個性『ロケットパンチ』 作:その股ぐらにロケットパンチ!
快人がロケットパンチに乗りながら火災ゾーンを抜け広場へと向かう…………徐々に徐々にそこで、快人はあまりにも無残な光景をその眼に焼き付ける。
そこでは、相澤が巨漢の怪人に頭を打ち付けられ、頭から血を垂れ流していた見るも無残な光景を。
主犯格らしき手の男はケラケラと笑っていた。その時、快人は激しく歯を食いしばる。怒り心頭……と言うのが正解か。
「教えてやるよ、イレイザーヘッド……これは対オールマイト様の兵器……怪人、脳無だ。」
手の男はそう言ってまた嗤う。
……オールマイトを殺せるほどの手段とは、コレの事だ。
快人はどうするかと頭を必死に回転させて思考を回している合間にも、広場との距離はどんどん近くなってる。
目に映るのは苦悶の表情をしながらも、闘志を失わず叫び声一つ上げずにいるイレイザーヘッド、相澤消太の姿。
その姿が目に映れば映るほど、怒りと闘志がわき上がってくる。
快人の頭の中、考えがまるで荒波のように唸り続けていた。思考の波の中で、快人が
お前のようなやつには無理だと、冷静になれプロヒーローがやられた様な相手に勝てるわけがないと。理性は必死に呼び止めてくる。
お前には何がある?飛び出る腕だけだ、他には何もない。爆豪の様な爆破や轟の様な凍結と言った派手で高威力な個性も、緑谷や発目の様な発想力も、お前には何も無いだろう?
やめろ。
諦めろ。
お前には無理だ。
そう言って言い聞かせようとする理性達……快人はそれらが正しいものだとわかっている。今からやろうとしている事は馬鹿のやる事だ。
自分にあるのは飛び出す腕だけ、殴り抜く力だけ、個性の応用だってろくに思いつかないガキだ。
だけど、目の前で行われる残虐な仕打ちに怒るくらいはしてもいいだろう?敵に背を向けるのが嫌だとかそんなちゃちな理由じゃない。
目の前で行われる非道な行いが許せない。身勝手で、他人のことを考えていない自分本位、全てが自己完結しているヒーローらしからぬ考え。
快人は、心の中で呟く。
(あぁクッソ。とんだバカヤロウだ俺ぁ……)
そう言って快人は残った腕に力を限界まで溜める……彼の全力溜め……成長してからはめっきり使う機会がなかったから、どの程度かは分からない。
通用するかも知れないし、しないかも知れない……倒せなくて良い。ほんの少し、少しだけ相手を仰け反らせるだけで良い。
快人は、乗っているロケットパンチの加速に身を任せ……脳無へと向かう。流石にそこまで接近すれば、相手にも捕捉される。
手の男は余裕綽々に首を傾げながら言う。
「あん……?近づいてくるぞ、とんだ馬鹿なのかな?丁度いいや、脳無……イレイサーヘッドに見せてやれ……可愛い教え子がぐちゃぐちゃにされるのを。」
(駄目だ……来るんじゃない陣馬!)
相澤は心の中でそう叫ぶ、顔を叩きつけられてうまく声が出せないから……快人を呼び止める声を出す事は叶わない。
脳無は相澤を片手で封じ込めながら、もう片方の手で向かって来る快人を迎え撃とうとする。快人もそれは見えている……見えた上で、真正面から打ち砕こうと、快人は腕を構える。
「溜まったぞ……加速をつけて……撃つ!!!」
その叫びと共に、快人は腕を突き出してロケットパンチを発射する。その加速たるや、50m離れた場所から腕から打ち出された途端一瞬で脳無の掌へと撃ち込まれるほどだ。
しかし、撃ち込まれた拳は脳無に止められる……
止まった……勝った。後はあの生徒を脳無に引きちぎらせるかして殺せば、丁度よい道楽になる。手の男はそう思いながら、ニヤケ顔を手を模した仮面の奥で笑い上げる。
まだだ。
まだ行ける。
度肝を抜いてやれ!!!
脳無に撃ち込まれた拳は、徐々にその威力を増していく……噴射される炎が、激しく燃えたぎっていき……勢いを増し……青く変化していく。
脳無は遂には片手では抑えられなくなります、もう片方の手も使って止めようと、片腕を相澤から離す……快人は
「相澤センセー貰ったぁぁぁぁぁ!!!!」
その声とともに、快人の乗っていたロケットパンチも加速を始めて、相澤を掴んで引っ張りなが脳無の横を過ぎ去る。
それと同時に、脳無に掴まれた腕は脳無の怪力から抜け出して、その脳剥き出しの頭を殴りつけてから快人の元へ戻る。
快人を載せて、相澤を掴んだロケットパンチは重量的に限界が近いのか徐々に速度を失っていく。快人はロケットパンチの速度を緩めて、なるべく低高度で相澤を落として自分も降りる。
そこは水難エリアのすぐ近く……そこには、緑谷と蛙吹、そしてぶどうのようなコスチュームに身をまとった峰田が居た。
「じ、陣馬く――!」
しかし、快人は緑谷が何かを声にする前に「相澤先生を頼む」とだけ言い残して目の前のヴィランへと進んでいった。緑谷も蛙吹も峰田も、言葉は発せなかった……。
その鋭く尖りに尖り、渦巻きのようにも見える黒目が……快人が本気で怒り狂っているというのがわかったからだ。
そして、放ったロケットパンチを腕に戻して再度目の前のヴィランへと進みながらつぶやく。。
「くっそ、やっちまったよ……あぁ、そうさ。やっちまった。でもよぉ、やるしかなかったんだよなぁ。」
「コイツの腕……脳無を殴り抜けやがった、オールマイトの100%を耐えるショック吸収を持つ脳無だぞ?チートかよ……」
快人も手の男も、どちらも一人で何やらブツブツと呟いている……すると、そこに先程の黒霧が手の男の方へと戻ってくる。
「死柄木弔。」
「黒霧……やったのか?」
「……13号は行動不能にしましたが、散らし損ねた生徒がいまして……1名逃げられました。」
「……!すぅ……はぁ……黒霧ぃ……お前がワープゲートじゃなかったら、粉々にしてたぞ。」
手の男――死柄木は、イライラしながら首元をかきむしる。掻き毟って、イラついて、掻き毟って、イラつい……最後にはしんとなる。
「……流石に何十人のプロ相手には叶わない。ゲームオーバーだ。あぁ、ゲームオーバーだ。帰ろっか、黒霧。」
そう言って、死柄木は相澤を背後に立ちはだかる快人を見た……そして、また仮面の下の顔をニヤつかせながら呟く。
「その前に平和の象徴としての秩序を少しでもへし折って帰ろう……なぁ、君。無事で居られるとは、思ってないんだろ?」
「あぁ……そうかもな。だけど、関係ねぇよ……テメェは激しく俺を苛つかせたからなぁ。」
そう言って快人は近づく……その腕を握りしめながら、その顔に怒りをみなぎらせながら。死柄木は、そんな快人をみて言葉を綴る。
「どんな表情してんだよ……君、完全に
「そうかい……」
快人は、怒るわけでもなくあっけらからんとそう言葉を返す。死柄木は軽く舌打ちをすると、脳無を快人へと向かわせる。
「殺れ!脳無!」
「殺れるならなぁ!!」
快人は拳に力を込めて、溜まった唸る鉄拳をもう一度放つ……本来、溜めたロケットパンチはかなりの体力を消耗するため、そう何度もましてや連続で打てる技じゃない。
しかし、今度快人の放ったロケットパンチは、一瞬で青い炎を噴射しながら脳無へと突き刺さる。今度は脳無の土手っ腹に撃ち込まれた。
脳無は突き刺さるように腹に来たロケットパンチを手で押さえる。そして握り潰そうとする……ミシミシと嫌な音が鳴る。
次の瞬間、ロケットパンチの角度が変わり脳無の顎にアッパーカットをする様に撃ち込まれた……何故脳無の腕から逃れることができたのか?
それは、放たれたロケットパンチが
快人も無意識だった。言うよりもロケットパンチが、勝手に回転を始めた様にも思えた。
まるで、快人の意思に寄り添うように勝手に動いたのだと感じた。快人はそのまま溜めたもう片方の腕を、脳無に向けて撃ち出そうとする。
すると、今度は快人の手についたまま腕は《《回転》を初め……脳無へも猛スピードで叩き込まれた。叩き込まれた鉄拳は、脳無の腹の中でゆっくりと回転を進める。
回転する鉄拳は、脳無を巻き込んで脳無を打ち抜いた。脳無は後方に勢いよくぶっ飛ばされて、死柄木の横を通り過ぎる。
死柄木は心底イラついた様子で、言葉を綴る。
「なんだ……なんなんだお前!!滅茶苦茶しやがって、全部台無しだ!」
「なにキレてんだよ……俺が必死に怒り抑えてるのが馬鹿みたいじゃねぇか……ぶっ飛ばしてやる……!!」
そう言ってかいは死柄木の方へと向き直る……今にも激突しそうな二人、だがその勝負に待ったをかけるものが現れた。
「もう大丈夫!私が……来た!!」
怒り心頭の表情を見せる平和の象徴。オールマイトだ……それを見て死柄木は、再度脳無をみる。その度手っ腹には未だにロケットパンチが突き刺さり、脳無を勢いよく押さえつけていた。
切り札の脳無は動けない……死柄木か黒霧の個性を使えばロケットパンチを破壊できるかも知れないが、その時間をオールマイトは決して作らない。
……死柄木は、真のゲームオーバーを悟る。
「来ちゃった……脳無も戦闘不能……しょうがない。出直そう……あぁ、そうだ。君ぃ。」
黒霧に包まれていく死柄木……そんな死柄木に接近しようとするオールマイトだが、ギリギリで届かない。死柄木は、消える直前、最後の最後で言葉を投げかける。
「……次は、殺す。お前も……平和の象徴も!!」
快人はどうしようもない。ロケットパンチは両腕とも放った。その証拠に、脳無をアッパーカットのしたほうが腕が戻れば、既に死柄木と黒霧はその場から消えていた。
「っ!?くそっ……」
快人はロケットパンチを手に戻して、歯を食いしばる……今回は運が良かった。
歯車が違えば、たとえばロケットパンチが完全に脳無に受け止められていたら、確実に負けていた。脳無とやらに遠距離攻撃があったら?これまた確実にやられていた。
快人は、また細い綱渡りを渡りきってしまった。
すると、快人は脳の中でブツリと何かが切れる感覚がした……快人は自身の体から力が抜けていのが分かる。
快人は次の瞬間、目や鼻や口から血を吐き出してその場にうずくまる……あの一瞬で、快人は様々な限界を超えた。
インターバル必要な溜めたロケットパンチを、無意識下に連続で何発も打ち込んだのだ……色々限界だったのだろう。
快人はまた、色々なことを後悔しながら……意識を闇の中に埋めるのだった。