ホグワーツの授業は、新鮮そのものであった。
これまで、ほとんどモーリーからの講義しか受けたことのなかった俺は、本職の教師による授業を毎回楽しみながら受けていた。
そんなことを言うと、よく授業を一緒に受けるロンは、大広間でハーマイオニーに見せた「信じられない」とでも言いたげな表情を送るだろうが、それでも俺は新しい生活を楽しんでいた。
スプラウトの「薬草学」の授業では、城の裏の温室で植物やきのこの育て方・用法を学び、シニストラの「天文学」では実際に望遠鏡をのぞき、星座や天体の動きを観察した。
とりわけお気に入りだったのは、小さなフリットウィックが教える「妖精の呪文」であった。
日常生活で幅広く活用できる呪文を学ぶ学問で、フリットウィックの話はどれも興味深くて面白かった。
また、マクゴナガルが教える「変身術」は、多くの生徒にとって難関だったようだ。
最初の授業では、マッチ棒を針に変える練習を行った。
俺はあらかじめモーリーから習っていた内容だったため、あっさりと終えてしまったが、思いの外他の生徒は苦戦していた。
終わって暇になっていた俺は、ハリーやロン、ハーマイオニーたちにコツの伝授をしていたが、結局針に変えることが出来たのはハーマイオニーだけだった。
これらの授業は楽しかった一方、肩透かしに終わった授業もあった。
ゴーストであるビンズが教える「魔法史」と、紫のターバンを巻いたクィレルの「闇の魔術に対する防衛術」であった。
ビンズが念仏を唱えるように、単調に教科書を読み進めるだけの授業で、多くの生徒は十分ももたずにノックアウトされていた。
俺はこの授業について早くも見切りをつけ、自習の時間とすることにした。
また、クィレルの授業は先生の体調次第で休講となることも多く、本当に年度末までに授業内容を終えられるか心配になるくらいだ。
そんなこんなで、あっという間に金曜日となり、ハリー、ロンとともに大広間で朝食を摂った後、地下の魔法薬学の教室へと向かった。
魔法薬学はスリザリンの寮監であるスネイプが担当の授業で、スリザリンびいきで知られている。
そしてその悪名は、レイブンクロー生やハッフルパフ生を通して、グリフィンドール生たちの耳にまで届いていた。
スネイプは授業が始まるとまずは出席を取った。
その際、ハリーの名前を呼ぶと止まって「われらが新しいスター」と皮肉を言い、グリフィンドール生は緊張した面持ちになった。
さらに、出席を取り終えるとスネイプはまず演説を行い、生徒たちの緊張感を高めた。
そして急にハリーの名前を呼ぶと、「アスファルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」と聞いた。
「眠り薬」
答えに詰まるハリーに、俺はボソッと答えを教え、ハリーがそのまま答えると、スネイプはしばしの沈黙の後、「ベゾアール石を見つけるにはどこを探せばよい?」と聞いた。
「山羊の胃」
再び俺が答えを教えると、スネイプに不快そうににらまれ、「フォーンリッジ、ポッターに答えを教えたな。グリフィンドールは五点減点」と言った。
は?なんやこいつ。
脳内でスネイプに悪態をついていると、ハリーは申し訳なさそうに俺を見てきた。
自分から伝えたわけで、別にハリーは悪くないと思い、「大丈夫」と口の動きで伝える。
さらに、授業中に二人一組でおできを治す薬を調合させ、ネビルが失敗してしまった際、たまたま隣にいたハリーに罪を擦り付け、グリフィンドールから五点減点した。
何故彼はここまでハリーを嫌っているのだろうか。
魔法薬学の授業終了後、そんなことを考えながら、ハリーとロンの隣を歩いていた。
「フィンも来るだろう?」
不意にロンにそう呼びかけられる。
なんでも、ハリーが朝にハグリットから手紙を受け取っており、これから尋ねるそうだ。
「ああ、是非行かせてもらうよ」
昼食を摂って、宿題にある程度のケリをつけた後、ハリーやロンと合流してハグリットの小屋に向かった。
ハリーが戸をノックすると、中から戸をひっかく音が聞こえてきたが、しばらくしてハグリットが戸を少し開けて顔を出した。
「よお、ハリー!ちょっと待っちょれ」
それからまた少しして、扉が開いてハリーたちは中に招き入れられた。
「くつろいでくれや」
ハリーたちが中に入って扉が完全に閉まると、ハグリットはファングを離した。
すると、ファングは一直線にロンに掛け寄り、ロンを舐め始めた。
ハグリットもファングも見た目と異なり、まったく怖くなかった。
ハリーはまず、ロンと俺をハグリットに紹介した。
ハグリットはロンの兄弟の話をしばらくしていた。
その後、ハリーが先ほどのスネイプの話をすると、「スネイプがハリーを憎んでいるはずがない」という旨の発言をした。
しかし、その返答の際だけはハリーの目を見ておらず、若干の不信感を抱いた。
また、ハリーが日刊予言者新聞の記事について何か追及している際には、はっきりと目をそらしていた。
ハリーもこれに思うところがあったのか、何か物思いに沈んでいる様子だった。
次の木曜の午後、グリフィンドールとスリザリンの一年生は飛行訓練の授業のために校庭に集まっていた。
飛行術の教授であるマダム・フーチは到着するなり、箒のそばに立つようガミガミと言った。
「右手を箒の上に突き出して『上がれ!』と言う」
マダム・フーチの指示に従い、みんなが一斉に「上がれ」と叫んだ。
ハリー、フィン、マルフォイの箒はすぐさま飛び上がって手に収まったが、他に飛び上がった箒は多くはなかった。
その後マダム・フーチは、箒の握り方の確認やまたがる方法の実演を行った。
そして、実際に少しだけ飛び上がるよう、生徒たちに指示を出したが、焦ったネビルが指示より早くに飛び上がってしまった。
「こら!戻ってきなさい!!」
「うわああぁぁ!助けて!誰か止めて!!」
マダム・フーチの大声をよそに、ネビルはどんどん高く飛び上がっていく。
およそ二十から三十メートルは上がっただろうか。
風に吹かれたのか、ネビルは急にバランスを崩し、箒から手を離してしまった。
声にならない叫びを上げ、そして……
「アレスト モメンタム!」
俺が咄嗟に呪文を唱え、ネビルはすんでのところで自由落下を止めた。
そして、俺の杖の動きに沿ってゆっくりと地面の上に横たえられた。
「ネビル!」
「ミスター・ロングボトム!」
ハリーやマダム・フーチたちは慌ててネビルに駆け寄った。
ネビルは落下した恐怖からか気を失っていたが、身体的な怪我は特にないようだった。
「ミスター・フォーンリッジ、助かりました。グリフィンドールに五点差し上げます。私はこの子を医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけませんよ。箒にまたがるようなことがあれば、ホグワーツから出て行かせますからね」
マダム・フーチは鬼気迫る表情でそう言うと、気絶したネビルを担いで医務室へと向かった。
そして、声が届かないところまで行くと、マルフォイは大声で笑ってネビルを馬鹿にしだした。
スリザリン寮生たちもそれを囃し立てた。
グリフィンドール寮生のパーバティ・パチルが「やめてよ」と言うと、スリザリン寮生のパンジー・パーキンソンが「あら、パーバティ。あのウスノロのこと、好きだったの?」とからかう。
いや、しょーもな。
冷めた視線をスリザリン寮生たちに送るが、人の感情を理解するだけの脳みそもないのか、スリザリン寮生たちは猿のように騒ぐだけだった。
さらにマルフォイは、草むらからネビルが今朝おばあさんから郵送で受け取った「思い出し玉」を手に取った。
どうやら、ネビルが箒から落ちるときに、一緒に地面に落ちてしまったようだ。
「マルフォイ、それを返せ」
ハリーが静かにそう言った瞬間、みんな喋るのを止めた。
すごい、なにその能力、俺も欲しい。
「それじゃあ…ここまで、取りに来いよ!」
マルフォイは箒に乗って飛び上がり、浮いたまま呼びかけた。
ハリーは怒り心頭に箒をつかんだ。
「ハリー、ダメよ!!フーチ先生がおっしゃったでしょう!箒に触っちゃいけないって!」
ハーマイオニーがそう叫ぶが、ハリーは無視して箒にまたがり飛び上がった。
「っ、フィン!どうにかして!!」
ハーマイオニーに頼まれるが、腕を組んで二人を見たまま動くつもりはなかった。
「これは余計な手出しは無用だろう」
ハーマイオニーは理解できないという顔をしたが、これは男の戦いだと思い、心を鬼にして観戦に終始した。決して、面倒くさいからなどではない。
ハリーはしばしの会話の後、前傾姿勢になってマルフォイに突進する。
マルフォイは咄嗟でよけるが、ハリーの方が優勢なのは地上からでも見て取れる。
二人が何らか会話をすると、マルフォイは手の「思い出し玉」を思いっきり投げた。
ハリーは再び前傾姿勢になり、玉を追いかけて行った。
スピードは見る見る上がって玉に追いついたが、もう数秒もしたら城の壁にぶつかってしまう。
誰かが「危ない!!」と叫ぶ。
思わず目を背けてしまいたくなるが、すんでのところでハリーは玉を拾って衝突を免れた。
そしてそのまま、高度を少しずつ下げて着地した。
(ハーマイオニーを除く)グリフィンドール寮生たちはみんな歓声を上げながら駆け寄った。
そしてハリーが思い出し玉を高々と掲げるとより一層の歓声が沸き起こった。
そんな中、
「ハリー・ポッター…!!」
マクゴナガル先生が走ってやって来た。
先ほどまで盛り上がっていたグリフィンドール寮生たちの気持ちは一気にしぼんでいった。
そして、理由を説明しようとするパーバティやロンに有無を言わさず、マクゴナガルはハリーを連れて城へと戻って行った。
すると再びスリザリン寮生たちは笑い出し、マルフォイは喜んでハリーを馬鹿にした。
他のスリザリン寮生たちも便乗して馬鹿にする。
…お、今度は俺がみんなを黙らせるチャンスだ!
「やめろ」
そう思って声を上げると、みんな喋るのをやめた。
うひょー、俺の一声でみんな黙るとか、チョー気持ちいい。
調子に乗ったマルフォイは、再び箒にまたがって飛び上がり挑発をするが、既にみんなを一言で黙らせるという目的を達成した俺からしたら、そんなことはどうでも良かった。
ハーマイオニーが制止しようとするが、いずれにせよマルフォイの策に乗るつもりはなかった。
ガラス玉もマルフォイの手になくなった今、空を飛んで追いかける必要なんてないし。
ただ、この呪文を唱えれば勝ちだ。
「アクシオ、箒」
すると、マルフォイがまたがってる箒が手元に飛んできた。
マルフォイは急な箒の動きに対応できず、そのまま落ちてしまった。
(ハーマイオニーを除く)グリフィンドール寮生たちは歓声を上げ、今度は俺に駆け寄って、スリザリン寮生たちは悲鳴を上げてマルフォイに駆け寄る。
それほど高度はなかったため、軽い捻挫で済んだようで、取り巻きのクラップとゴイルの肩を借りながらマルフォイは立ち上がり、「先生に言いつけてやる!」と叫んだ。
「いや、言っても良いけど、言ったらお前が箒乗ったのバレるよ?」
「良いの?」とあくまでも理詰めに終始すると、マルフォイは沈黙するしかなく、他のグリフィンドール寮生たちはその様子を馬鹿にしようとする。
しかしそれを制止させ、「あいつらを馬鹿にしたら同じレベルに成り下がるだけ」となだめる。
…これ、言ったときは気持ちよかったけど、後から見返すとちょっと痛い奴だな。恥ず