FGO ~ Loopback Against the Order ~ / Interlude   作:アルタナ

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本編開始前の時間軸の話。
マスターの言動に不安を隠しきれないジャンヌ・オルタ。


焦燥 / Before loopback

いつからだっただろうか。

 

 

「…もし、俺がいなくなったらどうする」

 

 

そんな事を、マスターに聞かれるようになったのは。

それに対して、私は。

 

 

「…貴方は私のマスターなのです。貴方がいなくなれば私は消えるだけ」

 

 

そう、返す。

この問答は、初めてではない。

 

 

「マスターなら、立香がいるだろう」

「関係ありません」

 

 

はっきりと、私は言い切る。

私にとってのマスターは、貴方しかいない。

私という存在をちゃんと見てくれた、貴方しか。

 

 

「…マスターどうこう以前に、私は貴方と共に在りたいのです。それは理由になりませんか」

 

 

はっきりと、告げる。

傍から見れば、恥ずかしい台詞かもしれない。

実際、恥ずかしさがないわけではない。

けれど、それ以上に貴方に伝えたい思いであるから、仕方がない。

 

 

「余計なことを聞いたか」

「…えぇ、余計です」

 

 

互いに苦笑する。

 

 

「それに、いざとなれば消えるのは私です。貴方は今を生きていますが、私は違うのですから」

 

 

それが、私の想い。

貴方には、先に進んでほしい。

私なんかに、縛られず。

 

 

「……」

 

 

答えない。

私の言葉を、貴方は受け入れてくれているのだろうか。

もう何回も同じような問答をしているが、その不安は、私の中で(くすぶ)り続けている。

 

 

「…マスター」

「何だ」

「何か妙な事…考えていませんか?」

「…質問の意図が分からないのだが」

 

 

敢えて私は言葉を濁し、尋ねる。

まさか、自分が消えるつもりだとか、そんな事を思っていないか。

肯定されるのが、怖くて、はっきりとは聞けない。

それに対しては、振りなのか、本当に分からないのか、答えは返ってこない。

 

 

「っ…」

 

 

私は、復讐者。

私は、世界に害為す異物。

私は、今を生きるものと共に歩み続けることは許されない存在。

けれど、そんな私でも、貴方にはこの世界で生き続けてほしいと、ただ願う。

 

 

それが、私のたった一つの、願い。

 

 

―世界よ、神よ。

 

―信じることもなく、仇為し続けた私が頼めた義理でないのは承知します。

 

―けれど、どうか。

 

―どうか、彼だけは、助けてください。

 

 

きっと、この祈りは、決して届かない。

それどころか、最悪の結末を、私に叩きつけてくるのだろう。

私にとっての、最悪の結末とは…

 

 

「…急に黙ってどうした、ジャンヌ」

「ん…なんでもありません」

 

 

急に黙った私を気にかけてくれたのか、私に触れてくれるマスターに、私は抱擁で返す。

貴方の背に腕を回し、逃がさないように。

貴方の温かさを、逃さないように。

 

 

「…本当にどうした?」

 

 

けれど、こんな不安を、悟らせるわけにはいかない。

そうなれば、貴方は簡単に自分を犠牲にしてしまうだろうから。

だから、私は少しだけ腕の力を強め、自らの体を押し付けるようにしながら。

 

 

「魔力供給…」

 

 

呟くように、一言だけ告げる。

もちろん、嘘である。

魔術師と呼ばれる存在ならできるのかもしれない。

けれど、マスターは稀代の魔術師、というわけでもない。

まぁ、無理だろう。

そもそも、私は貴方しか知らないのだから、実際どうなのかなど、知る由もないが。

 

 

「……いや、それはないだろう」

 

 

やっぱりか。

けれどまぁ、どうでもいい。

私にとっては、この温かさこそが、魔力。

この温もりを失わないためなら、何だってできる。

そう、確信的に思える。

そういう意味では。

 

 

「…いえ、魔力供給です」

 

 

言い切ってもいい気がした。

 

 

「さっきの質問ですが」

「…ん」

「もし貴方がいなくなったら、私は、私のままでいる自信はありません」

 

 

少なくとも、今のようには振舞えない。

それほどまでに、貴方という存在は大きい。

 

 

「塞ぎこんでしまうか、あるいは狂って世界を滅ぼすか。いずれにせよ、今までのように…人理の為に戦うことは…出来ないでしょう」

「そんな大げさな…」

「大げさではありません。それほどまでに私にとって大きい存在なのだということを自覚してもらわなければ困ります」

 

 

反論などさせるものか。

私が貴方をどう想っているか、この想いは私のもの。

これだけは貴方にも否定させない。

 

 

「貴方がマスターだから、私はここにいる。貴方がマスターだから…私は戦って来られたのです」

 

 

だから、どうか。

私の為に、何かをしようなどと考えないで。

そう、伝えたいが、口が動かない。

 

 

「…ジャンヌ。震えているが」

「っ…」

 

 

一瞬、考えてしまう。

震えている?私が?

何故。

ここは室内で、空調も効いている。

寒いわけでもない。

 

 

―…あぁ、そうか。

 

 

これが、恐怖。

自分の死すら厭わずに戦ってきた私が、何よりも貴方を喪うことを恐れている。

その結論に至るまで、そこまで時間はかからなかった。

 

 

「…大丈夫です。少し冷えただけですから」

 

 

この不安を、恐怖を貴方に打ち明けることができたなら、どれだけ楽だっただろう。

打ち明ければきっと、貴方は如何なる手段を以てしても、助けてくれるのだろう。

だからこそ、打ち明けるわけにはいかない。

 

 

「大丈夫ですから…少しだけ、温まらせてください」

「…あぁ」

 

 

ずっと、こうしてあなたと一緒にいることができたなら、どれだけ良かっただろう。

けれど、いかなる形であれ、それは叶わない。

ならばせめて、貴方だけでも。

……なんて言えば、カッコがつくのかもしれないけれど。

結局のところは、失った後のことを考えることができない私の弱さと言わざるを得ないだろう。

 

 

「…温かいですね」

「まぁ、空調は効いているが」

「分かってて言ってます?」

「……何のことだ?」

 

 

絶対とぼけてる。

流石にそれくらいは分かる。

伊達に付き合いが長いわけではない。

貴方の考えていることなど、その程度は簡単にわかる。

…そこまで考えて。

 

 

「…なるほど」

 

 

私は思わず納得する。

きっと、貴方も分かっているのですね。

先に進むために、私達はこれ以上は、共にいられない。

だから、貴方は……

 

 

「…ジャンヌ?」

「いえ、何でもありません。独り言です」

 

 

だとしても、貴方だけを犠牲にさせるわけにはいかない。

貴方のサーヴァントとして。

そして、貴方を愛した、一人の女として。

 

 

「…ところでマスター、覚えていますか?」

「何をだ?」

「炎で焼かれたいのなら、地獄の底まで付き合ってもらうって話」

「…あぁ、忘れようもないな。それがどうかしたか?」

「いえ…ふと、思い出しただけです」

 

 

思い出すことは楽しいことばかりではないけれど、思わず笑みが零れる。

 

 

「…マスター」

「ん?」

「貴方に出会えて、本当に良かった。だから、改めて言います」

 

 

少しだけ息を整え。

 

 

「…マスター。貴方のサーヴァントとして、最後まで傍にいさせてもらいますから…私から逃れられるとは思わないでください」

「……あぁ」

 

 

告げれば、貴方は少しだけ笑いながら。

 

 

「分かった。全てが終わるその時まで、頼らせてもらうぞ…ジャンヌ・オルタ」

 

 

そんな風に返してくれて、私は少しだけ貴方に笑みを向ける。

その心の中で、私は、こう返すことしかできない。

 

 

「…任せておきなさい。私は貴方の為にここにいますから」

――うそつき。




最後の一言は、どちらに向けられたものか。
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