋口に肩を貸しながら店を出る私。外に出ると、火照った体が夜風に冷まされて心地が良くなる。

 しばらくすると、友田が店から出てきた。

「変わろう」

 言って、樋口を背負いながら友田が言った。

「さて、ここからは宅飲みだが酒はあるのかね」

 そんな友田の言葉に私は自信を持って答えた。

「もちろんだ。何せ私の部屋のほとんどが酒に占領されているからな」

 

 アパートに着き、私は鍵を開けた。

「すまんね、かなり散らかっている」

 先に断っておいて、二人を部屋に上げる。

「おお、確かに酒がたくさんあるね」

 のっそりと部屋に友田が入る。かなり体格が良い友田は、かなり窮屈そうだ。部屋に入った友田は、背負っていた樋口を畳にそっと降ろす。私は、今まで客人が来なかった為使い道のなかった客用布団を押し入れから取り出し、いそいそと床に敷いた。友田が樋口を布団に寝かせた。

 樋口を布団に寝かせた友田は、ふぅと息を吐き畳に座る。

「さて、飲むとしよう」友田が言う。

「友田、お前は何が好きだ?」私が言う。

「俺はビールが一番だが、なに、酒なら何でも構わんよ」

 なるほど、と思った私は、適当にウイスキーを取り、冷凍庫から氷を取り出しグラスにウイスキーとともに入れ、炭酸水を入れてハイボールにして渡す。友田は受け取ったハイボールをグビリと一気に飲む。

「ところで、志田君は日本酒が好きなようだね」

「まあな、酒屋に行くといつも日本酒を買っているな」

 「日本酒はダメか?」と聞くと、友田は首を振り「いや、日本酒は好きだ」と答えた。

「そうだ、冷蔵庫は勝手に漁ってもらって構わない」

 私がそう言い友田を見ると、いつの間にかクローゼットを開けていた。

「しかし詰襟しかないね」

 そんなことを言う友田に対し、私は「そんなことを言うとお前はいつも和服だろう」と言う。

「和服と言っても色々種類があるからねぇ。さすがにここまで同じではないよ」

 樋口に簡単に返された私は、ヤケになってそこらにある日本酒を開け、グイと呷った。途端、想像と違う味が口に飛び込んできた。

 私は噴き出してしまった。なんだこれは、と思いラベルを確認すると、そこには日本酒の名前ではなく、焼酎の名前があった。

「はっはー、そう急くな。酒はゆったり飲んでなんぼ」

 窓を開けて、月見酒と決め込んでいる友田は、どや顔でそう言った。正しいことを言っているように錯覚してしまいそうになる。しかし腹が立つな。私は芋焼酎をロックでちびちびと飲み始めた。

 あぁ、しかし、私は今日会ったばかりの者と酒を飲み交わしているのだな、としみじみと酒を口にした。

 

「おはよう。中々に良い朝だな」

 いつの間にか私は眠ってしまっていたようだ。私より先に起きていた友田が朝食を作っている。樋口はと布団のあったであろうところへ目を向けると、布団はきれいに畳まれていた。

「樋口は?」

「ああ、シャワーを浴びているよ」

 私は「そうか」と残し、洗面台へ向かった。

 さて、私の部屋の風呂場と洗面台は実は鍵がない。なので、必然こうなるのだ。

「……へ?」

「ん?おはよう」

「キャーーーッ!?」

 私は起き抜け一番樋口の裸を目撃した。私の記憶はそこで一旦途切れている。かろうじて記憶に残っているのは、小さくともしっかりと存在感を放っていた男のシンボルであった。

 

「おや、えらくボロボロじゃないか。志田君」

「気にするな」

 男三人集まってちゃぶ台を囲んで朝食を食べている。友田は料理も上手いようで、どこから持ってきたのか鮭の塩焼きとみそ汁を作っていた。

「やっぱみそ汁はいいね」

 みそ汁をすすりながら樋口は言った。まあ樋口は酒に弱そうだからみそ汁は体に染み渡るだろう。

「そうだ。樋口君、あまり酒は飲まないほうが良いかもしれんね」

 友田は言った。

「……そうだね」

 しょんぼりとした様子で樋口は弱弱しい声で言った。

「店に迷惑かけないように、うちで飲むようにしよう」

 私は言う。これは昨日の夜、友田と飲みながら決めたことだ。樋口は酒に弱いようなので、あまり外で飲ませないようにしようと協議に協議を重ねて決定したことだ。これは樋口にも文句は言わせない。

「さて、次はいつにしようか」

「しばらくは何も予定ないからいつでも構わないよ」

「ならば飲みたいときに来るとよい」

 雑談に花を咲かせていると、携帯電話のアラームがけたたましく鳴った。時間はそろそろ一限目だ。

「まずい、遅刻だ」

「僕は一限入ってないけど、一度帰らないと」

「さて、俺も帰るかな」

「では諸君」

 また会おう。私は言い残し、急いで詰襟に着替えて部屋を出た。

 昼食時に樋口から鍵を渡されて、その時私は鍵を締めるのを忘れていたことを思い出した。

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