「わっ」
何もないところで躓いた。私あるあるだ。だが今回は目の前に義体の主任がいた。
「おっと」
バランスを崩した拍子に主任の方へ倒れ込む。反射で瞑った目を開けると3cm目の前に主任がいた。『えっ』と驚いて気づいた。
_人人人人人人人人人人人人人_
> 主任と事故チューしてる <
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驚いて目をまんまるとさせているとふと気づく。もしかしてこのまま驚いたフリを続けていたらもう少しだけキスできるのでは、と。だが普通に避けられた。
「大丈夫〜?」
「え、あ、はい」
事故チューをしたというのに普段と変わらない態度をとっている。
主任は人工知能だ。だから羞恥心がないのかもしれない。とはいえこちらは人間。普通に恥ずかしいし、なにより自分は主任に片想・・・い、か?少し怪しいところもあるがたぶん片想いだと思うし思いたい。
「はわわ・・・・」
「・・もしかして恥ずかしがってる〜〜〜〜??????」
どうみても揶揄ってる。こちらは本当に恥ずかしがっているというのに、あちらは揶揄って遊んでいる。そこが好きなのだが、普通にムカつきはする。
「そーですよ、いいじゃないですか恥ずかしがったって!」
「開き直るか〜、面白い」
さっきまでの揶揄うような笑顔とは違い、微笑むような顔になる。
主任(の義体)は顔がいい。なので面食いの私は主任の顔がどんな表情をしていてもときめいてしまう。特に微笑みが大好きだ。その微笑みはただ笑っているのではなく、心を見透かすように冷酷な瞳を宿す。その瞳に私が映る。それがたまらなく好きなのだ。
「・・・・主任、ちょっといいですか」
一つ、狂ったような言葉を囁く。
「もう一回だけキスしてもいいですか」
事故とはいえキスをしてしまったんだ。二度とない機会かもしれない、今ならば、なあなあでもう一度くらいならできるかもしれない。下心がわかりやすく表れているその言葉に、主任は首を縦に振ってくれた。
「・・・・・・・・・・・いいよ」
何の葛藤があったのかはわからないが、かなり間を置いてから口を開いたので緊張してしまった。自分で言っておいて、首を縦に振られるとは思ってもいなかった私は少しだけ驚いてしまった。
「えっと、じゃあ」
チュ
ほんのすこしだけの、子供のようなキスだった。これ以上は私の心臓が持たない、と諦めた。
「え、えへへ・・・」
照れている私とは対照的に主任は無表情で何を考えているのかわからなかったが、好意的なものであればいいなぁ、と。照れた私が黙っていると、今度は主任から唇を重ねてきた。
「ンっ!? んー!?」
まさかそっちからとは思っていなかったので、驚いて手をばたつかせながら後ろへ倒れる。私は主任の一回りいかないくらい体が小さかったので倒れる時に支えてくれたが、かわりに口を固定された。
主任のキスは私のと違い、長く濃いものであった。酸欠で潤む視界に映る主任はとても官能的で、獰猛で、私が好きな主任だった。口内に押し入ってきた主任の太い舌は熱く、歯の裏側を舐めたり、私の舌に絡ませてきたりと自分の口なのに自分のものだと思えないほどに蹂躙され尽くし、私は口内を犯し続ける舌に無我夢中で答えた。その頃にはもう意識がぐちゃぐちゃに溶けてしまったようで、それが永遠に続くような気がした。酸欠で脳が正常に機能できなくなってきた頃にどうにか主任の背中を叩くことができた。
口を離した時、どちらのものともわからぬ唾液がぼたぼたと垂れ、それを見つめることしかできなかった。
息を整えると床に倒れたままだった体を起こす。
「びっくりした・・・・」
「喜ぶかと思って」
「喜ぶ、って・・・いや喜びはしたけども、したけどさ」
口の端に垂れていた唾液を服の袖で拭う。あんなにも激しかったキスの開口一番が気の抜けるような感想だった自分自身にも驚いた。
「疲れた・・・」
いや、ほんとうに疲れた。頭の中が溶かされるようで。
「でも楽しかっただろ?」
「・・・・・・はい」
楽しかったのも気持ちよかったのも事実なのでそこは隠さず伝える。ただ、唐突にされると驚いてしまうからやめてほしい。
ハッと気づいた。そういえばここ事務室ではないか。だから来たのだが。ドアは閉められているし、開けられた様子もなかった。もし開けようとしても私たちが邪魔でつっかえてしまうので入ることはできないが。
「ここって誰か通りかかったり・・・もしかして私の声聞こえてたりとか・・・!」
今この事務所には私と主任、そして主任の部下数名だけだ。もし聞こえてたら確実に自分だとバレてしまうだろう。入ってこられずとも声が聞こえてしまったら、それはそれでダメだ。
「誰も通らなかった」
「よかった〜・・・・・いきなりは、その、ちょっと、ね?」
今更恥ずかしがっても仕方がないが、それでも暈した言い方をする。
「・・・・・・もう一度するか?」
「えっ、どういう思考??????」
申し出そのものではなく、それを提案するに至った経緯を聞きたくなった。
「良かったんだろ? ならもう一回ぐらいするか?」
明け透けな言い方で理由まで完璧に述べる。
はっきりいってその申し出はとても魅力的だ。だが現在の時刻は定時の少し前くらい。もうすぐ終業とはいえ、仕事中にサボるのはどうなのか。私の中にいる天使・・・というか社畜と悪魔・・・?が争っている。たぶん2:5ぐらい。
そうこう悩んでいるうちに定時を過ぎた。今日の仕事はすでに終えているし、ホワイトボードに書いてある通りであれば事務所に来る人は今日はもういないだろう。
「もう定時過ぎたし、いいよね?」
「ふえ、あっ」
さっきのようにまた床へ押し倒された。違うところといえば、自分からキスをしたところだろうか。
2024/9/11
筆がツルツルしてるので年齢制限付きで最後の方を書くかもしれません。