翌日、俺はハーマイオニーの元を訪ねた。
犠牲者の特徴や当時の状況から怪物の特徴について何か考えられるものがないか、一緒に考えてもらおうと思ったのだが、率直に言って、このときのハーマイオニーは何の役にも立たなかった。
何故か分からないが、ハーマイオニーは俺が来ると頭がボーっとするようで、いつも頬を赤く染めていた。
かわいらしいのは結構だが、今は賢いハーマイオニーを欲していたのでなんとも期待外れであった。
そこで代わりにハリーやロンと考えを深めようとするが、なかなか上手くいかない。
ピースはかなり揃っているかと思ったのだが難しいものだ。
いつものハーマイオニーを恋しく思いながら、クリスマス休暇は過ぎていった。
ハーマイオニーがいつもの調子に戻ったのは、2月に入ってからだった。
1月の中旬ごろから猫の耳や尻尾はなくなって、見た目は完全にいつものハーマイオニーに戻ったのだが、相変わらず俺が近づくとなにやら頭がボーっとするようで、授業の席の間にわざわざハリーとロンを入れなくてはならなかった。
2月に入り、やっといつもの生真面目で冷静なハーマイオニーに戻ると、俺たちはよく2人きりで思索にふけっていた。
寮の談話室や図書館、大広間、湖畔の樹の下など、色々な場所で喧々諤々と議論をするが、一向に『怪物』の正体は出てこなかった。
俺たちがそんなことをしている間、ハリーたちも『秘密の部屋』について色々と調べているようだった。
しかし、情報は中々手に入らず、手に入ったのは「T.M.リドル」という名前の書かれた古ぼけた日記だけだった。
「この日記を誰が捨てたのか。この人がどうして賞をもらったのか。気になるんだ」
ハリーはパラパラと日記をめくりながらそう語る。
日記には最初から最後まで、何1つメモ書きすら残されていなかった。
そしてこの「T.M.リドル」なる人物、ロンいわく50年前に『特別功労賞』を授与された人物だという。
罰則でトロフィーを磨いていた際、何度もこの人物の盾を磨いたから覚えたという。
『特別功労賞』は書いて字の如く、なにか特別に素晴らしい働きをした生徒に学校が与える賞だ。
『秘密の部屋』が前に開いたのも、「T.M.リドル」がこの賞を受け取ったのも、ちょうど50年前にあたる。
もしかしたら…。
「その、「T.M.リドル」が50年前にスリザリンの継承者を追放した人だっていうの?」
「可能性として、なんらかの関係があるかもしれないという話だけどね」
この日記の持ち主が50年前に『秘密の部屋』が開いた際に、なんらかの関係をしていたのではないかという推測を離すと、ロンは少し怪訝そうな顔をするが、ハリーとハーマイオニーは概ね同意する。
「それにしても、せっかくの日記帳なのに、何も書かないなんてありえるのか?」
ロンがそうボヤくが、先ほど数種類の現れ呪文をかけたが何も出てこなかった。
それにしても、なんだか耳鳴りがする。軽く頭も痛いし。
マダム・ポンフリーに俺も診てもらおうか。
そんなことを考えながら床に着く。
その日以降、何故だか寮の寝室にいるときにやたらと耳鳴りと頭痛に襲われるようになっていた。
マダム・ポンフリーに診てもらったが原因は突き止められず、睡眠不足の日々が続いた。
「フィン、隈が出来てるわ。大丈夫?」
「…今日もあまり眠れなかった」
ついに人から指摘されるほどに健康状況は悪化していた。
最近はパーシーに頼み込んで、談話室での就寝を許してもらったが、自分の寝たいタイミングで寝れるわけではないので、かなりストレスがたまる。
しかも、ソファの上に毛布で寝ることになるので、身体の節々が痛んでくる。
俺の心身が悪化する一方、50年前の件については進展を見せていた。
ハリーが拾った日記だが、どのような魔法がかかっているのか定かではないが、日記に文章を書きこむと、日記に込められた持ち主の記憶が返事をしてくれるそうなのだ。
というのも、ある日談話室でこの日記について話していた際、ネビルが持っていたカボチャジュースをこぼしてしまい、日記にもかかってしまったのだが、ふやけたり変色することがなかったのだ。
そこからなにかしらのマジックアイテムだと発覚し、ハリーが『秘密の部屋』について尋ねる文章を書きこむと、その返事が日記に浮かび上がってきたのだ。
その日記を通してハリーは、事件の一部始終を知ったという。
50年前、スリザリン寮の監督生で首席だった「T.M.リドル」氏が5年生のとき、『秘密の部屋』が開かれた。数人の生徒が襲われ、ついには1人の生徒が殺されてしまった。そんなある晩、リドル氏は地下牢教室で継承者を待ち続ける。1時間ほど待ち続けたところ、巨大な蜘蛛のような化け物をもつ人物が現れる。そして、その人物こそが誰あろう、まだホグワーツの生徒だったハグリッドだというのだ。ハグリッドはリドル氏によって捕らえられ、追放されたという。
ただ、本当にハグリッドが犯人なのだろうか?
確かに、去年のドラゴンのこともあるし、彼が化け物を飼っていてもなんら不思議ではない。
しかし、彼がマグル生まれを嫌い、愛するペットに人を襲わせるような人には到底思えなかった。
しかも、蜘蛛に似ていて人を石にするような特徴をもつ魔法生物は、どれだけ探しても見つからないのだ。
ハグリッドに直接聞きに行くことも考えたが、全員気乗りしなかった。
そこで、もう1人襲われたら聞きに行くことで決定した。
次の1人が襲われる代わりに殺されるようなことがないよう祈るばかりだ。
イースターの休暇に入り、2年生は3年次での選択科目を決めることになった。
「占い学」・「魔法生物飼育学」・「数占い学」・「マグル学」・「古代ルーン文字学」のうちから通常生徒は2つ、成績上位者は寮監の先生との相談を通じて2つ以上を選択することができる。
みんな、簡単な授業や面白そうな授業を適当に選んでいたり、仲のいい友達と一緒に授業を取っていた(実際、ハリーとロンは、2人で占い学と魔法生物飼育学を選択していた)が、俺とハーマイオニーからしたら死活問題だった。
というのも、選択を1つ誤れば首席の座を譲り渡しかねない状態にあるからだ。
今年はロックハートの授業の成績のせいで、ハーマイオニーに学科試験で負けるのは織り込み済みだが、やはり実技試験では圧倒的に俺の方に分がある。
つまり、順当にいけば再び首席の座を2人で分け合うことになるのだ。
ただ、だからといって互いに不利になるように仕向けることはなく、あくまでも知っている内容はお互いに教え合ったし、相談だってした。(ハーマイオニーは性格的に、占い学は向いていなさそうだ、と忠告もした)
どうやら、ハーマイオニーは全ての授業を選択したいようだが、いかんせん授業時間が被っているものもあるため、それは現実的に不可能である。
俺はマクゴナガル先生と面談をして、魔法生物飼育学・数占い学・マグル学・古代ルーン文字学の4授業を選択した。(ロンはそれを知った際、「なにが君をそこまで勉強に突き動かすのか、教えてほしい」と呆れ顔だった)
結局、ハーマイオニーは何を選んだのか教えてはくれなかった。
そんなイースター休暇のある日急に、寝室に入っても耳鳴りも頭痛もしなくなった。
やっと自分のベッドで寝られる!!
俺は大喜びで小躍りすらしたい気分だが、ネビルがなにやら慌てている。
「どうしたんだい?」
ネビルはぎょっとして、「ぼ、僕がやったんじゃないんだ!僕、今見つけたばかりで」と慌てている。
彼のいる寝室では、ハリーのトランクやベッドが強盗に入られたあとのように荒らされていた。
そこにハリーがやってくる。
ネビルは先ほど俺に言ったのと同様に、慌てふためく。
ハリーはしばし呆然として、ロックハートの著書を踏んだまま動かなかった。
「とりあえず、直そうか。レパロ!」
ベッドや散らばった小物たちが元の場所に戻っていく。
「あ、ハリー。足退けて」
ロックハートの本の頁のいくつかがハリーの足の下で暴れている。
ハリーを促し足を退かせると、頁は勢いよく本の中に滑り込んでいく。
「これで一通りは元に戻ったはずだけど、一応確認してくれ」
杖をしまってハリーにそう語る。
ハリーが荷物を確認していると、急に驚きの声を上げる。
「どうした?」
「日記がなくなってる!」
どうやら、盗人は「T.M.リドル」氏の日記を求めていたようだ。
いったいどういう意図があるのだろうか…。
…そういえば、俺が寝室に入って耳鳴りがするようになったのは、ハリーがあの日記を拾ってからだな。
しかも、今その日記がなくなってからは、ここに居ても何の問題もない。
その日記の魔力と俺の魔力がなにか合わないのだろうか?
そういえば、その日記には関係ないが、ミセス・ノリスが石になったときも耳鳴りが止まらなかったな。
…考えすぎかもしれないが、何か関係があるのだろうか…。
翌朝、久しぶりに自分のベッドで寝られていっぱい睡眠がとれた俺は元気満々だった。
しかも、ちょうどタイミングよく、今日はクィディッチの試合の日だ。
グリフィンドール対ハッフルパフ!
グリフィンドールの優勝に王手をかける一戦、これは見逃せない!!
大広間で朝食を摂り、グリフィンドールの雄姿を見るために玄関ホールを通る。
するとそのとき、キーンと不快な高音が頭の中で反芻する。
そして、軽く頭に鈍い痛みが走る。
「あの声だ!また聞こえた、君たちは?」
それと同時に、ハリーが驚きの声を上げる。
「また耳鳴りが始まったよ。ちくしょう」
思わず悪態をついてしまう。
なんでハリーには声が聞こえるのに、俺はこんな不快な電子音なんだ……。
? 何かが俺の中で引っかかる。
ハリーだけに声が聞こえて、他の人には何も聞こえない(俺の耳鳴りは未だに原因不明だが)。
「分かった!!」
「図書室に行かなきゃ!!」
俺とハーマイオニーが同時に叫ぶ。
「え?」
ハリーとロンが素っ頓狂な声を出すが、俺たちは2人を置いて図書館へと向かう。
そうだ!なんでこの3か月間考えつかなかったんだろう!
スリザリンが使役した化け物なのだから、そうに決まっているじゃないか!
図書室にたどり着き、図書室の奥の方の「魔法生物」の棚に向けて走る。
マダム・ピンスからお叱りの言葉を受けるが、無視して突っ走る。
棚から、『魔法生物百科目録』という分厚い辞典を取り出す。
本を開いてすぐ、「B」の単語の頁をパラパラと流し見する。
あった!これだ!!
「ハーマイオニー!」
「フィン!」
2人の声が重なる。
お互いに魔法生物に関する分厚い本を開いて差し出す。
やっぱりそうだ。
彼女の開いた頁にも、俺が開いた頁にも、全く同じ生物が載っていた。
バジリスク
そうだ、スリザリン寮の象徴といえば蛇。
ハリーは蛇の言葉が話せるから、バジリスクを使役するために
蛇は蜘蛛の最大の天敵であり、蜘蛛が列をなして城から逃げていたのも合点がいく。
バジリスクは中世から「見たものを殺す」と言い伝えられてきた。
ただ、ミセス・ノリスのときは水たまり、コリンのときはカメラのレンズ、ハッフルパフ寮の"なんとか君"のときは「ほとんど首なしニック」があった。
ニックは既に亡くなっているわけだから、もう1度殺されることはないし、それらを通して間接的に見たから彼等は死なず、石になるのに留まったと考えると辻褄が合う。
ハーマイオニーと顔を見合わせて、ハリーたちにもこのことを知らせようと頷く。
本を棚に戻して図書室を出る。
そのとき、急に頭痛が襲ってくる。
これまでの比にならない激しさだ。
思わず膝をつけて苦痛に悶える。
「フィン!!大丈夫!?」
ハーマイオニーが心配そうに顔を覗き込む。
「そうだ、マダム・ポンフリーに!」
そう言ってハーマイオニーは医務室に向かおうとする。
「待って…ハーマイオニー…」
ハーマイオニーは「どうしたの?」と心配そうな表情で聞いてくる。
「マダム・ピンスに伝えて。きっとこの後、誰かがまた襲われるって」
ハーマイオニーは意味がよく分からない、という表情を浮かべるが、指示に従って図書室へと戻る。
俺は自力で医務室に向かうため、なんとか足を動かす。
そろそろ曲がらなくてはいけない。
バジリスクがいるかもしれないから、曲がった先を見ておかなくては…。
そう思って胸ポケットから、去年ハーマイオニーがくれた金属のバッジを取り出す。
何度も磨いてピカピカになったバッジの裏を見れば、角の向こうに何かいるか確認できる。
角の直前で腕を伸ばし、バッジで向こう側を確認する。
そこには、鋭い牙をもつ、工事用の土管ほどの太さの巨大蛇がいた。
まずい、バジリスクだ!
そう思ったのも束の間、バジリスクは眼から緑色の光線を発する。
それがバッジで屈折して俺の身体を照らす。
その刹那、意識が遠く、下へ下へ…。