もう一度   作:冴月

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 受付での会計を済ませて、病院を出たPoppin’Partyの一行。むわんと広がる夏の蒸し暑さに包まれ、一気に汗が吹き出してくる。

 今は、風があまり吹いていない。爽やかなんて程遠い道を、5人で歩いていく。

 

 ふと、ヤマブキパンの近くを通りがかった。窓越しに香澄が中を覗いてみると、忙しなさそうに動く沙綾のお父さんが小走りで店内を駆けているところだった。店内で接客していると思ったら、品出し用のパンをおぼんいっぱいに持って現れたり。お客さんが使うおぼんとトングを補充していると思ったら、裏に入って何やら粉まみれで出てきていたり。──あ、こっちに気づいた。

 度々買いに来ているポピパの面々とは面識がある。香澄達に向けて、笑顔で手を振ってくれていた。

 

「沙綾ちゃんのお父さん、大変そう……。お客さんも沢山いるし」

 

 忙しなく流れてくるお客さんと、沙綾のお父さんを目で追う。……あ、パン落としそうに……トングでキャッチした。すごい。

 

「最近、なんでかお客さん多くてね。ウチとしては嬉しいんだけど」

 

 なんでだろう、と首を傾げる沙綾。朝の仕込みとか、色々手伝っても追いつかない程であるとか。いつも以上に朝早く、夜遅い生活が続いているらしい。

 

「……あ」

 

 なにか思い出したかのように、有咲が声を上げる。

 スマホを取りだし、カタカタと何かを打ち込んだ後。香澄達にみせてくる。

 

 それは、最近流行りの動画SNSだった。長い動画から短い動画まで見れるそれは、若い世代にかなり利用されているらしい。

 画面中央に、動画が再生されている。名前は……【Poppin’Party】Yes! BanG_Dream! 歌ってみた【オリジナル】……?

 

「これ、文化祭の自分達っす!」

 

 たえが指差しで声を上げた。確かに、真ん中で真っ赤なランダムスターを持って歌う星型ヘアスタイルの女の子には、見覚えしかない。

 

「あたしのおばあちゃんが撮ってくれたのを、動画サイトにアップロードしたのよ」

 

 動画が流れている部分の少し下に、アカウント名が記載されている。名前は……Poppin’Party【蔵パーティ(仮)】?

 

「大舞台に進出する為にも、みんなに知ってもらおうと思ってね。先行投資よ」

 

 ふふんと、有咲は自慢げに胸を張っていた。

 

 暫く動画を再生していると、動画右下にある再生回数が香澄の目に入った。一、十、百、千、万……?

 

「25万再生!?」

 

 なんか、とんでもなく再生されていた。いくらなんでも、再生されすぎではないだろうか……。

 あまりの衝撃にポカンと惚けながら動画を見ていると、最後の〆に【提供:ヤマブキパン】というテロップが流れてきた。画面中央に黄色い文字で現れた店名は、色も相まってかなり目立つようになっている。

 

「ちゃんと沙綾のお父さんにも許可貰ってるわよ。どんどん使ってくれって、快諾だったわ」

 

 なるほど、この盛況はそういった影響もあるようだった。

 

「あとは、そうだな。こういうのもやってるらしい」

 

 りみが、どこからか取ってきたチラシを見せてくる。

 チラシの上部にでかでかと、【商店街グルメバル】と目立つポップで記載がある。

 端っこの方に説明が書かれているが、どうやら飲み歩き、食べ歩きのイベントらしい。参加者にチケットが配られて、普段行けないようなお店にも気軽に行けるようなシステムになっている。

 

「そういえば、お父さんがそんなこと言ってたような……。全然、気にしてなかったよ……」

 

 無理もないだろうと、香澄は思った。心中を吐露してくれたが、少し前まで焦りで周りが見えなくなってしまっていたのだから。

 しゅん……と少し小さくなった沙綾を見て、香澄は思った。思い立って、みんなに思わず声をかけた。

 

 左手を痛めてしまった沙綾。ポピパの為に、頑張ってくれた沙綾。沙綾ちゃんの為に、何かできないだろうか──。

 

「ねぇ、みんな。……沙綾ちゃんのお店、手伝わない?」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 翌日、ヤマブキパンの店内には見慣れないバンダナを着けた2人がいた。

 

 赤と紫のバンダナをみにつけた2人は、慣れないながらも接客をしてパンを運ぶ。

 たどたとしい話し方と、接客。作業の仕方が、初々しい。一生懸命に仕事をする2人は、ちょっとした話題にもなっている。

 

 同じ学校の生徒とか前にライブを見てくれた人。いつもの常連さんに、このイベントで初めて来た人。偶に、動画を見て来てくれた人とか様々な人々がヤマブキパンのふんわりパンに期待してやってくる。

 

 お客さんを捌き、パンを運び、お店を掃除する。そんな1日はあっという間に過ぎていった。

 イベント効果もあってか、今日のパンは売り切れだった。冷蔵庫、冷凍ものしか残っておらず、あとはこの後と明日の朝、パンの準備をするそうだ。

 パンを作るのは流石に出来ない。有咲と香澄は掃除を終えると、今日は終了となった。

 バンダナを取り、エプロンを外して畳みながら、香澄は口を開く。

 

「明日はりみりんとたえちゃんだね」

 

「おたえは大丈夫だと思うけど、あのピンク色がねぇ……。心配だわ」

 

「あはは……。多分、大丈夫だと思うよ」

 

 

 レジを開け、今日の売上を纏めながらそんなことを言う。お札と硬貨を分けて、袋に入れたり輪ゴムで括ったりしている。

 封筒にさらさらと何かを書き込んだ後、最後にまとめてファスナーファイルに入れて、沙綾は言った。

 

 

「りみりんと私、リズム隊の一蓮托生だもん」

 

「……なんの安心感にもなってないわね」

 

 

 残念ながら、香澄も同じ感想であった。

 最初、4人でパン屋を手伝おうとしたものの、流石にそんなに入れないという話になり。2対2で手伝おうとなったものの、香澄とりみりんは別れた方がいいという話になり。(かすみんはお客さんと話ができるか心配、りみりんは単純に心配なのよ、という有咲の話だ。)

 なんだかんだ話を進めて行った結果、このペアで落ち着いたのだった。

 

「……ありがとね。手伝ってくれて」

 

 夕陽が窓から差し込んでる。昼間の刺すような日光とは違い暖かく、そして柔らかい。ちょうど窓際に立っていた香澄と有咲の夕影が、いつもより長く伸びている。

 

「もう離したくないって、離れたくないって。そう思って頑張ったら、怪我しちゃって」

 

 2人の影の先に、沙綾は居る。独白は続くが、蔵で話していた時とは違い暗く、沈んだ表情ではない。

 

「怪我しちゃって、結局練習が遅れちゃったけど……。みんな受けいれてくれて、共有してくれてる」

 

 悲しいことか、辛いこととか。その全ては人生において降り掛かってくる。躊躇い、不安、挫折、それから焦燥感。その全てが襲いかかってくる。涙が溢れそうになる。けど、けれど……。

 

「バンドは運命共同体、夢を共有するもの。なるべくなら、キラキラした何かを共有したいと思っていたけど……。また、教えられちゃった」

 

 ──だから、ありがとう。道を違え無いようにしてくれて。

 

 道を違えそうになっても、大切なものとは何度でも出会える。何度だって思い出して、乗り越えればいい。昨日の自分にサヨナラすればいい。

 

 自分が言った事だったけど、自分が1番足りないものだと改めて思った。

 仲間たち(Poppin’Party)。優しくて、眩しくて、愛おしい仲間達。そんな最高の仲間達は、いつだって教えてくれて、助けてくれて、楽しんでくれて──!

 

「……また、頼っちゃおうかな」

 

 そんな一言を、沙綾は口にする。

 夕日の光が長く、永くお店の中に入ってくる。昼光で、心まで温かくなるような夕日。一日の中で一瞬しか訪れない、奇跡のような瞬間を、みんなと共有できている。

 彼女の情熱に当てられたのか、夕焼けの色なのか。沙綾の頬が朱に染って見えた。

 

 

「いいぞ。ウチと獅子メタル殿は一蓮托生だからな」

 

「なっ!」

 

「りみちゃん!?」

 

 

 なんと、沙綾の後ろからニョキっとニンジャが生えてきた。

 ピンクの髪留めを揺らしながら、沙綾の方に手を置き、ニンジャガールがいつの間にか現れた。いきなり現れたりみに、有咲はギョッとする。

 

 

「り、りみりんどうしたの?」

 

「師匠と蔵ベンケー殿が心配でな。途中からこっそり見て、忍び込んでいたのだ……ほら、そこにもいるぞ」

 

 

 店内の端っこを指刺す。ちょうど棚と棚の間、決して入れなくはないような所に、何故かたえが挟まっていた。

 

「あはは……お邪魔してるっす」

 

 これもニンジャセンパイとの、"ナ・ニモ"修行のおかげっすね。とか、よく分からないことを呟きながら4人に合流する。

 ──"ナ・ニモ"修行って何!?

 

 聞き逃せない言葉に香澄が驚愕してる間に、たえは沙綾の手を取っていた。

 

「沙綾センパイ、自分も全力で手伝うっすよ! まだお手伝いはやってないっすけど、それ以外の事でも!」

 

 ぶんぶんと、痛めてない方の手を両手で握ってシェイクしまくる。彼女の決意の表れだった。

 そんな、いつも通りのたえの様子を見て皆自然と笑顔になる。

 

 

「あら。じゃあおたえには次の日直当番お願いしようかしら。何時もよりも朝早いのがちょっと辛いのよね」

 

「ふむ、ベンケー殿はもう少し朝起きれるようになった方がいい。この前の戦場(ライブ)で集合時間ギリギリに来た時、寝癖を必死に手で押えていたのをウチは見逃してない」

 

「なによ、じゃあアンタはもう少し勉強しなさいよ。授業中に当てられる度に、ドアホウ二人にこっそり教えてるこっちの身にもなってよね」

 

「それは仲間が故の助け合い精神と言うやつで……」

 

「有咲センパイ、自分そもそも違うクラスっす」

 

「……なんで私貰い事故してるの?」

 

 

 なんて、楽しい会話が繰り広げられている。最高の仲達が、最高の瞬間に。この瞬間を止めてほしい──そう願ってしまうほどに。

 

「……ねぇみんな、写真撮ろう!」

 

 沙綾はスマホを取り出す。今この瞬間を、胸の奥にしまっておきたい。大事に、大切にして。記憶の欠片にして、私達を形作る(つくる)……そんな気がする。

 

 カメラを反転して、右手でスマホを構える。ちょっと痛かったはずの左手は、今は気にならなかった。沙綾は、微笑みながら顔の傍でV字を作り、左手でピースサインをする。

 

「ほらおたえ。もう少しこっち寄りましょ」

 

「有咲センパイ、失礼するっす!」

 

「ふむ、ウチはアイボウの上だな」

 

 

 3人が各々場所を決める。最後の香澄が自然と真ん中に行くと、彼女を囲むような形になる。

 

「みんな行くよ? ……はい、チーズ!」

 

 カメラのシャッター音が、何度か響いた。

 

 撮れた写真をワイワイと鑑賞する。変な顔になったとか、目を瞑ってるとか、そんな他愛のないことを言い合う。

 

 少しだけ後ろから香澄と沙綾は写真をのぞき込む。これからこんな写真が、沢山出来ていくんだろうなと、予感めいたものを感じる。

 

「……香澄ちゃん、ありがとう」

 

 彼女だけにしか聞こえない声量で、伝える。香澄ちゃんは、あの時見たような笑顔で、勇気溢れる、情熱溢れる彼女に伝える。

 

 星の光が集まった様に紡がれた言葉は、彼女の心にストンと馴染んでいく。

 

「……うん!」

 

 入相の空は、私達を優しく見守ってくれた。

 




まさかの一年越しでしたが、終わらせることが出来て良かったです。

ありがとうございました。
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