STEEL HAZE   作:魚の名前はイノシシ

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時が経つのが早すぎる
お待たせしました。


私こそが――

 

 

「死人ごときが、邪魔だァ!」

 

気配を追って逆走するイグアス。自分自身執着しすぎだとも、今でも戻るべきだのと理性が働いている。

決着は付かなかった。だから相応しい場が整えられるまでは噛みつかないつもりだった。

しかし本能とも言うべき魂に根付いた異常精神のせいか、向かわざるを得ない。人が空腹を感じたり眠気を感じたりするのと同様に。

 

「ちっ、キリがねぇ。アイツを殺る前にくたばっちまったら世話がねぇってもんだ、な!」

 

 

 

 

ラスティ、ミシガンは大聖堂に使う道中、何者かがミメシス及びアリウス兵と戦闘しているところに遭遇する。誰が戦っているかは不明だが、

 

「ミシガン、誰か戦っているぞ!」

 

「G9!今は、」

 

「助力に行く。この物量は手間取るはずだ。ミシガンは先に行っててくれ!」

 

「待て、先走るな!…馬鹿者が!目的を忘れていたらどうしてやろうか!――先に行く!!必ず追いついてくることだ!!!」

 

……ミシガンの声が響き渡り、後には巻き上げられた砂と強い神秘の残滓のみ残されていた。

 

 

 

ラスティが戦闘に加わってしばらく。何事もなく過去の亡霊の殲滅、生徒らの撃破が完了した。

 

「バケ、モノ…コード、7え(ゴヅッ)……」

 

「――これで最後か。大丈夫だったか?大分囲まれていたが…」

 

「俺だけでも何とかなったんだ、礼は言わねぇぞ。

…?あぁ!?てめ、野良犬!?」

 

「イグアス!久しぶりだな、ミレニアム以来か。調子はどうだ?」

 

笑みを浮かべながらイグアスに近寄ると腰を折ってイグアスの身長に視線を合わせるとガバっと右腕をイグアスの首に回し引き寄せる。

 

「こっちくんな!ベタベタすんな気色悪い!?

……いいか?さっきも言ったがあの程度俺だけでも何とかなったんだ…!調子に乗るなよ、野良犬!」

 

グイっとラスティの首をへし折るつもりで押し退け、絡んでくるラスティを引き離す。ラスティは首に手を当て軽く揉む程度。

 

「はは、相変わらず元気だな。…ところで、ヴォルタはどうした。どうせ居るんだろう?」

 

「…ヴォルタはスクワッドと組んでクソババアとヤってる。

おいクソ犬。てめぇがなんで生きてるのか聞かねぇが、折角会ったんだ。前回は惜しかった…だからこそ、今回は必ず」

 

「生き残ったのはまぁ、奥の手だ。暫くは打てない手になったが、おかげで生きている。…さて、何を企んでいるか。それも含めてまだまだ積もる話はあるが先を急がせてもらう。今、君と戦うつもりも無い。」

 

「…待てよ。」

 

「時間が無い。終わったら付き合ってやる。そうだな……折角だ、イグアスも私の目的に手を貸してくれ。そうか、助かる。」

 

そう言うとラスティはイグアスの手を掴み…

 

「……は?なんで俺がてめぇに……クソ野郎が!手ェ離しやが」

 

「行くぞ!」

 

時速100キロで、入り組んだ道を爆走し始めた。

 

 

 

 

 

「近道をしよう。いくつかあるうち、一つだけ大聖堂の横に抜け穴があるんだ。そこからなら直線で向かうことができる。いざとなれば地上にも上がれるようかなり高いが縦穴も存在する。」

 

「縦穴ぁ?そんなもんあったって使えるやつはそういねぇだろうが……おい待て、アイツは?」

 

「IX BALL…奴は別件で外していたはずだが、もう戻ってきてたのか…?」

 

「……………」

 

「こっちに気づいてねぇみてぇだな。とっとと抜けちまおう。」

 

「……あのIX BALLがこの距離で私たちに気づかないはずがない。イグアス、構えろ。」

 

「やるしかねぇか。」

 

「そのまさかだ。……私は、ここで終わる訳には行かない。見たところ補給はまだ受けていない、叩くなら今しかない。それとも、物陰で亀になって私の勇姿を語り継いでくれるのか?」

 

「チッ!スカシやがって、そういう所が癪に障る!ミシガンの野郎に1発ぶち込むまで戦場で引っ込んでられるか…!」

 

「…敵性反応、捕捉。対象……G5イグアス、V.IVラスティ。両名とも優先排除対象。強制排除――執行」

 

IX BALLは何処かしょぼくれた声で、自らに言い聞かせるよう告げると武器を構えた。

 

 

 

 

 

 

「終わりだ!」

 

ガゴンッ!

 

「ぐぅ……!」

 

「撃破したか…消耗しててこれ程とは。さて……イグアス、今の戦闘による神秘の消耗が激しかった。少し休ませてもらう…申し訳ないが先に行っててくれ。この道を真っ直ぐだ。……頼んだぞ、イグアス。」

 

「―…らしくねぇな。なんなんだテメェ。腑抜けやがって。自分の使命だ目的だなんだとご高尚にも垂れ流しておいていざ自分は疲れたから出来ませんだと?

てめぇ、巫山戯るのも大概に――!!」

 

「アリウスを救うのは、マダムを倒した先に有る。イグアス。イレギュラー足りうる君は感じ取っていると思うが、マダムは前哨戦に過ぎないのさ。ベアトリーチェを殺してくれ。その先は…後に残ったものに火をつけるのが、私の役目だ。ベアトリーチェとの戦いで力尽きる訳にも行かない。」

 

「…チッ。どこまで行っても気に入らねぇな。俺に戦えと言ったんだからてめぇも戦うのがスジってもんだろ。もういい、最低限の物資は置いてってやるからとっとと来い、役立たず!」

 

 

 

――IX BALLとの戦闘はイグアス、ラスティの想定よりも早く決着が着いた。IX BALLの回復が済んでいなかったこと、集中出来ていなかったことがイグアスとラスティのコンビが勝利する形で決着が着いた。

 

ラスティは自らがアリウスの人間でありIX BALLもまたアリウスであるため見捨てられないと言い、時間が無いにもかかわらず残ることを選択した。

 

 

(イグアス達には悪いが、火をつけるなら人手が要るからな。……面倒な。コーラル、そして【笛】。それらが合わさる前に、なんとしてでもどちらか、或いは両方を消さなければならない。)

 

 

 

「やぁ、IX BALL。なにか悩んでいるようだな。好きな人でもできたのか?」

 

「…V.IV、ラスティ……。マダムはキヴォトスを支配するでしょう…止めるなら行った方がいいです。あなたたちには……その権利と、義務がある。」

 

「…なにか抱えているようだな。君も私もアリウスの人間だ。同士の悩みにつけ込むような卑怯な手は使わないと約束するから、どうだ?私に話してみないか?」

 

「……。分かり、ました。」

 

大の字に倒れている姿勢から起き上がって膝を抱え込むように座る。俯いて目を閉じ息を深く吸い、大きく吐いたIX BALL。ゆっくりと目を開け、俯きながら独白するように内心を吐露する。

 

「――悩みが出来たのはつい最近のこと、です。

物量に押され、レッドガンに囚われて過ごした日々はアリウスで使われる日々よりも刺激的で、今までにない…ナニかを感じました。

マダムからの教えのお陰で兵器として崩れることなく戻ってこられましたが…どうしてもあの空気が頭から離れない。トリニティはもちろん、このアリウスとの違い。

全ては無駄で虚しいものなのに…なのに無駄に騒いで。仲間どうしで殴りあって…その後に笑って食事をして。野蛮で無駄で無意味な彼女らに嫌悪を抱き忌々しく思うと同時に、どこか……分からないと、思っています。」

 

「………」

 

「そして、もう1つ。関わることはなりませんでしたがあの白くて赤い目をした少女。任務中にふと目に付いた時から彼女のことを燃やしたいと思っています。……ただの憎悪でも殺意でも嫌悪でもなく、ただ…無性に闘って、彼女に勝ちたいと、使命のようにそう思ったんです。

今まで感情なんてものは空虚で無駄なものだと教えられて、実際に私は感情を無くすよう調整されていたはず。だから、感情の熱に……戸惑っている、のでしょうか。私は…兵器であるべきなのに、感情を持ってしまった欠陥。マダムに処分されることを受け入れているはずなのに、受け入れ難い拒絶が、内から溢れるんです。…何一つ、もう何も、まるで分からない。言いなりになっている理由も、なぜ戦っているのかも。」

 

「……そうか。私から言えることは少ない。

まず1つ。君は処分させない。クズの手によって作られたと言えど、君は…いや、君にも、私たちにも背負うべき生命(モノ)がある。それをやすやすと放棄させることは、アリウスの人間として許さない。相手が誰であっても、だ。」

 

「……。」

 

「2つ。あの手術は完成されていない。というのも、医療や科学のプロでもなんでもないただの技術を持った大人程度が人間を完全に掌握することなどまず不可能。コーラルという物質を運用すればありうるが……まず脳にコーラルを制御するデバイスでも無ければそれも出来ないだろう。そして脳に取り付ける繊細さ精密さ、清潔さはこのアリウスに無い。如何にベアトリーチェといえどもそれが分からないグズではないだろう。」

 

「手術が、完成されていない…?コーラルとは…?」

 

「そして3つ。【生きてるなら笑え】だ。・・・ある人の受け売りだが、どんな時でも笑ってるやつがいちばん強い。

・・・IX BALL。この世はまともなやつから潰れていく。だから、体だけでもふざけるのさ。――それに、最後まで笑ってたヤツはかっこいいだろ? そう思わないか、IX BALL。」

 

「わからない。けど・・・モヤモヤが少し、晴れたような気がします。」

 

「なら良かった。すまないが私は急用の途中でね。もう行かせてもらうが、笑っているやつほどかっこいい。それを覚えて おいてくれ。」

 

「・・・ 【生きてるなら笑え】。昔、マダムがどこからか拾い上げ嘲笑ってた言葉。脳にヤケに焼き付いた言葉……

……私は、私達は―――」

 

 

 

 

 

「腹を貫いたのだから、人として、子供として大人しく死になさい!」

 

「ゲボッ…チッ!武器がイカれやがった!この老害がッ!40万の特注品だぞ!?表に出ろォ!!」

 

「G4!貴様の脳みそもイカれたようだな!こんな老害に土をつけられるとは!!シャーレの後ろに隠れて亀になっておけ!貴様は日記をつける必要がある!!」

 

「俺がヴォルタと同じように行くと思うなよ、老害が!」

 

「老害老害と、躾のなっていないクソガキが!スクワッド諸共消し炭にしてやる!!」

 

「凄い…マダム相手にあれだけの事を言いながら渡り合ってる。今まであんなのに縛られてたのが馬鹿みたい。あの時ラスティの話に乗ってたら……」

 

「あんな化け物達に喧嘩を売るなんて、辞めておくべきですね…対峙したが最後、きっとぐちゃぐちゃにされて狭い檻の中で一生を過ごすんです!う、うう…!差し入れは新刊万魔がいいです〜!」

 

「槌永ヒヨリ!戒野ミサキ!こいつらの後はお前たちだ…!足の先から加工して、死ねない苦痛を味合わせてやる!」

 

''黙れ。''

 

「誰に向かってそんな口を…」

 

''私の生徒に話しかけるな。''

 

「っ……いいでしょう。ならば貴様も、タダの子供諸共黙らせる!」

 

 

 

「どうやらあのババアは耄碌しているらしいな、我々レッドガンがただのガキだと?腐りきったスカスカの脳みそで若さの違いを計算してみろ!」

 

「へっ、どうせわからねえよ!このままわからねえまま叩き潰してやる!!」

 

「無駄口を叩くなイグアス!口よりも手を動かせ!」

 

「ババアの次はてめぇだミシガン」

 

 

''(たち)の悪いカイザー、吐き気を催すゲマトリア…しかし何より、子供の命を道具として扱ったベアトリーチェ。お前だけは許さない。子供たちに謝り、二度と面を見せるな。''

 

「ただの大人が何を偉そうに!!」

 

''何が崇高だ。子供達の犠牲の上に成り立つそれになんの価値がある。ただの大人の私が【キヴォトスの先生】だ。''

 

ベアトリーチェに正面から言い切って見せた先生の前に、左後方から先生とベアトリーチェの間に滑り込むようにして飛来する人物がいた。

 

「やあ、先生、スクワッド。君達の誇る優等生、レッドガン部隊のラスティだ。…マダム。いや、アリウスの悪夢。今ここで、終生の引導を渡してやる。」

 

「遅い!このまま終わるかと思ったぞG9!」

 

地へ這いつくばり目を血走らせながらうわ言を垂れ流すベアトリーチェ。

 

「こ、の…ッ!この私が、押し切られる、だと…!?だがまだプランはある!2重3重(バゴン)…!?きさ、ま…!なにも…」

 

地面を掘り進ませた触手で足元からミシガンに襲いかかるが、突如何も無い頭上から胸に鉄杭が射ち出される。

下手人は、

 

「――リンクス所属、独立傭兵【レイヴン】。」*1

ベアトリーチェは力尽き、蠢いていた触手も花のように開いていた身体もばたりと倒れ元の人型へと形を戻す。ピクリとも動かなくなった。

 

「……やったか?」

 

「…完全な意識外からの強烈極まる一撃だ、どんな化け物でも流石に効くだろう。良くやった、G13!」

 

''……。生徒にこんな事をさせてしまうのは先生としてどうなのかと思うところはあるけど……みんな、お疲れ様。

 

「くぁー!中々効くじゃねぇか。風穴あけられたのにもう塞がってんぞ?」

 

「G4G5、夜間外出許可を寮母から取ってないな?その上貴重なリペアキットを合計四つも無断で持ち出したな!!」

 

「待て待て待て!そのお陰でここまでやれたんだから大目に見ろよ!」

 

「それで言えばミシガンはどうなんだよ!許可なく外出してリペアキット持ってきたのは同じだろうがよ!」

 

「貴様らと纏めるな!きちんと許可を取っているに決まっているだろう!!G5、ただの化け物相手にこの体たらくとは、次の訓練は楽しみにしておけ!G4、お前もだ!!」

 

「…そうちょ、わたしは…?」

 

「貴様の処遇はそこのG9が決める!」

 

「私がか?フッ、なら…!?危ない、先生ッ!」

 

突如先生に襲いかかった実体を持たない筈の()()()()。間一髪、ラスティは先生を突き飛ばすものの身代わりとなってしまい捕まった。

 

 

''なん、だって…!?''

 

最早聞くことなどないと思っていた声が、聖堂に響き渡る。コーラルを身に纏い、フラフラと立ちながらも右腕を突き出し、そこから伸びるコーラルの縄がラスティを捕らえている。

 

「…く、ククッ、フフフフフ!

この崇高(わたし)が大人しく、ぐわーやられたー!などと、言うと思いましたか?こんな事、想定の範囲内ですよ!言ったはずだ!2重3重にプランがあると…!詰めが甘いんだ、クソガキが!!」

 

ぐっ、と指先に力を込めコーラルの縄の締めつけを強くする。決して潰さず、しかし確実に苦しむように。

 

「ぐぅ…っ!」

 

「マダムの執念を甘く見ていたつもりはないが、あのダメージで動くなんて、ありえない…っあんなの、人間じゃ…」

 

「おるとぅす!?」

 

「貴様ならたった一撃で死ぬ大人を庇うだろう!そこを捕らえて神秘を吸い取ってやれば…この通り。所詮は子供、少しばかり崩してやればいくら統率係が居ようとこの程度。…遊んであげていればいい気になって。これだから子供は。」

 

ラスティにとって命そのものとも言える神秘を吸い取り、先生達から離れた位置に無造作に投げ捨てる。

 

「殺すまではしません。貴様の神秘で、奴らが苦しむところを見るがいい!究極の情報導体の性質を持つコーラルだが、新たなる知見を得た。応用編とも言えますか、それが子供の神秘を解析、望む力の抽出。」

 

「G13!」

 

「ん!」

 

「……ああ、そういえば貴女。思い出しました……脳深部にコーラル管理デバイスを埋め込んだというのに【英雄】の片割れを持ち逃げした成功作の大罪人。人とコーラルの混ざりもの。ここでラスティ共々捕えられるとは、運は私に味方してくれているようですね?」

 

ベアトリーチェは恍惚とした表情で続ける。

 

「最速の英雄、その逸話のひとつ。それを抽出し私の神秘で希釈、複製……このカタコンベに捕らえられているとして解釈をし、この崇高(わたし)とラスティ、レイヴン以外に貸与。直にこのカタコンベの入口、大聖堂に送り届けて差し上げましょう!!」

 

''待――''

「待ちやがれ、このババア!!」

 

「待ちませんよ。躾のなっていない狂犬が、崇高たる私の手を煩わせるな!」

 

 

「では、全てが終わってからまた会いましょう?シャーレの先生、スクワッド…レッドガン。クハ、フハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 

*1
イグアスが到着前、重いからと投げ捨てたパイルバンカーを拾って、ずっとソワソワしながら機を見ていた。




次回―「最後の、プランが……うわああああ!!」

行く末をどうするか

  • 『ヴェスパーの災禍』
  • 『アリウスの解放者』
  • 『壊滅』
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