今日は部屋から異臭がするとの苦情が入り、しこたま怒られてしまった。換気を忘れていたのがまずかったらしい。
少し凹みながら自室に帰り、ドアを閉じてから深呼吸をする。この何とも言えない独特な香りがクセにならない人の方が多いらしい。残念だ。
軽く体操をしてから作業に戻る。今作っているプラモデルはオリジナルだ。オリジナルとはいえ、図案を業者に頼んで作ってもらった感じにはなるが。自作の組み立て説明図と睨めっこしながらパーツを取り外して綺麗に削り、着色する。それと並行して組み立てもする。最高に楽しい時間だ。この時間だけは何よりも集中して何よりもリラックスできる。
今回は造るのは「KT-104/PERUNハングドマン」
つまるところ主任の機体、というか主任そのものだ。色を間違えないよう写真を撮ったりして本物をそのまま小さくした、と間違われるぐらいの色味にはなった。後は綺麗に着色して組み立てるだけ…この作業が一番緊張する。
「よし…」
普通のニッパー、某メーカーのインクと筆に瞬間接着剤、そして爪鑢。紙鑢など専門店で買った方がいいのに何故爪鑢を使っているのかというと、初めて使った物だからだ。ゆっくりとニッパーでランナーから取り外し、鑢で綺麗にして粉を拭ってから着色を施す。乾いたら瞬間接着剤で急いでくっつける。この作業を繰り返しているうちに休憩なしで5時間経っていたらしい。普段からこれくらい集中できたらいいのに…
そろそろランナーと粉を片付けた方がいいかもしれない。パーツたちを片付けながら気をつけて掃除をした。
「ふう……疲れた」
その日は疲れたので、早くに寝た。翌日、やっとのことで完成させることができた。
「やっ!あっぶね片付けないと」
粉やらなんやらで傷付いたり汚れるのは面倒なので、急いで綺麗にする。うむ、これくらいで大満足だ。
「やった!やった!頑張りーマシタ!」
自室ではしゃいでいると、インターフォンが鳴った。五月蝿すぎて苦情を言いにきたのか?とドキドキしながらドアを開ける。
「よっ」
「あれっ、こんなとこまで来るなんて。珍しいですね。主任」
主任だった。苦情じゃなくてよかった〜。
「通りかかったら五月蝿いくらいにはしゃいでる声が聞こえたから来てみただけだ」
苦情だった。
「うーん、五月蠅かったですか。すみません」
「いや、気にしてない」
「それはよかった」
胸を撫で下ろす。
「それにしても、なんで喜んでいたのか気になるな…」
どうして喜んでいるのか知っているはずなのに聞きに来たというのか。まぁ…見せるぐらいなら、いいのかな。
「プラモデルが完成しただけですよぉ」
「気になる。見せてくれないか」
「じゃ、どうぞ」
主任がインク臭のする部屋に入っていく。幸い嗅覚は搭載されていないようで、嫌そうな顔はしていなかった。
「あんまり触らないでくださいね。完成してまだ少ししか経ってないんで」
「へえ、オレの機体か」
「はい。主任のこと大好きなので」
一歩間違えればセクハラだとかなんとか言われそうな発言だ。どちらの意味に取られても間違いでは無いのでセーフ。
「……好きなんだな」
「はい。………?」
どうかしたのか?あまりよくない感じだったらしい。残念だ。
「もう満足しましたよね。用事があるなら済ませてもう帰った方がいいですよ」
「用事なら終えてる」
ならどうしてきたのかがより一層わからない。
「それなら…まあ、インク臭が移る前に帰った方がいいですよ」
優しくプラモを取り上げようとすると、ひょいと自分の背では届かない場所まで持ち上げられた。
「あっ、ちょっと。意地悪やめてくださいよ!」
飛び跳ねながら怒る。
「え〜、どーしよっかなー」
どんどん自分では届かない位置まで持ち上げられる。どう足掻いても届きそうにない。
「ちょっと!やめてくださいよ!」
どうしようもないので主任によじ登って取り返した。
「もー、やめてくださいよ〜」
眉を顰めながら机に置き直す。振り返ると主任が固まっていた。もしかしてフリーズ…!?
「主任!大丈夫ですか!?」
焦りながら声をかけると、すぐに反応が返ってきた。
「ああ。大丈夫だ」
「フリーズとか処理落ちですか!?」
「大丈夫だから気にするな」
気にするなと言われましても…
「もう帰る」
肩を押されて玄関まで一直線に戻っていった。
「お気をつけて」
早足で帰ってしまった。いつもより変だったな…別にいいか。
その日はプラモを眺めてニヤニヤしながら眠りについた。
夢は見なかった。
2024/12/6