もう一度   作:冴月

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「うーん……? どこだったかな……」

 

 沙綾を背負ったまま、りみは呟いた。辺りをキョロキョロと見渡し確認してみるが、景色はいつも良く来る商店街。現在地は、ヤマブキパンの程近くの精肉店の前。そんな所でりみと沙綾は、道が分からず立ち往生をしていた。

 

「と、とりあえず、りみりん下ろして……」

「うむ。うん? ……獅子メタル殿、大丈夫か?」

 

 首をかしげているりみに伝え、降ろしてもらった。

 商店街を、色々な方向から3往復くらいした後だった。りみの謎に高い身体能力のおかげで、沙綾を背負っているにもかかわらず結構なスピードが出ていて、りみから降ろしてもらっても、沙綾の気分は絶賛下降中だった。数分たった今も膝に手を付き、胸から込み上げてくる不快感に耐えながら地面を見つめている。

 

 

 

 そんな中、ふと香ばしい匂いが沙綾の鼻を擽った。

 

「獅子メタル殿、先程はすまなかった」

 

 ぐいと、小さい茶袋が沙綾の目の前に差し出される。中からほんのりと、揚げ物の匂いがした。

 顔を上げると、りみが既に茶色い揚げ物をしゃくしゃくと口にしている。腕を通してある袋の中には、複数の茶袋がはみ出して見えている。

 沙綾は、姿勢を治しながら茶袋を受け取り、そのまま封を開けた。

 

 香ばしい匂いが、沙綾のお腹を刺激した。ちょっとかじってみると、ホロホロとしたじゃがいもの甘みを感じながらも、時折訪れる牛肉の食感が、心地良い。胡椒のような少しの香辛料と牛肉の旨みがほくほくじゃがいもに凝縮されたミート・コロッケは、この精肉店の看板メニューだった。

 

「獅子メタル殿は、リズム隊のアイボーだ。ウチと獅子メタル殿は一蓮托生、どっちがズレてもいけなくて。どっちかが居なくてはならないと、ウチは勝手に思ってる」

 

 コロッケを食べる手は止んでいた。りみは、その花緑青色の瞳で沙綾を見る。

 

「ポピパにおいて、ウチはウチの低音で仲間を支える。皆を護り続ける。いつ、どこで、何があっても。巨大なガマガエルの親分が一呑みにしてこようともな」

 

 巨大ガマガエルの親分って、なんの事だろう……? 疑問に思っていたが、沙綾はとりあえず触れないでおいた。

 

 りみは話を続ける。

 

「だから、なんていうか、支え続けるには、獅子メタル殿が必要なのであって。い、一蓮たくしょー? というものであって。……えと、その。師匠も言っていたけれど。あの、えっと。……う、ウチに相談してくれたって、いいんやで!!」

 

 ぷいと、そっぽを向いてしまう。だが、りみの思いとか。沙綾(わたし)の事を考えてくれているのは伝わってきた。

 そっぽ向いた彼女の耳が、朱に染まっているのが見える。りみは恥ずかしそうに明後日の方を向き、誤魔化すようにコロッケをシャクシャク咀嚼しだした。

 

「りみりん……」

 

 りみはちらっとこちらを一瞥する。そしてまたもや、恥ずかしそうに、ぷいっと反対を向いてしまった。

 

 

「おーい」

 

 ようやく、置いていった3人が追いついてきた。たえは少しだけ汗はかいているが、何ともなさそうに手を振っている。

 しかし、有咲と香澄は息も絶え絶えといった感じだった。有咲と香澄共々、膝に手を付きながら、たえの遥か後ろで立ち止まっている。

 有咲に至っては口元を押えていて、モノが出てしまいそうになっている。そんな有咲を息絶え絶えな香澄が看病していて、なんだか大変な事になっていた。

 

「はぁ、はぁ……2人とも、早すぎるっす!」

 

 たえがこちらに駆け寄ってきた。息が上がってる割に、笑顔である。やはり、りみに対抗できそうなのはたえしかいなさそうだ。

 早いのはりみりんであって、私はおんぶされていただけである。というか、私を背負って尚もたえちゃんよりも早いって……。

 

「ふむ、うさぎ殿。実は、病院の場所が分からなくってだな……」

「それはそうっすよ! 蔵から近いって話はしたっすけど、場所はまだ伝えてなかったっす!」

 

 少しかいた汗を、手の甲で拭うたえ。スマホを取りだした後に、地図アプリで、詳しい場所を見せてくれた。

 ……なるほど、今居る位置の真反対だ。

 

 地図アプリを確認していると、たえが何かに気づいたようだ。すんすんと辺りの匂いを嗅ぎ始め、りみのぶら下げている袋に目が行き着く。

 

「なんかいい匂いするっすね。揚げ物みたいな」

「そこの精肉店のコロッケだ。サクサクでホクホクで、美味い」

 

 そう言いながら、りみはたえに茶袋を一つ渡す。やはり、人数分買っていたらしい。

 

「ありがとうっす。……んー! 美味しい!」

 

 さっそくサクサク心地いい音を鳴らすたえ。両手で持ちながら、少しずつ食べる姿は、さながら兎のようだった。

 

「あ、あんた達……。び、病院の時間が……おえっ」

「あ、有咲ちゃん待って……ううっ」

 

 フラフラになりながら、有咲と香澄がようやく追い付いた。まだフラフラしていて、気持ちの悪さと戦っている2人だったが、大事な事だけは伝えることが出来たようだ。

 有咲の言葉に、スマホを見たたえが「あー!?」と大きな声を上げる。

 

「やばいっす! もうすぐ言われた時間になっちゃうっす!」

 

 たえが走り出す。片手には食べかけのコロッケを持ったままだった。

 

「うさぎ殿についていけば……獅子メタル殿、失礼」

「え、きゃあ!?」

 

 りみは走り出すと同時に沙綾を抱えた。

 片腕で、脇の方から背中に腕を回し、もう片方の手を膝の下に入れ体を支える。横抱き、ではなくお姫様抱っこというやつだ。いきなり掬い上げられた為、沙綾は反射的にりみの首に抱き着いた。

 

「か、かすみん肩貸して……うえっ」

「あ、有咲ちゃんしっかり……」

 

 またもや介護しあっている二人。見る見るうちに置いて行かれ、小さくなっていくものの、時間が迫っているため相手にはできなかった。

 先に向かっているたえに追従する。沙綾を抱えながらもたえに追いつこうとするりみの顔は、真剣そのものだ。

 

 りみに抱っこされながら、沙綾はその顔を見つめる。至近距離で見つめるその顔は、普段からは想像できないような真面目な顔で、格好の良ささえ感じた。

 

 風を切って走る。髪が靡いていく。りみの髪飾りが、仲良さそうに揺れている。地を蹴る音が、軽快に鳴る。

 

 さすがのりみも、息が上がってきたようだ。蹴る音に呼応するかのようミ、息がリズミカルにはき出される。沙綾を抱えたまま、でもなるべく振動を与えないよう、走ってくれている。

 

「……りみりん、ありがとう」

 

 そんな言葉が、沙綾から漏れる。近くのりみは、そんな言葉を聞き漏らすことなく。

 

 

「……うむ!」

 

 

 その笑顔には、確かにりみの決意がこもっている。沙綾の心を、満たしてくれる。

 沙綾は、りみに回している腕の力を優しく強めた。

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