STEEL HAZE   作:魚の名前はイノシシ

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君が──か。あの連邦生徒会長に呼ばれたそうだな。

 

─アリウス自治区・教育棟

 

そこには、横に1本の線が入り赤いライトが付いているバイザーを付け肩にビリヤードの9を模したバッジを張り付けた少女が1人の赤い人外の前に静かに立っている。その姿はまるで機械のようで見たものに無機質さを感じさせる。口元は少しの緩みも強ばりもなく感情など無いように硬く閉じられている。口元や、かろうじて見える首元に手首には多くの古傷が刻まれており痛々しい。

 

「良いですね?あなたは、私が下す命令に従う特別な存在。私が殺せと言えば何も言わずに殺し、私が死ねと言えばなんの疑問も抱かずに死ぬ。それがあなた達の生きる理由。貴方を作るまでに姉や妹、友人を含む何人もの生徒が犠牲になったのです。あなたが感じていた苦痛も後悔も、全て彼女たちには及ばない。

 

何も考えず

 

何も感じず

 

ただひたすらに脅威を排除し続ける暴力装置。

 

あなたは私の向かう崇高を阻む障害の排除が役目。貴方の足元に積み上がった屍に報いるたった一つのできること。

 

これだけを理解しなさい。貴方は最高傑作です。」

 

「はい、マスター・ベアトリーチェ」

 

「役目を述べよ。」

 

「何も考えない従者であれ。」

「何も感じない人形であれ。」

「マスターの道を阻む全ての障害を、排除します。」

 

「それだけが私が『──────』に至るまでに築き上げた同胞の屍に報いる為のたった一つの役目…ご命令を。」

 

少女のバイザーの下の瞳には、諦念と、罪悪と、黒ずんだ希望の破片が散らばっていた。今まで受けた拷問としか言えない訓練、これからも無限に続く苦しく辛い理不尽に、砕かれて無造作に捨てられた感情が、散らばっていた。

 

赤い異形は、10年に渡る教育の試行錯誤と作戦実働部隊に所属させ、その中でも『気のいい人間』の傍に置いていたことで作られた人間らしい良い人格を3ヶ月という短期間での破壊により遂に完成した最強の操り人形を見て、ニタリと口元を醜く歪めた。

 


 

─万魔殿の一室にて

 

室内には、専用の椅子に座って何かをしているマコトと書類整理をしているラスティとイロハ、イブキの写真を撮っているチアキとイブキと遊んでいるサツキがいた。

 

「今日の予定には先生との会談があるようだが…」

 

横目でマコト議長の様子を伺う。

 

「こう、いやこうか?…よし、これだ!キキキ!この角度なら如何に大人であろうとこのマコト様のカリスマには抗えまい!キキキ!見える、見えるぞ…先生が私を畏怖し畏敬の念を抱き我がゲヘナの軍門に下る姿が!これでキヴォトスは私が支配したも過言では無い…!」

 

「マコト議長。この書類なのだが議長の印が必要なものでな。確認をお願いしたい。」

 

「ん?この書類は…キキキ、今の私は気分がいい!…ヨシ、イロハ、そしてラスティ!この書類を風紀委員会に渡しに行ってこい!」

 

サラサラと数字を記入し最後にドンッと議長印を押した書類をラスティに押し付けるように渡す。

 

「えぇ…なんで私も…ラスティに行かせるなら私は行かなくてもいいんじゃないですか。」

 

「キキキ、今日の内訳はコレに書いてある。ヒナの目の前で読み上げてやれ。キキキ、奴の苦い顔が目に浮かぶわ!」

 

「人の話も聞かないで…!」

 

イロハの前まで歩き1枚の紙を押し付け、キヴォトスを支配したあとの事を妄想し始めたマコトには声も届きにくいだろう。面倒くさい、と呟くイロハに近寄り小声で話しかける。

 

「まあ良いじゃないか。議長からの仕事となれば多少は休んでも何も言われないはず、だろう?この間いい店を見つけたんだ。一緒にどうだ?」

 

「…ふふ、貴女も分かってきましたね。流石私の共犯者です。是非その店に連れて行って下さい。」

 

急に仕事を割り振られテンションが下がっていたが、一緒にサボることを提案すると再び元気になった。

共犯者というのは、誘われたり口車に乗せられて一緒にサボることがあったからイロハからの信頼の証としてそう付けられた。

サボりを告発する理由も、告発して得られるメリットも全くないしな。それに休憩も大事だと言うのはレッドガンとしての指導で散々身に染みている。厳しくも愛を感じる訓練は、レッドの後ろを着いていきながらみんなヒィヒィ言いつつも最後までやり切っている。

 

「なら少し風紀委員会まで行ってくる。」

 

「では行きましょうか。」

 

そう言い残すと私とイロハはイブキの「いってらっしゃい!気をつけてね〜!」という元気な声を受け取り手を振って返事をして部屋を出た。下駄箱で靴を履き替え、学園から離れた。

 

───

──

 

「これは…なかなかだな。」

 

「はぁ〜…本当にマコト先輩は風紀委員長への嫌がらせに関しては頭を使うんですから…」

 

学園からしばらく歩いて着いたのは落ち着く雰囲気の漫画喫茶。店内は隅々まで手入れが行き届いており、本棚に並ぶ漫画はどれも汚れの無い素晴らしいものばかり。漂うコーヒーの香りは不思議と心が落ち着いていくようだ。

 

テーブル席の1つで、私とイロハは渡された紙の内容を一緒に見ていた。内容はこじつけや言いがかりと言えるようなものからレッドガンを結成したこと、私を手に入れたことの自慢が書いてあった。

 

「レッドガンはともかく私の入会をも理由にするとはな。私とヒナの関係を利用してまでとは思ってもいなかったぞ?」

 

「マコト先輩ならやりますよこんな事。これを私が風紀委員長の前で読み上げろって、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃないです!ラスティがこれ読んでくれませんか?」

 

「だが、そうしたらマコト議長が危険な目にあうんじゃ…」

 

「よく聞いてくださいラスティ。良いですか?鼻が伸びている調子に乗った上司は今後何をしでかすか分かったもんじゃないんです。」

 

「む…だから私が読み上げてわざとヒナをマコト議長にけしかける必要性があると?だがそうしたらマコト議長は…」

 

「調子に乗っている上司を陰ながら正すのも立派な議員の、部下としての役割です。マコト議長もそれをどこかで望んでいるはずです(適当)」

 

「…そういうものか。分かった、読み上げる役は私が引き受けよう。イロハに怪我をさせる訳にも行かないしな!」

 

少し理を見せれば信じてしまう純粋なラスティ。この純粋さも悪意が普遍的に広がる場所で『それでも』と夢を見続けた賜物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ。ここはいいですね。落ち着く雰囲気に面白い本が置いてあって…」

 

「そうだろう?最近できた店だがイロハも気に入ってくれると思ってな。連れてきた甲斐があった。…それじゃあ、そろそろ風紀委員会に向かおうか。」

 

「そうですね。名残惜しいですがこれ以上はマコト先輩に何を言われるか…」

 

時計の針が半周したところで読んでいた本から顔を上げて注文したコーヒーの残りを飲み干し、イロハが本を読み終えたのを見計らいそう声をかける。パタンと本を閉じ元の場所に戻しているのを尻目に会計を済ませて店を出て学園に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

学園に戻り風紀委員会の処へ向かう途中に1人の委員と出会った。その委員はイオリ隊長の率いる1班に配属されて居た子だったはずだ。

 

「やあ。久しぶりだな。」

 

「ん?…あ!ラスティか!久しぶりだな!隣のは…万魔殿の奴か?今度は何の用だ?」

 

私を見て笑顔で挨拶を返してくれたが、イロハに気づくと一転してジロッという音が聞こえそうなほど睨みつけた。心做しか私からも少し距離を撮ったように思える。

 

「はぁ…」

 

「ああ、実は風紀委員長にその事で話があってな。私は付き添いのような者だが、通っても良いだろうか。」

 

さっと軽く用を伝える。余計なことを言わないように気をつけて。

 

「…良いだろう。共に戦ったラスティに免じて通してやる。くれぐれも変なことをしないようにな!」

 

そう忠告した彼女は廊下を進んでどこかへ行った。

 

「分かってますよ…行きましょうかラスティ。」

 

「ああ。じゃあまた!」

 

小さくなる背中に声を掛けて私達も目的地へと足を進める。

 

「…万魔殿は風紀委員会からの印象が悪いのだな。予算を減らしているのはどうかと思うがそれだけで嫌われるものなのか?」

 

「それ以外にも、風紀委員長に対する細かい嫌がらせとか万魔殿の仕事をまる投げしたりとかして居るからですかね。私達はなんとも思っていないんですがマコト先輩がいやに風紀委員長を敵視しているから…はぁ。何時もはもう少し面倒くさいことになるの今日はでラスティがいて助かりましたね。」

 

良い店にも連れて行って貰えたし、と付け足し話す。それからは歩きながら万魔殿の仕事量は風紀委員会よりも少ないこと、今までマコト議長がしてきた嫌がらせや予算減少の手口、風紀委員会には妖怪が紛れていることを教えて貰っていた。

 

「着いたな。居てくれると助かるのだが…」

 

コンコンコン

 

「万魔殿の者だ。予算の話をしに来た。入っても良いか?」

 

「…どうぞお入りください。それで、万魔殿のタヌキが何の用ですか?今度はどんな厄介事を持ってきたんです?」

 

扉を開けて中に入る。いきなりタヌキ呼ばわりは驚いたが、青髪の生徒の服装にもっと驚いた。

 

「失礼す…!?…こほん。風紀委員長の姿がないようだが風紀委員長は不在か?」

 

チチ=ハミデヤン(サム・ドルマヤン)…とノイズが混じった思考を咳払いをして切り捨てる。

 

「ええ、今は脱走した美食研究会がまた食事処を爆破したという通報を受けて出動中です。その間の対応は私に任せられていますのでお話をどうぞ。」

 

嫌悪を隠さない様子で用件を促される。それで良いのならそうしたいが…

 

「今回の話は風紀委員長に直接話すよう言われているので戻るまで適当に待たせてもらいますね。」

 

私が答える前にイロハが答える。そして当たり前のように来客用のソファに私を引っ張りながら座る。そして自然と栞が挟まっている本を取り出し読み始めた。

 

「はあ!?何を勝手なことしようと!そもそもそうやってあなた達が余計な仕事を増やすからヒナ委員長は…」

 

「そう言われても…」

 

「どうぞ、こちらお茶とお菓子です。」

 

「チナツ?」

 

「行政官、ここで何もせず待たせておいたら配慮の欠如でイチャモンをつけられては…それにこちらの方はヒナ委員長の『戦友』だそうで変な対応はぁ!?」

 

「『戦友』!?ヒナ委員長と!?どういうことですか!?」

 

「し、知りませんよ!ヒナ、委員長に!聞いてください!」

 

チナツと呼ばれた生徒の肩をつかみガクガクと揺すり問い詰める行政官と呼ばれた青髪。

 

しばらく言い合いをしていた彼女たちだが、いつしか話の矛先がこちらに向かってきた。それをあしらっていたらいつの間にかヒナの凄さを語り始めていて普段からどれだけ世話になっているか、風紀委員の様子、普段からどんな仕事をしているのか、マコト議長からの嫌がらせのより詳しい内容を聞いたりだとか…途中でチナツが医療部に呼ばれたようで退室した。

 

話を受け止め反応を返しているうちに彼女は落ち着きを取り戻した。

 

格好はアレだが、彼女はヒナの事や風紀委員の皆のことを考えている思いやりのある良い人間であると知った。

イロハは私の肩に寄りかかって寝ていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「はあ、はあ…ふぅ…みっともない所を見せてしまい申し訳ありません。貴女は万魔殿の中でもまともな部類に入る人間のようですね。」

 

「はは…他のメンバーのことも知るといい所が沢山出てくるはずだ。もう少し見てやってくれ。そういえば、風紀委員長は後どのくらいで?」

 

「ヒナ委員長はあと五分ほどで戻られるようです。お連れの方も寝ていらっしゃるようですのでここでもう少しここで待っていて下さい。」

 

「ああ、助かる。…そういえば自己紹介してないな。」

 

「…確かに、そうですね。」

 

「では私から。…私の名前は黒狼ラスティ。先日、この学園に編入してきた2年生だ。*1まだゲヘナに慣れていないところがあるからそこは大目に見て欲しいな。所属は万魔殿の議長の護衛人*2兼新しく立ち上げた治安維持部隊のレッドガン隊員さ。万魔殿とレッドガンを繋ぐボタンのような役周りをしているから、1人だけの部隊ではあるものの隊長としてコールサインG9を賜っている。…我々レッドガンは生徒でありながらも傭兵としての活動が万魔殿より正式に認められているから依頼があればなんでも手伝う。よろしく頼む。」

 

「え、えぇ。*3よろしく、お願いします…コホン!次は私ですね。私の名前は天雨アコ。この学園の3年生にしてヒナ委員長の右腕たる行政官を務めています。編入生ならば、もてなしましょう。依頼することがあればよろしくお願いします。」

 

右手を差し出し握手を求めると、彼女は何やら後方を気にしている。それでもとりあえず握手には応じてくれたため安心していると…

 

「…久しぶり、ね。ラスティ。貴女は…風紀委員会に来るのだと思っていたわ。」

 

表情が優れないようだが*4帰ってきてすぐだから疲れているんだろう。*5そんな時に予算の話をする事に申し訳なさを感じる。

 

「やあ戦友、お邪魔しているよ。天雨行政官からはあと五分で戻ると聞いたが早かったな。」

 

「…ええ、貴方が来ていると聞いて少し。それじゃあ、用件を聞こうかしら。」

 

体調が優れない様だったがすぐに改めてこちらに用件をたずねる。流石風紀委員長、自己制御も完璧だな。

 

「帰ってきて疲れているだろうに申し訳ない。では、本題に…いや。やはりやめておこう。まずは休んでくれ。」

 

「いや、早いところ話をしないと、仕事が…」

 

「それなら安心してくれて大丈夫さ。君には頼れる仲間がいるんだから。」

 

すかさず天雨行政官に目線を送る。彼女ならこれで伝わるだろう。

 

「!…そうです!さぁ、仕事のことは私達に任せて今はゆっくりお休みになられてください。普段からお世話になっているから、こういう時にこそ返させてください!」

 

「そ、そう?でも量が…」

 

「私達も手伝おう。万魔殿のイロハとこのラスティがな。君たちほどでは無いが私達も書類仕事はできるんだ。…あの量は凶悪だ、人手は多い方がいいだろう?」

 

「なら…任せるわ。ただ何かあったらすぐ起こして欲しい。」

 

微笑みを浮かべ、来る時に見えた仮眠室に向かったヒナ…やはり、彼女は笑った顔が似合うな。

 

「では、始めましょうか。」

 

そう言いながら仕事を片付け始める天雨行政官。

 

「さあ、イロハ。起きてくれ。君にも仕事を手伝ってもらおうじゃないか。」

 

頭をわしゃわしゃしてイロハを起こし、書類の山の前に立たせる。

 

「はぁ、面倒くさい…話をするだけのはずがなんで仕事を…」

 

そう言いながらもきちんと書類に取り掛かる。やはり少しは申し訳ないと思っていたのだろうか?思ったより素直に仕事を始めたイロハにそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから約3時間ほど。時刻は午前から午後に変わり、あれだけあった書類の山は今やヒナが確認する必要のあるものだけになった。重要度の高いものはアコ行政官が、それ以外のハンコを押すだけだったり軽く計算するようなものは私とイロハが手分けして処理した。途中でイロハとアコ行政官が私の所属を賭けて競争していたり、様子を見に来た風紀委員の子に書類整理を手伝ってもらったりしたからヒナが戻る前に片付けることが出来た。*6

競争していた割には2人ともミスが無く、頭の回転や反射神経が悪くないものだと知った。

皆で喜んでいた時ドアが開いた。ヒナが戻ってきたのだ。先程見た時よりも少し顔色が良くなっているから充分に休めたんだろう。

 

「戻ったわ。…あれだけの数をほとんどやったようね。」

 

「ええ!あとはヒナ委員長の確認が必要な書類だけです!」

 

机に付して呻き声を上げて「ヒナ委員長はいつもこの倍以上をおひとりで…」等を呟いていたアコが、ヒナの気配を察知して元気そうに応える。

 

「ありがとう、あとはやっておくわね。イオリ達もありがとう。」

 

もじもじとしていたイオリとその他十数人の風紀委員の子が肩を跳ねさせてヒナを見る。

 

「い、いや!いつも迷惑かけてるしこういうこともしないと、申し訳なくって…」

 

「そうですよ!私なんかいつも始めの方にやられちゃって…」

「私だって、委員長が来なかったら取り逃してたこともたくさん…」

「だから、手助けができる時にさせて欲しいんです!」

「こんな量以上の書類をいつも1人で…本当に凄いです!」

 

イオリは目を逸らして少し赤く染まった頬を掻きながらしっぽをゆらゆらと揺らす。後半は俯いてしまい声が小さくなっていき、しっぽもしょげたように下がって動きが止まった。

続くように他の委員も俯きがちに自身の情けなさと力になりたい思いを心から声に出す。

 

「顔を上げてちょうだい。そんなに気にしなくてもいつも助かってるわよ?」

 

「なら、これからも頼ってくれますか?」

 

「そう、ね…なら、これからはあなた達にも私の仕事一部をもう少しやってもらうとか、かしら?」

 

疑問符を浮かべながらこちらを見てくるヒナ。その決定は私に振られても困るな…だが、頼るということをあまり知らないということはすなわち、友達が少ないということ。それは何故か…

 

「そうだな。それに加えて、もう少し距離感を縮めたらどうだろうか?見ている限りだとヒナの傍には人が少ないからな。もっと寄り集まれば、心も暖かいだろう?私にはそういう仲間と言えるものはこの学園に来てから出来たから大切さは分かっている。…どうだろうか?」

 

周りがヒナのことを畏れ敬い過ぎているからだ。

 

提案に対して、反対するものは勿論、返事をしないものは居なかった。この状態ならばきっとこの場にいない風紀委員の殆ども同じように思っているだろうな。…ふっ、流石は戦友、人望も人一倍だな!

 

「…ラスティ。空気を壊すようで悪いんですが、マコト先輩から頼まれていた例の話を。」

 

この空気の中、私の傍で静かにしてくれていたイロハがチョイチョイと袖を引っ張って耳を貸してほしいと言う。屈んで耳を傾けると、小声で例の話を促す。

 

「…そうだな。では、私達は元々ヒナに用があってきたんだ。それを達させて貰う。この空気を、壊してしまう事になるが…」

 

「ゆっくりで良いわ。さっき話していた予算の話しね?」

 

『予算』という単語が出た瞬間に部屋にピリッと張り詰めるような緊張感が満ちる。

 

「では…今回の風紀委員会の予算は50万円であることが決定した。」

 

緊張感を跳ね除けて金額を言う。各種弾薬や銃火器、車両の整備費用から訓練用の玉等の費用を集計してみると、それでも少ないのが分かる。

 

「な…、前回の予算の7割以下じゃあ…!?」

 

「アコ、まだよ。…続きがあるのよね?」

 

「ああ。こうなった内訳はこの紙にマコト議長からの伝言がまとまっている。読み上げるぞ…

『風紀委員会の諸君、そして空崎ヒナ。今回の予算について大層驚いただろう?なにせ貴様らに50万円もの予算を宛てがっているのだから!』」

 

「50万円、もの!?」

 

「『この内訳は、貴様らが度々私のイブキを誘拐していること、横乳女がイブキに悪い影響を与えんと企んでいること、そして廊下を走ったり1度捕まえた指名手配犯の脱走を何度も見逃している職務怠慢、なにより我が!万魔殿の!可愛い新人!ラスティを!生意気にも戦友と呼んでいること!これにより、7割のコスト削減が決定した!そして更にそこから、マコト様の威厳を示すために作る像の費用として残り3割と次次回分の予算を徴収した。』」

 

「予算ゼロって…」

「でも50万円の予算はなんで?」

「次次回分も!?あのタヌキが!」

 

「『だが、その像を建てる予定が無くなったため使わなくなった金は恵んでやったというわけだ。』」

「『なぜ無くなったのか気になっていることだろうが、私が貴様らなんぞに教えるわけがなかろう!せいぜい有難く予算を享受することだ!キシシシシシ!』」

 

「どういうことだ!?」

「落ち着け、混乱しても仕方がない!」

「どういう風の吹き回しだ…?」

 

「…以上が、万魔殿議長の羽沼マコトからの伝言だ。」

「毎度毎度煽る真似をして痛い目を見ているというのに懲りない人ですよね。」

 

周りの委員達はザワザワと混乱している。イオリ隊長は表には出ていないが動揺はしている様だった。ヒナはマコト議長の奇行について考えているようだ。この場で心を揺さぶられて居ないのは内容を私とイロハ、そしてアコ行政官だ。

 

「…もしや、自己紹介で言っていた万魔殿の新しく結成した治安維持部隊というのが、その像の代わりになると?」

 

鋭い視線で問いかけるアコ行政官の言葉に周りの皆は私とイロハに集中する。

 

「ああ。もっと言えば万魔殿の戦力誇示と、その戦力を率いるマコト議長の威厳を示すものだな。もっとも、ただの飾りで居られるような大人しい者は一人もいないがな。」

 

「そういう事…手網はあなたが握っているの?」

 

「いや、握っているのは違う奴だ。私より奴の方が上手くやれると判断したからな。」

 

「…本当のこと?」

 

「…え、なんでこっち見るんですか…ラスティの言っていることは本当ですよ?そもそもレッドガンのメンバー自体元々そのリーダーをやっている人がたまに世話を焼いていたみたいで懐いているんです。マコト議長からの司令には渋々従ってますが、それもそのリーダーが従っているからですし。これでいいですか?」

 

イロハからの説明で納得した様子を見せた風紀委員会。予算の話を始めてから10分程か…そろそろ戻るべきだろう。

 

「それじゃあ役目も果たしたことだから我々はここら辺で戻らせてもらおう。行こう、イロハ。」

 

「ええ。…ではお邪魔しました。」

 

退室し万魔殿に戻る。途中でもうすぐ来る先生を含めたみんなの分のプリンを買って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ラスティ。」

「どうした?」

「あの大人って先生じゃないですか?ヘイローないですし。」

 

見てみると確かにヘイローの無い大人で、白いスーツを着こなしている。

 

「ついでですから迎えに行きましょうか?」

「そうしよう。少しでも万魔殿の印象が良くなるはずだ。」

 

善は急げと玄関まで降りて先生を迎える。

 

「お待ちしていましたよ。シャーレの先生ですよね?」

「やあ、初めまして。貴方が先生だな?あの連邦生徒会長に呼ばれたらしいな。」

 

''はじめまして。''

''君達の名前は?''

 

「私は棗イロハといいます。こっちは黒狼ラスティです。」

「私達は万魔殿に所属している人間だ。これから向かうのだろう?良ければ案内を任せて欲しい。」

 

''よろしくね!イロハ、ラスティ!''

''お言葉に甘えて案内して貰っちゃおうかな''

 

 

 

To Be Continued……

 

 

 

*1
『ガチャ』

*2
『え…?』

*3
(ヒナ委員長がシナシナに…)

*4
風紀委員会に入ると思っていた戦友が万魔殿のタヌキに盗られてショックを受けているから。

*5
それもある

*6
ゲヘナにしては珍しく暴動やテロが起きなかった。通報も無かった。




※この後は普通にマコトが先生のもつ大人の余裕と優しさに翻弄されて何事もなく終わった。

今回はヒナとその周りをちょっとだけ手を加えさせてもらいました。
夏のイベント、『ヒナ委員長のなつやすみ!』でやるような流れをした理由はとしてはやりたかったからです。他に意味は無い!!

なんか、思ったよりも長くなっちゃったし内容が掴みにくいかと思ったけどこれ以上の語彙は持ち合わせて無くってぇ…辛いですね、苦しいですね…うわーん!こんな事ならいっぱい本を読んでおけばよかったです!

次回─『裏切り者の…』

行く末をどうするか

  • 『ヴェスパーの災禍』
  • 『アリウスの解放者』
  • 『壊滅』
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