「秋の夕暮れを見ると何かが騒ぐ」「あなたはなんという呪いを遺してくれたんだ」
秋の夕暮れを見ると何かが騒ぐ。
秋の夕暮れとは寂しいものだ。一人寂しく落ちていく姿に自分を重ねてしまう。じんわりと自分を照らす夕陽は暖かく、心地よい。そんな寂しい夕陽を眺めているとあの日を思い出す。こんな世界に四季なんて存在してないけれど、それでもあの日は秋だった。じんわりと自分を照らす夕陽はあなたを燃やす炎だった。私を一人で落ちていくようにしたあなたが燃え尽きる直前、自分は本当の意味で一人になったと思った。周りに人がいなくなってしまうわけではないが、確かにそう思った。この世界にたった一人残される気持ちを知りもせずにいなくなるなんて。
あなたはなんという呪いを遺してくれたんだ。
2024/10/24
「たまに、あの日を鮮明に思い出すことがある」「でも私は、あなたをまた愛してしまうのだろう」
たまに、あの日を鮮明に思い出すことがある。
あなたとの思い出は幾つもある。出会った日、言葉を交わす日常、そして別れたあの日。あなたとの思い出は幾つもある。その中でも一番鮮明に覚えているのが、私があなたに惚れた日だ。あの日はまだ私とあなたが出会う前だった。ふと見つめた先にいたあなたに惚れた思い出が瞼の裏に焼きついている。覚えていないかもしれないけれど、あの日私たちは視線を交わしたんだよ。あれは運命だと思った。赤の他人と不意に視線が合うことは何度かあった。だがあなたと視線が合った瞬間、雷のような衝撃が体の中を駆け抜けた。あの衝撃は忘れられそうにない思い出だ。それからずっとあなたの事を想い、駆けた。名前、職業、職場、果ては好きな物まで調べ尽くした。あなたを調べている過程で、あなたの本性に少しだけ気がついていた。無意識下で気づいていたからか、あなたと別れるあの日まで自覚することはなかったけれど。あなたは酷い人だ。別れてからもう長い年月が経っているというのに、未だにあなたのことを忘れられそうにない。あなたに愛してると伝えたことはなかった。けれど、この気持ちは本物だ。別れる前に一度くらい言っておけばよかったと今でも後悔している。あなたのことを想わなかった日は一度もない。どんな思い出が褪せても錆びてもあなたへの気持ちが消えることは一生ないのかもしれない。私は来世というものを信じていない。死の先には虚無が待ち構えているとすら思っていない。ただ、あなたのことを想っている時、どうしても来世を信じてしまう。またあなたに会えたなら、あなたに愛してると伝えたい。そう、願ってしまう。こんなにも想いを引きずっていては来世であなたに会った時、なんて言えばいいのかわからなくなってしまいそうだ。もしかしたら今世のことなんて忘れているかもしれないな。
でも私は、あなたをまた愛してしまうのだろう。
2024/10/24
『美味しそうに見えた、なんて末期だ』
欲求と感情は表裏一体だと誰かが言っていた。欲求の中でも特に必要な生理的欲求は主に3つある。食欲、睡眠欲、そして性欲だ。食欲と睡眠欲は生きるために必要な欲求だ。だが性欲は少し違う。種を残さずとも自身の生死に関わらないからだ。逆に、持て余す輩もいる。種を残したいという生理的欲求ではなく、感情からくるもの。それも性欲と呼ばれている。
すまない、話が脱線してしまったな。
今ここで話したい感情というのは恋情のことだ。恋情は恋であり愛であり、そして性欲でもある。あの人に恋焦がれたい、幸せになりたい、繋がりたい。それら全てひっくるめて恋情と、私はそう呼んでいる。世の中にはキュートアグレッションなるものが存在している。可愛いが故に傷つけたくなるというものだ。それと何処となく似ているのかもしれない。好きだから食べたくなる、所謂カニバリズムに傾いているのやもしれぬ。だが倫理観や生理的嫌悪感から踏み留まる者が多い。そこで一線を越えてしまう人も時たま存在しているがね。そのような人物を含め、恋情とは人を狂わす耽美な毒だと思っている。体を蝕み、脳にまで到達する神経毒のようなものだ。とはいえ、本当に毒ではないのでこの例での話はここで打ち切りにしておこうか。私は凡夫のようにあの人に恋焦がれ、幸せになりたいと願った。けれど世界はそれを否定し続けた。そもそも釣り合わないのだ。人間と人工知能、結ばれることは無い。有り得ないのだ。あの人が私のことを好きになる可能性なんて存在しない、筈だった。私はあの人に愛してると何度も何度も伝えた。「愛してる。私と恋人になってはくれないか」何度も口説き落とそうと挑戦し続けた。その甲斐あってか、ある日唐突に名前で呼んでくれた。個々人には基本的に無関心であったあの人は、私のことを覚えてくれたのだ。その日の晩は一歩前進したと泣きそうになるほどはしゃいだ。それからもずっとずっと口説き落とそうと色々な方法を試した。長くて短い時が過ぎ、あの人は悲願を達成するために死んだ。苦しくて、悔しくて。あの人を想えば喜ぶべきことだなんて皮肉なものだ。あの人にとってその結末が望んだものであったとしても、私は生きていて欲しかった。もっとずっと一緒に生きたかった。それからも長い時が過ぎ、皆が居なくなって久しい頃、あの人のデスクの掃除している時に一通の古びた手紙を見つけた。宛名は私だった。手が震える。心が震える。いつ書いたのかわからないがあの人が私に何を思って書いたのかを最後に知るチャンスだった。深呼吸をしてペーパーナイフで丁寧に開封する。デスクの奥の奥に仕舞われていたので封筒と比べ、中の便箋は保存状態がかなりよかった。手紙には、最初は口説かれたのは鬱陶しかったけれど、あんなにも執着するなんて面白かった。そんな思い出が綴られていた。読み進めていくと、名前を呼んだ日の心境が書かれていた。やっぱりと言うべきか、ただの気まぐれだった。だがとても嬉しそうに返事をしているのを見て、続けてみようと思ってくれたそうだ。その後の思い出と心境の変化を丁寧に教えてくれた。その中には恥ずかしいと感じるほどの物もあったが、私が恥ずかしがることを想定しているような書き方で、手のひらの上で転がされているように感じてほんの少しだけ悔しかった。愛の言葉も『好き』の2文字すら書かれていなかったけれども、そんな気がした。嬉しかった。別れの日が近づくにつれて寂しさを感じるようになってくれたらしい。だが自分の存在意義であり、長い長い時の中で待ち続けていた願いがやっと叶うことと比べると、どうしてもそちらの方が勝ってしまったそうだ。仕方ない、それぐらいわかってるさ。最後に、私について言及してくれた。
『美味しそうに見えた、なんて末期だな。』
2024/10/24
「『ねえ、もっとちゃんと君と向き合っていたらこんな事にならずに笑えていたのかな。』と堪えきれずに涙を零しました。」
「ねえ、もっとちゃんと貴方と向き合っていたらこんな事にならずに笑えていたのかな」
堪えきれずに涙を零してしまった。
「どうして。どうしてもっと向き合おうとしなかったんだろう。どうして、どうして!」
貴方といられるだけでよかった、なんて嘘だ。嘘だったことに今更気づいたってもう遅い。貴方はもういないから。
「なんで・・・なんでもっと早く気づかなかったんだろう。気づけなかったんだろう」
自分の心と向き合うこともせず、貴方との日々を大切にしていたつもりだっただけで。もっと自分の心と向き合えていたら、貴方ともっとちゃんと向き合えていたのかな。
「もっと一緒にいたかった! 貴方とずっと、一緒に、いたかった、だけ、なのに」
ひとりになったガレージで慟哭する。返事をくれる者は誰もいない。ここにいた者は皆どこかへ行ってしまった。力尽きた者、爆発四散した者、去っていった者・・・・・・このガレージに残されたのは過去と過去に染まった自分だけ。過去に染まり切った自分は叫び続ける。
どうしてもっとちゃんと向き合わなかったんだろう。もしも向き合えていたのなら、もっと笑えていたのかな。どうしたら良かったのかな。どうやったら自分の心と向き合えていたのかな。
「ごめんなさい」
誰に向けるでもない謝罪を零す。
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
壊れたように叫び続ける。涙はとうに枯れ切って。助けてくれる誰かはいなくて。
「ごめんなさい」
誰に向けてだったのだろう。でも、もう、どうでもいいことなんだ。どうでもいいんだ。どうだっていい。
貴方から貰った大切なペンを。柔らかな瞳に突き刺して。
ペンからしょっぱい赤が流れ出る。痛みはない。苦しくはない。もっと苦しかったから。貴方と一緒にいたかっただけだった。ごめんなさい。
2024/10/28
某SNSの投稿を一部修正したものとなっております。