またよろしくお願いします。
リハビリ作となりますので、お手柔らかにして頂けると幸いでございます。
初夏。香澄は長い長い登り階段をゆっくり登っていた。
初夏と言っても、暑さは本物。天気予報だと、昼には30度を越えるらしい。朝だから、まだ幾分かマシだが、香澄の額には、既にうっすら汗が滲んでいた。
───さ、さすがに暑い。
休憩だ。坂の途中にある、三角に切り取られた空間。そこにある、白色の石椅子に香澄は腰掛ける。
あたりの木々と、草花が優しく揺れる。穏やかに吹き抜ける風が、香澄の頬を緩やかに撫でる。
遠くで蝉の声がうっすらと聞こえる。真夏を告げる大合唱が始まるのも、そう遠くない。
目を閉じて、風に身を任せる。汗ばんだ額に張り付いた髪が、サラサラと揺れる。全身の力を抜き、夏の清涼感ある風を全身に受けるようにした。
───数分経っただろうか。ふと、香ばしい香りを薫風が運んできた。小麦と、香ばしいパンの匂い。それと同時に。ゴキゲンな女の子の声も夏風が届けてくれる。
「流石に、生のキュウリは白米に合わないと思うっすよ……」
「それでも、と言うやつだ。……流石のうちも、塩掛け白米をおかずに白米を食うのは、3週間が限度何か、何か米以外のものが欲しい」
「りみりん、どうしてそんな生活を……」
「新しいエフェクターを買ったからだな。ピンクのくまちゃんが書いてあって可愛かったのと、何よりも低音が良く響く! 即決だ!」
「それで白米生活を強いられてるわけっすか……」
「うん。あ、ちなみにー、手裏剣柄ピックと弦も買ったのー。白米販売の臨時収入もあったから、奮発して良いヤツをー……」
「……今度、冷凍できるパンもってくね。とりあえず、今はこれでも食べてて」
「む、かたじけない。……ビ、ビミー! 米派のウチを、何度も唸らせるとは。やはりただ者では無い!」
……バンドに関わるものばかりだから、なんだか咎めにくい。香澄は、苦笑いしながらその会話を聞いていた。
「みんな、おはよう!」
立ち上がり、みんなを迎える。手を振り、つい嬉しくなって、笑顔を浮かべてブンブン手を振ると、りみ、たえ、沙綾は、香澄の姿を見るなり三者三葉の反応を見せる。
「おはようっす、かすみんセンパイ」
ピコピコしているうさ耳を幻視してしまう程、笑顔で振り返してくれるたえ。
「おはよう、香澄ちゃん!」
やっぱり、私には眩しすぎる───! そんな、妙な感想を香澄が抱いてしまう程、笑顔が眩しい沙綾。
「師匠。なにか、何か食べるものを持っていないか」
───まだ足りないのかりみりん。
朝の挨拶よりも、いの一番に空腹を訴え、目にも止まらぬ早さでずい、と寄ってくるりみ。
いつもながらの光景だが、やっぱりなんだか、香澄はおかしくなって少し笑った。
「ふふっ。のど飴しかないけど、はい」
「かたじけない」
肩掛けバックからのど飴セットを取り出す。袋の封を開け、桃味の飴を香澄はりみに渡した。
5つの味がセットになったカラフルな飴を、香澄は喉荒れ予防として持ち運ぶようにしていたのだった。
香澄は、青リンゴ味と、パイン味の飴を取り出す。2人にも分けてあげようと袋の中を漁った時。かさり、と少し渇いた音が、中から鳴った。
「たえちゃん、はい!」
「ありがとうっす」
たえは、香澄からの飴を両手で受け取っていた。なんか、小動物みたいで、可愛い……という感想を香澄は抱きつつ、沙綾にも飴を渡そうとする。
「沙綾ちゃんも、はい!」
「うん、ありがと───」
左手を差し出そうとした沙綾。パンを抱えていた片手が、香澄に向けられたその瞬間。
「……っ!」
沙綾の左手が、僅かに痙攣する。手のひらを上に向け、飴を受け取ろうとした刹那。沙綾は、一瞬だけ苦悶の表情を浮かべた気がした。
「……ありがとう!」
なんて事ないように、沙綾は飴を受け取る。出した左手を隠すように、雨を受け取った途端、すぐさま左手はパンを入れた袋の元に戻された。
……そういえば、沙綾がいつも手首につけているシュシュの下に、テープのようなものが巻いてあった気がする。肌の色とちょうど同化するような色で、パッと見ただけでは分からなかった。
沙綾を見つめる。だが、どう見ても、痛そうにしていた表情は見えない。むしろ、見つめ返されて、ニコリと笑いかけられてしまった。可愛かった。
「腹を満たしたら、なんだかムショーに弾きたくなってきた。いざ!」
いつものなんば歩きで、ベースをばいんばいんさせずに早歩きをする。いつもながらのマイペースさに、香澄は思考をりみに取られてしまう。
「うわっ!? 2人ともやばいっす! もう、集合時間3分前っす!」
スマホで時間を見たたえが、遥か彼方に進んでしまったりみを追う。なんば歩きだが、少しだけ、ギターケースがばいんばいんしていた。
「あっ、2人とも……! 香澄ちゃん、行こ!」
沙綾も2人を追って駆けだす。スティックが持ち物の沙綾は、2人に追いつかんとする速度で走る。何故か、両手両足の同じ方が一緒に出ていた。なんば歩きみたいな駆け方だった。
「え。ま、待ってよー!」
1番最初に居たはずなのに、何故か1番最後に。香澄は先を行く3人を追って、ギターケースをばいんばいんさせながら坂道を昇った。
次話は何時になるのやら……
気長にお待ちください。