吾輩はとある女性VTuberの飼い猫である。   作:ルフラン

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吾輩は猫である。万物の霊長たる猫ゆえに天敵など居らぬが、それでも苦手な相手が存在するのは避けられぬところであった。

 

 

 

 

 

 吾輩は猫である。自らを万物の霊長と称する人間どもなど歯牙にも掛けぬ、真の霊長類である。

 

 ふふふ。たしか《聖書》とやらにもネコと和解せよという文言があるそうだな?

 

 猫、イコール神か。太古の昔に吾輩たちの先祖を目撃した人間たちが、そのあまりに優雅な姿に神と誤認したのは想像に難くないが、良い機会だからこの場で訂正しておこうか。

 

 個にして万物の頂点に君臨する吾輩とて全知全能には程遠い。卑下するつもりはないからこの際ハッキリと明言する。その知性は断じて低いものではないが、やはり物事に完全というモノは無いのだ。

 

 吾輩は人間という異なる種族の文化や習慣なども自然と学び取れるし、彼らの生み出した様々な技術やその意図も大凡は理解できる。

 

 しかしやはり、一切の齟齬もなく完璧に読み取れるわけではない。吾輩ほど優れた頭脳の持ち主をもってしても、ワケの分からぬモノは幾らでも存在する。

 

 ……例えばこの女もそうだ。

 

「んふふ、みぃちゃんは今日もご機嫌やね? そんなに喉をゴロゴロ鳴らしちゃって、ふみかに全身を撫でらるのがそんなに嬉しいんか?」

 

 昨夜にようやく《大吟醸ふみか》と名乗ったこの女は、今日も朝から酒臭い息とともにそんな世迷言を吐き出してくる。

 

 一応、誤解のないように言っておくが……吾輩とて、何も好きこのんでこんな待遇に甘んじているわけではない。これはあくまで臣下の献身に報いての褒美に他ならない。

 

 うむ。自画自賛になるが吾輩の毛艶は絶品であるからな。それにあやかりたい、一度でいいから触れてみたいと思うのは生物として当然の欲求よな。

 

 吾輩も吝嗇(ケチ)の謗りを受けるのは本意ではないからな。日頃から吾輩のために働く召使い(メイド)に褒美をくれてやるのも吝かではないと、この身を好きにさせてるワケだ。

 

「おいおい、みぃちゃんのモフられ願望は底なしやな……。ふみかも朝ごはん食べてないんだから、そろそろ勘弁してもらえると有り難いんだけどなぁ?」

 

 ……だというのに、どうして吾輩が強請っている認識になるのか。これが解らない。

 

 まぁ朝食の前に一杯やるような女だからな。まともな認識が成立すると思っている吾輩のほうこそ間違ってるのかもしれんが。

 

「さて、朝飯朝飯。みぃちゃんもモリモリ食べて元気になろうね。……でもふみかの鼻先でまたオナラをするのは勘弁なぁ。昨日のアレ、本気で臭かったんだから」

 

 ふん、それは自業自得よ。吾輩は締まりのない表情で体を起こそうとするメイドに合わせて寝返りを打った。

 

 すると目に入るわ。大きく開いた胸元から、真に見事な肉の谷間が……。

 

 ふぅむ? あんなに巨大な身体の一部を、自重で押し潰したら相応の苦痛があるだろうに……よっこらせっ、と膝立ちになった女は特に気にする様子もない。真に摩訶不思議なのはやはり、人体の神秘か。

 

 吾輩の知る限り、これほどまでに発達した授乳器官を持つ哺乳類は人間だけだ。一体どのような必要に応じてこれほどまでに特異な進化を遂げたのか、吾輩には想像もつかない。曲がりなりにも推察できるのは、せいぜいこの女が人間たちの基準でも突き抜けた美人に分類される事くらいか。

 

 不本意ながら強制的に参加させられた昨夜の配信とやらでも、この女の胸部は特に人目を惹いたようだからな。美醜の感覚にさほど違いのない吾輩から見ても、目の前で微笑む女は大層美しく、魅力的だと言わざるを得ない。

 

 ……しかしそれだけに心配でもある。

 

 発情期にしか子を成せない吾輩たち猫とは異なり、人間たちは年を通して子作りが可能であると聞く。ならば常時発情した男どもに手篭めにされる危険性は、吾輩たち猫とは比較にならないほど高いと言えるだろう。

 

 吾輩としても、そのような形で得難い従者を失うのは本意ではない。ふみかにもその自覚をもって慎みのある行動を期待したいが、自分の部屋だからってこうも大胆に全裸となるようでは望み薄か。

 

 まったくもって致し方なし。従者が頼りにならぬとハッキリした以上は、主君である吾輩が気を配ってやらねばな。

 

 不逞の輩はこの爪で引き裂いてくれよう──そんな決意を固めた時だった。家主である吾輩に無断で玄関の施錠が解除される音がしたのは。

 

 もちろん吾輩は己が従者を守るべく臨戦態勢となった。だが、先手必勝とばかりに飛びかかれぬ事情もある。新しい下着を穿くふみかの前に立ちはだかった吾輩は、侵入者の正体を見極める事を優先した。

 

 ……そうした判断は間違っていなかったようだ。

 

 無遠慮にこちらの扉を開けて顔を出すなり、下着姿のふみかを見て邪悪な笑みを見せたのは、何度か拝謁の機会を与えてやった知人だったからだ。

 

「うーん、ちと遅かったか……。せめてあと数秒早ければ全裸でご対面だったのにね、ふみかたん」

 

「あ、桃華先輩」

 

 そう言って己が従者を呆れさせた人物の正体は、ふみかより胸部が小さい分だけ臀部の大きい人間で……残念ながら吾輩の知人であり、ふみかの友人でもある《皇桃華》という女であった。

 

「こんな朝からどしたん? 合鍵は預けてるけど、まだ8時にもなってないのに来られちゃうと、寝込みを襲いにきたんかと思っちゃうなぁー」

 

 そう思うなら友人はよく選べ、ふみかよ……主君である吾輩の名誉にも関わること故な。

 

「おっ、誘い受けか? そういうコトならこっちも遠慮しないもんね」

 

「ちょっ、上はともかく下まで触ろうとすなっ!? 馬鹿ッ、変態ッ……助けてみぃちゃん!! ふみか貞操のピンチやわ……!!」

 

 まったく、言わんこっちゃない。ドサリと白色の袋に包まれた荷物を床に落とした女はふみかに抱きつき、恥も外聞もなくその肢体を味わおうとするが、そうはいかん。

 

 ふみかが嫌がっている以上、吾輩に己が従僕を守ってやる責任があるのだ。とりあえず威嚇のつもりで立ち上がり、巨大な臀部に似合わぬ引き締まったふくらはぎにペシペシと猫族奥義・猫パンチをお見舞いしてやる。

 

「ん? みぃちゃんが守ってくれるってよ……。こんなに小さいのに一丁前にナイト気取りか。しっかり男の子してるじゃん」

 

 が、無念。敵はあまりにも強大だった。

 

 あっさりと捕獲され、高い高いとばかりに抱き上げれた吾輩の心境は、しかしこれも計算尽くよというものであった。

 

 未だに仔猫の域を脱していない吾輩ではたしかにこの女には敵うまい。だが、この艶めかしくも尊い肢体を目の当たりにした貴様の関心はどうだ?

 

 もはやふみかの事など眼中になく、吾輩を辱めることしか頭にあるまい。犯すなら犯せとばかりに高貴なる吾輩の毛皮を強姦魔の好きにさせる。

 

「うーん、そんなにいいんか? こんなに気持ちよさそうに抱かれちゃって、まぁ……お姉さんに浮気をしたらふみかたんが嫉妬しちゃうゾ?」

 

「まぁみぃちゃんって誰にでもこんなやから……」

 

 クッ……貴様の為を思ってやっているのに、吾輩の事を誰とでも寝るような女のように言うとは何事……あちょっ、ちょいタンマ……らめぇ、そんなに顎の下を撫で撫でしたら喉がゴロゴロ鳴っちゃうのぉ……!!

 

「……で? 桃華先輩の要件は、みぃちゃんにセクハラする事でファイナルアンサー?」

 

「うん、ファイナルアンサー……っていうのは半分ぐらい冗談で、昨日は災難だったね。この仔の所為で素顔が露見しかかってさ」

 

「あ、それはおおきに……。マネちゃんにも言われましたね。今回見られたのは首から下だけだから、気にしなくても大丈夫だって」

 

「ま、VTuberあるあるだよね。猫を飼うのも、配信を邪魔されるのも」

 

「ですよねー。まぁふみかの場合は半分くらい自業自得やけど」

 

「どっちにしろ凹んでなさそうで安心したわ。ふみかって意外とお嬢様だから、リアルもマジモンの巨乳だってバレて、SNSでも祭りになってるからもうちょい凹んでると思ったが、その鬱憤はコイツにぶつけて晴らしたカンジ?」

 

「いやいや。もともとふみかが勝手にやった事だからみぃちゃんを恨んでませんが、モフッていたらどうでもええかって気にはなってましたね」

 

「する功罪半ばか? オマエもこれに懲りたら配信中にキーボードを触って、うちらの後輩を困らせんなよ?」

 

 ぐぬぬ……ふみかも悪いのは自分って言っておるのに、どうして吾輩が戦犯のように言われなければならないのか。

 

 これは断固として抗議せねばならんが、こうして尻尾の付け根を撫でられると、ふみかではないがそんな些事はどうでもいいと言う気に……いかん! このままでは魂まで売ることになるが、分かっておるのに止められん……!!

 

 なんというテクニシャンなのであろうか。ふみかの親友・皇桃華(すめらぎももか)恐るべし。

 

 結局この日は夕献の席まで居座った女王の如き傑物に蹂躙された吾輩は、危うくその軍門に降るところであったが……それ以来、あの女の来訪が待ち遠しくなったのはここだけの秘密である。

 

 

 

 

 

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