「『どちらかが泥酔しないと出られない部屋』に閉じ込められた」
ドラムロールの音で目が覚めた。寝ぼけ眼でベッドから飛び降りる。ああ、ベッドで寝てたのか。音源を探して部屋中を彷徨くが、スピーカーも穴も何もない。白い部屋に白いベッド、白い机と白い扉があった。白で統一されていて、少しだけ気色悪い。
扉を見ると、真上の壁がものすごい勢いで回転していた。
「は!?」
あの回っている壁が遠心力で飛んでくるかもしれないので、衝撃に耐える為にベッドの上で待機したが杞憂だった。回転が止まった壁、もとい看板には『どちらかが泥酔しないと出られない部屋』と書かれていた。創作でしか見たことのない『〇〇しないと出られない部屋』に閉じ込められるとは、悪趣味にもほどがある。しかも一人で閉じ込めるとか最悪すぎる。
「誰か呼べよ!クソッタレが!」
監視をしているかもしれない誘拐犯に向けて叫ぶと、自分の上から何か大きくて重いものが降ってきた。しかも硬い。自分の上に何かが降ってきたと思うと、机にも何かが落ちてきた。泥酔と書かれているので、たぶんアルコール類だ。自分の上に降ってきた何かから抜け出そうと動くと、その降ってきた何かが退いてくれた。生きているのか敵対しているのかはわからないので、取り敢えず離れようと速攻でベッドから飛び降りたが、警戒する必要はなかった。
「ここ、どこだ」
「主任じゃないですか」
「なんでお前がここにいるんだ」
落ちてきたのは主任だった。主任曰く、義体に充電コードを差し込んだ瞬間に浮遊感を感じてここに来たらしい。
「怪奇現象に巻き込まれるなんて…可哀想に(笑)」
「1ミリも可哀想とか思ってないでしょ。酷いなぁ。えーん」
ぶりっ子のようなポーズで泣き真似をする。もちろんネタだ。
「それにしても、ここはどこなんだ」
「わかりません。でもあの看板に『どちらかが泥酔しないと出られない部屋』とだけは書かれてるんで、私が泥酔すればいいだけなので、待っててくださいね」
ネタはガン無視された。
主任は義体なのでアルコールは効かない。なので自分が泥酔する他ない。アルコールには強い方だが、泥酔するまで飲んだことはない。主任は放っておいて、酒瓶に手をつける。見たことのない銘柄だった。見た目はニホンシュによく似ている。コップは無かったので、ラッパ飲みで頑張る。
「いただきます」
口の中に入ってきた液体は意外にも甘く、飲みやすかった。そういえば主任に『泥酔した後のこと、よろしくお願いします』と言うのを忘れていたが、大丈夫だろ。主任だし。
飲んで飲んで飲みまくって、最後の一滴を口に入れるとベッドに倒れ込んでしまった。思考があやふやになって全身が脱力していく。尿意はなく、気持ち悪くもなかったので安心して目を閉じる。たぶんギリギリの状態で「あとはよろしく」とだけ言い残せたかもしれないし、言い残せなかったかもしれない。
意識が混濁して自分と世界の境界線が曖昧になっていく。自分の体が霧のように霧散して、元に戻れない気がしてきた。何故だか昔読んだファンタジー小説を思い出す。皿に落とされたプリンの話だった。ゼリーが食べたくなってくる。甘くて美味しいゼリーが。いや、寧ろ自分がゼリーなのか。忘れていたが、自分は人間ではなくパンに塗られた合成マーガリンで、それが固まってできたキノコなんだった。
ぽやぽやと意味不明な言葉を囀る。完全に泥酔しているので、鍵が開く音がした。
「ほら、出るぞ」
「ピーナッツ食べようぜぇぃ……」
「何言ってんだ」
呆れて溜め息も出ない。
泥酔した酔っ払いほどめんどくさい人間はあんまりいない。声をかけても頬を抓っても何をしても起きそうにないので、起きるまで待つしかないらしい。
泥酔した人間は服を緩め、横向きで寝かせるのがいい。本当なら水分補給もさせたいところだが、ここには何もない。机の脚からひっぺがしてベッドに寝かせる。緩められる場所が下着だけだったので、背中のホックを外そうと服の下から手を入れて探る。だが見つからない。となるとこのブラジャーはフロントホック、前についているということになる。下から手を伸ばすだけで届く場所ではないので、諦めて服を脱がす。ゆっくりと外してやると、綺麗に形を保っていた乳房が崩れた。風邪を引かれるわけにはいかず、服は着せ直す。起きるまでバッテリー消耗を避ける為、自分もスリープモードへ移行する。とりあえず3時間でいいだろう。目を閉じた。
2024/11/18
「『互いに好きな箇所にキスしないと出られない部屋』に閉じ込められた」
ドラムロールの音で目が覚めた。寝ぼけ眼でベッドから飛び降りる。ああ、ベッドで寝てたのか。音源を探して部屋中を彷徨くが、スピーカーも穴も何もない。白い部屋に白いベッド、白い机と白い扉があった。白で統一されていて、少しだけ気色悪い。
扉を見ると、真上の壁がものすごい勢いで回転していた。
「これぇ・・・知ってるぅぅぅ・・・・・・・・」
前に『どちらかが泥酔しないと出られない部屋』という巫山戯た部屋に閉じ込められたことがある。この状況、また同じことをするのか・・・?
回転が止まった看板には『互いに好きな箇所にキスしないと出られない部屋』と書かれていた。
頭を抱える。またおかしなことをしなければならないのか。今回も誰かがベッドに落ちてくると思ったので、天井を見上げようとしたがその必要はなかった。
「ここ、前と同じか」
「わぁっ!?」
既に主任がいた。キスする相手は主任ということになる。
ぅえ・・・前より酷い。前は泥酔するだけでよかったから主任がいる意味は特になかったが、今回は素面で変なことをしなければならないとは・・・・・・・
「・・・・・その、えっと、」
「するしかないだろ」
う〜〜〜〜〜〜〜、そもそも主任が自分に対して好きな箇所とかないだろ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・何考えてんだ愉快犯め・・・
「できるんですか?」
「お前はできそうにないな」
少しカチンときた。自分だってそれぐらいできる。
「できますよ! それじゃ、私から」
啖呵を切ったこちらから始める。主任にはベッドに座ってもらって、額にキスをした。
ブブー
「はあ!?」
どこで判定しているんだ。というか額にキスしてみたいのは本当だったんだが。訳がわからない。手の甲ならどうだ。
ブブー
ムカつく。でもここでマルをもらえなければ出られないので色々なところを試す。
指先
ブブー
手のひら
ブブー
手首、腕、首、喉、頬、鼻、瞼、髪、耳、胸、背中、腹、腰
ブブー
どれも不正解らしい。どこなら満足してくれるんだ。さすがに脛とか足の甲とかの下半身ではないだろう。そうであってほしい。
「あと・・・あと残されたとこ〜〜〜〜? どこ?」
「ほ〜ら、一番わかりやすいところが残ってるだろ」
自身の口元を指さし、主任はニンマリと笑って揶揄う。確かにキスと言えば唇だが、自分と主任は恋仲ではない。好きでもない人にキスされるのは嫌なのではないか、と思うがそんな簡単に言ってしまうのか。自分としては確かに、一番したい場所なのかもしれない。だからといって・・・・・でも、互いにだから・・・・・
「ごめんなさい」
一言謝ってから一瞬、本当に一瞬だけ軽く、軽〜〜〜〜〜くギリギリ触れたぐらいのキスをする。
ブブー
「はぁ!?」
あんなに頑張って唇をくっつけたのに不正解はないだろ。身体中の何処よりもキスしたい場所なんだぞ。流石にそれは認めるのに、どうして不正解なんだ。わからない。
流石にキレた。
「流石に唇が正解だろ! なんでだ!」
「キス判定にならなかったとかだろ」
あれがキス判定にならなかった・・・・一瞬だったから実はくっついていなかった、とかならあるかもしれない。だがもう一度自分からする勇気が出ない。
もう一度する覚悟が決まらず、もじもじしていると顎を掴まれた。俗に言う顎クイとやらだ。それにしては力が強かったが。
ヒュッ
喉が鳴る。至近距離で見る顔は心臓を破裂させるほど美しかった。その顔が近づいてくる。後ろに下がろうとしたので腰を抱かれ、近すぎて心臓が持たないので目を瞑った。
「んむっ」
間抜けな声を発しながら体感100年、実際は1秒くらいのキスを『唇に』された。
ガチャリ
ドアの鍵が開き、放心状態になっている自分を置いて主任は先に脱出した。1人残された室内で、顔を真っ赤にしてへたりこんでしまった。
あれ? そもそもキスできていなかったなら音はならなかった筈では。やっぱり誘拐犯の性癖かよ〜〜〜〜!!!!!!!!
2024/11/21
「満員電車。なんだかさっきから夢主の息が荒い。見かねた主任が声をかけたら『…しゅにんが…近くて…だめ……』と発情しきった声で呟かれた。次の駅で降りてぶち犯した。」
ただの社会人パロ えっちじゃないで〜〜〜〜〜す(真実)
夢主視点
乗るのに憚られるほどの満員電車に主任と2人で乗る。満員電車になんて乗りたくないのだが、公共交通機関は帰宅に一番使いやすい交通手段なので仕方ない。そして今、主任が壁になる形でドア側の端に立たされている。なぜ主任が壁になっているのかというと、本人曰く「お前は女に間違われて痴漢されそうだからドア側に立て。オレが壁になってやるから」だそうです。意味がわからない。僕は成人男性だから痴漢なんて…されるケースもなくはないが、そこまでの確率ではない。それに朝よりも女性の人数は少ないので痴漢する奴らもいないはず。大丈夫だと思うんだけどなあ。
今日も満員電車に乗ってしまったのでいつもの形になった。だが今日はいつもと違った。
具合が悪いわけでもないのに息が荒れてくる。これは…発情してしまったのか。公共交通機関の中で、大勢の人がいる場所で。もちろん痴漢なんてされていない。ただ、その…普段以上に車内が混んでいて、主任の吐息が首筋にかかって、後ろからされた時の事を思い出してしまった。そりゃあ、発情してもおかしくないですよね。最初は堪えようとした。が、電車が揺れる度に吐息の当たるところも変わる。そのせいで更に記憶を鮮明になっていく。荒れないようにと我慢していた息が漏れ出てきた。
そんな荒い息をしているのを心配して。声をかけてくれた。
「息が荒れてるが…具合悪いなら一旦降りるか」
発情しているふしだらな自分とは異なり、あちらは善意100%なので罪悪感が積もる。とはいえ、嘘を吐くのもあまりよくない。過去によくない事例があって、それで学んだ。周囲に聞かせられような内容ではない為、耳を貸してもらう。
「ちが……しゅにんが…近くて…だめ……」
顔は見えないが、驚かれているかもしれない。いつどこでスイッチが入ったのか、見当もつかないだろう。もしくは公共の場で、大勢の人がいる場所で発情してしまったのを蔑んでいるかもしれない。恥ずかしくて顔が赤くなっていく。こんな顔を周囲の人間に見られれでもしたら…怖い。
駅に着くと、手を引かれて途中下車した。
電車から降りる時、耳元で囁かれる。
「もう少しだけ、我慢しろよ」
期待しても、いいですか。
後は皆さんの想像にお任せします。余裕のない姿は可愛かったです。
2024/11/18
主任視点
乗るのに憚られるほどの満員電車に2人で乗る。人が密着しやすい満員電車になんて乗せたくないのだが、帰宅に一番使いやすいので嫌々乗っている。そして今、自分が壁となる形でドア側の端に立たせている。こいつは女顔*1で小柄*2だから女に間違われて痴漢被害に遭いそうで心配だ。なので自分と一緒に乗る時は出来る限りこの形にしている。
今日も満員電車に乗ってしまったのでいつもの形にしているのだが、少し様子がおかしい。息が荒く、辛そうだ。下を見ても痴漢されているわけではないらしい。息が荒れる理由がわからない。熱でもあるのだろうか、それとも過呼吸か何かでうまく息ができないのか。心配でそれとなく聞いてみる。
「息が荒れてるが…具合悪いなら一旦降りるか」
すると耳を貸せと手を招かれる。こそこそ話に耳を貸すと、予想を遥かに上回る返答が来た。
「ちが……しゅにんが…近くて…だめ……」
驚いた。公共の場で興奮するような変態だとは知らなかった。
息が荒れているのは具合が悪いわけではなく、発情しているだけ。何度もこの形になっているが、どこかでスイッチが押されたのか。顔を見ると赤らめていた。これでは周りの連中に恥ずかしがる可愛い顔を見られてしまう。ちょうど駅に着いたので、手を引いて途中下車した。
手を引いて電車から降りる直前、耳元で囁く。
「もう少しだけ我慢しろよ」
オレも我慢するから。
後はお前らが勝手に考えとけ。でも顔を赤らめる姿は可愛かった。
2024/11/18
「夢主への感情の正体を掴もうと自分の気持ちを紙に書いて整理してみた主任。その結果、どう考えても恋だという内容になったので、そんな馬鹿なと丸めて捨てた。」
最近、あいつに対しての感情らしき何かに変化が起きている、気がする。正体が掴めていないので、紙に書いて整理してみようと思う。
「えーっと」
・声が上擦る
・口数が多くなる
・処理能力が落ちる
・食べたくなる
・人間の一部として考えられなくなった
・目で追ってしまう
・話し相手を睨んでしまう
・ずっと考えてしまう
ざっと軽く整理しただけでも8つ出てきた。
なんだこれは。こんなのどう見たって……恋じゃないか。
「んな馬鹿な」
紙をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
2024/12/4
「夢主の首に赤い痣を見つけた主任。痣の正体がただの汚れだとわかるまでの間、なぜもっと早く想いを伝えておかなかったのかという後悔と見知らぬ誰かへの嫉妬によって、その精神世界は地獄と化していた。」
たぶん人間。少なくとも本編時空ではない。
二人きりでいつものように話していると、首筋に赤い痣を見つけてしまった。世界が真っ白になって何も聞こえなくなる。
どうして、どうしてもっと早くこの想いを伝えておかなかったのだろう。言っておけば、"もしかしたら"の可能性に過ぎないが、見知らぬ誰かに嫉妬することはなかったのかもしれない。どうして、どうして迷っていたんだ。どうして言葉に詰まってしまったんだ。
どうして。
怒りがふつふつと湧き上がる。自分に対して?それとも見知らぬ誰かに対して?
誰に起こっているのであろうと、きっかけも理由も全て自分が原因でしかない。
『もしも伝えていれば』『たとえ無理矢理だったとしても』そうすれば誰かに
「ん?どうかした?」
言えなかった自分への怒りと後悔、見知らぬ誰かへの嫉妬で思考がいっぱいになっていた主任は、せっかく心配してくれている声かけに気づけなかった。
「おーい、どうかしたんですかー」
どんなに声をかけても返事をしない主任に痺れを切らし、顔を覗き込む。
追い詰められたような顔をしている主任にギョッとした。何があったのかわからないが、そんなに思い詰める何かがあるならせめて相談には乗りたい。
顔を覗き込んだまま声をかけようとすると、覗き込まれたことにやっと気がついた主任がQB*3の如く猛スピードで後ろに下がった。
「な、え、なに!?」
「なに、って声かけても返事しないし、顔見たらなんか思い詰めてたから。心配してるんだけどー」
「あ、え、ごめん」
たぶん別の理由で落ち込んでしまい、思い詰めた顔に戻ってしまった。
そんなつもりはなかったのに。
「で、なんかあったの?相談ぐらいなら乗れるよ」
「いや、その」
はっきり言ってくれない主任にイラついてしまい、溜め息が出る。
「はーーーーー…なんなのさ」
溜め息というか、クソデカ溜め息というか。
やっと、意を決したかのような顔で口を開いた。
「その、首筋に、赤い…」
「赤?」
やっと話してくれたことが自分のことだった。首筋に赤い何かがあるのか。
スマホのインカメで確認する。
確かに首筋に赤い何かが付いていた。
「ほんとだ。教えてくれてありがと」
ハンカチで拭うとすぐに汚れは取れた。お昼に食べたミートソーススパゲッティのソースだった。はねていたのか。てかどうやって付いたんだ。食べるの下手すぎだろ。
「き、消えた?」
「ん?ああ、これお昼に食べたスパゲッティのソースの汚れ」
「汚れ…」
「うん。ただの汚れ。教えてくれてありがと」
念の為、水で洗うためにお手洗いへ向かう。
声が聞こえないほど遠くへ行ってから、主任は安堵の溜め息を漏らした。
「はぁ〜〜…誰かのものになってなくて…………よかった」
だが、次は拭えない汚れかもしれない。
瞳が濁ったのは誰にも気づかれなかった。
2024/12/4