「こちら《影》!魔人はA地区をゆっくりと北上中!《刀》が対抗していましたが・・・あっという間に全滅・・・!」
「おい、お前も避難しろッ!?もうすぐ・・・」
「う、うわあああああああああっ!?」
断末魔、雑音。それらを聞き終えた藤林は一人、会議室の中で呟いた。
「時間がない・・・。急いでください、榊」
「ぐあああっ・・・」
最後の一人が全身から血を噴き上げ、力尽きる。力を失くした手から刀が滑り落ち、乾いた音を立てて地面に落下する。
それをたった今産まれたばかりの『魔人』は無感動に見下ろした。
虚しい。弱い。儚い。脆い。愚か。
彼の眼前には、血だまりの中で溺れ死ぬ数多の黒い剣士たち。
誰一人としてろくに抵抗もできないまま命を刈り取られていった。
こんな取るに足らない矮小な生物に同胞は狩られ続けていたというのか。
そんな弱い同胞にも嫌気が差す。でも自分はそんな弱い奴らとは違う。
選ばれし、比類なき存在。此の世の理を歪曲し、世界を改竄する者。
「我は魔人、奪う者、喰らう者、万物の簒奪者なり」
それは人間のような風貌の、禿頭の巨人。
筋肉質で腕が丸太のように太く、血管が赤々として生気に満ちている。
魔人は行進を続ける。全ては、『あれ』を手中に収めるために・・・。
*******
「ひ、酷い・・・」
「これが、魔人の力・・・?」
バイクを駆る二人の仮面ライダー、刀刃と癒は二つの風となって夜の眠りに就く街中を疾走するが、その街の惨状を目の当たりにして仮面の奥で表情を暗くする。
地図によるとそこはビルの立ち並ぶ駅前の繁華街のはずだが、そこには何も、文字通り建物から人に至る一切の物が悉く消え失せている。そこは最早何もない死んだ大地だ。
まるで、何かに根こそぎ吸い上げられたかのように。
「くっ、こんなに"界"の範囲が広いなんて・・・」
「皮膚に恐怖が直接張り付いてくるみたいだねー」
"界"という術は周囲の空間に自身が自在に操れる結界を張り、その場所を自分の領域、テリトリーに変えるというものだ。その術の強度は言魔の実力と比例する。
例えば学校に潜み人間を喰らっていた蚯言魔。あれは言魔としては低級だったから、学校の廊下を覆う程度の結界しか展開できなかった。先程討伐した鮫言魔、虎言魔は論外で、産まれ落ちたばかり故そもそも"界"の術を使うことさえできなかったのだ。
しかし、これはどうだ・・・。
街そのものが悍ましく、禍々しい何かに完全に覆われてしまっており、驚くことに空までもが結界の内部と化してしまっているではないか。
漆黒に染まり黄金の満月が浮かぶはずの空は、赤い瘴気に呑まれ、その姿を隠してしまっている。
そういう意味では、もうこの空間は此の世ですらない、かと言って彼の世でもない、理をも超越した未知の場所だ。並の人間ならこの中にいるだけで精気を吸い尽くされて命を落としてしまう危険性さえあるだろう。
癒にしがみついてバイクに同乗する優月は《刀》としての訓練を積んでいる故にたちまち昏倒するという事態には陥っていないが、それでも全身に鳥肌が立ち、その顔は蒼白としている。
「お姫ちゃん、あれ!」
「・・・ッ!?」
癒の声にハッとした刀刃は、慌ててブレーキを踏みバイクを停車させる。
彼らの眼前には、行く手を塞ぐかのように無数の言魔たちが立ちはだかっていた。
猛禽、獣、魚類、植物、ありとあらゆる類の言魔が集結している。
当然、そう易々とは進ませてくれなさそうだ。
しかし一体どこから、これだけの言魔を・・・。
「まさか、ここにあった動物園から・・・!?」
「えっ、どういうことお姫ちゃん」
刀刃の漏らした呻き声に癒が反応する。
彼女の推測が間違っていなければ、ここにあったはずの動物園に生息する動物たちのコトダマを変換し、これだけの言魔を創り出した、というのが言魔の大量発生のカラクリだ。
それを容易く行える魔人の妖術の強力さに刀刃は戦慄する。
「ちょっと、あいつら襲ってくるわよ!」
刀刃たちがたたらを踏んで作戦会議をするのを、言魔たちが黙って待つ道理はない。
奴らは一斉に刀刃たち目がけて迫ってくる・・・。
「やああッ!!」
「たーっ!」
いの一番に飛び込んできた緑色の蛙言魔の眼球に刀を突き刺してそこから下に斬り下ろすと、刀を返して鷲言魔の羽を裂いて落下したタイミングで後ろに続いた牛言魔ごと貫いて消滅させる。
癒も癒で、機敏に動いて言魔を攪乱しながら着実にダメージを与え、撃破していく。
仲間が一瞬でやられて危機感を覚えた言魔たちが二の足を踏む。
《氷と速 絶対零度の疾風!》
その隙に刀刃はコトダマを入れ替えて刀刃・氷速に姿を変えると、一気に直線をまくり上げて氷の風で言魔たちを細切れに斬り刻んでいく。
直後に迫る頭上に大輪の菊花を咲かせる菊言魔の蔓での一撃を刀で斬り落とし、純白の花弁ごと一太刀で斬り捨てる。
調子よく多くの言魔を狩っていく刀刃だが、彼女を密かに狙う言魔がいた。
狩人の如く眼光をギラつかせる豹言魔だ。刀刃の死角から忍び寄ると、がら空きの脇腹を食い破らんと飛びかかる。
「そうはさせないよー!」
逆に豹言魔が飛びかかってきた勢いを利用して置いておいた刀で頸を斬る癒が、その姿を揺らめかせながら出現した。彼はコトダマトウに隠コトダマをセットすると、透明になって刀刃の背後を狙う言魔に備えていたのだ。
これは直接的な戦闘に向かない彼が編み出した、仮面ライダー癒なりの戦い方だ。
「合わせますよ!」
「オーケー!!」
《氷・刀・殺 氷華満面・斬鉄殺》
《治・刀・殺 春風翠嵐・斬鉄殺》
同時に必殺技を放つ刀刃と癒の刀の軌跡が交差し、残存した言魔を凍らせ、風刃で斬り刻み、此の世から一片たりとも余さず追い払う。
そしてこれをもって行く手を阻んでいた言魔の一団は全滅した。
「まずいわ・・・!もう魔人は既に街の奥まで侵攻しているって!」
バイクの陰に隠れていた優月は本部の藤林と連絡を取っていたが、戦況は芳しくない。
・・・どころか最悪だ。何十人もの《刀》たちや、後方支援を行っていた《影》までもが瞬く間に殺されてしまっていた。
「急ぎましょう!!」
「うん!飛ばすよー」
二人は再びバイクに跨ると、荒野と化した街を疾走した。
*******
「ふーん・・・あれが新しい魔人?」
「ああ、なかなか、暴れ馬」
「さて、我らと同じ高みに到達できるのでしょうかねえ」
魔人が闊歩するその様を空中に浮かびながら見守る三人の人物がいる。
彼らはシルエットこそ人であるが、その身体から湧き上がる妖気を隠そうともしない。
否、隠すつもりもない。何せ、"界"に閉ざされたこの街はもう自分たちの世界なのだから。
「ああん・・・いいわぁ。胎に子種を注がれているような甘露な結界・・・。私、軽く達してしまいそう」
思わず視線が吸い寄せられるような豊満な胸、肉付きのいい極上の臀部を薄衣で隠すだけの淫らな青い肌の女は、長く肉厚な舌で唇の端に零れた涎を掬い取ると、海溝のように深い谷間の間に挟んだ小太刀にそっと口づける。常人ならそれを見ただけでも情けなく精を吐いてしまいそうな淫靡な彼女の姿には目もくれず、他の二人の男はじっと魔人を見ている。
「ふん、だが、まだ、未熟」
「生まれたての子鹿ちゃんですからねえ。そこは考慮するべきかと。どんな術を使うのか、コトダマを持っているのか・・・腸を抉り出して丁寧に検分してみたいですねえ」
言葉を途切れ途切れに話す赤い肌の男は厳しい評価を下すが、一方で伊達眼鏡をかける学者風の緑色の肌の男はそれを窘める。後に続く悍ましい内容の言葉に赤い男は顔を顰めた。
「お前は、いちいち、言動が、露悪的だ」
「女の味を知らないさくらんぼさんには言われたくないわねぇ。どう?よろしかったら、極楽に連れていってあげてもよろしくてよ」
「貴様は、ただの、淫売だ」
不快のあまり男は自分の下腹部をじっとりとした手つきで撫でる女の腕を視線だけで斬り落とす。
女はそこから溢れる血を嬉しそうに舐めると、興味をなくしたように男から離れた。
彼女の興味の対象は轟音を響かせながらやって来た二台のバイク、特に白い方だ。
「来ましたか・・・。当代の姫が」
「先代の姫は・・・ウフフ」
「お手並み、拝見」
魔人と仮面ライダー二人が交錯し、戦いの火蓋は切って落とされる・・・。
*******
つまらない。自分の行く先々はあっという間に何もかもがなくなってしまう。
街も、人も、動物も、気が付けば見たくもない弱い同胞に姿を変えている。
魔人自身は気づいていないが、彼は自分の強大な力を完全に持て余していた。
それは、自分で術をコントロールできていないという意味で、その意味では彼は真に魔人として覚醒したとは言えないのかもしれない。
既にこの一帯は魔人が無意識下で発する術によって瓦礫の山と化している。
彼の進軍を止める者は誰もいない・・・。否、いる。
彼の背中を、気迫のこもった言葉が叩く。
「待ちなさい」
「止まって!」
いつの間にか、背後に人間の気配。虚を突かれた魔人は後ろを振り向いた。
そこには、白い剣士と、緑色の剣士が刀を構えて立っている。
魔人の煌々と輝く一対の赤銅色の眼には、彼女たちから迸る"気"───コトダマで練られた装甲から立ち昇るもの────が細部に至るまで見通せる。
特に白い方、緑色よりも"気"の密度が凄まじく、それはともすると言魔のそれに近いのかもしれない。何故人間がそこまでコトダマを操れるのか、魔人は興味を持った。
それは初めて得た、好奇心という『感情』だ。それは言魔では決して得られないもの。
「汝らも《刀》とやらか・・・。我は今退屈している。楽しませろ」
「退屈なら、死ぬことをお勧めしますよ。私たちは助かる、あなたは退屈しなくて済む。一挙両得じゃないですか」
ほう、この女。自分の"気"を受けても怯むどころか殺気で押し返す事までできるのか。
ますます気になる。彼女の中を、見てみたい・・・。
魔人が疾駆する。それは決して人間の眼では追い切れない、異能そのものだ。
その軌道は刀刃の身体を捉えており、刀刃は一瞬の出来事で反応できない。
しかし刀刃を守るべく間に入った者がいた。癒だ。
「お姫ちゃんに手を出すな!」
接近する魔人に一撃を喰らわせようとして、それが不可能なことに遅れて気づく。
(え・・・?刀、折れてる・・・?)
「ぐ・・・ぐはっ!?」
直後、自分の腹を貫く重い衝撃。身体が前のめりに曲がり、仮面の口から血を大量に吐き出す。
何てことはない。癒が刀を振るより速く魔人がそれを圧し折り、そのまま貫き手で装甲ごと癒の腹を抉り抜いたのだ。
「嘘、村雲君・・・!?」
「癒・・・!!」
ただの一度で致命傷を負ってしまった彼を見て、刀刃も、優月も困惑を隠せない。
魔人が埋め込んでいた手をゆっくりと癒の身体から引き抜くと、腹に空いた穴から血と、千切れた肉片がボトボトと零れる。
興を削がれた魔人は苛立ち紛れに癒の身体を蹴り飛ばす。
「邪魔だ、虫けら」
紙切れのように飛ばされた癒の身体は家が崩れてできた瓦礫の中に突っ込み、そのまま見えなくなる。生きているのか、あるいは死んでいるのかもここからでは確認できない。
優月は必死に走り、瓦礫の山の元まで辿り着く。
ここは元々は何らかの店だったのか、暖簾の切れ端が瓦礫の隙間に引っかかっているのだが、文字までは読めない。
「村雲君、村雲君・・・!」
木片やコンクリートの残骸をかき分けて癒の姿を探す。
苦労することもなく、その傷ついた身体はすぐに見つかった。
「う、うううー・・・」
か細いながらも、彼の柔らかい声が聞こえたからだ。
その小さな腹に穴が空いてもなお、彼は息絶えていなかった。
その事に優月は安堵した。しかし、素人目に見てもこれは重傷だ。
一刻も早く治療しなければ、命に関わるに違いない・・・。
「あっ、そうだ・・・!村雲君のコトダマなら・・・」
優月の腕を一瞬で治療した彼のコトダマなら、治せるはず。
その希望は、他でもな癒自身によって打ち砕かれる。
荒い吐息で胸を上下させ、腹の傷から血を流し続けながら彼はこう言ったのだ。
「無理・・・。僕のコレは、自分、には使えない・・・」
「そんな・・・何で!?」
癒は震える手でバックルから血に塗れた治コトダマを抜くと、表面を指で撫でる。
とても大切なもののように、ゆっくり、丁寧に。
「皆を、助けたい・・・。でも、その"皆"の中に自分が入っていなかった、から・・・。自分には、使えないんだ・・・」
「そんな・・・じゃあ、あなたは」
「はは・・・。死ぬ、だろうね。でも、まだ死んでやるつもりはないよー。だって、お姫ちゃんはまだ、戦っているから」
どこまでも他人のためだけに戦う仮面ライダー、それが癒。
自分がどれだけ傷つこうとも、他の人を救うためなら命さえ厭わない。
愚かで、不器用で、でも優しい・・・。
癒はよろめきながら立ち上がると、魔人とたった一人でやり合っている刀刃の元まで歩いていこうとする。だが、腹から断続的に垂れ続ける自分の血に滑って膝をついてしまう。
それでもまた立ち上がり、前に進む。
癒はまだ、死んでいない。諦めていない。
「ふんッ・・・!!」
「く・・・」
単調な拳の振り下ろしを横に跳んで避ける刀刃だが、着地の際に地面を叩く振動で足がもつれる。
そこに魔人の拳が滑り込んでくる・・・!
刀刃は壁コトダマを刀に装填して自身の前に障壁を張るが、魔人の一撃で難なく割られてしまう。
だが、それが刀刃の狙いだ。氷の障壁が砕かれる際の反動で後方に飛ばされることで魔人との距離を作る。
地面に手をついて着地した刀刃はそのまま壁コトダマを放り投げ、新しく槍コトダマをセット。
無数に生成した氷の槍を撃ち出し、魔人に攻撃する。
「その程度ぉ!」
氷の槍は全弾が魔人の腕の一振りで塵になるが、牽制できれば十分だ。
勢いよく地面を蹴って加速した刀刃がガードを潜り抜け、割れた腹筋が美しい腹部を深く切りつける。仰け反った魔人はその体勢のまま足を跳ね上げて刀刃のマスクを狙うが、刀で受けて再度間合いを取るに留まる。
「我の腕が上がり気味になっているタイミングを狙い攻撃を仕掛けるとは・・・巧者よ」
「それはどうもッ」
「ぬ・・・!」
這うような姿勢で加速する刀刃を見て、僅かに魔人が驚く。
どう刀刃が仕掛けてくるかが分からなかったためだ。が、それも一瞬。
空中に跳んで独楽の如く回転する斬撃を繰り出した刀刃の刀を魔人が蹴り、その一撃で刀が折れる。
「得物が失くなってしもうたぞ!」
「・・・問題はありません、刀なら山ほどありますから」
そう言われて魔人は、自分が今どこにいるのかに気づく。
夥しい数の死体と、地面に突き立てられている刀。戦国の戦場の跡のようなそこは、魔人と戦って散った《刀》たちの墓地だ。
「あなたが殺した仲間の無念、ここで晴らします!!」
「小娘が。やれるものなら・・・やってみろ!」
刀を地面から引き抜いた刀刃は斃れた持ち主に黙祷し、意識を戦闘モードに切り替える。
今度は魔人が先に動いた。人間を上回る身体能力に物を言わせた単純な力押し。
が、それはシンプルが故に強力だ。変身しても所詮人間の力では正攻法で魔人相手に勝負できるはずもない。
残像すら浮かぶ正拳突き。刀刃が首を捻って回避するが、拳が切り裂いた風が仮面を震わせる。
それに怯まず、刀を反転させて切り上げ、腕を落とす。その勢いを殺さず宙を舞い、脳天に白刃を叩きつける!
脳を切り裂く生々しい感触が腕に伝わってくる。しかし、こいつは人間などではない。
人を喰らい、街を破壊した恐ろしい怪物、悪魔だ。
「効かぬ」
「・・・・・・!?」
何と魔人の裂かれたはずの脳が再生を始め、刀が頭にめり込んだまま修復されてしまう。
刀を引いてもびくともしない。返す魔人の拳が刀刃の仮面を捉える。
顔を背けて衝撃を和らげたつもりが、仮面の方が威力に耐え切れず右目の部分が砕け、破片がそのまま刀刃の奥、白雪の右目を切り裂く。
「あぁ・・・うあああっ!?」
右の視界が真っ赤に染まり、何も見えなくなる。まずい。片目を潰されてしまった。
このままでは満足に戦えない。が、幸運と思わねばなるまい。
真正面から拳を喰らっていればそのまま一発でお陀仏だっただろうから。
「脆いものよ、人間とは。我ら言魔は永劫不朽、万物不変。鼻から人間という種族を超越した存在だ。だが、娘・・・。汝は人間でありながら強い。だが、その顔は見飽きた。失せろ」
刀刃にトドメを刺そうと右の拳を振るうが、それは不発に終わる。
「う、うおおおおっ!!」
「い、癒・・・!?生きて・・・」
文字通り血反吐を吐きながら突っ込んできた癒が、刀刃の身体を突き飛ばしたのだ。
二人はもんどりうって倒れ込むが、まだ生きている。
「僕も、《刀》だから・・・。何もしないで死ぬのは、嫌だ!ぐっ・・・」
「無理をしないで・・・。っ!」
突如、左側しか見えなかった癒の姿が右側も見えるようになる。
咄嗟に右目を触るが、指に血が付かない。それどころか、視力が戻っている。
癒の持つ治コトダマが、刀刃の負った深い傷を完全に治していた。
力を使ったからか、癒が苦しそうに呻いて倒れる。そして、流れる鮮血。
何とか止めた血が、傷口が開いたことで再び溢れてきてしまったのだろう。
・・・刀刃を守るために。
「これ、使って・・・。僕、もう、戦えないから」
「・・・。あなたの想い、無駄にはしません」
刀刃と癒の仲はそう深いものではない。何度か任務で一緒になったくらいで、特に親密という訳でもない。だが・・・。彼らはコトダマを武器に戦う仮面ライダー。
その言葉に込められた『意味』、理解できないはずがない。
「死にぞこないが余計なことを・・・」
「あなたは言いましたね。人は脆い。永遠なのは我ら言魔だと。それは誤りです」
「何だと・・・?」
刀刃の凛とした声音を伴って発せられたその言葉を聞き、魔人は眉根を寄せる。
自分の胸に湧き上がる想いをそのまま、刀刃は伝える。
「確かに人は弱く、すぐに死にます。でも、だからこそ言葉を紡ぐのです。言われた言葉は胸に残り、コトダマとなる。それはいつしか他の誰かを導く光に、闇を祓う刀になり得るかもしれません。だから、人間は死んでも死にません。コトダマは永遠に続きうるものです!そんな事も分からず壊すことしかできないあなたには、絶対に負けない!!」
「ほざけ!!であればコトダマでできた我らが永遠!我らが勝者なのだ!!思い上がるな、人間」
刀刃は癒から託された刀コトダマを手に取る。
刀、それは闇を祓う退魔の武器。刀、それは命を奪う罪業の鉄塊。
だから刀を握る人はその先に血の惨劇が待っていようとも戦う。己の誇りと矜持のために。
「私は人間!そして人間を守り、魔なる者を祓う《刀》!仮面ライダー、刀刃!!」
氷コトダマを外し、左のスロットに癒の刀コトダマをセットする。
そして、変化が起きた。
《刀と刀 闇を切り裂く弐刀の閃き!》
刀刃・氷刀が纏う氷が溶け、どこからか飛来してきた刀と混ざり再び溶け合う。
刀が交差するようなマスクに、白銀に煌めく鋼の装甲。
どこか鎧武者を彷彿とさせる新しい姿の刀刃。
その名は、仮面ライダー刀刃・双刀。
周囲に突き立つ刀が二振り、吸い寄せられるように刀刃の手中に収まる。
両手に加わる刀に込められた想いの重みを受け止め、刀刃・双刀は叫ぶ。
「今からあなたを斬ります。平伏なさい!」
「人間に傅くつもりはないわっ!!」
魔人は最高速度で突進し、そのまま刀刃を屠ろうとするが、
「何・・・ッ!?」
「あなたの拳がどんなに重いとしても、この刀に乗った想いに比べれば・・・!!」
二刀を交差し、その交点で拳を受け止め、弾き返す。
そして目にも止まらぬ速度で刀を振り抜き、魔人の身体に十文字の傷を負わせる。
先程までの一撃より、格段に威力が高い・・・!魔人は予想以上のダメージに困惑する。
そこに刀刃・双刀が二刀を構えて駆けてくる。
拳を片方の刀で弾き、もう一方の刀で腕を叩き切る。
その場で回転し、さらに刀を叩きつけるように振り、魔人の無事な方の腕も両断。
「はあああッ!!」
「ぬ・・・ぐおおおおッ!?」
今までの鬱憤を晴らすかのように刀刃が猛攻を仕掛け、魔人のガードさえも抜いて幾度もその身体を切り裂いていく。魔人の身体から血のように赤い靄が噴き出る。
それは今まで魔人が喰らった人間の持つコトダマだ。
こんな悪魔が持っていていい物ではない・・・!
「調子に乗るな、人間如きが・・・!俺が負けるなど、ありえんのだぁッ!!」
魔人が雄叫びをあげると、彼が纏う瘴気が格段と濃いものになる。
装甲越しにもビリビリと肌が痺れる。ここからが本番のようだ。
魔人の肩甲骨が砕け、そこから新しい二本の腕が生えてくる。しかしその腕は瘴気によって形作られているため、質量を持たないようである。
魔人が新しい腕で殴りかかってくるため、刀刃は刀を交差する事で受けようとして・・・。
「む・・・?」
魔人の腕に刀が触れた瞬間、刀が何かに浸食されるように消えていく。
そのため刀刃は後ろにステップを踏んで回避しなければならなかった。
何だ、今のは・・・。恐らく魔人が持つコトダマの力のはずなのだが、何が起きたかが分からない。刀が黒い靄に触れた時に消滅・・・というよりは吸収?される感覚だった。
「冥土の土産に教えてやろう、人間。俺は
街や人や物が跡形もなく消えていたのは、やはりこの魔人の持つ”虚”のコトダマの力だったのだ。
あれに触れた瞬間、物質の持つ意味に『虚ろ』が書き加えられ、物質の持つ定義が揺らぎ、結果として消滅してしまうというカラクリか。
しかし、強力な能力だ。何せ、あの腕に当たれば終わりなのだから。
「消えろ、人間!!」
「でも、要は・・・」
虚無の剛腕が刀刃を叩こうとするが、刀刃は逆に刀を腕に向かって投擲する。
やはり刀が腕に当たる瞬間に刀は消滅するが、それは計算通りだ。
新しく呼び寄せた二振りの刀が銀色の軌跡を描いて、
ありえない。魔人はそう思った。自分の腕に触れたものは虚無に帰すはずなのに・・・。
「おや、その様子だと気づいていないんですね」
「何をだ・・・!?」
「あなたの術が、不完全だということですよ」
「馬鹿にするな・・・!!」
再び魔人が虚無の拳を放つが、刀刃はそれを刀で受け止める。ここまでは焼き直しだ。
そしてまたしてももう一本の刀が虚無の拳をすり抜けて魔人の身体に傷をつける。
どういう事だ、と魔人がたじろぐ。しかし敵前でそれは隙を作る愚策でしかない。
いつの間にか二刀流に戻っている刀刃が刀をX字に斬り下ろし、その衝撃で魔人が吹き飛ばされる。
「あなたのその腕、
「・・・!!」
自分でも気が付かなかった自分の術の欠点に驚いた。自分に弱点があるなど考えても見なかった。
刀刃がそれに気づいたのは本当に偶然である。最初に刀を交差して虚無の拳を受け止めた時、前に置いた刀しか消滅しなかったのを見て、もしやと思ったのだ。
恐らくそれは、腕の持つ”無”が刀に触れることで刀の持つ意味を吸収し、一時的に”無”の意味がぶれることで起こる現象だ。
「認めよう、やはりお前は強者だ・・・。そして、こちら側の存在のようだ」
「訳の分からない事を。いい加減終わりにしましょう」
体勢を立て直し、両者は構える。次が最後、その感覚は双方にあった。
刀刃は両のコトダマトウに殺コトダマをセットし、二重に必殺技を発動させる。
魔人も地を蹴り、四本の腕で必殺の拳打を見舞うつもりだろう。
《刀・刀・殺・殺 流星散華・双刃殺》
交錯は一瞬だった。
魔人が拳を打ち出す速度すら超えて、白銀の残光を纏いながら撃ち出される無数の流星の如き白刃が魔人の身体を次々に切り裂いていく────。
「ぐおおおおおおおっ!?」
「さあ、終焉です!」
そして最後に二刀が魔人の身体を貫き、核を跡形もなく吹き飛ばす。
魔人の身体が頽れ、崩壊が始まる。決着は着いた。
・・・はずだった。
「負けるものか・・・!我が、人間に!!」
それは魔人の中で膨れ上がる、刀刃への殺意、恨み、憎しみ、ありとあらゆる負の感情そのもの。
それら全てを”虚”に、自分自身をも巨大な”虚”に変換することで魔人の身体は再生を始める。
「何が・・・!?」
魔人の身体が周囲に存在するものに宿るコトダマを喰らい尽くしていき、その身体は天井知らずに肥大していく。それは斃れた《刀》の骸が持つ”生”のコトダマが消えたという、死という”虚”さえも例外ではなく・・・。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
そして魔人の身体は人間のそれとはかけ離れたモノへと成っていく。
コトダマを取り込みすぎた弊害か、体内で意味がごちゃ混ぜになって本人の意思も何もない、本能のまま暴れる怪物と化してしまっているのだ。
言うなればそれは、魔人の暴走形態、魔獣と呼んで差し支えない存在。
魔獣は高層ビルほどの大きさの体躯で、腕が10本はある正しく異形の怪物だ。
その一本の腕が動かされ、刀刃はそれを辛うじて刀で弾いたが次いで黄色い眼から放たれた光線が刀刃の刀コトダマを直撃。
刀刃・双刀の変身が解除され、ただの雪片白雪へと戻ってしまう。
「しまった・・・!」
変身が解けたことに白雪が気づくが、もう遅い。
魔獣が白雪に腕を振り下ろす。しかし、白雪にはなす術がない。
白雪は目を瞑り、その時を待つ・・・。
その時だ。闇色の風が吹き、一太刀で魔獣の腕を切り裂いた。
「やあ大丈夫かい、《姫》?」
「榊さん・・・!」
黒い刀を振り抜いたままの姿勢で立っているのは、全身が黒ずくめの戦士。
漆黒のマントが風にたなびき、騎士のようなマスクのバイザーの奥で蒼い光が輝く。
「仮面ライダー宵闇、参上ってね。さあ、二ラウンド目だ」
榊 影宗が変身する漆黒の戦士、仮面ライダー宵闇が刀を魔獣に向け、宣戦布告した。