個性『ロケットパンチ』 作:その股ぐらにロケットパンチ!
時はあっという間に過ぎ去って4月。出会いと別れの季節の頃。
快人はその日、入学式の為に雄英高校の大きな門をくぐり異形個性の生徒のためのバリアフリーの扉を抜けて教室に入っていた。
快人が来た時点では、真面目そうな眼鏡の少年……飯田しかきていなかったが、自身の席で支度を整えたり、ソワソワしていれば、やがて多くの人間がクラスへやってくる。
……しかし、彼の隣にきまガラの悪そうな生徒は、席につくや否や机に足を乗っけて偉そうにふんぞり返っていた。
そして、無視すれば良いものの、性がそれを許さないのか、それを注意する眼鏡の生徒が一人駆け寄ってくる。
「机に足を掛けるのをやめ給え!諸先輩方や机の製作者達に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねぇよモブがァッ!テメェどこ中だよゴルァ!」
(うるせぇなコイツら!?)
実にうるさい。うるさいことこの上ない。どこ中とか久々に聞いたぞ……快人はそう思いながら只管に準備を進めた。
こういう手合は無視するのに限る……関わると絶対面倒くさいことになるのが目に見えているからだ。快人が席に座り、時間になるまで待っていると……ドア付近から、寝袋にくるまった男が現れる。
「お友達ごっこがやりたいなら他所行きな。ここはヒーロー科だぞ。」
突然現れた不審者の様な人物に、クラスは一同騒然となり……やがて静寂に包まれる。すると、その寝袋の男は再び話し始めた。
「ハイ、君たちが静かになるまでに8秒掛かりました。時間は有限、君達は合理性に掻くね…………担任の相澤消太だ。よろしくね。」
(((担任!?先生なのか!?)))
クラス一同、ないしんてその様に驚く……寝袋の男――相澤消太は体操着を何処からか取り出すと、それを掲げて皆へ指示する。
「早速で悪いが、
相澤はそれだけ言い残すと、さっさと教室から出ていってしまう。クラスは一瞬唖然となるが……兎に角指示に従って体操着に着替えてグラウンドへ向かうことにした。
快人も同じ様に新品の体操着に着替えて、グラウンドへと向かうが……何故か嫌な予感がする。
■■■
「「「個性把握テストォッ!?」」」
今朝出会ったばかりの者も多い中、クラス一同は声を合わせて驚く。クラスメイトの一人――麗日が、焦ったように質問を投げかける。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「本気でヒーローに成りたいなら、そんな行事、出る暇ないよ。雄英は『自由』が校風の売り文句、それは先生側もまた然り。」
相澤はそう言うと生徒たちの方へ向き治り言葉を投げかける。
「お前らも中学やってただろ?個性使用禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている、合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だな。」
すると、相澤は先ほどまでの教室で言い争っていたトゲトゲ頭の少年……爆豪へとボールを手渡す。曰く……個性有りで投げてみろと。
すると爆豪は円に立ち、思いっきり振りかぶる……爆豪の個性は爆破。精密なコントロールで球に爆風を乗せて掛け声とともに吹っ飛ばした!
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
(((死ね!?)))
快人を含めたクラスが一丸となって爆豪の物言いに驚いている中、相澤は自身の端末を見せる……そこには爆豪の記録である705.2mと言う数字が浮かび上がっていた。
「うぉぉぉ!?すげぇっ!?」
「何これ!?すごい
「個性思いっきり使えるだ!さすがヒーロー科!」
「
相澤はニヤリと素敵な笑みを浮かべて言葉を投げかける。
「よしわかった。種目トータル最下位の者は見込みなしと見做し、除籍処分とする」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
クラス一同の、その言葉に声を上げる。
一見嘘っぱちにも見える言葉だが、あの先生、どうにもおっかない。本気でやりそうだ。
しかし。元より全力でやる予定だったんだ。今更何も変わらない……やれることを死ぬ気でやるだけだ。快人はその決意を胸に、少しだけ笑みを浮かべるのだった。
やがて、種目が始まる。
【第一種目 50m走】
「うっし!こうして……と!」
快人は右腕の前腕部を掴む……すると、スタートの合図と共に少し射角を上げて、発射する。放たれたロケットパンチに、快人は必死にしがみついて50mを渡り切る。
『2秒98!』
「っしゃぁ!3秒切りィ!」
快人はそう言ってガッツポーズを取る。あまり早いと振り落とされてしまうからある程度のスピード調節は必要だが、移動はこれで賄える……。
【第二種目 握力】
流石に個性を使えない……他は500とか出す中、快人は普通に握力を測る。
「100.2……まずまず!」
【第三種目 立ち幅跳び】
快人は、まず射角高めでロケットパンチを放ってから、ジャンプして放った腕をつかみあとはそのままロケットパンチを加速させる
「うおっと!?」
……が、加速のあまり途中で振り落とされてしまった。
記録は73m……あまりスピードを出しすぎると、やはり振り落とされるのかと、再度快人は自身の個性の性質を理解する。
【第四種目 反復横跳び】
さすがにこれは個性使用できず……普通にやる。
しかし、快人的には素でも得意な内容だ。
「……ふぅ、っしゃ!まだまたぁ!」
記録は180回。まずまずな記録である。
【第五種目 ソフトボール投げ】
快人は緑髪の少年、緑谷出久の次に並ぶ……緑谷も、先程から鍛えた一般人程度の、所謂ヒーローらしい記録の出ない者の一人だ。
緑谷は何かを覚悟したような表情で振り被り……ボールを投げた……投げたボールはふわりと宙を浮いて……ぽとりと地面へと落ちた。
「46m」
「……!?そんな、今……確かに使おうと!?」
「つくづくあの入試は合理的じゃない、お前のようなやつも入学できてしまう。」
……相澤先生の個性は抹消。見た相手の個性を消す事が出来る、とんでもない個性だ……なにやら、緑谷は相澤と話し込んでいる。
(……アイツ、大丈夫か?)
お前他人の心配してる場合かと、突っ込まれそうだし快人も内心そう思うが……なぜだか心配してしまう。快人も折角の学び舎の友が早々に一人減るのは悲しい。
……しばらくして、緑谷はもう一度覚悟を決めたような表情を浮かべる。しかし、今度の表情は先程よりも少し和らいだ……まるで突破口を見つけたような表情だった。
「SMAAASH!!!」
今度の緑谷の一発は先程までとは違い……とんでもない勢いでとんでもなく吹っ飛んでいった……記録は705.3m……漸くヒーローらしい記録が出た。
しかし、その指は大きく腫れていた……緑谷も痛みに耐えている様子だ。目には涙を浮かべている……それでも緑谷は、不格好な笑顔を向けて声を上げる。
「先生!まだ……立てます!」
そんな緑谷をみて、快人は心のなかで一言呟いてしまう。
(なんだアイツ……かっけぇなぁ……)
快人は、緑谷の姿はとても輝いて見えた。自分も痛くて怖いはずなのに、無理して笑って見せている……しかし、それが気に食わない人間もいるようで……
「どう言う事だ!?ワケを言え!!デクテメェぇぇぇぇッ!!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
爆豪が何故だか怒り心頭で、掌を縛させながら緑谷へ迫っていく……快人は、溜息をこぼしながら腕を振りかぶって、軽めのロケットパンチを放った。
(((なんか出た!?)))
クラスが騒然とする中放たれたロケットパンチは、爆豪の体操着の襟をつかむと勢い良く快人の元へ爆豪を引きずりながら戻ってくる。
「テメェッ!?何しやがった!?」
腕を装着した快人は呆れ果てたと言わんばかりに声を上げる。
「ロケットパンチだよ、ロケットパンチ。それよりも次は俺の番なんだ、面倒な事して遅らせるな。」
「っっっっ!!!クソがっ!!」
爆豪は心底不服そうにしながら、首元を掴んでいた快人の腕を振り払って、ズケズケと後ろへと下がる。
そして改めて始まる快人のソフトボール投げ。
「いっし。」
快人はボールを掴んで、狙いを定める……そして、大きく振りかぶって、溜めて溜めてから……ロケットパンチで腕ごとボールを投げ飛ばした!
放たれたロケットパンチはボールを持ったまま投げ飛ばされ……やがて記録が出る。
『1080m』
「1km超えた!?」
「投げてないですけどありなんですかあれ!?」
「アリだ。」
そんな会話をクラスメイトがする仲で、快人は首を回しながらつぶやく。
「威力と飛距離はすげぇんだけど、戻って来るまでがまどろっこしいんだよな。」
そう言って快人はボールごと戻ってきた腕を装着するのだった。
【第六種目 長座体前屈】
「おらぁ!ロケットパンチィィィ!!」
快人はそう言って腰を曲げながらロケットを放つ。クラスメイトは咄嗟に避けると、明らかに人間業では無いような記録が出る。
「記録……90m!」
「体育館の幅くらいしか出せねぇな。雄英の体育館が広くて助かったぜ。」
【第七種目 上体起こし】
これまた普通にやる……さすがにコレに個性は使用できないだろうと思っていたが、紫のぶどうみたいな子が背中に紫のぷよぷよした物体を使って跳ねまくっていてビビった。
記録は63回……まぁ良しとしよう。
【第八種目 持久走】
こちらもロケットパンチを掴んでから放って進み……振り落とされては戻してからまた放つを繰り返す……すると110秒と言う結構な記録がでた。
他には個性でバイクを作っている者もいた。
他の走っている面々はありなのかと聞いていたが、アリだそうだ。
「振り落とされまくったぜ……」
快人はロケットパンチから振り落とされるたびに地面を転がって、体中砂まみれになりながらそう呟いた。
そんなこんなで、全種目が終了する。
結局快人は自身の力を振るうことはできなかった。爆豪を止める際に軽めのロケットパンチをぶっ放した程度だ。
しかし、それでもやれることはやった。これで除籍処分になったら……他で必死にやるか、意地でも雄英に食らいつくかのいずれかだ。どの道、ヒーローになる夢は変わらない。
相澤は、緊張に走る皆に向って変わらぬ様子でサラリと言う。
「んじゃパパっと結果発表――――因みに除籍は嘘な。君達の実力を発揮させるための合理的虚偽。」
さらりとそう言った言葉に、皆の反応は……
「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
只管に声を上げることしかできなかった。聡明そうな一人の少女――八百万は「あんなの嘘に決まってるじゃない」と言い放った。
実は、見込みがあるかどうかを見極めるために放った言葉で、あの時点では嘘では無いのだが……それを知るものは相澤以外には誰もいない。
因みに快人の順位は3位。
かなりの高順位だ、しかし、これはあくまでもデモンストレーション。本当の真価が発揮されるのは、ここからだ。
快人はこれからの雄英高校、こんな受難が数々降り注ぐと思ったら、怖いという感情と、それを覆い尽くすほどの「やってやる。」と燃え上がる心が生まれた。
(上等だぜ雄英……!食らいついてやらァ!)