仮面ライダー刀刃(ヤイバ)   作:禍津日

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目の前で、妻と子供が殺された。

「あなた、助けて!?」
「お父さん!?」

胸を刀で一突きにされ、血を口から噴き出しながら二人が死んでいく。
それからも奴は何度も執拗に二人を刺し続ける。

刀で何度も何度も、床一面が血で染まるくらいに。
陸に打ち上げられた魚のように、刀で胸を刺し貫かれる度に身体がびくびくと跳ねる。

ああ、どうして。こうなってしまったんだろう。


第鉢話『虚構の正義(前編)』

里美は、最近付き合い始めた幼馴染の康太を待っていた。

これが初めてのデートである。緊張して、つい待ち合わせの時間よりも早く家を出てしまった。

里美は市内の高校に通う高校二年生、康太も同い年で、その付き合いは幼稚園からなのだ。

もちろん二人きりで出かける事など両手両足どころか歯の本数を合わせても足りないくらいあるが、彼氏と彼女のデート、という意味ではこれが初めてである。

 

この日のために新しいワンピースとスカートを買い、靴もピカピカに磨いてもらって、デートする場所も二週間前から徹底的にリサーチした。だから予定通りやれば何も問題ないはずだ。

辺りを見回せば、駅前という事もあってか里美と同じように一人で立って端末とにらめっこしている女性が多くいるのが分かる。もしかしたら彼女たちも、恋人との逢瀬を楽しみに待っているのかもしれない。

 

腕時計を見ると時刻は現在夜七時、この市内で最大の広さのA駅は乗客の往来が激しく、改札口を覗き込んでも人、人、人でとても一人を探し出すのは不可能に限りなく近い。

康太とは家が隣同士なので何も現地集合にする必要性は全くないのだが、その辺は乙女心という奴である。彼氏とデートで待ち合わせというものを体験してみたかったのだ。

 

「悪い、里美。何か電車が遅れたみたいで」

「ううん大丈夫。私も今来たところだから」

「そっか・・・?なら良いんだけど」

 

このやり取りもやってみたかった、と頬が緩むのを止められない。

 

(ヤバイ・・・今日の康太、かっこいい)

 

彼女の贔屓目を抜きにしてもいつも康太はかっこいいのだが、今日は何割にも増してかっこいい。

康太はサッカー部でレギュラーを務めるだけあって筋肉質で程よく日焼けをしているのだが、白いシャツに薄いジャケットというのがまたスポーティな雰囲気を漂わせており一層魅力的に映る。

髪は短く、それがまた活発そうな印象を与えているのだ。

すらりと背が高いので、けっこうクラスでも人気があるのを里美はよく知っていた。

その度にクラスメイトたちに牽制球を投げていたのももう遠い昔のようだ。

 

(付き合ってるん、だもんね・・・私たち)

 

里美はどちらかと言えば控えめな性格で、本を読んだり絵を描く方が好きなタイプだ。

でも、全く気質の違う康太とは何故か昔から気が合って、いつのまにか好きになっていた。

あれはそう、小学校の修学旅行で里美が道に迷ってしまった時のこと。

康太が里美を見つけ出して皆の所に連れて行ってくれたのだ。それがきっかけで、もしかしたら好きになったのかもしれないし、落としたキーホルダーを見つけてくれたり、いじめられているのを助けてくれたりときっかけを探せばキリがない。

 

「康太・・・」

「何だよ?」

「好き」

 

康太は顔を真っ赤にした。こういう所もかわいい。以外に初心なのだ。

だが彼も一人の漢、勇気を出して・・・

 

「俺も・・・す・・・」

 

その時、康太の胸を鋭い何かが貫いて、身体をガタガタと痙攣させる。

そこで彼は言葉を止め、そして永久に沈黙した。唇の端から漏れるのは、ゴポッ、ゴポッと弾ける血の泡だ。それを見て、昔、よくシャボン玉で康太と遊んだのを思い出した。

あの時の彼はとても楽しそうだったが、今の康太は不自然な形で固まっており、その顔はまるで苦痛と恐怖に歪んでいるかのようで・・・。

 

「嫌・・・!?嫌ァァァァァァァァッァァァァ」

 

勢いよく康太の胸から鋭い何か────奇妙な形状の日本刀─が引き抜かれ、胸から大量に血を噴き出して糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。

血と肉に塗れた刀を手に持って狂気的な笑みを浮かべているのは、三十代くらいの平凡な容姿の男性だ。真っ白なシャツに康太の血が新しい模様を加えている。

 

「お前か・・・!?お前が妻と娘を・・・ッ!?」

「な、何のことですか!?」

 

男はとても正気とは思えなかった。ようやくこの惨状に周りの人々が気づいたのか、人々が一斉に逃げようとしている。だが、男はそれを許さない。

驚異的な速度で加速すると、今まさに逃げ出そうとしていた女性に白刃を向ける。

 

「あ・・・あ・・・」

「お前かぁぁぁぁ!!」

 

男が刀を一振りすると、女は頭と胴が二つに分かれ、それぞれバラバラに地面に落下する。

直後、頭がなくなった女性の断面から夥しい量の血液が噴水のようにブシュ、ブシュと飛び散り、男の顔にかかる。男はそれに嫌悪感を感じる所か、恍惚とした表情で次の標的を探し始める。

ゴム毬のように弾む女性の頸がコロコロと転がり、柱の陰に隠れた中学生くらいの男の子と見つめ合う。

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

その悲鳴を聞いた男が男の子が震えている柱の前にゆっくりと立ち止まると、おもむろに刀を突き出す。ズブ、ズブと少しずつ刀身が男の子の胸を柱ごと貫きながらこちらに出てくるその光景を見てしまった会社員風の男が腰を抜かし、その場にへたり込む。

男は刀を柱から引き抜く。縫い付けられていたモノがなくなった男の子が横に倒れ、男の行く手を塞ぐ。煩わしげに男が少年の死体を蹴り飛ばし、こちらに近づいてくる。

会社員風の男は半狂乱になり、逃げるのも忘れて思わず叫んでいた。

 

「来るな、化け物ォォォォ!?」

「あぁ?俺は悪を成敗する正義の・・・仮面ライダーなんだよ」

 

連続殺人をわずか数分足らずでやってのけた男がその罵倒に笑いながら着ていたジャケットのファスナーを下ろす。すると、黒いベルトのような物が腰に装着されているのが分かった。

男は黒い将棋の駒のような物体と色違いの紅いものをバックルにセットし、腰にぶら下がるハンマーでバックルを打ち付ける。

 

「妻と娘の仇だ・・・変身!」

 

《鎧と刀 鎧袖一触に断つ白刃!》

 

おどろおどろしい声がどこかから聞こえた後に、男の身体が変化していく。

矢が至る所に突き刺さり、半分が割れて片目が露出した兜の下のバイザー。

それは鎧武者のような風貌でありながら、傷つき、苦しむ落ち武者のように見える戦士。

 

「俺こそが仮面ライダー。仮面ライダー、怨恨(ウラミ)だ!」

 

怨恨が男性の頸を刀で裂く。絶命した彼には目もくれず、最後に獲物を里美に定めた。

片目が割れた仮面の奥にある男の血走った目に射竦められ、里美の太股が生温かい液体で濡れる。

怨恨は里美の首根っこを掴み、新調したワンピースを腕力だけでビリビリと破っていく。

 

「嫌・・・!?やめて・・・見ないで」

 

可愛らしいながらも、その身体のラインを強調するような煽情的な下着が露わになり、羞恥心で里美の顔が赤く染まる。これはもしかしたら、デートの後・・・と気合を入れて着てきた勝負下着なのだ。こんな男に見られていいものでは決してない。

 

「俺は、絶対に許さない!!家族を殺した・・・悪魔を!!」

 

血を吐くような絶叫を挙げ、怨恨が腕を動かして白刃を振るう。

 

(康太・・・)

 

腹に響く重い衝撃を感じ、里美の意識は闇に閉ざされていった・・・。

 

 

*******

 

「おい、どうなってやがる!?」

「落ち着いて、《火》」

「落ち着いていられるかよ!?《刀》が・・・何の罪もない人間を殺したんだぞ!?」

 

《火》は突然飛び込んできた大事件の報せに怒りを隠せない。《水》が何とか猛る彼を宥めようとするが、内心では《水》も《火》と同じ気持ちだった。

ここは《刀》本部の作戦会議室。そのさらに地下深くにある、《五刀》の面々と上層部しか入室できない最高機密作戦司令部だ。

幸い任務がなく、訓練場で修行をしていた《火》は報せを受けて慌てて飛び込んできた。

 

それは他の《五刀》の面々も同じで、特に《水》などは入浴中に招聘がかかり男装する暇もなく薄手の服を着るのみで馳せ参じたため豊満な胸が強調されているのだが、この極限の状況下では誰も意識していない。

《土》も腕を組み、冷静な風を装っているが、全身の血管が彼の心中を表すかのように震えている。

 

「うむ・・・。許されざる事だ。人を守る者が、守るべき人に刃を向けるなど」

「しかも駅という人が大勢集まる場所で変身してしまっていますしねぇ・・・。金で黙らせるのも無理があるかと。いっそのこと全員殺してくれれば・・・っと、失敬」

 

《金》はついいつものように軽口を叩いて全員から睨まれ、降参とばかりに両手を挙げる。

が、彼がそう言いたくなるのも無理からぬ事だろう。

状況はかなり、いや、これ以上ないくらい深刻なものであった。

 

「《風》が必死こいて頑張ってくれてはいるが、どれだけ効果があることやら・・・」

「人の口には戸が立てられない。しかも今はSNS全盛の時代、簡単に全世界へ情報が発信されてしまう。私たちのご先祖様の時代とは訳が違うものね」

 

言うまでもなく、世間の人々に《祓》も、《刀》も、言魔のことも知られてはならない。

無辜の人々が自分たちが生きる世界の後ろ暗い、醜い部分に気づいてはならないのだ。

そのために、今日まで闇に潜み、言魔と命懸けで戦ってきたのが仮面ライダーなのだから。

 

「クッソ、まずは俺ら()の心配よりこのゴミを始末する方が先だ。下手するとさらに犠牲者が増えかねねぇ」

「まだ来ないのか、仮面ライダー刀刃は・・・!」

 

その時、部屋のドアが横にスライドして、三人がこちらに駆け寄ってくる。

三人とは榊、優月、そして彼らが待っていた『処刑人』仮面ライダー刀刃だ。

刀刃───白雪は《五刀》の面々に一礼すると、二人よりも一歩前に進み出る。

 

「別件で忙しい所悪かったね、《姫》」

「いえ、今は一刻を争う状況なので・・・」

 

代表して《水》が話を切り出す。そこに、緊張感のない榊の声が飛んでくる。

 

「参ったよ。F1レースみたいにかっ飛ばしてきちゃったからさ、もしかしたら警察に罰金を喰らっちゃうかも。《金》君、経費で落ちないかなぁ」

「てめぇ頭が沸いてやがんのか!?今はそれどころじゃねえだろ!?」

「あーごめんごめん。お、続けて続けて」

 

一触即発の《火》と榊から発生する微妙な空気を切り替えるために《水》が咳払いをする。

そして、壁一面に広がるモニターの前のコンソールを操作すると、画面に無数の防犯カメラ映像が表示される。同じ場所を撮影したものだが、視点が異なるため多角的に映像を観る事ができる。

画面に映る凄惨な光景を見て、まだそういうものに慣れていない優月は口を手で押さえる。

 

「こ、これは・・・!?」

「あ、そっか。新入りちゃんは知らないか。”撮”の術式を日本全土に設置して、こうやってどこで言魔が暴れても分かるように監視網が敷かれているんだ。まさか、人間・・・それも同じ《刀》相手に使うとは思ってもみなかったけどね」

 

そう言うと《水》が複雑そうな表情を浮かべた。

その話を聞き、優月は改めて《祓》が非常に大きな組織だということを実感する。

通常の防犯カメラでは言魔の姿を撮影することはできないが、"撮"のコトダマを使った映像記録術式は違う。コトダマの力を通して《眼》を作るため、コトダマが実体を持った言魔の姿を捕捉する事ができるのだ。

 

この術が完成を見たのもここ十数年の間の事だ。人間社会が技術革新を遂げるのに合わせて、《祓》も社会を守るために時代に合わせてその形を変容させているのである。

以前の時代は”鳥”のコトダマを実体化させて日本全土に放っていたのを考えれば、大きな進歩ということが分かるだろう。

 

「僕様からすれば、正義の名のもとに至る所に監視の網を広げて支配者ぶりたがっているようにしか見えないけどねぇ。だって、僕様たち以外は誰も監視されていることなんか気づいていない訳だし」

 

榊の鋭い指摘に、全員の視線が集まる。彼の意見にも一理あるし、人を守るために人を監視するという矛盾は《祓》の上層部の中で現在も続く論争の火種でもあるのだから。

だが、人の命を守るという意識が誰より強い《五刀》の面々はそれに反論する。

 

「損得を考えれば答えは必然出ると思いますがね。監視をやめて人が殺され続けるのを指をくわえて見てるだけなら、その間にこの社会に発生しうる経済的損失をあなたが補填してくれるとでも」

「損得でしか人命を考えられねぇ《金》に同意するのは癪だが、同意見だ。俺たちは人を守る使命があるんだ。そのためには多少は何かを捨象しなければなんねぇ。正義ってのはそういうモンだろ」

「私は《黒》君の意見も理解できるな。だから有事にしか使えないようにプロテクトがかかっている訳だし」

 

「ちょっと皆!?今はそんな事を話している場合?犯人の正体を突き止めたわよ!!」

 

議論が紛糾し、非常事態というのにいがみ合う面々。怪しくなってきた雲行きを軌道修正したのは、藤林を伴って室内に入ってきた《風》だ。

進展があったと分かり、一同は黙って《風》の方を見る。

彼はトレードマークの濃いメイクをしている暇がなかったのか、すっぴんである。というより、化粧がないと最早別人である。《風》は《水》からコンソールの操作を奪うと、キーボードを物凄い勢いで叩く。

直後、一人の男の顔写真と、来歴がまとまったファイルが画面上に表示され、藤林が手元の端末に視線を落としながら男の素性を説明し始める。

 

「篠原 茂、現在29歳。《刀》に就任して5年、討伐した言魔は100体以上・・・。仮面ライダー怨恨に変身する人物で、懲罰歴は特になし。性格も問題は見当たらず、妻子を大事にする真面目な人物との事です」

「何か、人殺しになりそうな要素が見受けられないけど」

 

《水》がその場の全員の第一印象を代弁した。話を聞く限りだと人格面でも問題がなく、優秀な《刀》のようだ。《刀》の任務の長さは言魔にもよる。

厄介な性質の言魔や人擬きといった個体はそう易々と尻尾を掴ませないため、任務が長引くこともある。五年で百体と考えると、かなりの強者である事は疑いようもない。

 

「それが、そうでもないのよ。これを見て頂戴」

「これは・・・酷いな」

 

《風》が再度キーボードを叩き、別の画像を出現させる。

そこに映っている画像はショッキングなもので、凄惨な現場に何度も居合わせた事のある《五刀》でさえ言葉を失う程であった。

 

「彼の妻、廣子と娘、朋美。昨日、遺体で発見されたわ。《草》から何も連絡はないから、十中八九言魔ではなく人間の犯行よ」

「化け物よりも化け物みてえな人間がいるって事かよ、クソッタレ」

 

《火》が苦々しげに呻く。その画像の中では、女性と小さい女の子が横並びで倒れている。

────血だまりの中に。

特に酷いのは妻、廣子だ。彼女は腹が膨らんでいて、恐らく臨月だったのだろう。しかし、腹が一刀両断に切り裂かれ、胎児と思しき物体が僅かにはみ出ているのが見える。それだけではなく、胸を一突きされただけの娘とは異なり、執拗に至る所に刃物で切り付けられたと見られる切り傷がついていて、何より目を引くのが陰部の周辺だ。外陰部から胎内へ刺し貫くかのように、刀が深々と埋め込まれている。これは想像を絶する憎しみだ。

 

「彼が任務から帰ってくると、こうなっていたみたいよ。自分で通報してそう説明したらしいわ」

「つまり・・・。この篠原氏は自分の妻子を殺した人物への復讐のために仮面ライダーの力を使い始めた訳だ」

 

《水》のその言葉は、不思議な重さをもって響いた。

確かに、人を超える力を持つ仮面ライダーの、《刀》としての力を用いれば人間を殺す事など容易いはずだ。しかし、その力の使い方を誤れば、人を救う力が人を殺す力にもなり得るのだ。

 

「どんな理由があっても、俺たち《刀》が一般市民に刀を向けていいはずがねえ。確かに、刀は元は人を殺すためだけに造られた武器だ。でも、刀で人を助けることができるのは・・・俺たちだけじゃねえか」

「ええ。長老方の意見も同じです。よって、命令を通達します。《姫》こと仮面ライダー刀刃、至急仮面ライダー怨恨を見つけ出し、抹殺しなさい」

 

白雪は黙って一礼し、表情を引き締める。

それこそが、《姫》に課された使命なのだから。

代々の《姫》に選ばれた女性は例外なく仮面ライダー刀刃と命名される。

これは、《姫》に与えられる使命に由来する。

 

すなわち、言魔を狩り、人々を守る《刀》。

そして、規律違反を犯し人を危険に晒す《刀》を処刑する、人斬りの《刃》。

 

その二つの使命を冠する仮面ライダー、それが刀刃なのだ。

 

《刀》同士が戦ったり、まして殺し合いをする事は《祓》では認められていない。

しかし、《刀》も人である以上、様々な者が存在する。

その力を私欲のために使ったり、人に危害を加えるために刀を振るう事例が過去に何件もあったと、記録が残されている。そこで設立された役職が《姫》、人類の絶対的な守護者にして冷酷無慈悲な悪の処刑人。人を守るためなら、同胞であろうと躊躇なく刃を向ける。

 

そして人を斬るのは、白雪にとって初めての事ではなかった。

 

 

 

 

「チッ、俺らができる事は何もない訳か・・・。畜生」

「そうでもないわ」

 

白雪たちが部屋を後にし、《五刀》は全員その場に留まり、今後の対策について話し合っていた。

件の反逆者の始末は《姫》が滞りなく終える事だろう。

だから、彼らがするべき事は一つ。

 

「世間の人々から記憶を消すため、大規模な忘却術式を使う。異論はないな」

「ああ、事が終わり次第すぐにでも」

 

大規模忘却術式。それは、人々の記憶から特定の情報だけを”消す”術。

あまりに強力な術であるため、《五刀》全員の同意と長老たちの許可がないと使用できない事になっている。

 

何はともあれひとまずこの場は解散、という空気が流れかけたその時。

藤林の端末が鳴り、状況は一変した。

 

「何ですって!?それは事実ですか・・・!?」

「どうした、何があった・・・!?」

 

藤林は眼鏡を押し上げると、目を瞑って言った。

 

「《槌》からの報告です。武具庫・・・それも『伏魔殿』から、妖刀が一振り消えていると」

 

一同の間に衝撃が走る。それは、決して開けてはならないパンドラの箱だった。

 

妖刀、それは文字通り妖気を纏う刀。かつて闇の鍛冶師たちが悪意と呪いを込めて鍛えた、此の世に存在してはならない刀の数々。そして魔なる者が宿る、異能の爪牙。

刀に"妖”のコトダマが込められており、それを持つだけで此の世ならざる異能を手にする事ができるのだ。

だが、身に余るその力は代償を必要とする。大抵の場合、それは命だ。

例外なく持ち主は滅び、現在は厳重に封印されている。それが破られるとは・・・。

 

「ほぉぉ・・・」

「して、銘は・・・?」

 

藤林の答えは、数ある妖刀の中でも最も危険と称され、封印されてきた一振りであった。

 

「────妖刀、村正」

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         




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