温泉開発部捕縛作戦にて思いがけずゲヘナに実力を示したラスティはその後編入手続きを全て完了した、その翌日。
ゲヘナ学園というのは…随分と自由な所だな。授業中に眠ったり、携帯をいじっていたりはもちろん、抜け出したり果てには出席すらしていない生徒もいると来た。
ただ編入してきたよそ者には興味があるのかしばしば話しかけられたりはした。
放課後、マダムが手配した家に帰ろうと準備しながら次の定期報告に書くことを考えていると…
「すみません、貴方が黒狼ラスティであってます?」
「ああ、確かに私はラスティだ。君は?」
臙脂色の髪をした生徒が話しかけてくる。ヒナほどの身長だろう、その生徒は万魔殿所属を表す黒い帽子をかぶり、同じく黒い制服を着ていた。ネクタイがきちんと締められていなかったり、裾が飛び出していたりといまいちやる気が見えないのは私に警戒させない為のブラフだろう。レベルが高いな、本当にやる気がないようにしか見えないとは…
「私は万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の棗イロハです。用件はマコト先輩…万魔殿の議長で、この学園の生徒会長みたいな人が呼んでるので着いてきてください。…貴重品はしっかり持ってくださいね。勝手に『借りていく』生徒が居ますから。」
「学園のトップが?分かった。…よし、準備完了だ。何時でも行ける。」
随分と耳と手が早いものだ。まぁ、万魔殿に取り入る機会が早速訪れたのは私にとって好都合でしかない。出方を伺い奴らが好きそうな自分を演じてやろうじゃないか。
しばらくイロハについて歩く。道中で見た学園の様子は誰もが楽しげで騒がしく、しょうもないことで喧嘩し、銃を抜いては周りを巻き込んでの戦いが始まった時はこれが自由と混沌の学園かと感心した。それはそうと風紀委員に通報したが。
「…疲れませんか?」
「私は大丈夫だ。」
「…そうですか…」
歩く。少し距離を空け、お互いに無言で。
「…疲れませんか?」
「…ああ、少し疲れたな。」
「ならここら辺で休憩しましょう。」
休む。しばらくしてまた歩く。距離が縮まっていた。
「…どうです?」
「喉が渇いたな。」
「じゃあなにか飲んでから行きましょうか。」
休む。イロハと同じものを飲んで、読んでいる本について尋ねる。また歩く。面倒くさそう雰囲気はあるもののこの本がどこに売ってるのか、どのシリーズが面白いとかを話してくれて仲良くなった。
こうしてイロハについて回る。その後も休憩を取ったり読んでいる本を見せてもらったりしながらゆっくり進んでいく。体躯が小さいから案内をするだけだと身体的に疲れるのだろうな。そうしているうちにイロハと少しは仲良くなれた。どうやら彼女のやる気のなさは演技ではなく素でやる気がないだけだったようだ。ゲヘナの生徒は正直ものが多く、好感が持てるというものだ。
「…はい、着きましたよ。ここが生徒会室です。…こほん、マコト先輩!連れてきましたよ!」
教室を出て数十分後、万魔殿の扉の前に到着。ノックせず扉を開いたイロハに続いて入室。
目に入ったのは、左右にカメラを持った奴と色々と大きい奴。その間、中央の豪華な椅子に足を組んで不遜に座る長い白髪の女。マダムとは違いカリスマ溢れる本人の強さと美しさを感じる姿に一瞬気圧された。
「案内ご苦労、イロハ…キキキ、よくぞ来てくれた、黒狼ラスティ。先日の件について、貴様の活躍はこの万魔殿議長、羽沼マコト様の耳にも入っている!聞けばヒナと同程度の実力を持っているそうじゃないか?」
そんな評価をされていたのか?だが、それを信じられてしまうのは私にとって気がかりになる部分。印象が悪くなるかもしれないが訂正はしておこう。強さの評価ほど、しっかりしておかなければな。(*1)
「そのような評価をしてもらって光栄だ、羽沼議長。だが、私が風紀委員長に勝る部分はスピードだけだ。あまり過信しすぎては私の立つ瀬が無いな。」
「キキキッ!それでもスピードは超えている自信があるなら十分だ!そこでだ、ラスティよ。万魔殿に入らないか?ああ、これはこのマコト様直々のスカウトだと思ってくれていい。万魔殿の戦力は風紀委員会に匹敵するとはいえヒナのように突出した強さは無い…だからヒナに勝る部分のある貴様の話を聞いて、私が貴様を欲したのだ!私の直属の部下にな!
さぁ、万魔殿に来い!ラスティ!」
気づけば座っていた椅子から立ち、私の前に立って手を差し伸べていた。
自信に満ち、恐怖とは別の部類のカリスマを持って人を従わせる魅力のある笑顔を浮かべ背中に光を受けながら手を差し伸べる姿に思わず息を忘れて手を取った。闇の中、恐怖で支配されていた私にとってマコト議長の姿は眩いほどに光り輝いていた。
「喜んで、お受けしよう…これから、よろしく頼む。マコト議長。」
「キキ、キキキッ!ああ!歓迎しよう、ラスティ!これより貴様は万魔殿の一員だ!歓迎のためのプレゼントだ。イロハ、アレをラスティに!」
「アレ?…ああ、アレですか。…はい、コレ。」
イロハは一瞬分かっていなかった顔をしたがすぐに合点がいったようで、黒に金色の文字で万魔殿と書かれた高級感溢れる紙袋を渡してきた。紙袋を受け取っても手を離さないイロハに視線を向けると
「万魔殿にようこそ、ラスティ。」
と小さく笑って歓迎してくれた。左右に配置された2人もワイワイと喜んでくれていた。
…こんなに私を求められたことも、ヴェスパーの家族達以外に歓迎されたことも…友人から、別れや寂しさを含まない笑顔を向けられたのも初めてだった。だからだろうな。
「あ!イロハちゃんがラスティちゃん泣かせたー!」
「『万魔殿書記、新人議員を泣かせる!』…大スクープです!明日には万魔殿の名前が上がらないことは無いはず!」
「それを出版するなよ!?ラスティ、大丈夫か!!イロハ!いったいなにをした!?」
「し、知りませんよそんなの!ちょ、ラスティ大丈夫ですか!?」
「…ああ、大丈夫だ。問題ない。ただ…嬉しかっただけだからな。」
体が暖かい。胸が満たされる。受け入れられる''幸せ''はこれ程までに…!
来てよかった!万魔殿!
※この後は「ソレは大丈夫じゃない人が言う台詞だってこの前知ったよ!」という広報担当の言葉を聞いたマコト議長がイロハの方を掴んで揺さぶりずっと騒いでいたが、騒ぎに心配になったのか小学生ほどの愛らしい娘がやってきて皆と一緒に遊んだ。イブキと名乗ったこの少女が万魔殿の光なのだろう。可愛かった。
To Be Continued…
万魔殿加入!!
次回─「やあヒナ。君の良き戦友、──のラスティだ。」
行く末をどうするか
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『ヴェスパーの災禍』
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『アリウスの解放者』
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『壊滅』