ハロウィーンの日以降、ハーマイオニーは俺だけでなく、ハリーやロンとも精神的距離が近くなり、規則を破る事に寛容になりだしていた。
これは良い傾向なのか、悪い傾向なのか微妙なところだが、彼女にも友達ができたのは良いことだろう。
ハーマイオニーと仲良くなれたのはとりわけ、クィディッチの練習で忙しいハリーにとっては助かったようで、ついこの前も、ハーマイオニーから『クィディッチ今昔』を借りていた。
しかしその本は、借りてから数日後にスネイプに没収されており、ある日の夜、ハリーは職員室まで返しに頼みに行った。
「一人で大丈夫?」
俺たちは口をそろえてそう言ったが、ハリーは何か考えがあるのか、一人でスネイプの元まで向かった。
十分後、談話室まで戻ってきたハリーの手元には、案の定本はなかった。
しかし、スネイプが足を怪我している様子、フィルチに「三つの頭を同時に注意などできない」と言っていたのを見て来たそうで、ハリーは、スネイプがハロウィーンの日に三頭犬が守っているものを探しに行ったのではないか、と推測したのだ。
俺とハーマイオニーは推測を疑問視したが、ロンは完全に賛同している様子だった。
次の日、ハリーはこの推測をさらに確実視することとなった。
翌日の昼、ハリーはグリフィンドール対スリザリン戦のため、クィディッチ競技場へと赴いていた。
学校中の生徒・教職員がつめかけており、ロンやハーマイオニー、ネビル、シェーマスにトーマスなど、ハリーの同級生たちも駆けつけていた。
試合が始まりおよそ三十分後、急にハリーが箒の制御を失ってしまった。
その際、スネイプが瞬きすることもなくずっと何かを呟いていたのを、ハーマイオニーが双眼鏡で発見したのだ。
そして、ハーマイオニーの妨害でスネイプが呪文をかけるのを止めたタイミングで、ハリーの箒の制御も元に戻ったのだ。
この件以降、ハリーとロンだけでなく、ハーマイオニーもスネイプを疑ってかかるようになった。
俺は、スネイプが妨害呪文をかけており、他に犯人がいる可能性を排除できない以上、断定的な行動は控えた方が良いと主張したが、多勢に無勢であった。
また、この日には三面犬の仕掛け扉の下に隠されたものの正体の手がかりも得られた。
というのも、試合の後にハリーたちがハグリットの小屋でお茶をしていた際、ハグリットがポロっと「ニコラス・フラメル」という名前を口にしたのだ。
ハリーたちは寮に戻った後、ニコラス・フラメルが誰なのか、議論を白熱させていた。
しかし、俺だけはあまりこの議論に乗り気ではなかった。
というのも、俺はニコラス・フラメルが何をした人物なのか知っており、もしハグリットが言った「ニコラス・フラメル」がその人だとしたら、一年生の小坊主たちが口を出すような問題ではないと考えたからだ。
俺はハリーたちの若気と、大人たちの事情の板挟みにあってしまったのだ。
中間管理職の辛さを、こんな若さで味わいたくはなかった…。
それからおよそ一カ月経ったが、ハリーたちの調査は未だ進展を迎えていなかった。
結局、俺は両者の中立を取ることを決め、図書室で見つけた本からニコラス・フラメルの記述が出て来たときだけ、ハリーたちに伝えることにした。
しかし今のところ、ニコラス・フラメルに関する記述を発見することはなく、クリスマス休暇も目前という時期になってしまった。
クリスマス休暇では、各生徒は学校に残るか家に帰るかを選べることになっている。
どうしようか迷ったが、俺は家に帰ることにした。
学校に残ったとしても、ニコラス・フラメルの探索に付き合わされるだろう。
それに、モーリーに久しぶりに顔を見せたいし、他にも話しておくべき相手がいるからだ。
結局、ハリーとロンは学校に残り、ハーマイオニーも家に帰ることになった。
ハリーはおじさん、おばさんの家に帰る気は起きず、ロンは両親がルーマニアに住む次男、チャーリーを訪ねるからだそうだ。
「それじゃあ、二人とも、またね。良いクリスマスを」
城に残る二人に挨拶をして、ホグワーツ特急に乗りこむ。
ハーマイオニーと同じコンパートメントに入り、二人で今年習った授業内容の振り返りをしながら列車に揺られる。
途中でネビルがトレバーを探しにやってきて、呼び寄せ呪文でネビルの元に返す。
入学するときにもこんなことがあった、と笑い合っていると、あっという間にキングス・クロス駅へと到着した。
最小限の荷物を持って列車を降りると、多くの保護者が生徒たちを待っていた。
「ネビル!」
「おばあちゃん!」
一緒に列車を降りたネビルは、すぐに祖母を発見したようで、おばあちゃんの元まで走っていった。
そして、二言三言あいさつをして別れる。
こういうときは寂しい気持ちになる。
今の俺に家族と言える存在はモーリーしかいないが、モーリーは館の外で姿を見せることはめったにない。
そのため、友人が家族に迎えに来てもらうのを、ただ眺めるだけになってしまうのだ。
「ハーマイオニー!」
「お母さん!お父さん!」
今度はハーマイオニーが迎えに来てもらったようだ。
ハーマイオニーは駆けて行くと、母親に抱き着いて父親に頭をなでてもらっている。
年相応なところもあるもんだ、と思いながら、一応挨拶をしておくため近づく。
「お父さん、お母さん、友達のフィンよ」
「フィン・フォーンリッジと申します。娘さんとは懇意にさせていただいております」
紹介を受けてお辞儀をすると、グレンジャー夫妻は何故か詰め寄ってきた。
「ハーマイオニーがいつもお世話になっております。ハーマイオニーは学校になじめていますか?友達は他にも出来ていますか?」
「え、ええ、友人は僕のほかにもいらっしゃると思いますよ。一二を争うほどの優等生ですから、もちろん学校にはなじめているかと」
「前の学校での娘は、いつも一人で勉強ばかりしていて心配で心配で。よかったら、これからも仲良くしてやってください」
「それはもちろん。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
「ちょっと、お母さん!お父さん!」
恥ずかしいからやめろ、と言わんばかりに両親と俺の間に入るハーマイオニーだった。
「もしよろしければ、フィンさんの親御さんにもご挨拶を…」
グレンジャー夫人はそう申し出るが、「あー」と返答に詰まる。
俺の家庭事情を知るハーマイオニーが「お母さん!」と注意しようとするが、「いいよ、俺から説明するよ」とハーマイオニーを遮る。
別に悪気があるわけではないだろう。
この歳で親がいないとは普通は思わないだろうし、仕方のないことだ。
「実は、両親は既に亡くなっていまして、家には僕と屋敷しもべ妖精という使いのものしかおりませんので。申し訳ないですが親は…」
「ごめんなさい!そんな事情があったなんて知らずに失礼なことを」
グレンジャー夫人はそう言って平謝りし、グレンジャー氏も「申し訳ない」と頭を下げた。
そんな風に謝られると、なんだかこっちが申し訳なくなってくる。
「いえいえ、こういう話すると皆さんこういう反応されるので、むしろこちらの方が申し訳ないくらいです」
グレンジャー夫人は少し真剣な表情になった後、笑みを浮かべてこう言った。
「フィンさん、クリスマスにうちで、ささやかだけどパーティをするの。もしよろしかったら、いらっしゃらない?」
唐突な提案に呆気にとられていると、グレンジャー氏が「もし都合がつかなかったら仕方ないが、学校での娘について聞きたいこともあるし、良かったら是非いらしてください」とウェルカムな姿勢を鮮明にする。
困った俺はハーマイオニーに目配せをするが、ハーマイオニーも困惑した表情を見せるばかりだった。
「えっと、ハーマイオニーは大丈夫なの?クリスマスは家族で過ごすものだって、一応知識としては俺の中にもあるけれど」
「え、ええ…もちろん、フィンなら私も、その…大歓迎、よ」
少し顔を下げ、上目遣いでそうのたまう。
かわいいかよ。
思いもよらないハーマイオニーの反応に、俺は「そっか…ありがとう」と気の利かない反応しか返せなかった。
グレンジャー夫妻が「若さだね…」という生暖かい目線を投げかけているのに気づかないくらい、このときの俺は面食らっていた。
「…えっと、それじゃあ、お邪魔かとは存じますが、お世話になります」
結局、グレンジャー夫妻の申し出を受け入れ、ペコリと頭を下げた。
クリスマス当日、俺はマグルのような格好をしてグレンジャー家に向かっていた。
それにしても、こんな格好でよかったのだろうか。
もっと、気の利いた服装がよかっただろうか。
でも、マグルの格好については詳しくないし、ハーマイオニーのご両親に変に思われたらいけないしなぁ。
…ここまで来たら、悩んでも仕方がないか。
「…ふう」
グレンジャー家に着くと一度呼吸を置き、ドアをノックする。
するとすぐに玄関のドアが開き、ハーマイオニーが姿を見せた。
毛量の多い栗色の髪はきちんとまとめられ、服装も普段見るローブとは異なる少し大人っぽいもので、よりオシャレな印象を受ける。
美しいかよ。
少しだけ見とれていると、ハーマイオニーに「どうしたの?中に入って?」と促される。
「あ、うん。お邪魔します」
グレンジャー家はフォーンリッジの館ほどではないが、周囲の家々に比べると大規模な建物だった。
ハーマイオニーによると、グレンジャー夫妻はどちらも歯科医師として働いており、歯科医師がマグルの世界ではそれなりに高給取りであることが伺える。
ダイニングに案内され、ローストチキンやローストビーフ、ミンスパイなどが載ったテーブルへといざなわれる。
そこには、コルク抜きを持つグレンジャー氏が席についてシェリー酒の入ったボトルと悪戦苦闘していた。
また、グレンジャー夫人はジンジャーエールなる、シャンパンのような砥粉色の飲み物が入った瓶を何本か持って現れた。
「あら、フィンさんいらっしゃい」
「おおフィン君、よく来たね。ホグワーツのパーティと比べるとこじんまりしてるかもしれないが、今日は楽しんでいってくれ」
そう声をかけてくれるグレンジャー夫妻に挨拶をしてお土産を渡し、ハーマイオニーに言われるがままに席へと着く。
そしてパーティが始まり、ローストチキンといったグレンジャー夫人の手料理をいただく。
比べるのは失礼な気もするが、モーリーの手料理にも負けず劣らずの美味しさだった。
特にデザートのミンスパイは格別で、こればかりは確実にモーリーのものよりも美味しく感じた。
また、手料理をいただきつつ、ホグワーツや家での生活、魔法使いの日常など、ざっくばらんな話をする。(グレンジャー夫妻は職業ゆえか、聖マンゴ魔法疾患傷害病院の
そして、料理を概ね食べ終え、時刻は夜八時に差し掛かろうとしたころ、グレンジャー夫妻は席を外してどこかへと行ってしまった。
「どうだった、クリスマスパーティ?楽しかったかしら?」
「もちろん。料理も美味しかったし、特にデザートで頂いたミンスパイがすごく美味しかったよ」
ハーマイオニーは俺の言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。
そして、「実はあのパイ、私も作るの手伝ったのよ」と誇らしげに語る。
「ていうことはつまり、最大の調味料は君からの愛情だったのか」
ウンウンとうなずきながら、少しおどけて見せる。
「……そうだって言ったら、どうする?」
しかし俺の予想と違い、ハーマイオニーはツッコんだり否定したりせず、少し頬を染めてそう聞いてくる。
面食らった俺は「それは…嬉しい、です」と、なぜかかしこまった口調でそう返事をした。
二人の間に、居心地の良いような悪いような雰囲気が漂っていると、急に部屋の扉が開かれてグレンジャー夫妻が入ってくる。
グレンジャー氏はその雰囲気に気付かなかったようだが、グレンジャー夫人はニコニコと俺とハーマイオニーを交互に眺めた。
気付いているのか気付いていないのか、様子を探ろうとすると、グレンジャー氏が「ハーマイオニー、クリスマスプレゼントだ!」と言って、後ろ手に持っていた分厚い本をハーマイオニーに渡す。
ハーマイオニーは「わぁ!この本欲しかったの!ありがとう、お父さん!お母さん!」と言って目を輝かせる。
俺だったらそんなに分厚い本を貰っても気後れするばかりだが、ハーマイオニーの姿はほほえましいものだった。
そう思ってハーマイオニーが年相応に笑って喜ぶ姿を見ていると、今度はグレンジャー夫人が「フィンさんにも、クリスマスプレゼントですよ!どうぞ」と綺麗に包装された箱を手渡す。
「ああ、いえ、そんな。お食事までごちそうになったのに、これ以上ご迷惑をおかけするわけには…」
またも面食らった俺は、一瞬の沈黙の後、両手を振りながらそう答える。
「迷惑だなんて、とんでもないわ!貴方くらいの歳の男の子が何を欲しがるのか分からなかったから、もしかしたら気に入らないかもしれないけど、ごめんなさいね」
「いえいえ、プレゼントで大事なのはお気持ちですから。本当にありがとうございます」
しばしのやり取りの末、結局ご好意を無碍にするのも失礼だと思って、プレゼントとしてマフラーをいただき、グレンジャー夫妻に感謝の言葉を伝える。
その後、お茶をいただきながらしばらくお話をするが、時計が九時を知らせた。
泊って行ってはどうか、というグレンジャー夫妻のご厚意を「これ以上、迷惑はかけられない」と固辞し、お暇することにした。
ハーマイオニーが「途中まで見送るわ」と申し出てくれたが、寒い中外に出すのも申し訳なく思い、これも固辞しようとした。
だが、ハーマイオニーもなかなか譲らず、結局折衷案として、玄関先まで見送ってくれることになった。
ご両親に感謝の言葉を伝え、ハーマイオニーとともに玄関を通って外に出る。
冬の寒さは肌を突き刺すようで、突っ立っていては凍えてしまいそうだった。
本当は早く帰って熱いシャワーを浴びたいところだが、自分を鼓舞してもう少し寒さを耐える。
「実は、タイミングを逃しちゃったんだけど、ハーマイオニーに俺からもプレゼントがあるんだ」
「そうなの?私からも、実は」
プレゼントの入った箱を取り出すと、ハーマイオニーも後ろ手に持っていた箱を露にした。
そして、互いに交換する。
開ける許可を得て箱を開けると、そこにはフクロウがあしらわれた金属製のバッジが入っていた。
「これは、ニフラーの赤ちゃんのぬいぐるみ?」
ハーマイオニーの方を見ると、俺がプレゼントとして上げた、ベビーニフラーの動くぬいぐるみをもっていた。
「うん。頭を二回、軽くたたくと本物みたいに動いて、もう一度二回たたくと動きを止める奴だよ」
俺の言葉を聞き、ハーマイオニーがぬいぐるみの頭を二度、ポンポンと叩くと、ぬいぐるみはまるで本物のように、ハーマイオニーの腕の中で動き出した。
「わぁ!かわいい!」
「気に入ってもらえたならなによりだよ。…このバッジは?」
「ダイアゴン横丁で買ったの。闇の魔術を跳ね返す力があるそうよ」
「そんなのが売ってるんだ、ありがとう。お守りにさせてもらうよ」
微笑んでそう言うと、ハーマイオニーは少しはにかんだ表情を見せた。
その顔を見ると、なんだか心がポカポカと陽気な気分になってくる。
彼女といると、冬の凍える寒さも、柔らかな光の降り注ぐ小春日和のように感じた。
ただ、そろそろ帰らなくてはならない。
「それじゃあ、そろそろ俺は帰るよ。じゃあね」
「あ…そうよね、さようなら」
そう言って手を小さく振る君の姿はすごく寂しげで…。
お別れのときでも、君には笑顔でいてほしくて…。
「あ、ハーマイオニー!」
「今日の君、すごい綺麗だったよ」
俺の言葉を聞いた彼女の笑顔は世界一だった。