ハリー・ポッターと騎士の帰還   作:味噌サバ

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14. 壁の文字

 

 

 

今日はハロウィーンの日だ。

 

 

 

大広間はカボチャの飾りつけがされており、みんなどこか浮足立っている。

 

 

 

ハリーがクィディッチの練習をしている間、談話室でロンとハーマイオニーと一緒にチェスにいそしんでいた。

 

 

 

「へえ、そうなると、闇の魔術に対する防衛術の先生は来年以降どうするんだろうね?」

 

 

 

闇の魔術に対する防衛術の先生が1年で交代するという噂を受け、希望者がいなくなった結果、今年は仕方なくロックハートが選ばれたそうだ。

 

 

 

数日前、俺がハグリッドの小屋に尋ねる前、3人はハグリッドとそんなことを話していたらしい。

 

 

 

確かに、そんな噂をジョージから聞いたことがあるが、大の大人が信じるほどに信憑性が高いのだろうか。

 

 

 

「ちょっと!ロックハート先生が今年度でいなくなるとは限らないでしょう?」

 

 

 

「ロックハートには今年度といわず、今日にでも辞めてもらって構わないけどね」

 

 

 

ロンがボソッとつぶやくと、ハーマイオニーがそれにかみついた。

 

 

 

今日も平和だ。

 

 

 

しかし、そんな平和は長くは続かなかった。

 

 

 

その日の夜、ハリーとロンは空飛ぶ車でホグワーツに突入したこと・暴れ柳を傷つけたことの処罰として、それぞれ、ロックハートのファンレターの宛名書き・地下室でのトロフィー磨きを言いつけられた。

 

 

 

昼過ぎから処罰が始まり、夜のハロウィーンパーティーまでには終わる予定だった。

 

 

 

そのため、ハリーとロンの到着を談話室で待ってから、パーティーに参加する予定であった。

 

 

 

ハーマイオニーとともに妖精の呪文のレポートを書いて待つ。

 

 

 

しかし、パーティーが始まる時間になっても、一向にハリーは戻ってこなかった。

 

 

 

先に大広間に向かったのかと思い、開始から少し遅れてパーティーに向かうが、そこにもハリーはいなかった。

 

 

 

そのうち来るだろうと思い、夕食に山盛りのパンプキンパイを摂るが、ハリーは未だに姿を見せない。

 

 

 

「ここまでハリーが来ないなんて、さすがにおかしくない?」

 

 

 

パーティーも終わり際、ちらほら寮に戻る生徒が出始めた頃、ハーマイオニーが怪訝そうな顔をする。

 

 

 

確かに、ロックハートが少し前に大広間に姿を現したのに、ロックハートの下で罰則を受けていたハリーが戻ってこないのはおかしい。

 

 

 

そう思って、3人でハリーを探しに行く。

 

 

 

まず談話室へと向かったが、ここにはいなかった。

 

 

 

寝室やロックハートの部屋も探すが、こちらにもいない。

 

 

 

どうしたものかと大広間近くの玄関ホールへ戻ると、そこにハリーがいた。

 

 

 

「ハリー!」

 

 

 

近くに駆けよるが、ハリーは目をつぶって何かに集中していた。

 

 

 

「どうしたの?体調悪い?」

 

 

 

ロンが心配そうに尋ねるが、ハリーは目をつぶったまま首を横に振る。

 

 

 

「声が聞こえるんだ。ロックハートの部屋にいたときから、「引き裂いてやる、八つ裂きにしてやる」って」

 

 

 

耳を澄ませてみるが、大広間のざわめきこそすれど、そのような声は聞こえてこない。

 

 

 

しかし、意識すると微かに耳鳴りがする。

 

 

 

どうしたのだろうと思っていると、ハリーが「こっちだ!」と言って駆け出す。

 

 

 

後を追って階段を上る。

 

 

 

2階、3階に上がるにつれ、耳鳴りが強くなる。

 

 

 

3階中を飛び回り、誰もいない静かな廊下に差し掛かったところで、ハリーは走るのを止めた。

 

 

 

「ハリー、急にどうしたんだよ?」

 

 

 

ロンが額の汗をぬぐいながら聞いた。

 

 

 

「あれ見て!」

 

 

 

ハーマイオニーが廊下の壁を指さす。

 

 

 

壁の高い所に血で書かれた文字があった。

 

 

 

秘密の部屋は開かれたり

継承者の敵よ、気をつけよ

 

 

 

この字を見た瞬間、耳鳴りが少しずつ収まってきた。

 

 

 

そして、そう書いてある壁のすぐ横に、信じられないものがあった。

 

 

 

管理人フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスが松明の腕木にしっぽを絡ませてぶら下がっている。

 

 

 

目をカッと見開いて驚いたような表情をあらわにしており、まったく動かない。

 

 

 

少しずつ近づくが、その際に滑りそうになってしまう。

 

 

 

床が水でぬれており、水たまりがいくつもできている。

 

 

 

「うわっ!!」

 

 

 

そのとき、ロンが驚きの声を上げる。

 

 

 

ロンの目線の先を見ると、窓の隙間から大量の蜘蛛が外に逃げ出していた。

 

 

 

ミセス・ノリスのすぐ近くまでやってきた。

 

 

 

ミセス・ノリスは完全に固まっているようで、床の方を見たまま動こうとしない。

 

 

 

「離れた方が良い」

 

 

 

しばし呆然とするが、ハリーにそう勧める。

 

 

 

「他の人に聞こえない声が聞こえて、声のする方に向かったらミセス・ノリスが石になっているなんて、他の人にバレたら面倒なことになる」

 

 

 

ハリーとハーマイオニーの手を掴んで廊下を戻ろうとするが、時すでに遅し。

 

 

 

パーティーが終わったようで、廊下の両側から何十・何百もの足音が聞こえてくる。

 

 

 

そして次の瞬間、生徒たちが廊下に姿を現す。

 

 

 

生徒たちが固まったまま動かない猫と、血で書かれた壁の言葉を見た瞬間、楽しそうなおしゃべりの声が途切れる。

 

 

 

俺たちは廊下の真ん中にポツンと取り残され、他の生徒は戸惑って近づこうとすらしない。

 

 

 

そんなとき、1人の大声が静寂を突き破った。

 

 

 

「継承者の敵よ、気を付けよ…次はお前たちの番だぞ!「穢れた血」め!!」

 

 

 

大声を発したマルフォイは青白い顔に赤みを差した顔でニヤリと笑った。

 

 

 

「なんだ!何事だ!!」

 

 

 

フィルチが生徒たちの群れを押し分けてやってくる。

 

 

 

そして、固まるミセス・ノリスを見て金切り声を上げる。

 

 

 

「私の猫だ!私の猫に何をした!」

 

 

 

フィルチはバッとハリーの方を向くと、「お前だな!お前が殺したんだな!!今度は俺がお前を殺してやる!!」と憤怒の形相をあらわにする。

 

 

 

ハリーを守るため、いつでも杖を出せるように準備したところ、ダンブルドアが数人の先生を連れて現れる。

 

 

 

「何事じゃ?」

 

 

 

ダンブルドアは固まるミセス・ノリス、壁にかかれた文字を見ると、「みな、寮に戻りなさい」と有無を言わさぬ表情で告げた。

 

 

 

これに乗じて帰ろうとするが、「ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、ミスター・フォーンリッジ、ミス・グレンジャーの4人は残りなさい」と言われて雲隠れする機会を逃す。

 

 

 

生徒たちはぞろぞろと離れていき、廊下には俺ら四人とダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、ロックハート、フィルチが残った。

 

 

 

「猫は、死んではおらん。石になっただけじゃ。スプラウト先生がマンドレイクを手に入れられておるので、十分成長すれば、すぐにも元に戻るじゃろう」

 

 

 

ミセス・ノリスを細かに眺めた後、ダンブルドアはフィルチに優しくそう告げた。

 

 

 

「私がここにいれば!反対呪文で助けられたのに!!」

 

 

 

ロックハートがうやうやしくそう語るが、ダンブルドアの全てを見透かす様な視線に貫かれて顔をそむけ、以降は静かになった。

 

 

 

「じゃが、どうして石になったのかが分からぬ」

 

 

 

「あいつです!あいつがやったんです!!」

 

 

 

フィルチがハリーを見据えながら、涙声でそう訴える。

 

 

 

「違います!誓ってやっていません!!」

 

 

 

ハリーが声を上げると、ダンブルドアはきっぱり「2年生がこんなことをできるはずがない」と告げた。

 

 

 

「しかしながら校長」

 

 

 

スネイプが俺を見据えながら声を出す。

 

 

 

なんか、嫌な予感がする。

 

 

 

「フォーンリッジであれば、その術を知っているかもしれません」

 

 

 

スネイプは唇を片方だけ吊り上げてそう付け足す。

 

 

 

「やっていませんし、闇の魔術には精通していません。それにこんなことをしたって、俺には何のメリットもないじゃないですか!」

 

 

 

声を荒げて言い返すが、スネイプは意地悪そうな顔を崩さない。

 

 

 

「しかし、つい先日我輩の寮の6年生を失神させていたではないか。それも、君からしたらメリットがないのではないかね?」

 

 

 

カチンときて言い返そうと口を開くが、俺が声を上げる前に支援が飛んできた。

 

 

 

「セブルス、それとこれとは関係のないことかと思いますが?」

 

 

 

マクゴナガル先生が鋭く切り込んだ。

 

 

 

「いずれにせよ、ポッターやフォーンリッジがやったという証拠は、全くもって、何1つとしてないのですよ」

 

 

 

ダンブルドアは静かに「疑わしきは罰せず、じゃよ」と告げる。

 

 

 

スネイプは不快そうな表情を浮かべるが、校長には反対できなかった。

 

 

 

「だが、みなくれぐれも用心することじゃ」

 

 

 

ダンブルドアの言葉に俺たちはうなずくほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、ホグワーツの中ではミセス・ノリスの話でもちきりだった。

 

 

 

ロンの妹のジニーはひどく心を乱されたようで、ロンが「ミセス・ノリスなんていない方がどんなにせいせいするか」と言っていた際、顔を真っ青にしていた。

 

 

 

ハーマイオニーはというと、秘密の部屋について調べているようだった。

 

 

 

彼女は『ホグワーツの歴史』を図書館で借りようとしたようだが既にすべて貸し出されており、他の本も探していたが、どこにもその記述はなかったようだ。

 

 

 

「それで、秘密の部屋について、マクゴナガル先生に聞いてみようと思うの」

 

 

 

変身術の授業の直前、隣の席のハーマイオニーがそう告げる。

 

 

 

授業を遮って聞いていいものかとも思ったが、「いつも真面目に授業を受けてて、日頃の生活でも問題のない君なら、教えてくれるんじゃないかな」と返しておいた。

 

 

 

そして授業中、ハーマイオニーが手を上げる。

 

 

 

「ミス・グレンジャー?」

 

 

 

「先生、秘密の部屋について教えてくれませんか?」

 

 

 

マクゴナガル先生は一瞬、面食らったようだったが、他の生徒たちの興味深そうな表情を見て口を開いた。

 

 

 

「…いいでしょう」

 

 

 

一呼吸おいて、ホグワーツの歴史について語り出す。

 

 

 

「皆さんもご存知の通り、ホグワーツは千年以上前、当時の最も偉大な4人の魔法使い・魔女によって創設されました。ゴドリッグ・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリン。これら、4人の創設者は数年間、和気藹々と若者への教育を施しました。しかし、その内に意見の相違が出てきました。スリザリンは、ホグワーツには選別された生徒だけが入学すべきという信念を持ち、マグルの親をもつ生徒の入学を嫌ったのです。この問題について、他の3人は強烈に反対をし、スリザリンはホグワーツを去りました。伝説によると、スリザリンはこの城のどこかに、隠された部屋、『秘密の部屋』を作ったといいます。そして、学校を去る前にこの部屋を封印し、自身の継承者が現れた際以外に開かないようにしたそうです。そして、その継承者のみが部屋の中の『恐怖』を解き放ち、スリザリンが入学を認めぬ者を追放するといいます」

 

 

 

「それってつまり、マグル出身者ですか?」

 

 

 

ハーマイオニーが尋ねると、マクゴナガル先生は静かにうなずいた。

 

 

 

「当然、学校としても何度も調査をいたしました。しかし、そのような部屋は見つかりませんでした」

 

 

 

そう言って再び授業を始めようとする先生を呼び止める。

 

 

 

「先生!その部屋の中にいるとされる『恐怖』とは、どのようなものだといわれているのですか?」

 

 

 

「伝説では、スリザリンの継承者のみが操ることの出来る、恐ろしい怪物がひそんでいると言われています」

 

 

 

そこでマクゴナガル先生は語るのを止めた。

 

 

 

これ以上は、先生方も把握していないのだろう。

 

 

 

どのような怪物がいるのか、その授業中はいつもに比べて集中力が低下していたのは明確だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秘密の部屋って本当にあるのかな?」

 

 

 

授業後、教室を移動しているとロンがそう尋ねてくる。

 

 

 

「どうだろう。でも、先生たちの雰囲気から察するに、ただの噂として無視することは出来なさそうだね」

 

 

 

「だけどいったい誰が継承者なのかしら?」

 

 

 

ロンはわざとらしく考え込むふりをする。

 

 

 

「僕たちの知っている人で、マグル生まれをクズ扱いしているのはだーれだ?」

 

 

 

「もしかして、マルフォイのこと言ってるの?」

 

 

 

ハーマイオニーは信じられないといった表情だ。

 

 

 

「モチのロンさ!」

 

 

 

ロンは自信満々にうなずく。

 

 

 

「あいつが言ってただろう?「次はお前たちだ!『穢れた血』め!」って」

 

 

 

ハーマイオニーはやれやれと首を横に振った。

 

 

 

「2人とも、どう思う?」

 

 

 

「マルフォイの家系は全部、スリザリンの出身だ。親から子へ、子から孫へと、代々伝えた可能性はあるよ」

 

 

 

ハリーはそう言うが、正直マルフォイが継承者とは到底思えなかった。

 

 

 

スリザリンの継承者の割には、小賢しいというか、それほどの大物には思えなかった。

 

 

 

「正直、にわかには信じがたいけど、他に該当しそうな人もいないから。探ってみるのはアリだと思うよ」

 

 

 

ただ、他に候補者が浮かばない以上、とりあえず様子を探るのは良いだろう。

 

 

 

「そうね。その可能性はあるわ…」

 

 

 

ハーマイオニーはあくまでも慎重な姿勢だ。

 

 

 

「でも、どうやって確かめる?」

 

 

 

ハリーの表情が曇った。

 

 

 

「どうする?」

 

 

 

ハーマイオニーが訪ねてくる。

 

 

 

「うーん…開心術と真実薬が、いの1番に浮かんだけど…なかなか難しいかなぁ…」

 

 

 

開心術はまだ練習中で実際にやるのは憚られるし、真実薬はマルフォイだけが摂取する料理や飲み物に混ぜればいいのだが、スリザリンのテーブルに行って、たくさんある食べ物のうちからマルフォイが食べる物にピンポイントで薬を盛るのが難しい。

 

 

 

いずれにせよ取り巻きのクラップとゴイルを撒かなくてはいけないし、周りに誰かがいたら確実にばれてしまう。

 

 

 

しかも、マルフォイ本人が何かしらの不調を感じてマダム・ポンフリーのところにでも行ってしまえば、薬を盛ったことはすぐにばれる。

 

 

 

どうしたものか…。

 

 

 

「イチかバチかで、無理やり開心術をかけて情報を集めて、すぐに忘却術で忘れさせる?」

 

 

 

ハーマイオニーは微妙な表情を浮かべる。

 

 

 

「貴方、忘却術はともかく、開心術をかけられるの?」

 

 

 

「うーん…50パーセントくらいで失敗するかも。何回か君たちで練習させてもらえれば、もっと高確率で成功できるようになるだろうけど」

 

 

 

「どうよ?」と3人の顔を見ると、ロンとハーマイオニーが露骨に嫌そうな顔をする。

 

 

 

「2人の表情からなんとなく察したけど、その開心術?っていうのをかけられると、どうなるの?」

 

 

 

「心を開く術って書いて、開心術だからね。読んで字の如くだよ。呪文をかけた側が、かけられた側の記憶を一部、追体験するんだよ。嬉しかったものから悲しかったもの、人に見られたら恥ずかしいようなものまで。相手の探りたいことを全て思いのままに見ることが出来る。それが開心術だよ。見られてる側は、基本的には苦痛を伴うことになるね。脳みそをかき混ぜられているようなものだから」

 

 

 

ハリーの表情はだんだんと曇っていった。

 

 

 

「…それは、別の方法の方が良いかな」

 

 

 

ロンとハーマイオニーも同意見のようだし、何か別の方法を探すか…。

 

 

 

うーん、何かあったかな?

 

 

 

「ポリジュース薬はどうかしら」

 

 

 

あー、なるほど。

 

 

 

ちょっと遠回りだけど、まあさっきのに比べたら安全牌か。

 

 

 

「………他に良いものも浮かばないし、良いんじゃない?ちょっと時間かかるけど」

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って。ポリジュース薬って何?」

 

 

 

俺とハーマイオニーの意見が合致したところで、ロンが尋ねる。

 

 

 

「誰かに変身できる薬のことだよ」

 

 

 

「数週間前の授業で、スネイプ先生がおっしゃってたでしょう?」

 

 

 

ハーマイオニーの言葉にロンは「スネイプの話なんて聞いてるわけないよ」と呟く。

 

 

 

ロンの呟きにハーマイオニーが注意しようとするが、彼女の言葉を遮る。

 

 

 

「まずは材料と作り方を調べなきゃいけないな」

 

 

 

「ええ、図書館の禁書の棚の『最も強力な薬』という本に書いてあるって言ってたわ」

 

 

 

ふむ、禁書の棚か。

 

 

 

となると、誰か教員からの許可証が必要だな。

 

 

 

「許可を貰うには、よほど鈍い先生か…」

 

 

 

ハリーの呟きに呼応して、俺の頭の中に1人の教師が(ウインクしながら)現れた。

 

 

 

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