夢主の語りと回想長くててごめんね
「・・・・はい」
「主任ってさ、やっぱり・・・・死んじゃったの・・・?」
「主任は人工知能ですので、死んだというよりは破壊された、と言う方が正しいかと」
「そっか」
主任が死んだ。あの
たくさん殺してるんだ、だから殺されてもおかしくはない。
頭では、理性ではわかっている。そんなこと、とうの昔にわかっているんだ。けれど、私の感情が泣いている。主任が壊れてしまったことを嘆いている。管理者だからじゃない、私が大好きな人だったから。涙は出ない、けれど心が泣いている。たくさんたくさん涙を流して泣いている。叫びながら泣いている。
喉が切れるほど、血が溢れ出るほど。自らの血に溺れてもなお、叫び続けて、泣き続けている。
そろそろ泣き止まないと。もしもここに主任がいたならばきっとおちょくられてしまうだろう。
キャロルは今も黙っている。キャロルは主任と同じ人工知能だ。ずっとずっと主任と共にいた。だからこそ、いや、わからないかもしれないけれど、少しぐらいは悲しくなっているのかな。
「ねえ、キャロルさん」
「・・・・はい」
「キャロルさんは、主任が死んで悲しい?」
「それは・・・・・」
言い淀んでいる。自分がどう思っているのかがわからないのだろうか。
「ねえ、キャロルさん」
「・・・・はい」
「私さ、自分が思ってる以上に主任のことが大好きだったのかな」
「・・・・・私にはわかりかねます。自分の気持ちなど、自分にしかわからないのでは?」
「うん、そうだよね。そっか、ありがとうキャロルさん」
「・・・・いえ、私が言えるようなことではないです。私は・・・・主任が破壊されて悲しいか、と言われるとわからなくなってしまうんです」
黙ってキャロルの話を聞く。キャロルはゆっくりと話す。自分の気持ちと向き合うために、これからのことを考えられるようになるために。
「私は・・・・悲しい、と言っていいのかわからないのですが、少しだけ寂しいとは思っているかもしれません」
「・・・・・そっか」
「はい、もしかしたら私は主任が破壊されてから寂しいと感じているのかもしれません」
言いたいことを言えたのだろうか、キャロルが黙る。
「あのさ、私の主任に対する好きの種類が何だったのか、最後までわからなかったなぁって。そう思ってさ、考えてみたの。あれが恋情なのか、それとも別のものだったのか」
俯きながら喋り続ける。
「でもわからなくて。あはは、滑稽だよね。もし」
遠くでACたちが戦っている音が聞こえてきた。
顔を上げると、遠くの方で大きな大きな砂埃が舞っているのが見えた。じっと眺めていると、心が軽くなっていく。
「キャロルさん、綺麗だね」
「はあ、私にはその美的感覚はわかりかねます」
「はは、それ昔からよく言われてたんだよねぇ」
昔の記憶を掘り起こす。
ACに関わる前は小さな街の小さな学校に通う学生だった。少し感性が独特だよね、と冗談を言い合ったりして小さな幸せを大切にしていた。ただそれだけでよかった。
17の頃、故郷がギャングに襲撃され、皆死んだ。家族も、友人も、先輩も、後輩も、学校の先生たちも、近所の人たちも、この街に住んでいる見知らぬ人たちも、皆死んだ。
私は一人で別の街に行っていたので、そのことを知らずに帰ってきてしまった。
街に近づくにつれて普段ならば賑やかな声が聞こえてくるはずなのに、何の声もしない。物音一つすら聞こえてこない。
街の入り口の看板を見て呆然とした。この街で一番強かった自警団のリーダーが看板に突き刺されて死んでいたのだ。いつから放置されていたのか、虫が集まっていた。ずっと空中にいたからか、蛆は湧いていなかった。
恐る恐る街の中を歩くと、誰もいなかった。店の窓を見るとそこには店主の生首が置いてあった。苦痛に歪められたものや、死んでから無理矢理笑わされたものもあった。
これからは天涯孤独で生きていかねばならない。その前に、この街に死体を置いたままにしておくわけにはいかない。外に放置されていた死体は建物の中に入れ、街中の燃料をかき集めて全てに火をつけた。
今まで見たどんな景色よりも綺麗だった。家族が、友人が、先輩が、後輩が、学校の先生たちが、近所の人たちが、この街に住んでいた見知らぬ人たちが、燃えていく。とても、美しい景色であった。
それからはずっと旅を続けていた。そして最後に辿り着いた仕事はAC技師たちの手伝いをするフリーランス事務員だ。自称しているとはいえ、なんだよフリーランス事務員って。
だが、それも今日で終わりだ。ACたちの戦いによってここは汚染されて、人体に有害な土地になるらしい。だから私たちはここから撤退する、行く先々の技師全員からそう言われた。散々好き勝手していた企業も撤退するらしい。
主任を殺したあの黒い鳥はレジスタンスの戦力となったらしいが、別の企業が暴走したらしい。故郷を捨てねばならない住民たちはどうするのだろうか。昔の私のように旅をするのだろうか。あの人たちは家族が生きているので旅団にでもなるのだろうか。
自分には関係のないことだ。
ああ、脱線してしまった。私の悪いところだ。ただ、感性が独特だと言われたのは久しぶりであった。感性を生かす機会などあの日からとうに捨て去ってしまった。大切なものも、思い出も、あの街で全て燃やした。
なんだか、今まで抑え込んでいたものが一気に溢れてしまいそうだった。
「ねえ、キャロルさん」
この会話は何回目だろうか。
「・・・・なんですか」
「少しだけ、少しだけ、泣いてもいいかな」
「・・・・いいと思いますよ」
優しい声だった。それを皮切りに、どんどん涙が溢れていった。泣いて、泣いて、心が溺れてしまうほどに泣いた。
泣き疲れて涙でべしょべしょになった顔を服の袖で拭う。
「キャロルさん、ありがとう」
「はあ、そうですか」
感謝の言葉を述べられた理由がわからないのだろうか。
「キャロルさんはこれからどうするの?」
そう、聞きたかったのはこれだ。
「私は・・・・」
まだ考えていなかったのだろうか、返答がない。
「まだ決まっていないんだったらさ、私と一緒に旅しない?」
一人は寂しい、一人は悲しい。だけど二人だったら共有できる。だから二人は寂しくない、二人だと悲しみを分け合える。
「そうですね・・・・ここでの人類の結末を見届けたら、ですが」
人類の結末、がどこからどこまでなのかはわからないがそう遠くない話であるのは容易に理解できた。
「ありがとう、じゃあ早く旅の準備しないと!」
「まだ準備をするには早いです、もう少し後にしましょう」
悲しかった気持ちはとうに消え去った。
最初はどこへ行こうか、そう遠くない未来を想像しながら微笑んだ。
2024/8/30
これ単体で続くかも
続きました