即死魔法しか使えないカス 作:アオガミマン
やりがいをアピールした割に楽な──とは言えめちゃくちゃ気疲れもしたが──ツィツィミトルからの
「ダアトに民間人が迷い込んだようだ。うち一名は偶然居合わせた天使に保護されたが、その他にも数名の被害者がいると報告が上がっている」
「事件が起きたのは高輪トンネル。こちらの現場は既に対処した。君にはダアトでの捜索をお願いしたい」
遭難者の捜索、ここ数年増えつつある任務だが、実質的には死体探しと言っていい。生身の人間が悪魔に敵う道理はないからだ。
仮に悪魔から隠れ果せたのだとしても、その隠密が故こちらからの早期発見もできず時間切れ、なんて事が大半である。
「君にばかり負担を強いるのは申し訳ないが、たとえ微かにでも生存の芽があるなら見捨てる訳にはいかない」
「それに、今回はそう絶望的でもないはずだ」
そう言って長官が差し出した書類を受け取る。内容はある人物についての──人材評価?とでも言おうか。経歴やら所属やらが記されている。
記載された名前に微かな覚えがある。確か
「敦田ユヅル。被害者のうちの一人で、このベテル日本支部所属の悪魔使いだ」
「君の妹──ここでは聖女タオと言おうか。彼女とも親交がある」
俺より破魔適性が低い奴の事を聖女とか言うのそろそろやめないか?ちょっと回復と補助もこなせるからってズルいだろ。
「……すまない。配慮に欠けたな」
「ともあれ、敦田くんは君に及ばずとも優秀な戦力の一つ。彼ならばダアトの悪魔にもそう易々と屈しないだろう」
「巻き込まれた民間人を保護できた可能性もある。危険な任務の直後に申し訳ないが、準備が整い次第捜索に向かってくれ」
別に渋ってる訳でもないのに嫌味を挟むのはやめて欲しいところである。ダイモーン狩り程度で損耗なんてないのだから、当然準備は万端だ。
とは言え一秒が惜しい事態なのも確か。妹に学友の訃報をプレゼントするのも忍びない。俺は端的に了承を告げ、魔界へとんぼ返りした。
「遭難者を救助せよ」
を受注しました
いくら俺が即死魔法しか使えないカスとは言え、戦力の乏しい日本支部においてはそれなりに貴重な人材だ。ダアトに滞在する時間で言えば各国見渡しても人間の中で一番だろう。
そんな理由から装備も相応のもの。ダアトの長期滞在でも問題ないどころか快適に過ごせるだけの性能である。
この装備、名をデモニカスーツと言う。かつて今よりも人間の悪魔使いを重宝していた時代の産物らしい。
胴体部の頑丈さと防御相性もさることながら、特筆すべきは
加えて視界を遮らないのみならず情報支援にも対応。現に今も、周辺にある人間の生命反応なるよくわからんものを探査し、視界の片隅を占めるミニマップに表示している。
ただこの装備、一つ欠点がある。これもやはり、特に頭部装備について。
それは
どれくらい不審かというと、保護した民間人に今にも逃げられそうなぐらいには。
「へ、へ、ふへへ……あの、これどこに向かってるんですか……?」
隙を窺うかのようにこちらの一挙一動に目を配りながら、卑屈な笑みで
脅し、と言っても嘘を吐くわけではない。事実このダアトで俺の側を離れたなら命の保証はできないからだ。
常ならばアホ一人死んだところで困らないが──救出任務がほとんど名目と化しているゆえだ──今回ばかりは事情が違う。
件の敦田くんでこそないようだが、同じ縄印学園の制服を着ているあたり、妹と知り合いでもおかしくない。
いい子ちゃんなアイツなら俺を責めることこそしまいが、兄の威厳的にも今回の任務、手は抜けない。
なんて柄にもなく意気込んだのが悪かったのだろうか、モブA──名前は聞いたけど忘れた──はますます怯えの色を強く見せる。
「あ、あのっ、お、おおおれ、ほんとになんにも知らなくて」
「った、たまたま!たまたま迷い込んだだけなんです!」
急になんのアピールだろうか。逆になんかマズいもんでも見たのか?と聞きたくなる慌て具合だ。
まさかわざわざダアトで汚職を働く政治家なんてのもいないだろうし、本当に謎である。
まあもしかすると天使がなんぞ悪事でも働いてるのでも見たのかもしれない。ベテルにいればままあることだ。野生の天使なんてものがいるダアトなら尚更。
だがそれがどうしたという話である。天使どもも人間一匹からの印象など気にしないだろうし、特に問題はないだろう。
「っ本当に、気づいたらこっ──ここにいたんです、許してください」
「お願いします、本当に、すぐ出て行きますから──」
話聞いてた?と言いたくなるリアクションで泣き始めた。なんだこいつ……
「こっ殺さないで、ぁ助けてください──」
ドン引きしていると崩れ落ち足元に縋りついて来た。まあ普通に考えて錯乱してるんだろう。いきなり悪魔蔓延る荒廃した東京で目覚めたらそうなるのも仕方ないことだ。流石に哀れみを感じる惨状である。
とは言えまだ救助対象も残っている現状、ここで文字通り足を引っ張られるわけにもいかない。多少強引でも大人しくさせるべきだろう。
スマホを操作して悪魔を呼ぶ。
「モー・ショボー。こいつを黙らせろ」
マガツヒが収束し、俺と違って敵を殺す以外にも能のある仲魔が実体化する。
翼を持つ童女の見た目をした彼女は、曖昧な指示をしっかり汲み取ってくれたらしい。適性ゼロの魅了付与スキルを発動するため構え──その襟首を引っ掴んで盾に代える。
「ふぎゃっ」
氷塊が突き刺さり、モーショボーが情けない悲鳴を上げた。リアクションのわりにダメージもなさそうなので適当に放り投げ、俺もその場から飛びのく。
「彼から離れろ!悪魔!」
先ほどまでの痴態はなんだったのかという俊敏さで走り出し、大慌てで乱入者の後ろに逃げ込んだモブを黙って見送る。
状況が許すなら蹴りの一発でも入れたいところだが、もはやコイツに構っている場合ではない。
「ああありがとう、ありがとう
「礼を言うのは早い……とにかく僕の後ろに!」
バイナルボム*1が発動しなかったのは不幸中の幸いだ。憤慨するモーショボーを無視して、スマホを構える救助対象のはずの同僚を睨みつけた。
反射的に砕いた万里の眼鏡は、相手を取るに足らないカス──破魔適性も1しかない──と告げているが、まさか即死魔法をぶち込むわけにもいくまい。ましてや彼は呪殺弱点である。
思い出すのは今朝の邪神との邂逅。
雑魚狩りばかり課されて”マハンマバリオン”以外の言葉を発しないのも珍しくない日々、確かにそれを嘆きこそした。
とは言え面倒なのを相手に、日に二度もTALKを選択する事までは望んでないのだが──なんて社会負適合者じみた思考にため息を吐いた。
「ッ!」
なぜかより警戒された。これ本当に殺しちゃダメか?
自分より強そうな悪魔が「面倒なの……二匹目……」みたいな事を呟いた時の敦田くんの心境。次あるなら彼視点ですかね
※書き掛けで次話を投稿してしまったため削除(9/5の深夜)。及びアンケートの追加(同日)
この小説の世界線
-
創世の女神編
-
復讐の女神編