実はというと今回の話自体は順調だったのですが、サブタイトルを決めるのが一番の難関だったなんて言えない。その結果がこれだったなんてもっと言えない。
↑の文は無視してくださって大丈夫です。では、よろしくお願いします。
アスナさんに後で話しましょうと言われ1枚のメモにあった店の名前の名前を頼りに第21層の小さな店を探すと、その店は以外と近くにありそこでアスナさんを待つことにした。
この層自体が和風の趣がある層であったからそれに因んでなのか、店の前には小さな赤いのれんに《甘味処》と書いてあり、横には団子の絵が書かれてある。見なくても恐らく団子屋さんということなのだろう。店の中に入ることも出来るが、店の外には何人か一緒に腰を掛けることが出来るくらいの長い椅子とすぐ傍には少し可愛げがあるお婆ちゃんのようなNPCが団子を焼く動作をしており、椅子に座ると出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。何を頼みますか?」
「あ、じゃあお団子1つお願いします」
「はいはい、ちょっと待っててね……はい。お待たせ」
団子を焼いている動作があったかと思えば、あっという間完成品が出てきてしまうのには若干残念なところはあったが、笑いかけるお婆ちゃんの笑顔には心が和むような安らぎを与えられる。もらった団子はシンプルに少し炙られて焦げ目がついており、全体には団子をコーティングするようにとろみのついた餡かけの砂糖醤油が掛かっており、食欲がそそらせてくれるみたらし団子だった。しかし、やはり疑問に思うのはこの香ばしい焦げ目はどこから来たのだろうか……。団子を1つ食べるとみたらし団子のはずなのに何かが違う気がする。
「あれ? みたらし団子ってこんな味だっけ?」
団子としてはとてもおいしいのだが、みたらし団子と思って食べると何か違うという疑問が頭を過ぎるが何が違うというのが断定出来ない。おいしいと言いたいが、これはみたらし団子としては不味いと言えるものなのだろうか? という中途半端な立ち位置にあるこの団子をどう評価したらいいのだろうかと考えていると、手が空いたのかアスナさんが私を見つけて小走りで来る。
「おまたせー。あ、もう食べてたんだね、ここのお団子」
「あ、はい。すみません、先にいただいちゃいました」
「ここのお団子おいしいけど何か惜しいってならない?」
アスナさんも同じことを思っていたのだろうかと最後の1個を口に頬張りながら首を上下に何回は振る。
「私も何回かここのお団子を食べてやっと分かったの。何が惜しかったのか」
「何だったんです?」
「それはね……醤油よ。このお団子に掛かっているこの餡かけは醤油の味じゃないの。見た目はいいのに」
「!? あ! そういえば、何かが足りないって思えばこれは醤油だったんですね。じゃあちゃんとした醤油を使えばこのお団子は完成するってことですか?」
「えぇ、そのはずよ。でも問題があるの……この世界で私は未だに醤油に出会ったことが無いの」
「え? 醤油が無いんですか? じゃあこのお団子は……みたらし団子ではないってことに」
「そうなるわね」
ある意味では驚いた。しばらく食べてなかったから意識をしてなかったがまさか無いとは思わなかった。今口にしているみたらし団子のように見えた何か醤油みたいな物がかかった団子ということになる。何かそう考えると残念感が増すのと同時に本物の醤油が恋しくなる。
「この層に来れば何か醤油の手がかりがあればと期待したけど、外れだったようね……あ、これだけ話して今更だけどあなたの名前は?」
「あ、私の名前はルナっていいます。こうしてアスナさんと話せるのも感動ですけど、お団子のお話をすることになるとは思わなかったです」
「えへへ……まぁ、いきなりお団子の話はビックリするわよね。私の名前にさん付けなんてしなくていいよ。何だか堅苦しいし、見た感じ同年代だから話しやすいようにしていいわよ」
「じゃあお言葉に甘えまして、アスナ……さんは何でこの層に? 同じギルドの人たちもたくさん引き連れてたので」
「ギルドの人は関係ないけど私がこの層に来たのは人を探してるの。今はどこのギルドもあまり攻略の進みも良くないのもあるけど、めっきり攻略に参加しなくなったプレイヤーが居るからお仕事ついでに探してるの」
アスナさんが探すというだけだから一体どんな人なのだろう? 攻略に最近参加していないらしいからその人を連れ戻そうとしている。アスナさんが直々に迎えに来るということはきっととても強いプレイヤーなのだろう。
「思えば、こうして街でノンビリお団子を食べるなんていうのは彼の影響なのかも」
「彼ってことは男性プレイヤーってことですね。どんな人なんですか? 私も探してみますので」
「じゃあ、お願いしようかしら。黒い髪に黒いコートを着ている片手用直剣使いのプレイヤーでブラッキーなんて周りでは呼んでたかしら。もしくはビーターなんてのも言われてたけど」
「ビーターってあの噂になった人ですか!? 話でしか聞いてなかったのですが 、全身黒でブラッキーって結構分かり辛そうで分かりやすそうな格好ですね……」
ビーターという言葉は今からずいぶん前のことではあるが、第1層のボス攻略レイドとして参加したメンバーが一定のHPを切ったことで攻撃パターンが変化してしまってピンチに追い込まれるけど、そのプレイヤーが先導して攻撃したことで見事ボスを倒した英雄的な存在であったが、彼は元βテスターボスモンスターの変化するモーションを分かっていたから倒すことが出来たらしい。この変化するモーションを予め教えていれば被害はもっと少なかったはずだと罵られたプレイヤーだ。確かに彼の情報をみんなが共有出来ていれば罵られることも無かったかもしれないが、彼が居なければボスを倒すことが出来なかったと考えれば当時の攻略パーティーの人たちは分からないけど、彼は私を含めた後から来たプレイヤーからしてみれば英雄視する人だっている。私もその1人だ。
「今頃何をしているのだろう? 私達はこんな忙しいっていうのに……じゃなければあんなイベントしなくて済んだのに」
「イベント? 何かするんですか?」
「あぁ、そうそう。それが今ギルドでやろうとしていることで、攻略に参加するプレイヤーを集おうと現攻略ギルドのメンバーが催すイベントをするの。今日はこの層にもイベントのことを知らせにきたの」
「イベントですか……いいじゃないですか! それなら人も集まるでしょうし」
「うん。私もそこは賛成なんだけど、その中に1vs1で初撃決着の決闘をするらしくて景品を用意しなくちゃいけないのよ。ここらで手に入れようと思ってるけど、何かいいのないかしら」
「んー、そうですね……あ! あれなんかがいいかも」
アスナさんが景品に何かないかと相談され、ふと浮かんだのはあの着物だった。本来あれほどの高額なアイテムになれば手を伸ばすプレイヤーは少ないがイベントの景品となれば断然手に入りやすくなる。私もあの着物は購入出来ない立場だったのでこうして景品となれば手に入るチャンスと同時に今の自分の実力はどれほど通用するのかを知ることができ、結果によっては大規模な攻略ギルドに招待までされるかもしれない。この条件が揃うとなれば私が参加しない理由は無い。
これは自分にチャンスが回ってきたと確信しながらアスナさんを例の着物のある店に案内する。着物を見た瞬間にアスナさんの目の輝きが変わったような気がした。見とれるように着物をじっくり眺めていき、下に表示された金額を見て思わず吹き出す。やはりアスナさんほどのプレイヤーでもこの着物の金額には吹き出してしまうようだ。少し考えて何かブツブツと言っているが何か決めたように声を出す。
「よし、これで決定ね。景品にするには実に素晴らしいものだわ」
「そうですよね! 私もこの着物は魅力的だと思ってたんです」
「私が欲しいくらいだわ……」
「え……」
予想にしてなかった彼女の一言に困惑する。血盟騎士団のギルドメンバーを募集するためのイベントで一体どうやって参加するのかが分からないが、これは攻略組になることに関しては結果でなれるかもしれないが、景品の入手にはかなりの難関が立ちはだかる……そんな予感がする。
第11層──月夜の黒猫団滞在宿屋
ケイタからの許可をもらい奥の部屋で休ませてもらい、そこで随分と長い間眠っていたようだが外の景色は暗く夜らしく時間を確認してもまだ朝までは時間があるようだった。
「時間は……まだ夜明けには遠いな。流石にもうこれ以上は眠れそうには……ん?」
部屋のドアの外からドアを閉めるパタンという音が聞こえる。普通ならドアを閉める音なんて聞こえるはずがないのだが、あの監獄で鍛えに鍛えられた聞き耳スキルのおかげで無駄に広範囲に聞こえてしまう。こんな時間に誰かが外に行ったというのだろうか?
気になったので、右手でメニューを開き気持ち程度にもなるか分からないが装備を装備してゆっくり静かにドアを開けて宿の外に出る。外に出るとそこには後ろ姿だが、黒いロングコートを着て背中に片手用直剣をさした黒髪のプレイヤーキリトがそこにはあった。キリトは転移門を目指して1人で歩いていく
「何でこんな夜遅くに……しかも1人……だよな」
キリトの後を付けるようにコソコソと追いかけ、転移門の前に着くと転移する先をキリトが指定する場所を聞き耳スキルで聞き出し、転移したのを確認した後に追いかけるように続いて転移する。
第26層──転移門前
キリトの後を付けていくと第26層の転移門にたどり着いたが、キリトは街に入ることなく迷わず圏外の草原エリアへと歩き出す。圏外に出るということはモンスターを倒してレベリングをするつもりなのだろうが、この層は俺が知る限りではこの層が最前線だ。月夜の黒猫団はパーティーとしての戦闘を見たことがあるわけではないが少なくとも最前線でレベリングをするギルドではない。仮にこの層でレベリングをするギルドだったとしてもサチと一緒にわざわざ24層なんかでレベリングしなくてもこの層ですればいいことなので、俺を助けるという可能性は限りなく低い。考えすぎなのかもしれないがキリトが1人でこの層に来るのには腑に落ちない。レベリングをするなら他のメンバーも連れてきてパーティーでしたほうが一体のモンスターを倒したときの経験値は分配されるので低いが数を倒すことが出来るので効率は圧倒的に良いはずだった。
「何でわざわざソロで最前線なんかに……」
転移門を出て少しするとキリトはペースを上げて歩いていく、俺もそれを追うように追いかけるが少し広い道に出るとキリトが急に足を止める。急に止まってしまったので慌てて隠蔽スキルを使って道の端に逃げるが手遅れだった。
「誰だ! 後をつけているのは」
後ろを振り向くとキリトは策敵スキルを発動させ、瞳の色が変化する。辺りを見回されることで俺の隠蔽での隠れられているパーセンテージが急激に低下する。隠蔽スキルは目を使うモンスターなどには物陰に隠れることでパーセンテージが表示され、その数値によって100%に近ければ近いほど相手から隠れられている証拠だが、この数値は今の自分の装備によっても数値を変化させることが出来るので、隠蔽率を上げるものを装備すればそれだけ高い数値をつけることが出来るが、相手がこちらの存在を察知しているとなると隠蔽の数値は極端に落ちてしまい、ここから隠蔽スキルのスキルレベルがどれほど高いかで見つかるか隠れるかが別れるが、今のキリトのように策敵まで発動されてしまえばスキルレベルの高さを比べる以前に見つかる可能性のほうが圧倒的に高い。それを決定付けるように俺の隠蔽の数値は90%代だったのがキリトが振り向くだけで60%まで低下し、策敵を発動されたことで30%を下回ってしまっている。こうなってしまっては相手に見つかるか、その場から逃げるという選択肢が出てくるが俺はわざわざキリトから逃げる必要は無いので隠蔽を解除してキリトの前に出て行く。
「あーあ、気づかれたか。何してんだ? こんなところで」
「追いかけてたのはソラだったのか。11層の時点で誰か付いてきてる気がしたが、サチ達じゃないならよかったが……見つかったなら言うしかないか。見ての通りこれからこの層のダンジョンに行ってレベリングをするんだ」
「1人でか?」
「あぁ、サチ達には悪いが俺のレベルは他のメンバーよりも高いんだ。隠したりしたかったわけじゃなかったが、言えなくてな」
「それで、こうして夜に出て行ってはソロでレベリングか……」
「あぁ、見つかってしまった手前だが俺が夜にレベリングしていることはサチ達には言わないでもらっていいか?」
「言わないでほしいって言うなら言う気はないが……レベリングをするっていうなら俺も付き合ってもいいか?」
「レベリングを一緒にしたいっていうなら止めないが、お前はこの層のレベルまで到達してるのか? してないんだったら……」
「俺のレベルは40だ。安全マージンだけを言えば多分それ以上はあると思うが」
俺のレベルを言うとキリトは驚きを隠せないような表情をしている。24層の洞窟で死にかけになっていた俺がまさか予想以上にレベルが高いこともそうだが、何よりも疑問なのは俺の装備だった。自分とレベルの差はほとんど無いにも関わらず装備の差は歴然となれば何故俺があの層で倒れこんな貧相な装備をしているかは誰だって疑問に思う。
「まさか俺とレベルがそんなに変わらないとはな……聞きたいことは山ほどあるがレベリングをしたいっていうなら一緒にしてもらえたほうがありがたい。でも……その装備は何とかならないのか?」
「あはは……生憎この装備しか持ってないんだ」
「縛りプレイでもしてたのか? 随分と余裕を持って生きているようだな。いつか足元をすくわれるぞ」
「もうすくわれているけど、誰かさんのおかげで命拾いしたのでね」
「……はぁ、まぁいいか。俺が今付けてない装備があるから渡すよ」
「お? ありがとう。助かるよ」
そういうとキリトが右手でメニューを手早く操作すると、俺の目の前にキリトからのトレード申請の表示が出現したのでトレードの申請を承諾する。するとキリトから数多くの装備が表示され、キリトが決定を押すと俺も決定ボタンを押す。すると俺のアイテムストレージに多数の装備が増えたことが知らされトレードが成功ましたと表示される。俺は受け取ったアイテムをメニューを開くことで早速装備した。
その装備はキリトと似たタイプの布製のロングコートとスリムタイプの足のラインがしっかり見えるほどのパンツだった。コートの色は真っ黒ではなく僅かながら青みが掛かっており、所々にアクセントとしてなのか紺のラインが入っており、背中には顔を覆えるほどの深いフードがついている。対するパンツはコートの色に合わせたような黒を基調としており、装備してみて分かるが夜の背景にかなり溶け込んでいる。フードを被れば恐らくだが隠蔽の際にも僅かな数値アップも期待出来るのではないだろうか。手袋も黒を基調とした皮製の指だしグローブで素材も高級感が感じる。靴はこの服装に合わせた黒い皮製でグローブとは少し違ったロングブーツを履いている。
「へー、随分いい装備だな。いいのか? 貰っちゃって」
「一緒にするのに足手まといになられても迷惑だ。それにその装備なら日ごろから隠蔽でコソコソしそうなお前にピッタリだろ?」
「それは嫌味か?」
「どうとるかはお前次第だ……あまり時間も無いし早くいくぞ」
「おう」
キリトが歩き出すのと同時に俺も小走りでキリトの横につき、キリトと並んでダンジョンを目指す。
第26層──草原エリア
新しい防具をキリトからもらったことで俺のステータスは大きく変化したことが目に見て分かる。ロングコートに皮製のブーツなので動きやすさで言われたら微妙なところであるような気がするが、この世界ではそこまで気にしないで良さそうだ。俺は初めて装備する服装に気分がフワフワとしているが、対するキリトはどうも切羽詰った感じがする。これはソロで今までレベリングをしていたからこその緊張感から来ているものなのだろうが、キリトのこの感じは俺が1人で解放軍の協力という名の奴隷作業を繰り返していた時の表情にも近く見える。絶対に生き残るという意思がビシビシと伝わってくる反面その余裕の無さが命取りにもなりかねない箇所だって必ず存在する。強い意志を持ちながらも心の余裕──決して相手を目下のように考えるわけではない──を持つ比率をバランス良く保つことで、恐らくだが自分が最も動きやすいように動けている感覚があると思っている──心に余裕を持てるようになったのは監獄で短い間だったが、笑いながら話したシンクが影響してるかもしれない──実際俺は初めてのレベリングの時は生き残ることが精一杯で心の余裕が持ててなかったが、回数をこなす内に余裕を持つことで相手のモンスターの動きが何となくででも見えてくることで、攻撃の回避からの攻撃というカウンターの回数も増えていき隠蔽で逃げている時間も短くなっていった。決して余裕が緊張を上回ったことはないが、結果的にだが効率が上がったということになる。今のキリトはソロで戦うことに関してはエキスパートかもしれないが彼の心にはゆとりがあるのだろうか。
「随分と表情が固いな。いつもそうなのか?」
「ソロでするっていうことはいつも危険が全方向から向かってくるってことだ。常に集中しとかなくちゃいけないんだ」
「それもそうだけど、固すぎると周りが見えなくなるっていう話。それに今日は俺と言うパートナーだっているんだからな」
「ソラの実力なんて俺は知らないからな。相手のことをちゃんと分かっていないで背中を預けるのは難しいさ」
「それもそうだよな。ま、折角2人なんだし、ちょっと話しながらしよう」
「勝手にしろ」
「なぁ、サチのことどう思ってる?」
「ッブ!? お前急に何言ってんだ!?」
突然のサチの話題について振ると噴出しながら表情を赤くしながらオドオドとしている。どうやらこの話題は緊張を解すつもりが逆に解しすぎたということなってしまっただろうか。
「いやいや、そんな過剰に反応すんなよ。どう思ってんの? っていう素朴な質問だよ」
「い、今はサチのことは関係無いだろ! 勝手にしろとは言ったがいきなり直球過ぎるだろ」
「ははは、まぁサチはこのゲームでも珍しい女性プレイヤーだし、あの感じだと誰か守ってあげるナイト様が必要かもしれないからな」
「そのナイトってのになってやるさ」
「え? 今何て?」
「ナイトになってやるさ、俺を含めケイタ達と一緒にな。みんなでこの世界から帰還するために」
「あぁ……そうだな」
軽く緊張を解すつもりの質問だったのだが、どうやらこのギルドのこれから抱える問題に発展していきかねない話題になりつつあるのでこの話はここで打ち切るのが潮時だろう。今後は軽々しくプレイヤーに関する質問は控えなくてはいけないかもしれない。
そう考えると俺達が歩いてきた場所以外の方角から草を踏む音が聞こえる。この音が聞こえた俺はさっきまでのヘラヘラした顔から足音の場所を特定するために聞き耳スキルを発動させて場所を確認する。キリトも草の音が聞こえたわけではないようだが、敵がいることは分かっているみたいだった。咄嗟にキリトは背中に指した剣を抜きいつでも戦える戦闘体制を取っている。
「どこから来る……」
「俺達は北に向かって歩いたからこの方角だと西の方角から1つ……距離は大体40mくらいだな」
「方角に距離まで? 一体何したんだ? こんな夜道で40mなんて見える距離じゃないぞ」
「普通のプレイヤーは使わないスキルを採用しててね。相手の位置は音で確認してる」
「音で確認ってことは耳に関するスキル……聞き耳スキルを使ってるってことか! 随分と悪趣味な……」
「みんなから悪趣味って言われるけどこのスキルも捨てたもんじゃないぜ? そしてそろそろ俺の背後から……」
草を走る中型の影がソラの後ろに影だけでも分かるくらいの大きな爪を光らせて持った猫のようなモンスターが背後から斬りかかる。俺に対する攻撃だったのでキリトは構えながらも飛び出そうとするが、モンスターが俺に攻撃する方が早かった。
しかし、背後から襲ってくるということが分かっていれば回避も容易なので、飛び掛る攻撃を軽くしゃがんで回避するとモンスターの腹部に右手のグローブをオレンジに輝かせながら体術スキルの単発スキル《閃打》を決める。敵のHPは武器による攻撃ではないので大したダメージではないが、HPは見るからに減っている。攻撃で吹っ飛んだモンスターに宙を舞っている状態のまま今度は右足をオレンジに輝かせて足を大きく上げて踵落としを決める。この攻撃でモンスターのHP今を削りきれることは無いがこの攻撃をもう一回すれば恐らく倒せる。俺の手持ちにある武器はアニールブレイドが一本あるが、この層になってくると装備したところでダメージは期待出来ないのであえて体術スキルを使用しているが、体術スキル他のソードスキルに比べるとクールタイムも短くスキル後の硬直も短いのでスキルを撃った後に続けてスキルを撃つことが容易という利点がある。本来は剣による攻撃と次の剣による攻撃の繋ぎに使うのが主な使用用途だが、この使い方でもダメージが出せないわけではない。
武器を構えずに体術スキルで攻撃する俺にキリトは感嘆の声を上げるが、直ぐにもう一匹がキリトの方にも襲ってきたので、キリトもそれに対処するように右手の剣を青く輝かせながら横に水平に斬る──ホリゾンタルを使用──体術スキルに比べればキリトが使うソードスキルなら多くても2~3回斬れば倒せてしまう。そこは武器を装備しているか否かということになるが硬直の限りなく少ない俺もうまく決まればキリトにも負けないくらいの速さでは倒すことが出来る。
「まさか体術で戦うプレイヤーだったなんてな。正直驚いたな」
「いや、一応本来の武器は違うけど諸事情でこの階層ではダメージは期待出来ませんので」
「またかよ! まぁ、もう驚かないがな」
「ははは、別に縛りプレイってわけじゃないけど成り行きでこんなことになってな。それとキリトの方にはここから50m先に3匹走ってきてるけど1匹1匹距離は空いてるから各個撃破でいこう」
「おう」
キリトの方にまずは一匹飛んでくるがキリトは斜めに敵を切り下ろしVの字を描くように斬り《バーチカル・アーク》上げる。打ち上げたモンスターを俺がオレンジに輝かせた拳で叩き落すことで撃破。続いて2匹目は左手を輝かせ後ろ向きにターンしてその勢いで左手の甲で裏拳を決める。同時に今度はキリトが縦に垂直に斬る《スラント》ことで撃破。最後の一匹は飛び掛ってきたところをアッパーで打ち上げて止めに落ちてきたところを水平に3回斬るスキル《ホリゾンタル・デルタ》で止めを指す。3匹を倒し終えたところで2人揃って肩の力を抜いて息を吐く。
「ふぅ、とりあえずこの辺りの敵は終わりかな。もう他に足音も聞こえないしな」
「そうか、ならそろそろ宿に戻るか……あまり遅くなって気づかれるわけにもいかないからな」
「用心に越したことはないな。んじゃ、帰るとしますか」
「ソラの実力に関して誤解してたよ。お前の力なら俺は背中を預けてもいいかもしれないな」
「認めてもらって光栄だね」
俺とキリトはお互いに力を認め、握手をすると再び歩いて26層の街まで歩いていき転移門前までたどり着くと転移してみんなの泊まっている11層の宿屋まで戻る。
「分かってはいると思うが、宿に戻ったら自然に奥の部屋で寝ててくれよ? 俺も自分の部屋で寝てるから」
「あぁ、分かったよ」
宿屋の前で確認事項だけ確認し合うとお互いの部屋に戻り、ベッドに付いてみんなが起きる朝を待つ。翌朝日が昇り窓の中に光が入ってくると部屋の中も段々と明るくなり、視界に光が入ってくるのはどうも苦手なのか毛布を顔の上まで上げてまだ寝ていたいというアピールを取るが、その仕草をみんなが見ていたらしく俺の下手な演技を笑われてしまい、結局起きてしまった。起きた俺に対してサチはすぐに笑顔で挨拶してくれる。
「おはよ。よく眠れた?」
「うん、おかげ様で今日は調子がいいよ。寝起きはいつもこんな感じだけどね」
「ふふふ、良かったー。ソラは今日はどうするの?」
「え? 別に何も決めてはないけど……生憎根無し草なんでね」
「そっか、じゃあ今日私達と一緒にダンジョンに行かない?」
「あぁ、いいよ。パーティーでレベリングするのは楽しいからね」
昨晩の夜もダンジョンでモンスターを狩っていたが、そのまま続けて日中もモンスターを狩る。ハードスケジュールではあるが、悪くはないかな。
いかがだったでしょうか? 今回の話は今後の展開への前振りにしておきたいなっていう回のつもりで書きました。ヒロインは攻略組にアピールできるかもしれないという場を主人公は自分を認めるフレンド。下手な文ですが2人にちょっとだけ変化があればいいなと思ってます。
感想やご意見があればいくらでもお願いします