ハリー・ポッターと騎士の帰還   作:味噌サバ

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16. 変身

 

 

 

数日後、館のモーリーから二角獣の角と毒ツルヘビの皮が送られてきた。

 

 

 

モーリーへの感謝の手紙を送り返し、ハーマイオニーと一緒にマートルのトイレで作業にいそしむ。

 

 

 

「送られてきた材料から考えるに…3人分が限界ってとこかな」

 

 

 

二角獣の角をすり鉢で粉末にしながら口にする。

 

 

 

「そう…ハリーとロンにクラップ・ゴイルをやってもらうとして、もう1人分はどっちがやる?」

 

 

 

ハーマイオニーは毒ツルヘビの皮をナイフで細かく切り裂いている。

 

 

 

「変身する相手次第じゃないか?男子生徒だったら俺の方が良いけど、女子生徒だったらハーマイオニーが変身した方が、所作の点からしてバレないはずだ」

 

 

 

「そうね…もう1人、誰がいいかしら」

 

 

 

「マルフォイに気軽に話しかけられそうな生徒………。あいつ、クラップとゴイル以外に友達…いんのかな」

 

 

 

ハーマイオニーがプッと吹き出す。

 

 

 

「どちらにせよ、誰が適切か、考えておかないといけないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月も2週目に入り、マクゴナガル先生がクリスマス休暇中に学校に残る生徒を調べに来た。

 

 

 

昨年はニコラス・フラメルの件もあり館に戻ったが、今年はホグワーツに残ることにした。

 

 

 

グリフィンドール生でホグワーツに残るのは、俺たち4人と、ウィーズリー兄妹だけで、マルフォイも残るようだ。

 

 

 

「やるとしたら、クリスマス休暇中ね」

 

 

 

人が少ないほどやりやすい。

 

 

 

この休暇は絶好の機会だ。

 

 

 

しかし、ハーマイオニーと何度も相談を重ねたが、結局もう1人の変身する生徒は決まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3週目に入り寒さが一層厳しくなってきた。

 

 

 

両手をこすり合わせながら玄関ホールを歩いていると、掲示板の前に人だかりができていた。

 

 

 

そして、人だかりの中のシェーマスとトーマスに呼び止められる。

 

 

 

「『決闘クラブ』だって!今夜が第1回目だ。決闘の練習なら悪くないな」

 

 

 

シェーマスが興奮気味に語る。

 

 

 

一緒に掲示を読むロンたちも興味津々のようだ。

 

 

 

その晩8時、ハリーたちとともに大広間に向かう。

 

 

 

食事を摂るときにつかう長いテーブルは隅に寄せられ、舞台が置かれていた。

 

 

 

生徒たちはその舞台の近くに集まり、杖を片手に興奮した面持ちを見せている。

 

 

 

「誰が教えるのかしら?」

 

 

 

「フリットウィック先生じゃないかな?若い頃に決闘チャンピオンだったらしいし」

 

 

 

人ごみに入り込みながらそう話す。

 

 

 

「誰でもいいよ。あいつじゃなければ」

 

 

 

ハリーはそう言いかけて、すぐにうめき声を上げた。

 

 

 

ロックハートが舞台に登場し、後ろからスネイプがついてきた。

 

 

 

「集まって!みなさん、集まって。私が見えますか?私の声が聞こえますか?結構、結構!ダンブルドア先生からお許しを頂き、決闘クラブを始めることになりました!では紹介しましょう!助手のスネイプ先生です!」

 

 

 

ロックハートは舞台の中心まで闊歩し、にこやかにそう言う。

 

 

 

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘について僅かにご存知らしい。訓練前の模範演技にご協力いただきます。なあに、心配はありません。皆さんの魔法薬学の先生を消したりなどしません!」

 

 

 

「両方やられちまえばいいのに」と、ロンのボヤキが聞こえてきた。

 

 

 

スネイプは心底不快そうな表情を浮かべているが、ロックハートはまだニコニコとしていた。

 

 

 

ロックハートとスネイプはそれぞれ、舞台の端に立って向き合い一礼した。

 

 

 

そして、杖を剣のように前に突き出して構える。

 

 

 

「3つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、互いに相手を殺すつもりはありません」

 

 

 

ロックハートが説明をするが、スネイプの表情はとてもそうは見えなかった。

 

 

 

「ワン―――ツー―――スリー―――」

 

 

 

エクスペリアームズ!

 

 

 

スネイプの杖から赤い閃光がほとばしる。

 

 

 

そして、ロックハートが舞台から吹っ飛んで床にたたきつけられる。

 

 

 

男子生徒を中心に歓声が沸く。

 

 

 

ハーマイオニーは「先生、大丈夫かしら?」と心配そうな表情を浮かべるが、知ったことか。

 

 

 

ロックハートは髪が乱れたまま舞台に戻ってくると、「あの術を見せたのは素晴らしいお考えです、スネイプ先生。ただ、あまりにも見え透いていましたね。止めようと思えば簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せた方が教育的に良いかと思いましてね…」と暫しゴタゴタのたまわっていた。

 

 

 

だが、スネイプがいよいよ殺気立ち始めたので、「模範演技はこれで十分!皆さん、今から2人でペアを作ります!」と舞台を降りた。

 

 

 

自由に組んでいいのかと思ったが、先生が相手を決めるらしく、ロンはシェーマスと、ハーマイオニーはスリザリン寮の大柄の女子生徒と、俺はクラップと、ハリーはマルフォイと組むことになった。

 

 

 

「叩き潰してやる」

 

 

 

クラッブが薄ら汚い笑みを浮かべる。

 

 

 

「相手と向き合って!そして、礼!」

 

 

 

舞台へと戻ったロックハートが号令をかける。

 

 

 

クラッブと俺は互いに微かに会釈する。

 

 

 

「杖を構えて!私が3つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい。…ワン―――ツー―――スリー―――」

 

 

 

クラッブは「ツー」の時点で杖を動かし始め、白い閃光が飛んでくる。

 

 

 

プロテゴ!

 

 

 

盾の呪文で閃光を防ぎ、すぐに武装解除呪文をかける。

 

 

 

エクスペリアームズ!

 

 

 

赤い閃光がクラッブの杖にほとばしり、彼の杖が俺の方にとんでくる。

 

 

 

杖をキャッチすると、クラッブ本体が今度は猛突進してくる。

 

 

 

なんだこいつ!?

 

 

 

咄嗟に「ペトリフィカス トタルス!」と石化呪文をかけてクラップの下半身を石化させる。

 

 

 

クラッブは慟哭を上げているが、無視して周りを見る。

 

 

 

多くの組で武装解除呪文以外の呪文が唱えられていて、ロックハートが慌てている。

 

 

 

ハリーは踊り続けており、マルフォイはずっと笑っている。

 

 

 

ロンは蒼白な顔のシェーマスに謝っている。恐らく、折れた杖で何かやらかしたのだろう。

 

 

 

ハーマイオニーとスリザリン寮の女子生徒は、杖を捨てて何やらプロレスのようなことをしている。

 

 

 

女子生徒はハーマイオニーにヘッドロックをかけて、ハーマイオニーが痛みにわめいている。

 

 

 

なんとかその女子生徒を取り押さえ、ハーマイオニーを解放する。

 

 

 

フィニート・インタンカーテム!

 

 

 

スネイプが叫ぶと、ハリーの踊り・マルフォイの笑い・クラッブの石化が解けた。

 

 

 

ロックハートは舞台の上で面食らった表情のまま、「非友好的な術の防ぎ方を教授する方がよさそうですね」と呟く。

 

 

 

「さて、誰かモデルになってくれる組はいますか?ハリーとドラコ、どうですか?」

 

 

 

すると、スネイプが「それは名案ですな!」と口元をゆがめて笑みを浮かべる。

 

 

 

ハリーとマルフォイは促されるままに舞台に上がる。

 

 

 

「さあ、ハリー。ドラコが杖を向けたら、こうしなさい」

 

 

 

そう言うと、ロックハートは何やら杖をくねくねさせて、勢い余って落としてしまう。

 

 

 

てっきり、盾の呪文を教えるのかと思ったら、この人は一体何をしているのだろうか。

 

 

 

「おっと、ちょっと張り切りすぎたようだね!」

 

 

 

ロックハートは笑顔でそう言うと、そのままハリーの後ろに回って号令をかける。

 

 

 

サーペンソーティア!

 

 

 

マルフォイが怒鳴ると、杖の先端からヘビが飛び出す。

 

 

 

そして、周囲の生徒たちを威嚇しながら、ハリーの方ににじり寄る。

 

 

 

「動くな、ポッター。我輩が追い払ってやる…」

 

 

 

マルフォイの背後のスネイプが、薄ら笑いを浮かべながらそう語る。

 

 

 

しかし、再びロックハートが余計なことをする。

 

 

 

「私にお任せあれ!」

 

 

 

ロックハートはなにか呪文を唱えると、ヘビに向かって閃光を放つ。

 

 

 

ヘビは天井ギリギリにまで高く飛び上がり、そのまま自由落下をして舞台にたたきつけられる。

 

 

 

ヘビは怒り狂った様子で、シューシューと音を発する。

 

 

 

そのまま、近くにいたネビルににじり寄り、口を大きく開く。

 

 

 

あぶない!

 

 

 

そう思ったとき、何か低い声が聞こえる。

 

 

 

手を出すな。去れ!

 

 

 

何を言っているのか分からないが、急激に耳鳴りが強くなり、頭痛さえ感じる。

 

 

 

思わず、うめき声を上げて顔をしかめる。

 

 

 

「フィン、大丈夫?」

 

 

 

近くにいたハーマイオニーが心配そうに顔を見つめるが、返事が出来ない。

 

 

 

誰の声なのか確認しようと目を薄く開けて壇上を見る。

 

 

 

すると、ヘビがおとなしくなっており、ハリーの方をジッと見ている。

 

 

 

その子に手を出すな

 

 

 

その低い声は、ハリーの口から出ているものだった。

 

 

 

ヘビはその言葉に従ったのか、ネビルから離れた。

 

 

 

少しずつ頭痛が収まり、耳鳴りも止んでいく。

 

 

 

すると、スネイプが前に進み出て、杖から黒い閃光を飛ばす。

 

 

 

その閃光はヘビに当ると、ヘビを黒い煙へと変えて消え去った。

 

 

 

周囲がざわざわする。

 

 

 

スネイプも探るような目つきでハリーのことをジッと見つめる。

 

 

 

そりゃそうだ。ハリーがヘビと話せるなんて、パーセルマウスなんて、誰も知らなかった。

 

 

 

ましてや、『秘密の部屋』の件で学校中がピリピリしている今、ハリーがスリザリンの継承者だという憶測が出てくるのは、想像に難くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から、その噂は瞬く間に広まった。

 

 

 

ハリーが移動するたびに、生徒たちはハリーを避けて通り、ヒソヒソ声になった。

 

 

 

フレッドとジョージはそれが面白かったようで、ハリーの前を2人で立って廊下を行進し、「まっこと邪悪な魔法使い、スリザリンの継承者様のお通りだ!」とふざけていた。

 

 

 

それどころか、「次は誰を襲うんだ?」と大声で聞いたり、大きなにんにくの束を掲げて追い払おうとしたり、とにかく噂を茶化していた。

 

 

 

そんなある日、遂にジャスティン・フレッチリーというハッフルパフ寮の生徒と、ゴーストである「ほとんど首なしニック」までもが襲われ、螺旋階段の踊り場で動かなくなっていた。

 

 

 

(ちなみに、冬にもかかわらず、この際も大量の蜘蛛が列をなして窓から外へと逃げて行ったという)

 

 

 

これをきっかけに、クリスマスは家に帰ろうと生徒のほとんどがホグワーツ特急に乗り込んだ。

 

 

 

その結果、グリフィンドール寮で学校に残るのは俺たちとウィーズリー兄妹だけになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とうとう学期が終わり、クリスマス休暇がやってきた。

 

 

 

城内はいつもの喧騒はどこへやら、静謐な空気に包みこまれた。

 

 

 

生徒は勿論、ゴーストや絵画の人々すらも、ほとんどが姿を消していた。

 

 

 

俺たちはグリフィンドールの談話室を独占して、暖炉でマシュマロを焼いたり、決闘の練習をしてみたり、大爆音での「爆発ゲーム」を楽しんだ。

 

 

 

パーシーだけは談話室にはあまり姿を見せなかったが、楽しい休暇を過ごした。

 

 

 

クリスマスの朝、ベッドから出るのが億劫で丸くなっていると、急に部屋に誰かが飛び込んでくる。

 

 

 

そして、窓のカーテンが開けられる。

 

 

 

「んんー」

 

 

 

まぶしいから頭ごとかけ布団にくるまると、布団をはがされる。

 

 

 

うぅ、さむ。

 

 

 

「おはよう!」

 

 

 

薄く目を開けると、ハーマイオニーが立っていた。

 

 

 

「…夜這い?」

 

 

 

「違う!というか、もう朝よ」

 

 

 

あくびをしながら起き上がって時計を確認する。

 

 

 

現在時刻、朝7時。

 

 

 

「まだ7時じゃないか。あと2時間くらい寝させてよ」

 

 

 

そう言うが、彼女は許してくれない。

 

 

 

ハリーやロンも起こそうと奮闘している。

 

 

 

「いつもだったら3人とも、これくらいには起きてるじゃない」

 

 

 

「しょうがないよ。昨日は君が寝た後、午前2時くらいまで、『百味ビーンズ』で遊んでたから」

 

 

 

あくびを嚙み殺しながらなんとか話す。

 

 

 

「ほら、3人とも。ポリジュース薬が完成したわよ!」

 

 

 

すると、ハリーとロンがバッと起き上がった。

 

 

 

「本当!?」

 

 

 

「絶対よ」

 

 

 

ハーマイオニーは自信満々だ。

 

 

 

「あとは、クラッブとゴイルの身体の一部か」

 

 

 

「ええ、やるなら今夜ね」

 

 

 

ハーマイオニーが寝室を出て行ったあと、着替えて談話室に下りる。

 

 

 

談話室にはクリスマスプレゼントが山積みになっていた。

 

 

 

ハリーは蛙チョコレートの詰め合わせを、ロンは彼のお気に入りのクィディッチチームについて書かれた「キャノンズと飛ぼう」という本をくれた。

 

 

 

ハグリッドからはお手製のパンプキンパイをたくさん、モーリーからは大好きなアンズパイだ。

 

 

 

そして、グレンジャー夫妻からは、マグルの世界の分厚い観光本のセットが送られてきた。

 

 

 

ザッとその本を流し読みしていると、マグルの世界での常識が垣間見えて、まっこと興味深い代物だ。

 

 

 

あとでちゃんと読もう。

 

 

 

「ん?これは…」

 

 

 

初めて見る包みを開くと、ウィーズリー夫人からの手編みセーターが入っていた。

 

 

 

正面には「F」の字が入っていた。

 

 

 

「あ、それ。フィンにも来たんだ」

 

 

 

「R」の字が入ったセーターを着るロンは、少し恥ずかしそうにしている。

 

 

 

「素晴らしいプレゼントだよ」

 

 

 

そう言って上着を脱いでセーターを着ると、ロンははにかんだ。

 

 

 

最後の包みを開ける。

 

 

 

ハーマイオニーからのプレゼントだ。

 

 

 

中には金属バッジを磨くセットが入っていた。

 

 

 

「ハーマイオニー、これって」

 

 

 

同じく、プレゼントを開けているハーマイオニーが振り返る。

 

 

 

ハーマイオニーの手には、俺がプレゼントした書き直せる羽ペンがあった。

 

 

 

「去年のクリスマスプレゼントでバッジをあげたでしょう?あれを磨く用の特別なセットよ」

 

 

 

「ああ、なるほどね」

 

 

 

合点がいった。

 

 

 

セーターの下のワイシャツの胸ポケットから、昨年貰ったバッジを出す。

 

 

 

「持っててくれたのね」

 

 

 

ハーマイオニーは少しうれしそうだ。

 

 

 

「いつでも持ってるよ。大事なものだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼になり、大広間でクリスマスランチが振る舞われた。

 

 

 

ローストターキーやマッシュポテト、フレンチサラダにプティングなど、人数が少ないので食べたい放題だ。

 

 

 

ターキーとプティングを堪能しきった後、三皿目のプティングを口に運ぶハリーとロンを尻目に、ハーマイオニーと2人で計画について話す。

 

 

 

結局、ポリジュース薬を飲むのはハーマイオニーになった。

 

 

 

この前の『決闘クラブ』での格闘の際、ハーマイオニーは大柄なスリザリンの女子生徒(ミリセント・ブルストロードという名前らしい。トロールみたいな名前だ)の髪の毛を入手したそうだ。

 

 

 

(…それ、本当になんとかトロールの髪の毛なのか?俺はハーマイオニーに尋ねるが、彼女はそうだと言って聞かなかった。)

 

 

 

それを基に、ハーマイオニーがトロールみたいな子に変身して、クラッブ・ゴイルに変身したハリー・ロンと一緒にマルフォイに近づく作戦だ。

 

 

 

クラッブ・ゴイルの髪の毛を入手するのは、眠り薬を仕込んだカップケーキを食べさせることにした。

 

 

 

そして、眠っている間に事を済ませてしまうのだ。

 

 

 

そうと決まれば、ハリーとロンを玄関ホールに連れていき、同様の説明をする。

 

 

 

説明が終わると、ハーマイオニーはポリジュース薬の様子を見に行くと言って、2階のトイレに走って行った。

 

 

 

「あの2人って、そこまで馬鹿なのかな?」

 

 

 

ハリーは心配そうだったが、俺は別でやることがあるので、ここで失敬した。

 

 

 

地下室の奥へと向かうと、洗濯物を取り込んだ部屋がある。

 

 

 

ここから3着ほど、サイズの大きいスリザリンの制服を拝借する。

 

 

 

そしてコソコソとマートルのトイレに向かう。

 

 

 

ゴーストとはすれ違ったが、幸いなことにそれ以外には誰にも出会うことなくトイレに到着する。

 

 

 

トイレの向かって左側、奥から6番目の個室をノックする。

 

 

 

「俺だよ。着替えのローブ、持ってきたよ」

 

 

 

すると、ハーマイオニーの安堵の声が聞こえて鍵が開く。

 

 

 

中ではハーマイオニーが大鍋をかき混ぜていた。

 

 

 

黒い煙が立ち昇り、鍋の中にはドロドロと泡立つ黒い液体が入っており、あとはグラスに分けて、それぞれ変身したい相手の髪の毛を入れるだけの状態だ。

 

 

 

ひしゃくですくってグラスに入れていると、ハリーとロンがトイレに入ってくる。

 

 

 

「取れた?」

 

 

 

ハリーとロンはクラッブ・ゴイルの髪の毛を持っていた。

 

 

 

…この2人は直接頭からむしり取ったのだから良いとして、ハーマイオニーが小瓶に入れている毛は本当にトロールの髪の毛なのだろうか?

 

 

 

…心配だ。ハーマイオニーの分だけ水で薄めておくか。

 

 

 

「なんだあれ!?」

 

 

 

トイレの大きな窓ガラスの方を見て迫真の演技をする。

 

 

 

すると、3人は驚いた様子でそちらを見る。

 

 

 

その隙に、無言呪文で杖からカップの一つに水を出す。

 

 

 

「何もないけど…どうかしたの?」

 

 

 

「ああ、ごめん。見間違いか。てっきり窓の鉄枠が大きな蜘蛛かと思ったんだ。…よし!じゃあ、みんなそれぞれの個室に入って!君たちが吐いている姿を見たくないからね」

 

 

 

グラスに分け終え、ハリーたちにそれぞれ個室に入るように指示する。

 

 

 

そして、着替えのローブとグラス(ハーマイオニーのものだけ明らかに水っぽかったが…)をそれぞれに渡す。

 

 

 

「じゃあ、飲むよ」

 

 

 

「…せーのっ」

 

 

 

ハリーたちがポリジュース薬を飲む音が聞こえてくる。

 

 

 

そして、そのすぐ後に、3人の苦悶に喘ぐ声が聞こえてくる。

 

 

 

大丈夫かな?

 

 

 

心配しつつも、3人が個室から出てくるのを待つ。

 

 

 

ハリーが入った個室から出て来たのはゴイルだった。

 

 

 

「おお、すごい。完全にゴイルの図体だよ。鏡で見てごらん」

 

 

 

ハリーは鏡の前までヨタヨタ歩くと、鏡を見て「すごいなぁ」と低くしゃがれた声で語った。

 

 

 

次に、ロンの個室からクラッブが出てくる。

 

 

 

ロンも鏡に近寄り、「驚いたなぁ」とうなるように言う。

 

 

 

「いやー、傍から見てる分には面白いなぁ。クラッブとゴイルが2人で女子トイレに入ってるなんて」

 

 

 

ヘラヘラしていると、ハリーとロンも笑い声を上げる。

 

 

 

「急がなきゃ」

 

 

 

ハリーは腕時計を外しながら言うが、ハーマイオニーが一向に出てこない。

 

 

 

「ハーマイオニー?大丈夫?生きてる?」

 

 

 

「わたし…わたし、行けないわ。2人だけで行って」

 

 

 

クラッブとゴイル、もといハリーとロンが顔を見合わせて怪訝な顔をする。

 

 

 

「あ、そっちの目つきの方がゴイルらしいや」

 

 

 

「とりあえず、俺がハーマイオニーの面倒を見ておくから、ハリーとロンは行ってきてくれ」

 

 

 

そう言って、ハリーとロンにスリザリン寮があるはずの地下室に行ってもらう。

 

 

 

「ハーマイオニー?とりあえず、鍵を開けて?何があったのか、分からないけど」

 

 

 

優しく語り掛けると、ハーマイオニーの涙声で「笑わないでね?」という声が聞こえてくる。

 

 

 

開錠された扉を開けると、そこにいたのは動物の耳と尻尾をもつハーマイオニーだった。

 

 

 

髪の毛の中から三角耳が2つ飛び出し、彼女の背後では黒くて長いしっぽがうねっていた。

 

 

 

「…やっぱり、なんとかトロールの毛じゃなかった?」

 

 

 

ハーマイオニーは眼を潤ませながら頷いた。

 

 

 

「なるほど、猫かぁ」

 

 

 

ジッと見つめていると、どこからともなく現れたマートルの笑い声が響く。

 

 

 

「なぁに?その変な姿!!」

 

 

 

マートルはハーマイオニーのすぐ横まで浮いてきて、これでもかと笑い転げた。

 

 

 

彼女が笑い続けるうちに、ハーマイオニーの表情はだんだんと曇っていく。

 

 

 

「ひどい形相よね!ねぇ…?」

 

 

 

マートルが喜色満面で俺に訪ねてくる。

 

 

 

しかし、俺は「ええなぁ…」

 

 

 

ボソッとつぶやいた。

 

 

 

「な、なんて?」

 

 

 

「いや、かわいくない?」

 

 

 

同意を求めるが、マートルは信じられないという表情を浮かべる。

 

 

 

値踏みするようにじっと見つめていると、ハーマイオニーが頬を赤くして目を背ける。

 

 

 

「な、なに?」

 

 

 

「やっぱりかわいいって」

 

 

 

すると、長い三角耳がピコピコと動く。

 

 

 

「ほら、褒める度に耳が動いてる。かわいいよ」

 

 

 

ハーマイオニーの耳がさらに動き、尻尾もゆらゆらと揺れている。

 

 

 

「えー、かわいいな、これ。ちょっと、耳触ってみてもいい?というか、触るね?」

 

 

 

有無を言わさずにハーマイオニーの三角耳を優しく握る。

 

 

 

モフモフの感触がして温かい。

 

 

 

思わず顔がほころんでしまう。

 

 

 

「ちょっと、フィン!……止めな……んっ……」

 

 

 

ハーマイオニーがなにか言っているが、モフモフを堪能している俺の耳には入ってこない。

 

 

 

やっぱり良いなぁ、なんか動物でも飼おうかな。

 

 

 

そんなことを思いながら撫でていると、マートルがなにか奇声を発しながらトイレの中に入っていった。

 

 

 

我に返った俺は「あ、ごめん」とハーマイオニーの耳から手を離す。

 

 

 

ハーマイオニーは少しの間、目をつぶったまま深く呼吸を繰り返す。

 

 

 

「もう…大丈夫よ…」

 

 

 

そう言うものの、目が少しトロンとしているし、息が荒くて顔も赤みがかっている。

 

 

 

正直、ちょっと色っぽい。

 

 

 

まあ、さっきみたいに泣きそうじゃなくなったから良し!

 

 

 

「とりあえず、医務室でマダム・ポンフリーに診てもらおうか」

 

 

 

そう提案するが、ハーマイオニーは誰にも見られたくないのか、なかなか動こうとしない。

 

 

 

この場にとどまっていると、ハリーとロンにも見られてしまうけど、良いのだろうか。

 

 

 

仕方がないので、俺が羽織っているローブをハーマイオニーに着させる。

 

 

 

「俺のローブなら君のより大きいから、体をすっぽり隠せるだろう?」

 

 

 

「…あ、ありがとう」

 

 

 

そして、ハーマイオニーの手を引いて医務室へと誘導する。

 

 

 

「よし、着いたよ」

 

 

 

幸い何事もなく着いたが、ハーマイオニーは俺のローブを握りしめてにおいを嗅ぐのに一生懸命の様子だった。

 

 

 

「…ハーマイオニー?そんなに臭う?」

 

 

 

俺が話しかけると、ビクッと背筋を伸ばす。

 

 

 

「だ、大丈夫よ!」

 

 

 

ハーマイオニーは頬を赤く染めながらそう答える。

 

 

 

「…そう?それじゃあ、マダム・ポンフリーを呼んでくるね」

 

 

 

そのまま、ハーマイオニーはしばらくの入院となった。

 

 

 

マダム・ポンフリーが何があったか聞かない質の人で助かった。

 

 

 

もしもポリジュース薬を作っていたら、間違えて猫の毛を入れてしまいました、などと言ったら、多くの罰則に引っかかっているのが丸わかりだったろう。

 

 

 

ハーマイオニーをマダム・ポンフリーに渡して、マートルのトイレへと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレの個室に置いたままの鍋や瓶を片づけていると、急に寒気に襲われてくしゃみが出る。

 

 

 

そういえば、ハーマイオニーにローブを貸したままだった。

 

 

 

通りで寒いわけだ。

 

 

 

片づけを終えて、あとは全て持って帰るだけとなったところ、元の姿に戻ったハリーとロンが入ってくる。

 

 

 

「やあ、2人とも。結果はどうだった?」

 

 

 

「うーん、全くの時間の無駄ではなかったけど…」

 

 

 

あまり芳しくなかったようだ。ロンが微妙な表情を浮かべている。

 

 

 

「ハーマイオニーはどうだった?」

 

 

 

「間違えて猫の毛を入れちゃったみたいで…。まあ、実際に見てもらえば分かると思う…。ハーマイオニーのあんな姿…すっごく、かわいかった」

 

 

 

最後の一言で、ハリーとロンがずっこけた。

 

 

 

その後、一旦寮の寝室に戻り、2人から成果を聞いた。

 

 

 

結局、マルフォイも誰がスリザリンの継承者なのか、分かっていないようだった。

 

 

 

しかし、50年前に1度『秘密の部屋』が開かれており、その際もマグル出身の生徒が1人殺されていたらしい。

 

 

 

そして、その際の継承者は学外に追放となったことが分かったようだ。

 

 

 

「うーん…過去のことは分かったけど、結局、振り出しかぁ」

 

 

 

ベッドに倒れ込んで、ため息を大きくつく。

 

 

 

「しょうがないけど、なにか手がかりはないかなあ…」

 

 

 

ミセス・ノリス、コリン・クリービー、ジャスティン・フレッチリー、ほとんど首なしニック…

 

 

 

そういえば、ミセス・ノリスが石になったとき、廊下はやたらと濡れていて水たまりがあり、ミセス・ノリスは床の方を見たまま石化していた。

 

 

 

ハリーいわく、コリンはカメラのレンズを覗く体勢で石化していたという。

 

 

 

噂で聞いたから眉唾物ではあるが、ジャスティンは首なしニックのすぐそばで石化して見つかったらしい。

 

 

 

ほとんど首なしニックはゴースト、つまりもう死んでいるにもかかわらず、もう1度殺されるような状態に陥れられた。

 

 

 

ミセス・ノリスにせよコリンにせよジャスティンにせよ、身体的な欠損は見られていない。

 

 

 

生きたままの状態から完全に石と化したのだ。

 

 

 

ミセス・ノリスが石になった際も、ジャスティンと首なしニックが石になった際も、蜘蛛は列をなして逃げていた。

 

 

 

50年前にも起きた同様の事件。

 

 

 

ぐるぐると頭の中で色々な情報が錯綜する。

 

 

 

そのまま考えるうちに、俺は意識を手放してしまった。

 

 

 

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