~幻想入り前~
それは約1年前のことだ。レーシングカートのチームに所属してから5年、その頃の俺はチームのレギュラーとなっていた。あの頃は常に真っ直ぐな少年で、プロレーサーという夢も抱いていた。
俺はあの日いつものようにチームの皆と特訓に励んでいた。決して楽では無いが夢を叶えるためにはこのぐらいどうってことはない。
「進也、やっぱりすげぇな!」
「これならまた次の大会も優勝できるんじゃねぇか!?」
「はは、そうか?」
俺はチームメンバー達から絶賛されていた。俺のドライビング技術が皆よりズバ抜けて高いからだ。その証拠に数々の大会で優勝を重ねている。当初は俺に嫉妬・軽蔑する奴もいたが、時を経て和解している。
「集合!」
「「「「「「はい!」」」」」」
俺を含むチーム全員は監督の掛け声で集合する。
「今日は皆のもとにプロレーサーがやってきた。くれぐれも失礼の無いようにな。」
監督が言うと、向こうからそのプロレーサーがやってきた。そのプロレーサーの名前は稲垣亮。俺が憧れていたレーサーで、その人の連勝記録は世界を驚愕させるものだ。
「………。」
稲垣さんは無口で俺たちの方を見ていた。やはり、プロレーサーだからか見る目が鋭かった。稲垣さんが歩きながら他のメンバーを見ていき、俺のところまでやってきたところで足を止めた。
「お前…名前は?」
「はい、炎斗群 進也です。」
「お前は何しにここへ来ているんだ?」
「貴方みたいな凄腕のプロレーサーになるために来ています。」
その時の会話はまるで軍隊のような雰囲気だった。俺はそんな空気の中、尊敬の言葉も兼ねて言った。次の瞬間…
「ふんっ!」
バキィッ!
「っ!?」
突然、稲垣さんは俺を殴り飛ばした。俺は突然の出来事に状況が理解できなかった。
「おい進也、大丈夫か!?」
ここで同じメンバーで友人の篠田が俺の体を起こしてくれた。すると稲垣さんが近づいてきた。
「お前、履歴書によると“小4の時にゴーカートで才能を発揮した”らしいな?」
「はい…。」
「何が才能を発揮だ…“たかが”才能を発揮させただけのお前がレーサーの道を歩めるものか!!レーサーを舐めるな!!!!!」
「稲垣さん、進也は現に数々の大会で優秀な成績を残しているんだ。才能だけじゃn「口を慎め!!」……。」
稲垣さんは監督に向けて見下しているかのように罵声を吐いた。そして再び俺の方を向いてこう言った。
「いいか?どんなに結果残そうがお前みたいなやつは今すぐここから出ていけ。」
と言い残してその場から去ってしまった。実は稲垣さんは政治家の息子であり、それである故に高慢な性格だったらしい。
俺は当初はまだ認められていないだけと考えていた。もっと腕を磨き、本物のプロレーサーになって稲垣さんに実力を認めてもらおうと思っていた。
だが、その日から稲垣さんは毎日のように練習場に来て、俺に暴言を吐いては俺の成績を勝手に書き換える愚行を繰り返していった。そして挙げ句の果てには大会の選抜メンバーリストからも抜かれてしまった。この時に初めて気がついた。これは永遠に認められない。才能や実力ではなく、俺という人間そのものを嫌悪しているんだと。
その日以来、俺はすっかり自信を失ってしまった。憧れていた将来も、ここで諦めようかと考え始めた。ある日、俺は心の傷を癒すために独り、自宅から近くのカフェに通っていた。
「はぁ……。」
俺が肩を落としながら座っていると、突然誰かが俺の目を隠してこう言った。
「だーれだ?」
「声でバレバレだよ、千津瑠。」
「ふふっ、正解♪」
それは俺の彼女である[空川千津瑠]だった。元々彼女は俺の所属しているチームマネージャーだったが、俺が中1の頃に友人として俺と付き合い始め、それから俺の恋人になった。
千津瑠は俺の向かい側に座ると、俺の落ち込んだ表情を見てきた。
「相当落ち込んでるね…稲垣さんが原因かな?」
「ああ…。いくら嫌っていてても記録を勝手に改悪させるのはやり過ぎだ…。何度やっても成果が水の泡になる……もう、レーサーの道を頓挫するしかないか…。」
「諦めちゃ駄目だよ!」
「…え?」
「進也君は何度挫けてもその度に前に進んでる。今までのような状況だって切り抜いてきた。だから今回だって切り抜けられるよ!」
「千津瑠…。」
「進也君は前にこう言ったよね?「前に進もう。過去を振り返っても何も得られない。希望に向かってとにかく前へ。」って!」
「!!」
そう、その言葉は俺がチームに入団してから3年経ったある日、他のチームメンバーがハードトレーニングによる心身の負担で頓挫しそうな時に言った言葉だった。
「そうか、自分で言ったもんな。ありがとな、千津瑠。」
「頑張って、進也。」
俺は千津瑠の激励で背中を押され、再びエンジンがかかった。今までの大会も千津瑠のおかげで優勝することが出来たんだ。ある日、稲垣さんが突然来なくなったことから、練習も安定して励むことが出来るようになった。夢を叶えようとする心が蘇った。
しかし、9月26日の夜…すなわち、俺がレーサーの道を絶縁させた日がやってきた。それは俺が学校から家に帰ろうとした時だった。街のスクランブル交差点には色んな人々が青信号になるまで待っていた。さらに偶然なことに向こう側には千津瑠もいた。千津瑠は俺の姿を見つけると、手を振ってくれた。その時だった……。
ブオオオオオオオオオオン!!!!
突然、右側から暴走している一台の車が迫ってきた。俺はその暴走車を運転している人物が誰なのか、俺は遠くから目を凝らして見てみた。けど運転手は誰だか分からなかった。暴走車は千津瑠がいる方の群衆に向かっていた。突っ込むつもりだ!
「まずい!!」
このままでは千津瑠はもちろん、大勢の人々が犠牲になってしまう。俺は向こう側に行って千津瑠を含む群衆に避難しろと伝えようとして走り出した。しかし
「(何でだよ…何で俺の体が言うことを聞かないんだよ!?)」
突然、硬直したかのように体が思うように動けなくなる現象【重加速】が発生したのだ。そして暴走車が信号をへし折って千津瑠達の方へ突っ込んだ。
「(やめろぉおおおおおおおお!!!!)」
俺の願いは虚しく暴走車は千津瑠達を轢いていった。俺はそこで目の前が真っ暗になった。
「ん?ここは…病院?」
俺は目覚めたら、病院のベッドに横たわっていた。その隣では両親が泣いていた。
「進也…!」
「良かった…何事も無くて…。」
「父さん…母さん…。」
「お医者さんからは特に目立った怪我は無いと言っていた。」
「そうなんだ………!?…千津瑠は!?」
「「……」」
両親は何も答えない。俺は病室を飛び出して近くのスタッフに尋ねた。するとスタッフが案内してくれて、向かった先は……霊安室だった。
「…まさか!」
嫌な予感が当たった。俺が霊安室に入ると、そこには寝たきりの状態で永眠している千津瑠の姿があった。さらに隣には千津瑠の両親もいた。
「進也君…千津瑠が…。」
「……そんな………あ……。」
俺は根性をねじ伏せられるように崩れ落ちた。この時、止まることを知らなかった俺のエンジンは……完全に止まった。
「うわあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
その日、千津瑠は死んだ。そして…俺の心も砕け散った。千津瑠が死んだその事件は後に【硬直を呼ぶ暴走車事件】として永遠に歴史に刻まれることになった。そして事件から3日後、俺はチームから脱退した。
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~現在~
「これが俺の夢を諦めた理由だ。」
『…なんということだ…。』
「あまりにも惨すぎるわ…。」
俺の過去を聞いてミハエルとアリスは呆然としていた。
「あなたが私の姿を見て硬直したのは、私がその千津瑠という人に似ているからなのね?」
「ああ。」
千津瑠の姿はアリスによく似ていたから、俺は初めてアリスと対面した時に千津瑠の姿を連想してしまったために硬直してしまったのだ。
『その事件にまさか重加速が絡んでいたとは…。もしやロイミュードが何体か外の世界に逃げたのか…!?』
ミハエルはロイミュードが何体か幽閉から逃れたことに苦悩している。確かにそうなると俺のいる世界がまずいな。
「なぁ、アリス。」
「?」
「もしよかったら何だけど、俺は異変を解決しに行こうと思うんだけど、一人だと到底できそうにない。だから一緒についてきてくれると助かるんだけど…。」
俺はアリスに同行をお願いした。でもいきなりだから引き受けてくれる訳…
「いいわよ。」
「え?」
「魔理沙は数少ない友人なのよ。魔理沙が危ないなら引き受けない訳にはいかないわ。」
『引き受けてくれたようだな。』
「ありがとうアリス!」
「か、勘違いしないでよね!?友人が危ないから同行するだけだからね!?」
ツンデレなんだな…。俺はアリスが同行してくれることが決まると、俺はミハエルを装着してアリスと共に家を出る。
「これがあなたの車?」
「ああ。これで異変解決に向かうんだ。」
俺とアリスはトライドロンに乗り込む。俺はクレードルにミハエルを固定して、エンジンをかける。
『ナビゲーションは俺にまかせろ。』
「分かった。よし、出発だ!」
俺はアクセルを踏んで、異変解決に向けてトライドロンを走らせた。
次回 東方加速戦士
異変解決のために向かう進也達の前にレティ・ホワイトロックが現れる。レティの弾幕を避ける中、トライドロンの能力が明らかになる。
次回【タイヤは6つだけじゃない!】
スタート・ユア・エンジン!